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忘れた世界
11.本来の持ち主
しおりを挟む商会の本拠地は、実用性と嫌味のない華やかさを併せ持つ造りだった。
この街の住人だけでなく、貴族も相手に商売をしているのだろう。
中は事務所らしく、品物は並んでいない。入ってすぐの所に受付がいる。
「こんにちは、ご用件をお伺いいたします」
「遺品回収の依頼を受けた冒険者だ。ブラギウ・マーカーに取り次いでもらえるか?」
「承知いたしました。このままご案内いたします」
受付の女性に案内され、二階の応接室へ通される。茶が出され、一口飲んで考える。
この商会は、冒険者の扱いが思っていたよりも丁寧だ。それがこの商会によるものか、この世界によるものなのかは、まだ分からない。
ほどなくして、一人の痩せ型の男が扉を開いた。
「依頼を受けてもらって助かりました。私はブラギウ・マーカー。ここの商会長を務めています」
そう言い、ブラギウ・マーカーは対面の椅子に腰掛ける。
「冒険者のシガーだ。依頼品の確認を頼む」
机の上に、短剣とペンダントを置く。
ブラギウは、短剣を指で弾き確認し、次にペンダントを光にかざし、留め具の小さな欠けを長く見つめる。
彼は満足そうに頷き、遺品について語り出した。
「確かに。私が渡した短剣と、娘が贈ったペンダントですね。この品の持ち主だった男は、娘の婚約者でね。娘にどうしても、とせがまれて依頼を出したんですよ」
「ああ、そうか。まあ手元に戻ってよかったな」
「これで娘に恨まれなくて済みます。彼は、この商会の後継者としても、育てて来ましたが……。惜しい事だ」
やれやれ、と首を振るブラギウは、なかなかの食わせ物に見える。彼は、それにしても、と言葉を繋ぐ。
「貴方のような方が、なぜDランクの依頼を? 憐れんだ、とは見えませんが」
「それは、俺がDランクだからだな。何もおかしな事はない」
「いやはや。観察眼には自負がありましたが、どうも目が曇ってきたらしい」
こちらを観察していた目が、わずかに鋭さを帯びた。
「新顔ってやつだからな。詮索は構わないが、何の役にも立たないぞ」
「詮索ではなく、取引の試算です。もし、次に頼むときの、値札の話とかね」
「そうか、赤字は出すなよ。まあ、Dランクの護衛でよけりゃ声をかけてくれ」
顔つなぎは成功したようだ。
ブラギウが言い終わった直後、応接室の扉が勢いよく開いた。
「お父様! 彼の遺品が届いたと聞きました!」
「エイダ、来客中だよ。彼は冒険者のシガーさんだ。依頼を受けてくれた冒険者の方だよ」
「ああ! 申し訳ありません。私はブラギウの娘エイダ、と申します。彼の品を持ち帰っていただき、感謝いたします」
エイダは名乗ると、言葉より先に鎖に触れ、爪の先が白くなるまで握る。ひとつ短く息を飲んでから、ようやく顔を上げた。
数日前に亡くなった婚約者の遺品が届けば、気が急ぐのも頷ける。
ブラギウは小さく咳払いし、席を詰めた。
「して、遺品はどちらにあったのですか? 遺体を回収した時にはなかったのですが。やはりスカベン・コレクターが?」
「ああ。奴らが持っていたから、交換してきた」
「交換を? 魔物とですか?」
ブラギウは眉をわずかに上げ、声を落とす。
それに、コレクターたちの様子を思い出しながら答える。
「変か? 飯の代わりに“キラキラ”を食う連中だ。意外と話が通じる」
「また、稀有な方ですね。最近コレクターはよく見かけます。よほど、街の外で人が死んでいるのでしょう」
「お父様、今はその話は……」
「ああ! 悪かったよ、彼を失ったばかりのお前に、聞かせる話ではなかったね」
どうやら、ブラギウは娘を溺愛しているようだ。家族には甘い男なのだろう。
「では、報酬をお支払いしましょう。小金貨二枚と銀貨五枚です」
「随分と多いな」
「出し惜しみはしませんよ。まあ、顔代を含んでいるとでも思って下さい」
再度礼を受け取り、宿屋へと足を進めた。
――
翌日、報告が終わると、フィリカに声をかけられた。
「シガーさん異例の早さではありますが、Cランクへ昇格です。おめでとうございます! 依頼もかなり受けていますし、昨日のブラギウ商会の依頼で、信用にも足る。との評価です。ブラギウさんからの、口添えもあったそうですよ」
「そうか、商会の依頼を受けて正解だったな」
話をしながら、更新のためカードを渡す。
どうやら、ブラギウはギルドにもコネを持つ人間のようだ。
ギルドカードの端の“C”の刻印が淡く光り、すぐに消えた。
「正直、怪我もなく依頼達成なさるので。昇格が早くてこちらも助かります。今後、Bランクに上がるには、ギルド職員による技能試験がありますからね」
嬉しそうに顔を綻ばすフィリカを見て、ふと思う。
「昇格を急ぐ訳ではないが、ランクが上がると何か利点があるのか?」
「そうでしたね。では、ランクについて説明しますね」
フィリカの概要をまとめると、こうだ。
義務について。
Aランクから、スタンピードやそれに類する脅威の発生時の、作戦立案と指揮。
その他の冒険者は、作戦に従い脅威の排除、補助。戦闘を行えない者は、警邏と連携し住民の避難。
それと、迷宮の定期的な掃討。
権利について。
Sランクから、現在所属している領地の、防衛や方針への進言権。
ランク問わず、指名依頼の可否。
迷宮で取得した、魔導具の所有権。
昇格について。
名誉と富。
要するに、高ランクは強くて金持ち、だ。
最上ランクのSSについては、Sランクに収まらない者を、まとめて一つのランクとしているようだ。
こんなところだ。
「これからも、どんどんランクを上げて、この街を守ってくださいね!」
「俺はそういうのは苦手なんだが。まあ、雨が降ってなきゃ、通りすがりの都合のいい戦力。とでも思っておいてくれ」
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