煙の旅人

さい

文字の大きさ
11 / 17
忘れた世界

11.本来の持ち主

しおりを挟む


 商会の本拠地は、実用性と嫌味のない華やかさを併せ持つ造りだった。
 この街の住人だけでなく、貴族も相手に商売をしているのだろう。


 中は事務所らしく、品物は並んでいない。入ってすぐの所に受付がいる。

「こんにちは、ご用件をお伺いいたします」
「遺品回収の依頼を受けた冒険者だ。ブラギウ・マーカーに取り次いでもらえるか?」
「承知いたしました。このままご案内いたします」


 受付の女性に案内され、二階の応接室へ通される。茶が出され、一口飲んで考える。
 
 この商会は、冒険者の扱いが思っていたよりも丁寧だ。それがこの商会によるものか、この世界によるものなのかは、まだ分からない。


 ほどなくして、一人の痩せ型の男が扉を開いた。

「依頼を受けてもらって助かりました。私はブラギウ・マーカー。ここの商会長を務めています」

 そう言い、ブラギウ・マーカーは対面の椅子に腰掛ける。

「冒険者のシガーだ。依頼品の確認を頼む」

 机の上に、短剣とペンダントを置く。
 
 ブラギウは、短剣を指で弾き確認し、次にペンダントを光にかざし、留め具の小さな欠けを長く見つめる。
 
 彼は満足そうに頷き、遺品について語り出した。
 
「確かに。私が渡した短剣と、娘が贈ったペンダントですね。この品の持ち主だった男は、娘の婚約者でね。娘にどうしても、とせがまれて依頼を出したんですよ」
「ああ、そうか。まあ手元に戻ってよかったな」
「これで娘に恨まれなくて済みます。彼は、この商会の後継者としても、育てて来ましたが……。惜しい事だ」

 やれやれ、と首を振るブラギウは、なかなかの食わせ物に見える。彼は、それにしても、と言葉を繋ぐ。
 
「貴方のような方が、なぜDランクの依頼を? 憐れんだ、とは見えませんが」
「それは、俺がDランクだからだな。何もおかしな事はない」
「いやはや。観察眼には自負がありましたが、どうも目が曇ってきたらしい」


 こちらを観察していた目が、わずかに鋭さを帯びた。
 
「新顔ってやつだからな。詮索は構わないが、何の役にも立たないぞ」
「詮索ではなく、取引の試算です。もし、次に頼むときの、値札の話とかね」
「そうか、赤字は出すなよ。まあ、Dランクの護衛でよけりゃ声をかけてくれ」


 顔つなぎは成功したようだ。
 ブラギウが言い終わった直後、応接室の扉が勢いよく開いた。


「お父様! 彼の遺品が届いたと聞きました!」
 
「エイダ、来客中だよ。彼は冒険者のシガーさんだ。依頼を受けてくれた冒険者の方だよ」
「ああ! 申し訳ありません。私はブラギウの娘エイダ、と申します。彼の品を持ち帰っていただき、感謝いたします」

 エイダは名乗ると、言葉より先に鎖に触れ、爪の先が白くなるまで握る。ひとつ短く息を飲んでから、ようやく顔を上げた。
 

 数日前に亡くなった婚約者の遺品が届けば、気が急ぐのも頷ける。

 ブラギウは小さく咳払いし、席を詰めた。

「して、遺品はどちらにあったのですか? 遺体を回収した時にはなかったのですが。やはりスカベン・コレクターが?」
「ああ。奴らが持っていたから、交換してきた」
「交換を? 魔物とですか?」

 ブラギウは眉をわずかに上げ、声を落とす。
 それに、コレクターたちの様子を思い出しながら答える。
 
「変か? 飯の代わりに“キラキラ”を食う連中だ。意外と話が通じる」
「また、稀有な方ですね。最近コレクターはよく見かけます。よほど、街の外で人が死んでいるのでしょう」

「お父様、今はその話は……」
「ああ! 悪かったよ、彼を失ったばかりのお前に、聞かせる話ではなかったね」

 どうやら、ブラギウは娘を溺愛しているようだ。家族には甘い男なのだろう。
 

「では、報酬をお支払いしましょう。小金貨二枚と銀貨五枚です」
「随分と多いな」
「出し惜しみはしませんよ。まあ、顔代を含んでいるとでも思って下さい」

 
 再度礼を受け取り、宿屋へと足を進めた。
 


――
 

 翌日、報告が終わると、フィリカに声をかけられた。
 
「シガーさん異例の早さではありますが、Cランクへ昇格です。おめでとうございます! 依頼もかなり受けていますし、昨日のブラギウ商会の依頼で、信用にも足る。との評価です。ブラギウさんからの、口添えもあったそうですよ」
 
「そうか、商会の依頼を受けて正解だったな」

 話をしながら、更新のためカードを渡す。
 どうやら、ブラギウはギルドにもコネを持つ人間のようだ。
 
 ギルドカードの端の“C”の刻印が淡く光り、すぐに消えた。
 
「正直、怪我もなく依頼達成なさるので。昇格が早くてこちらも助かります。今後、Bランクに上がるには、ギルド職員による技能試験がありますからね」
 
 
 嬉しそうに顔を綻ばすフィリカを見て、ふと思う。

「昇格を急ぐ訳ではないが、ランクが上がると何か利点があるのか?」
「そうでしたね。では、ランクについて説明しますね」


 
 フィリカの概要をまとめると、こうだ。

 義務について。
 Aランクから、スタンピードやそれに類する脅威の発生時の、作戦立案と指揮。
 その他の冒険者は、作戦に従い脅威の排除、補助。戦闘を行えない者は、警邏と連携し住民の避難。

 それと、迷宮の定期的な掃討。

 権利について。
 Sランクから、現在所属している領地の、防衛や方針への進言権。
 ランク問わず、指名依頼の可否。
 迷宮で取得した、魔導具の所有権。

 昇格について。
 名誉と富。
 要するに、高ランクは強くて金持ち、だ。

 最上ランクのSSについては、Sランクに収まらない者を、まとめて一つのランクとしているようだ。
 
 
 こんなところだ。
 

「これからも、どんどんランクを上げて、この街を守ってくださいね!」
「俺はそういうのは苦手なんだが。まあ、雨が降ってなきゃ、通りすがりの都合のいい戦力。とでも思っておいてくれ」

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

処理中です...