半官半民でいく公益財団法人ダンジョンワーカー 現代社会のダンジョンはチートも無双も無いけど利権争いはあるよ

文字の大きさ
135 / 138

恐れていた事 4

しおりを挟む
『私が、この子の、代わりに、伝えます』
 戸事は身振りを交えて意思を送る。手元で細々としていても見えないだろうと大仰に振る舞ったせいで癇癪を起こした子供のようになってしまっていたが、意図は伝わったようで、モンスターはこくりと頷いていた。
 はたしてそれが魔法の影響なのか戸事には分からなかったが、少なくとも粗野でなく顔つき同様紳士である事に安堵していた。初手奇襲からのビーム発射するような性格には思えず、そうでもしないと勝てない相手だということなのだろうことが伝わっていた。
「これで満足?」
「ありがとうございます」
 パイプに葉を詰め直し終えた舞が軽く頭を下げる。こういう時、不遜な態度を取らずしっかりと謝れるのだから憎めない。
 それまでのやり取りを遠巻きながらみていた戸事が浅く息を吐く。それでは物足りないだろうと、宙で指を回すと舞愛用のパイプを一回り以上大きくした新しいパイプが握られていた。
 おぉと感心した舞が受け取るも肝心のたばこ葉の在庫が心許なく、半分ちょっと詰めた時点で在庫切れ、これでは本来の味を楽しめないがそれもまた一興ということで、代わりに火をつけて手渡す。その際先程の質問に答えていないことを思い出して、
「毒にも薬にもなるものよ」
 通訳を促すよう、いつの間にか舞のパイプを盗み取っていた戸事の背を撫でる。
 うひっ、と嬌声を上げた戸事は恨みがましく舞を見てから逡巡し、
『ちょっとした薬です』
 まさか毒ですとも言えず、独断ではぐらかしていた。
 モンスターはその回答に朗らかな笑みを浮かべ、警戒する様子もなく口に咥えて一息吸う。身長差さえ目を瞑れば結納か兄弟盃を交わしているようにも見えたであろう、周囲の緊迫した空気はどこへやら、2人ともう1人の間には眠気を誘うような緩い空気が流れていた。
『これはいいものだ』
「でしょう?」
『そうだと言っています』
 舞の言葉は1度戸事を経由するため迂闊な事は全てやんわりとした言い方に置き換えられる。誰の精神上にも優しい会話がなされていた。
 しばしの休憩の後、なんの前触れもなく舞の目に闇が宿る。すん、と憑き物が落ちたように雰囲気が変わり、胡乱げな目でモンスターを見つめていた。
「先に聞くわ。コアを破壊して何がしたいの?」
『コアを壊して、どうするのですか?』
『我が種族が生き残るためだ』
 短く、全てを語らない返答に舞は見つめあったまま押し黙っていた。それほど長い時間ではなかったが、緊張感が時間を何倍にも長く感じさせていた。
 ……なるほど。
 合点がいった、というように舞がうなずく。なんてことはない、確かに言葉足らずだが嘘やごまかしが混じっているわけでもなく、むしろ舞にとっても経験済みのことでもあった。
「わかるわ。つらいものね」
『わかります。辛かったでしょう――』
 翻訳していた戸事は真に心を込めて慰撫するように言うが、三者とも一方通行にしか言葉を交わしていないのだ、何がどういう経緯でそのような言葉が舞から出たのか分からないため、たまらず耳打ちする。
「……えっと、どういうこと?」
「ん? あぁ、ただの弱肉強食ってことです。ダンジョンが大きくなればなるほどその分強いモンスターが出てくる訳ですから、いずれ自分たちすら脅かすモンスターが現れた時どうすることも出来なくなる。なら先にコアを破壊してダンジョンをこれ以上大きくしなければいいってことですよ」
「なんでそんなこと分かるのよ」
「だって私山ゴブリン育ちですし。言うなればもう通った道みたいな。共感できるんですよねぇ」
 そう、狼少年ならぬゴブリン少女の舞にとって周りが命を脅かす生物であることなど日常茶飯事、忸怩たる思いなど山のように味わっていたのだ、一族が蹂躙されるところを見たくないなど当たり前すぎることに対抗したいと考え行動するモンスターの気持ちを否定する術を持ち合わせていなかった。
 気を抜く舞のせいで真面目な雰囲気は早くも霧散の様相を見せていたが、先に問答を始めたのはそちらという顔をしたモンスターが声を飛ばしていた。
『其方は何者だ?』
「私? このダンジョンの外から来た、地上の覇者よ」
『……ダンジョンの外から来た、代表者です』
 どちらも間違ってはいないがよりマイルドな表現を戸事は選んでいた。しかしそのせいか、モンスターはやや不思議そうに顔を顰めていたため、舞は吸い終わった灰を使って地面に絵を描く。
 大きな円、その縁に1つ石を置く。どれだけ過剰に見積もってもダンジョンは深さ10キロメートルもないのだ、小石1つでも大袈裟、地表に出来た吹き出物程度でしかないのだが、ダンジョンの中にいてはそんな常識すら知る余地がなかった。
「これが地球、ダンジョンはこれだけ。大きさが違うの、わかる?」
『えっと……あなた達はこの小さな石の中にいて、私達はこの外側の丸に暮らしています……でいいのかしら?』
『なんと……』
 実際のところ人間ですら地球の表面を覆う埃のようなもの、感嘆するモンスターには悪いが人類も地球の体積比で言えば大した存在ではないのだが、舐められても困る、交渉とはそういうものだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ト・カ・リ・ナ〜時を止めるアイテムを手にしたら気になる彼女と距離が近くなった件〜

遊馬友仁
青春
高校二年生の坂井夏生(さかいなつき)は、十七歳の誕生日に、亡くなった祖父からの贈り物だという不思議な木製のオカリナを譲り受ける。試しに自室で息を吹き込むと、周囲のヒトやモノがすべて動きを止めてしまった! 木製細工の能力に不安を感じながらも、夏生は、その能力の使い途を思いつく……。 「そうだ!教室の前の席に座っている、いつも、マスクを外さない小嶋夏海(こじまなつみ)の素顔を見てやろう」 そうして、自身のアイデアを実行に映した夏生であったがーーーーーー。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

【完結】『80年を超越した恋~令和の世で再会した元特攻隊員の自衛官と元女子挺身隊の祖母を持つ女の子のシンクロニシティラブストーリー』

M‐赤井翼
現代文学
赤井です。今回は「恋愛小説」です(笑)。 舞台は令和7年と昭和20年の陸軍航空隊の特攻部隊の宿舎「赤糸旅館」です。 80年の時を経て2つの恋愛を描いていきます。 「特攻隊」という「難しい題材」を扱いますので、かなり真面目に資料集めをして制作しました。 「第20振武隊」という実在する部隊が出てきますが、基本的に事実に基づいた背景を活かした「フィクション」作品と思ってお読みください。 日本を護ってくれた「先人」に尊敬の念をもって書きましたので、ほとんどおふざけは有りません。 過去、一番真面目に書いた作品となりました。 ラストは結構ややこしいので前半からの「フラグ」を拾いながら読んでいただくと楽しんでもらえると思います。 全39チャプターですので最後までお付き合いいただけると嬉しいです。 それでは「よろひこー」! (⋈◍>◡<◍)。✧💖 追伸 まあ、堅苦しく読んで下さいとは言いませんがいつもと違って、ちょっと気持ちを引き締めて読んでもらいたいです。合掌。 (。-人-。)

(更新終了) 採集家少女は採集家の地位を向上させたい ~公開予定のない無双動画でバズりましたが、好都合なのでこのまま配信を続けます~

にがりの少なかった豆腐
ファンタジー
突然世界中にダンジョンが現れた。 人々はその存在に恐怖を覚えながらも、その未知なる存在に夢を馳せた。 それからおよそ20年。 ダンジョンという存在は完全にとは言わないものの、早い速度で世界に馴染んでいった。 ダンジョンに関する法律が生まれ、企業が生まれ、ダンジョンを探索することを生業にする者も多く生まれた。 そんな中、ダンジョンの中で獲れる素材を集めることを生業として生活する少女の存在があった。 ダンジョンにかかわる職業の中で花形なのは探求者(シーカー)。ダンジョンの最奥を目指し、日々ダンジョンに住まうモンスターと戦いを繰り広げている存在だ。 次点は、技術者(メイカー)。ダンジョンから持ち出された素材を使い、新たな道具や生活に使える便利なものを作り出す存在。 そして一番目立たない存在である、採集者(コレクター)。 ダンジョンに存在する素材を拾い集め、時にはモンスターから採取する存在。正直、見た目が地味で功績としても目立たない存在のため、あまり日の目を見ない。しかし、ダンジョン探索には欠かせない縁の下の力持ち的存在。 採集者はなくてはならない存在ではある。しかし、探求者のように表立てって輝かしい功績が生まれるのは珍しく、技術者のように人々に影響のある仕事でもない。そんな採集者はあまりいいイメージを持たれることはなかった。 しかし、少女はそんな状況を不満に思いつつも、己の気の赴くままにダンジョンの素材を集め続ける。 そんな感じで活動していた少女だったが、ギルドからの依頼で不穏な動きをしている探求者とダンジョンに潜ることに。 そして何かあったときに証拠になるように事前に非公開設定でこっそりと動画を撮り始めて。 しかし、その配信をする際に設定を失敗していて、通常公開になっていた。 そんなこともつゆ知らず、悪質探求者たちにモンスターを擦り付けられてしまう。 本来であれば絶望的な状況なのだが、少女は動揺することもあせるようなこともなく迫りくるモンスターと対峙した。 そうして始まった少女による蹂躙劇。 明らかに見た目の年齢に見合わない解体技術に阿鼻叫喚のコメントと、ただの作り物だと断定しアンチ化したコメント、純粋に好意的なコメントであふれかえる配信画面。 こうして少女によって、世間の採取家の認識が塗り替えられていく、ような、ないような…… ※カクヨムにて先行公開しています。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

処理中です...