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二章
十六話 本音は心の奥に隠して
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「えーと、もしかして先に着かれちゃいました? 案内出来ずにすみません! 私は着物屋の娘で朱里(あかり)っていいます。本日は団子屋との縁談のためにわざわざ遠い国から来てくれて、あり……」
「もしかして、貴方が緋翠お姉ちゃんの着物を?」
「へっ……? 緋翠、お姉ちゃん?」
「っ……」
朱里さんの言葉を遮るように卯月ちゃんが話し出した。そして、朱里さんの素敵な着物をジロジロと見ている。
私の大切な友人が朱里さんだとバレてしまった。
朱里さんを傷つけるようなことだけはしないで……と卯月ちゃんに視線を送るも、卯月ちゃんは私と目を合わせそうとしない。
これが本当に仲のいい姉妹と言えるのだろうか。
卯月ちゃんにとって朱里さんとの話はどうでもいい時間なんだ。その証拠に庵様と早く会わせろと言わんばかりに縁談の話を切り出した。
「朱里様にご迷惑をかけるわけにはいきませんので、ここからは姉である緋翠お姉ちゃんに案内してもらいます」
「緋翠さん、なにボーッとしているの? 久しぶりに妹と会えたのだから、もっと嬉しそうにしなさい。それとも緊張しているの?」
「……いえ、緊張などしていません」
息を吐くように嘘をついた。それは卯月ちゃんとお母様も同じ。
ここは悪意で満ち溢れている。私が話すたび、二人の黒い翼がより黒くなる。
本当は私の声など、聞きたくもないのだろう。ここは居心地が悪く、空気が重い。息が詰まりそうだ。
「緋翠ちゃんにこんな美人な妹さんがいるとは思わなかった。緋翠ちゃん、なんで今まで別々だったの? もしかして、家出してたとか? 緋翠ちゃんって見かけによらず、おてんば娘だったり~?」
「……あはは。私も反抗期だったもので」
精一杯の作り笑顔をし、なんとかその場を切り抜けようとする。朱里さんには家族との関係を気付かれたくない。
もし、私が卯月ちゃんに酷いことをされていると知ったら朱里さんは怒るだろう。だけど、それは朱里さんに危険が及ぶということだ。私だけが我慢すれば朱里さんが傷付くことはない。
私が家族から虐げられることを知ったとして、朱里さんが本当に私なんかを庇ってくれるのだろうか。
庵様との縁談が上手くいけば、卯月ちゃんのここでの地位は格段に上がる。そうなれば、朱里さんは私なんかではなく、卯月ちゃんの味方になるはずだ。
「緋翠ちゃん。さっきから顔色が悪いけど大丈夫? 体調が悪いなら、私が妹ちゃんとお母さんを団子屋の元に案内しようか?」
「私は大丈夫です。朱里さんは忙しいでしょうし、着物屋のお仕事、頑張ってください」
「今日はそこまで忙しくないんだけど、緋翠ちゃんがいうなら、まぁ……」
「朱里さ……」
「緋翠お姉ちゃん、行きましょう? 私、早く店主様にお会いしたいわ」
「っ……」
朱里さんに近づこうとするも、それを卯月ちゃんは決して許さない。引き剥がされるようにして、私は卯月ちゃんと無理やり手を繋ぐことになった。
きっと、お互いにいい気分ではないだろう。
卯月ちゃんは心の中で吐きたいほど不快で堪らないと思っているに違いない。穢れ巫女の私に触れるなんて、よっぽどの事がない限りしない。
「緋翠さんってば、妹に会えて嬉しいのね。姉妹の仲が良くて、母の私としても嬉しい限りだわ」
「あの……」
「貴女はたしか朱里様でしたよね? なんですか? 私の娘たちに何か用かしら」
「気のせいだったら申し訳ないですけど、緋翠ちゃん、嫌がってません?」
「……」
朱里さん。お願い……気付かないで。
私は大丈夫、大丈夫だから。
「緋翠さん、それは本当なの?」
「……いえ、朱里さんの見間違いです。げんに私は卯月ちゃんと手を繋いでいます。卯月ちゃん、私が団子屋まで連れて行ってあげる」
繋いでいる手に力を入れた。すると、卯月ちゃんはギリギリと力強く私の手を握り返してきた。
「いっ……!」
「緋翠お姉ちゃんってば妹の私に会えなくてそんなに寂しかったの? そんなに寂しいなら国に戻ってくればいいのに。……私と見かけだけでも仲良くしてるからって、調子に乗らないでくれる? 店主様との縁談が上手くいけば、アンタは用無し。さっさとこの国から出て行ったほうがいいんじゃない?」
「ぅっ……」
私にだけ聞こえる声で囁いた。それは卯月ちゃんからの忠告だった。
これ以上、余計な動きを見せれば朱里さんがどうなるかわからない。これはそういうメッセージだ。
「私、卯月ちゃんとお母様に会えて、とても嬉しいです。せっかく久しぶり会えたのですから、店主様も交えてお茶でもしましょう。……朱里さん、またあとで」
「うん、またね。緋翠ちゃん」
私は卯月ちゃんとお母様と三人で団子屋に足を進めた。
朱里さん、助けて……。けれど、そう口にすることは許されない。
辛いのに涙は出ない。今、ここで泣いてはいけない。私が泣いてしまったら、全てが水の泡だ。
朱里さんの片翼が下がっていた。私のことを本気で心配しているんだ。私にはそれだけで十分嬉しい。
だから、もういいんだ。朱里さんが怪我しないで済むなら、それが一番だから。
……傷付くのは私だけでいい。
「もしかして、貴方が緋翠お姉ちゃんの着物を?」
「へっ……? 緋翠、お姉ちゃん?」
「っ……」
朱里さんの言葉を遮るように卯月ちゃんが話し出した。そして、朱里さんの素敵な着物をジロジロと見ている。
私の大切な友人が朱里さんだとバレてしまった。
朱里さんを傷つけるようなことだけはしないで……と卯月ちゃんに視線を送るも、卯月ちゃんは私と目を合わせそうとしない。
これが本当に仲のいい姉妹と言えるのだろうか。
卯月ちゃんにとって朱里さんとの話はどうでもいい時間なんだ。その証拠に庵様と早く会わせろと言わんばかりに縁談の話を切り出した。
「朱里様にご迷惑をかけるわけにはいきませんので、ここからは姉である緋翠お姉ちゃんに案内してもらいます」
「緋翠さん、なにボーッとしているの? 久しぶりに妹と会えたのだから、もっと嬉しそうにしなさい。それとも緊張しているの?」
「……いえ、緊張などしていません」
息を吐くように嘘をついた。それは卯月ちゃんとお母様も同じ。
ここは悪意で満ち溢れている。私が話すたび、二人の黒い翼がより黒くなる。
本当は私の声など、聞きたくもないのだろう。ここは居心地が悪く、空気が重い。息が詰まりそうだ。
「緋翠ちゃんにこんな美人な妹さんがいるとは思わなかった。緋翠ちゃん、なんで今まで別々だったの? もしかして、家出してたとか? 緋翠ちゃんって見かけによらず、おてんば娘だったり~?」
「……あはは。私も反抗期だったもので」
精一杯の作り笑顔をし、なんとかその場を切り抜けようとする。朱里さんには家族との関係を気付かれたくない。
もし、私が卯月ちゃんに酷いことをされていると知ったら朱里さんは怒るだろう。だけど、それは朱里さんに危険が及ぶということだ。私だけが我慢すれば朱里さんが傷付くことはない。
私が家族から虐げられることを知ったとして、朱里さんが本当に私なんかを庇ってくれるのだろうか。
庵様との縁談が上手くいけば、卯月ちゃんのここでの地位は格段に上がる。そうなれば、朱里さんは私なんかではなく、卯月ちゃんの味方になるはずだ。
「緋翠ちゃん。さっきから顔色が悪いけど大丈夫? 体調が悪いなら、私が妹ちゃんとお母さんを団子屋の元に案内しようか?」
「私は大丈夫です。朱里さんは忙しいでしょうし、着物屋のお仕事、頑張ってください」
「今日はそこまで忙しくないんだけど、緋翠ちゃんがいうなら、まぁ……」
「朱里さ……」
「緋翠お姉ちゃん、行きましょう? 私、早く店主様にお会いしたいわ」
「っ……」
朱里さんに近づこうとするも、それを卯月ちゃんは決して許さない。引き剥がされるようにして、私は卯月ちゃんと無理やり手を繋ぐことになった。
きっと、お互いにいい気分ではないだろう。
卯月ちゃんは心の中で吐きたいほど不快で堪らないと思っているに違いない。穢れ巫女の私に触れるなんて、よっぽどの事がない限りしない。
「緋翠さんってば、妹に会えて嬉しいのね。姉妹の仲が良くて、母の私としても嬉しい限りだわ」
「あの……」
「貴女はたしか朱里様でしたよね? なんですか? 私の娘たちに何か用かしら」
「気のせいだったら申し訳ないですけど、緋翠ちゃん、嫌がってません?」
「……」
朱里さん。お願い……気付かないで。
私は大丈夫、大丈夫だから。
「緋翠さん、それは本当なの?」
「……いえ、朱里さんの見間違いです。げんに私は卯月ちゃんと手を繋いでいます。卯月ちゃん、私が団子屋まで連れて行ってあげる」
繋いでいる手に力を入れた。すると、卯月ちゃんはギリギリと力強く私の手を握り返してきた。
「いっ……!」
「緋翠お姉ちゃんってば妹の私に会えなくてそんなに寂しかったの? そんなに寂しいなら国に戻ってくればいいのに。……私と見かけだけでも仲良くしてるからって、調子に乗らないでくれる? 店主様との縁談が上手くいけば、アンタは用無し。さっさとこの国から出て行ったほうがいいんじゃない?」
「ぅっ……」
私にだけ聞こえる声で囁いた。それは卯月ちゃんからの忠告だった。
これ以上、余計な動きを見せれば朱里さんがどうなるかわからない。これはそういうメッセージだ。
「私、卯月ちゃんとお母様に会えて、とても嬉しいです。せっかく久しぶり会えたのですから、店主様も交えてお茶でもしましょう。……朱里さん、またあとで」
「うん、またね。緋翠ちゃん」
私は卯月ちゃんとお母様と三人で団子屋に足を進めた。
朱里さん、助けて……。けれど、そう口にすることは許されない。
辛いのに涙は出ない。今、ここで泣いてはいけない。私が泣いてしまったら、全てが水の泡だ。
朱里さんの片翼が下がっていた。私のことを本気で心配しているんだ。私にはそれだけで十分嬉しい。
だから、もういいんだ。朱里さんが怪我しないで済むなら、それが一番だから。
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