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二章
十七話 条件
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「あなたが団子屋の店主様?」
「そうだが……。お前は?」
私は卯月ちゃんとお母様を団子屋に案内した。団子屋に着くと、入口の椅子で庵様が団子を食べていた。
いつもなら、庵様と美味しい団子を食べながらたわいもない会話をしていた時間。話が途切れ、静寂な時間だったとしても、その時間さえ、退屈ではなく、むしろ心地いいと感じていた。
着物屋のお仕事が終わると朱里さんがやってきて、三人で再び話をする。
そんなことも卯月ちゃんが庵様と結婚したら出来なくなるのかな……。
「挨拶が遅れて申し訳ありません。私、神無月卯月と申します」
「私は卯月の母です。いきなり訪ねてきてしまい、すみません。ですが、卯月がどうしても店主様とお会いしたいようでしたから……」
「そうですか。……俺は神宮庵。神無月家は代々巫女や陰陽師をやっていると聞く。何故、団子屋の店主をやっている俺なんかと縁談を? 仮に結婚したとして、あなた方にメリットはないだろ」
「……」
私は卯月ちゃんたちの邪魔にならないように後ろで様子を見ていた。庵様は神無月家を知っていた? なら、どうして私が名乗ったときに事情を聞かなかったのだろう。
卯月ちゃんは庵様にいち早く気に入られようと近づいた。そして、卯月ちゃんは私から手を離した。
ギリギリと力を入れられていたせいか、私の手にはくっきりと跡が残っていた。
痛い……。けれど、今までの仕打ちに比べれば、こんなもの大したことはない。
……庵様は乗り気ではないのだろうか? たしかに結婚はお互いのメリットがあってこそ成立するものだ。
「私、実はお団子が大好きなんですの。店主様の噂はこちらの国にも届いております。なんでも店主様の作るお団子が絶品だとか」
「……」
卯月ちゃんが団子が好きだなんて初耳だ。
「娘同様に母の私も団子には目がなくて……それに卯月は踊りが得意なんです。彼女が舞えば、御神木の桜だってすぐに花を咲かせますわ」
「それは大した自信だな。……卯月とやら」
「はい。店主様、なんでしょうか?」
「俺は今、緋翠と暮らしている」
「庵さ……」
「彼女は自ら命を投げ出すほどに心を病んでいた。だから俺が桜ノ国に住まわせている。もし、君との縁談が上手くいったとして、君は彼女をどうする?」
「っ……店主様。そ、それはどういう意味でしょう」
「やはり、邪魔になるだろうか? 主人である俺が君以外の女性と一緒に住むというのは」
「庵様、何を言って……」
「緋翠。……お前は何も心配しなくていい」
「……はい」
まさか、私と卯月ちゃんが姉妹だと気付いているのか。苗字が同じだから気づかない方がおかしな話だが。それにしても庵様は一体なにを考えているの?
「私は緋翠お姉ちゃんに出て行けとはいいません」
「っ、卯月ちゃ……」
「ですが、緋翠お姉ちゃんは神無月家の長女で跡取りです。ですから神無月家の巫女として、緋翠お姉ちゃん自ら帰る選択をしたら、店主様は止めませんよね?」
私が神無月家の跡取り……?
私が通過儀礼で巫女の力がないことくらい、とっくにわかっているはずなのに……。
それとも、それを理解した上で私を無理やり神無月家に引き戻そうとしているのか。
私を必要ないと言ったのはお母様。そして、邪魔だと言ったのは卯月ちゃん。
二人が私を追い出したのになんのつもり?
「緋翠が帰ると言うのなら俺は無理に引き止めたりせん。それは緋翠が決めたこと。俺は緋翠の自由を縛ったりしない」
「庵様……」
「……卯月。君が五日後の朝までに御神木に桜を咲かせたのなら、君との縁談を考えてやってもいい」
「ほんとうですか!?」
「やったわね、卯月。お母さんも嬉しいわ。店主様の期待に応えるのよ」
「もちろんですわ。なら、さっそく私は御神木の前で舞をしてきます! 緋翠お姉ちゃん、ついてきてくれる?」
「う、うん」
「緋翠」
「なんですか庵様」
「……妹と仲がいいんだな」
「そうですね。とても仲がいいです」
「緋翠お姉ちゃんってば私と会えないからって、再会したら泣いちゃって~……私も緋翠お姉ちゃんがいなくて、すっごく寂しかったんです」
「……そうか」
「店主様。娘たちがいない間は私と話しましょう」
「そうですね。緋翠のことも聞きたいのでお願いします」
「……」
卯月ちゃんのことじゃなくて、私のこと? 聞き間違いだろうか。……私は卯月ちゃんに手を引かれ、再び御神木の元に向かった。
卯月ちゃんと二人きり。
嫌な予感しかしなかった。
「ねぇ、緋翠姉さん」
「なに? 卯月ちゃ……きゃっ……!」
「二人っきりの時までちゃん付け? 馴れ馴れしいのよ。私のことは卯月様と呼べと言ったでしょ?」
「……はい。すみませんでした卯月様」
「それでいいのよ」
いつもと変わらない。私は卯月ちゃんの言葉には逆らえない。
「そうだが……。お前は?」
私は卯月ちゃんとお母様を団子屋に案内した。団子屋に着くと、入口の椅子で庵様が団子を食べていた。
いつもなら、庵様と美味しい団子を食べながらたわいもない会話をしていた時間。話が途切れ、静寂な時間だったとしても、その時間さえ、退屈ではなく、むしろ心地いいと感じていた。
着物屋のお仕事が終わると朱里さんがやってきて、三人で再び話をする。
そんなことも卯月ちゃんが庵様と結婚したら出来なくなるのかな……。
「挨拶が遅れて申し訳ありません。私、神無月卯月と申します」
「私は卯月の母です。いきなり訪ねてきてしまい、すみません。ですが、卯月がどうしても店主様とお会いしたいようでしたから……」
「そうですか。……俺は神宮庵。神無月家は代々巫女や陰陽師をやっていると聞く。何故、団子屋の店主をやっている俺なんかと縁談を? 仮に結婚したとして、あなた方にメリットはないだろ」
「……」
私は卯月ちゃんたちの邪魔にならないように後ろで様子を見ていた。庵様は神無月家を知っていた? なら、どうして私が名乗ったときに事情を聞かなかったのだろう。
卯月ちゃんは庵様にいち早く気に入られようと近づいた。そして、卯月ちゃんは私から手を離した。
ギリギリと力を入れられていたせいか、私の手にはくっきりと跡が残っていた。
痛い……。けれど、今までの仕打ちに比べれば、こんなもの大したことはない。
……庵様は乗り気ではないのだろうか? たしかに結婚はお互いのメリットがあってこそ成立するものだ。
「私、実はお団子が大好きなんですの。店主様の噂はこちらの国にも届いております。なんでも店主様の作るお団子が絶品だとか」
「……」
卯月ちゃんが団子が好きだなんて初耳だ。
「娘同様に母の私も団子には目がなくて……それに卯月は踊りが得意なんです。彼女が舞えば、御神木の桜だってすぐに花を咲かせますわ」
「それは大した自信だな。……卯月とやら」
「はい。店主様、なんでしょうか?」
「俺は今、緋翠と暮らしている」
「庵さ……」
「彼女は自ら命を投げ出すほどに心を病んでいた。だから俺が桜ノ国に住まわせている。もし、君との縁談が上手くいったとして、君は彼女をどうする?」
「っ……店主様。そ、それはどういう意味でしょう」
「やはり、邪魔になるだろうか? 主人である俺が君以外の女性と一緒に住むというのは」
「庵様、何を言って……」
「緋翠。……お前は何も心配しなくていい」
「……はい」
まさか、私と卯月ちゃんが姉妹だと気付いているのか。苗字が同じだから気づかない方がおかしな話だが。それにしても庵様は一体なにを考えているの?
「私は緋翠お姉ちゃんに出て行けとはいいません」
「っ、卯月ちゃ……」
「ですが、緋翠お姉ちゃんは神無月家の長女で跡取りです。ですから神無月家の巫女として、緋翠お姉ちゃん自ら帰る選択をしたら、店主様は止めませんよね?」
私が神無月家の跡取り……?
私が通過儀礼で巫女の力がないことくらい、とっくにわかっているはずなのに……。
それとも、それを理解した上で私を無理やり神無月家に引き戻そうとしているのか。
私を必要ないと言ったのはお母様。そして、邪魔だと言ったのは卯月ちゃん。
二人が私を追い出したのになんのつもり?
「緋翠が帰ると言うのなら俺は無理に引き止めたりせん。それは緋翠が決めたこと。俺は緋翠の自由を縛ったりしない」
「庵様……」
「……卯月。君が五日後の朝までに御神木に桜を咲かせたのなら、君との縁談を考えてやってもいい」
「ほんとうですか!?」
「やったわね、卯月。お母さんも嬉しいわ。店主様の期待に応えるのよ」
「もちろんですわ。なら、さっそく私は御神木の前で舞をしてきます! 緋翠お姉ちゃん、ついてきてくれる?」
「う、うん」
「緋翠」
「なんですか庵様」
「……妹と仲がいいんだな」
「そうですね。とても仲がいいです」
「緋翠お姉ちゃんってば私と会えないからって、再会したら泣いちゃって~……私も緋翠お姉ちゃんがいなくて、すっごく寂しかったんです」
「……そうか」
「店主様。娘たちがいない間は私と話しましょう」
「そうですね。緋翠のことも聞きたいのでお願いします」
「……」
卯月ちゃんのことじゃなくて、私のこと? 聞き間違いだろうか。……私は卯月ちゃんに手を引かれ、再び御神木の元に向かった。
卯月ちゃんと二人きり。
嫌な予感しかしなかった。
「ねぇ、緋翠姉さん」
「なに? 卯月ちゃ……きゃっ……!」
「二人っきりの時までちゃん付け? 馴れ馴れしいのよ。私のことは卯月様と呼べと言ったでしょ?」
「……はい。すみませんでした卯月様」
「それでいいのよ」
いつもと変わらない。私は卯月ちゃんの言葉には逆らえない。
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