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舞が壊れた日4
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「横からすみません、ちなみになんですけどなんで口止めしているかって聞いても平気ですか?」
恐る恐る、新堂が手を挙げる。何が口止めされているかなど答えてくれはしないだろうがなんでなら答えてくれる可能性があったからだ。
「それはね、世界中の勢力図が簡単にひっくり返るからだよ。具体的に言えば今うちで隠している情報だけでも全部世に流したら確実に世界中から日本へ核爆弾が降り注ぐ程度には不味い内容だよ」
「は? いや、そんなことないでしょうよ」
ありえないと新堂は首を横に振る。いつからうちは悪の結社に成り下がったのだ、そもそもそれだけ危険ならば研究自体を止める必要があるはず。
疑う彼に加賀はポケットから無造作に赤い宝石を取りだし、
「例えばこれだけど、分かるかな?」
「……貧者の水、ですよね」
時価数億円の物体が何故そんな所にあるのかは置いておくとして、新堂は覗き込むように見る。
透き通る赤は血より薄く、中になにか入っているようには見えない。ただ金額を先に知っているからだろうか、吸い込まれるような魅力に心惹かれるものがあった。
「正解。ちなみにこれの研究はほとんど終わっているんだ、つまりやる気になれば原発より効率的なエネルギーを得られて、水爆よりも広範囲を焼き尽くせる兵器だって開発可能なのさ」
「そ、それって本当ですか!?」
「嘘じゃないけどやる気もないよ。使ったら最期、日本が無くなるか世界が無くなるかの2択になるからね」
加賀は興味なさげに軽く言ってのける。
その言葉に嘘はなく、依然大国として存在する国からしてみれば極東の小さな島国が兵器を持つことへ危機感を感じることは普通である。ましてやそれが自分たちより強いなどということがあってはならないのだ。
だからこそ内偵の多いこの社内でも隠さなければならないのは分かる、がそれも時間の問題ではないかと新堂は疑問を口にする。
「他国でも研究機関はあるんですよね? いつまでも隠し通せる問題じゃないんじゃないですか?」
「そう、いずれはね。ただ暫くは大丈夫なんだ。そもそも貧者の水とは何か、現物はここにあるけれど他に手にした人を見た事あるかい? ……そこのお嬢ちゃんは除いてくれ」
話の途中で新堂の視線が流れたことを目ざとく見つけた加賀は取ってつけたように言葉を足していた。
……あれ?
そう言えばと新堂は思う。時価数億と言われる貧者の水、その特性は知っているが実際に手にした人は寡聞にして聞いた事がなかった。貴重だからと考えたこともなかったが数個は出ていると聞く、では誰からとなれば口を閉じる他ない。宝くじならいざ知れずダンジョン最前線にいる自分たちですら見た事がないなら他に誰が手にしているというのか。
その答えは悩む新堂を置いて、加賀から語られた。
「貧者の水、それはダンジョンコアから抽出される権限の1つ。癒着の概念を持ち生物を変化させうるもの。コアに正しく認められたものしか手に入らず、しかしその方法は定かではない。政府は知っているようだけれど、無闇に広まれば世界中で貧者の水を採取することとなり、またその多寡が世界大戦の火種となる。まさしく貧しいものが水に群がるようにね。だから存在は明かしてもとり方だけは秘密にしているのさ」
「なんで――」
「その方が都合がいいからさ。一攫千金を求めて自らハンターとなりモンスターを勝手に間引いてくれる、公的に金を使う必要が無いからね」
なるほど、と新堂は納得していた。
現在全国的にハンターという職は足りていないというのが現状だ。増え続けるダンジョン、強くなるモンスターに対抗するには経験もさることながらとにかく人数が必要である。ダンジョンから溢れたモンスターが人里まで降りてくるなんて日常のことになりつつあるが、それは決して良いことではないのだ。
ではダンジョンなど無くしてしまえばいいのでは、現に世界中ではそれが当然となっているが出来ない事情がある。初動が遅れたために取り返しのつかないほど大きくなったダンジョンもあれば、滅多に人が入らない山林奥地に眠るダンジョンもある。今はまだいいがこの状況が続けばいずれダンジョンという存在を無視できない、ならば早くから適応しようというのが日本の方針となっていた。
だからこそハンターは必要で、かと言って莫大な利益を生む産業ではない。なら夢を見させるというのも急場しのぎではあるが効果的だった。
結局のところ、金なのだ。世知辛くとも現実的な問題はいつも目の前に立ち塞がっていた。
その時だった。
「……いつまでつまんない話してんのさ」
「……正気に戻ったのか?」
そういえばと、暫く大人しかった少女はいつものように気だるげな目をして立っていた。
知ってる話だからだろう、あくびひとつに足をぶらぶら、今にも煙草を吸いそうな、いや既に紙巻き煙草を咥えて火をつける寸前だった。
「はぁ……最近試作品に当たりが少なくて困るわ」
「いや吸うなよ、仕事中だぞ」
「仕事って言ったってなにかしているわけじゃないでしょ。見たところ……何してるの?」
「噂通り辛辣だね。一応貧者の水以外にもモンスターの活用方法だって模索しているところなんだよ?」
舞が疑問に思うのも無理は無い。食堂並に広い空間には所狭しと機材が持ち込まれているが何に使われているかなど一目見てわかるものではないからだ。
ただそれをサボっているなどと見られれば科学者として気に入らない、今は成果が出ずとも経験を貯めていつか花開くと信じているからこそ研究を続けているのだから。
恐る恐る、新堂が手を挙げる。何が口止めされているかなど答えてくれはしないだろうがなんでなら答えてくれる可能性があったからだ。
「それはね、世界中の勢力図が簡単にひっくり返るからだよ。具体的に言えば今うちで隠している情報だけでも全部世に流したら確実に世界中から日本へ核爆弾が降り注ぐ程度には不味い内容だよ」
「は? いや、そんなことないでしょうよ」
ありえないと新堂は首を横に振る。いつからうちは悪の結社に成り下がったのだ、そもそもそれだけ危険ならば研究自体を止める必要があるはず。
疑う彼に加賀はポケットから無造作に赤い宝石を取りだし、
「例えばこれだけど、分かるかな?」
「……貧者の水、ですよね」
時価数億円の物体が何故そんな所にあるのかは置いておくとして、新堂は覗き込むように見る。
透き通る赤は血より薄く、中になにか入っているようには見えない。ただ金額を先に知っているからだろうか、吸い込まれるような魅力に心惹かれるものがあった。
「正解。ちなみにこれの研究はほとんど終わっているんだ、つまりやる気になれば原発より効率的なエネルギーを得られて、水爆よりも広範囲を焼き尽くせる兵器だって開発可能なのさ」
「そ、それって本当ですか!?」
「嘘じゃないけどやる気もないよ。使ったら最期、日本が無くなるか世界が無くなるかの2択になるからね」
加賀は興味なさげに軽く言ってのける。
その言葉に嘘はなく、依然大国として存在する国からしてみれば極東の小さな島国が兵器を持つことへ危機感を感じることは普通である。ましてやそれが自分たちより強いなどということがあってはならないのだ。
だからこそ内偵の多いこの社内でも隠さなければならないのは分かる、がそれも時間の問題ではないかと新堂は疑問を口にする。
「他国でも研究機関はあるんですよね? いつまでも隠し通せる問題じゃないんじゃないですか?」
「そう、いずれはね。ただ暫くは大丈夫なんだ。そもそも貧者の水とは何か、現物はここにあるけれど他に手にした人を見た事あるかい? ……そこのお嬢ちゃんは除いてくれ」
話の途中で新堂の視線が流れたことを目ざとく見つけた加賀は取ってつけたように言葉を足していた。
……あれ?
そう言えばと新堂は思う。時価数億と言われる貧者の水、その特性は知っているが実際に手にした人は寡聞にして聞いた事がなかった。貴重だからと考えたこともなかったが数個は出ていると聞く、では誰からとなれば口を閉じる他ない。宝くじならいざ知れずダンジョン最前線にいる自分たちですら見た事がないなら他に誰が手にしているというのか。
その答えは悩む新堂を置いて、加賀から語られた。
「貧者の水、それはダンジョンコアから抽出される権限の1つ。癒着の概念を持ち生物を変化させうるもの。コアに正しく認められたものしか手に入らず、しかしその方法は定かではない。政府は知っているようだけれど、無闇に広まれば世界中で貧者の水を採取することとなり、またその多寡が世界大戦の火種となる。まさしく貧しいものが水に群がるようにね。だから存在は明かしてもとり方だけは秘密にしているのさ」
「なんで――」
「その方が都合がいいからさ。一攫千金を求めて自らハンターとなりモンスターを勝手に間引いてくれる、公的に金を使う必要が無いからね」
なるほど、と新堂は納得していた。
現在全国的にハンターという職は足りていないというのが現状だ。増え続けるダンジョン、強くなるモンスターに対抗するには経験もさることながらとにかく人数が必要である。ダンジョンから溢れたモンスターが人里まで降りてくるなんて日常のことになりつつあるが、それは決して良いことではないのだ。
ではダンジョンなど無くしてしまえばいいのでは、現に世界中ではそれが当然となっているが出来ない事情がある。初動が遅れたために取り返しのつかないほど大きくなったダンジョンもあれば、滅多に人が入らない山林奥地に眠るダンジョンもある。今はまだいいがこの状況が続けばいずれダンジョンという存在を無視できない、ならば早くから適応しようというのが日本の方針となっていた。
だからこそハンターは必要で、かと言って莫大な利益を生む産業ではない。なら夢を見させるというのも急場しのぎではあるが効果的だった。
結局のところ、金なのだ。世知辛くとも現実的な問題はいつも目の前に立ち塞がっていた。
その時だった。
「……いつまでつまんない話してんのさ」
「……正気に戻ったのか?」
そういえばと、暫く大人しかった少女はいつものように気だるげな目をして立っていた。
知ってる話だからだろう、あくびひとつに足をぶらぶら、今にも煙草を吸いそうな、いや既に紙巻き煙草を咥えて火をつける寸前だった。
「はぁ……最近試作品に当たりが少なくて困るわ」
「いや吸うなよ、仕事中だぞ」
「仕事って言ったってなにかしているわけじゃないでしょ。見たところ……何してるの?」
「噂通り辛辣だね。一応貧者の水以外にもモンスターの活用方法だって模索しているところなんだよ?」
舞が疑問に思うのも無理は無い。食堂並に広い空間には所狭しと機材が持ち込まれているが何に使われているかなど一目見てわかるものではないからだ。
ただそれをサボっているなどと見られれば科学者として気に入らない、今は成果が出ずとも経験を貯めていつか花開くと信じているからこそ研究を続けているのだから。
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