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はじまりの地へ 14
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となれば困るのは戸事である。説明することが面倒くさいのではない、面倒くさくないわけではないがそれよりも気持ちの沈むことがあるのだ。仮に説明したとしよう、そうなんだと納得してくれれば御の字、だいたいなんで? どうして? と見た目通り子供のやかましい質問攻めを受けるのだから気分も下がるというものである。相手を好ましく思っていようがそれとこれは別、かと言って上司の命令を反故にする程、戸事の覚悟は決まっていなかった。
盛大にため息、そして、
「市内がモンスターで溢れればそれだけ身近に感じるでしょう? そもそも今までモンスターを見た事のない人の方が大多数なの、その意識を変えれば、言い方が違うかもだけど市民権を得ることとなる。要は自分達のペット自慢ができるようにするため、何人もの犠牲は仕方がないってこと」
身も蓋もない言い方に波平は気恥ずかしく笑うことしか出来ずにいた。目的が完遂されたのならまだ何か反論出来ていたであろう、それどころか志半ばで味方だと思っていたもの達から背中を撃たれたのだ、これを滑稽と呼ばずなんと呼べというのか。
情けなさに哀愁を感じる様子を見て舞はどう思うか、皆の注目を密かに集めていると、少女は無に近い表情を浮かべたまま口も開かずにいた。
おおよそ想像した反応とは違い、何故という言葉が浮かぶ。誰も話さない空間に一石を投じたのは首を傾げた舞だった。
「え、それで終わり? あのお仲間がそんな平和的には見えなかったけど……」
「んなもん、親組織が引き抜いたに決まってるだろ。話を聞く限りじゃそもそも使い捨てるつもりだったみたいだが」
「そうですね、たぶんそうだったんだと思います」
否定する材料もなく、波平は素直に認めていた。実感があったのだ、鬱屈した感情渦巻く組織で痴呆のように規則の緩い集団は嫌でも目立つ。一部では反社と呼ばれ人前で堂々と活動もできない、犯罪者予備軍のような扱いをされているダンジョン原理主義団体からすれば輪を乱すだけでろくに活動もしていないのだからさもありなん。目的は同じとはいえ過程が違えば見え方も違うということなのだろう。
とはいえもう過ぎてしまったこと。これ以上論じてもなにがどう変わるわけもなく、それより明確に差し迫っていることがあった。
そう、時間である。
「じゃ、そろそろ――」
舞が切り出したところで止める者がいた。いや、物理的にどうこうしたわけではない、ただ純粋に透明な瞳がもの言いたげに舞を見つめていたのだ。
それが誰かと言えば、驚くことに狂島だった。普段の気力ない眼とは違い、訴えるような少年の眼光に心底嫌げな顔をする。言いたいことがあるなら躊躇わず言えばいい、採用するとは言わないが一考くらいならやぶさかでないと言うように。
なにか? と舞が目で訴え返せば狂島は少しの躊躇いの後、
「……このまま、波平くんの意識を留めて置くことは――」
「ざけんな、根暗」
決して声を荒立てず、しかし心の奥底に灼熱の溶岩を煮えたたせ舞は吼える。目上だとか上司だとか、その他一切を切り捨てて罵倒するほど、最下層の侮蔑の色が舞の目に宿っていた。
苛立ち紛れに一息、見せつけるように白い息を吐いてから舞が口を開く。
「あの身体は銘のもの。履き違えるんじゃないよ」
「いや、そうだけれども……夜巡さんはその子を殺そうとしたじゃないか」
反論は弱く、頼りない。いい大人が子供に犠牲を強いることへの罪悪感が見て取れていた。
しかし見ていたものからすれば道理であり、舞の望みと一致する。と思われたが、その本人はまるで宇宙人が襲来したかのような、目を見開いて驚くという古典的な反応を示していた。
しらを切るには無理があるのだが、舞はそんなことお構いなしといった表情のまま首を振り子のように振る。果たしてそれになんの意味があるかは置いておくとして、奇怪な模様でも見たかのような反応に今度は狂島が困ることとなった。
「……白々しい真似はよしてくれないかな?」
「白々しいって言われても。なんで私が銘を殺したがっているって話になるわけ? 妹よ、そんなことするわけないじゃん」
断言する。が、では先ほどの行動は何だったのか、その説明がつかない。
わからない、まったくもって謎である。そう皆が思っていた。ボタンの掛け違えなんて生易しいものではなく、違う価値観を持つ、それこそ異星人と話しているかのようだった。
ただこの状況を放置していると、絶対にろくなことにはならないと確信を持った者がいた。新堂、いや彼だけでなく舞をよく知るすべての人間、それこそ波平すら含まれていた。
「舞、ちゃんと説明しろよ? 妹にナイフを向けて何しようとしてたんだ?」
「そんなの、コアを取り出そうとしたに決まってるでしょ」
さも当然のごとく舞は言うが、解るわけがないというものはいなかった。
そのかわり、
「あんた、そのあとどうするつもりだったのよ」
「そしたら銘の意識をこっちの貧者の水に移して適当なモンスターと融合させるだけです。ちょうどこのダンジョンには都市型、アンドロイドっぽいのもいるってやーさんから聞いてますし、姿かたちが似ていれば人間社会に溶け込みやすいでしょ」
盛大にため息、そして、
「市内がモンスターで溢れればそれだけ身近に感じるでしょう? そもそも今までモンスターを見た事のない人の方が大多数なの、その意識を変えれば、言い方が違うかもだけど市民権を得ることとなる。要は自分達のペット自慢ができるようにするため、何人もの犠牲は仕方がないってこと」
身も蓋もない言い方に波平は気恥ずかしく笑うことしか出来ずにいた。目的が完遂されたのならまだ何か反論出来ていたであろう、それどころか志半ばで味方だと思っていたもの達から背中を撃たれたのだ、これを滑稽と呼ばずなんと呼べというのか。
情けなさに哀愁を感じる様子を見て舞はどう思うか、皆の注目を密かに集めていると、少女は無に近い表情を浮かべたまま口も開かずにいた。
おおよそ想像した反応とは違い、何故という言葉が浮かぶ。誰も話さない空間に一石を投じたのは首を傾げた舞だった。
「え、それで終わり? あのお仲間がそんな平和的には見えなかったけど……」
「んなもん、親組織が引き抜いたに決まってるだろ。話を聞く限りじゃそもそも使い捨てるつもりだったみたいだが」
「そうですね、たぶんそうだったんだと思います」
否定する材料もなく、波平は素直に認めていた。実感があったのだ、鬱屈した感情渦巻く組織で痴呆のように規則の緩い集団は嫌でも目立つ。一部では反社と呼ばれ人前で堂々と活動もできない、犯罪者予備軍のような扱いをされているダンジョン原理主義団体からすれば輪を乱すだけでろくに活動もしていないのだからさもありなん。目的は同じとはいえ過程が違えば見え方も違うということなのだろう。
とはいえもう過ぎてしまったこと。これ以上論じてもなにがどう変わるわけもなく、それより明確に差し迫っていることがあった。
そう、時間である。
「じゃ、そろそろ――」
舞が切り出したところで止める者がいた。いや、物理的にどうこうしたわけではない、ただ純粋に透明な瞳がもの言いたげに舞を見つめていたのだ。
それが誰かと言えば、驚くことに狂島だった。普段の気力ない眼とは違い、訴えるような少年の眼光に心底嫌げな顔をする。言いたいことがあるなら躊躇わず言えばいい、採用するとは言わないが一考くらいならやぶさかでないと言うように。
なにか? と舞が目で訴え返せば狂島は少しの躊躇いの後、
「……このまま、波平くんの意識を留めて置くことは――」
「ざけんな、根暗」
決して声を荒立てず、しかし心の奥底に灼熱の溶岩を煮えたたせ舞は吼える。目上だとか上司だとか、その他一切を切り捨てて罵倒するほど、最下層の侮蔑の色が舞の目に宿っていた。
苛立ち紛れに一息、見せつけるように白い息を吐いてから舞が口を開く。
「あの身体は銘のもの。履き違えるんじゃないよ」
「いや、そうだけれども……夜巡さんはその子を殺そうとしたじゃないか」
反論は弱く、頼りない。いい大人が子供に犠牲を強いることへの罪悪感が見て取れていた。
しかし見ていたものからすれば道理であり、舞の望みと一致する。と思われたが、その本人はまるで宇宙人が襲来したかのような、目を見開いて驚くという古典的な反応を示していた。
しらを切るには無理があるのだが、舞はそんなことお構いなしといった表情のまま首を振り子のように振る。果たしてそれになんの意味があるかは置いておくとして、奇怪な模様でも見たかのような反応に今度は狂島が困ることとなった。
「……白々しい真似はよしてくれないかな?」
「白々しいって言われても。なんで私が銘を殺したがっているって話になるわけ? 妹よ、そんなことするわけないじゃん」
断言する。が、では先ほどの行動は何だったのか、その説明がつかない。
わからない、まったくもって謎である。そう皆が思っていた。ボタンの掛け違えなんて生易しいものではなく、違う価値観を持つ、それこそ異星人と話しているかのようだった。
ただこの状況を放置していると、絶対にろくなことにはならないと確信を持った者がいた。新堂、いや彼だけでなく舞をよく知るすべての人間、それこそ波平すら含まれていた。
「舞、ちゃんと説明しろよ? 妹にナイフを向けて何しようとしてたんだ?」
「そんなの、コアを取り出そうとしたに決まってるでしょ」
さも当然のごとく舞は言うが、解るわけがないというものはいなかった。
そのかわり、
「あんた、そのあとどうするつもりだったのよ」
「そしたら銘の意識をこっちの貧者の水に移して適当なモンスターと融合させるだけです。ちょうどこのダンジョンには都市型、アンドロイドっぽいのもいるってやーさんから聞いてますし、姿かたちが似ていれば人間社会に溶け込みやすいでしょ」
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