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二章
十五話 最悪の再会
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「しばらく会わないうちに随分といい暮らしをしているみたいね。緋翠姉さん」
「っ……」
どうして、卯月ちゃんとお母様が桜ノ国にいるの?
朱里さんが庵様に話していた縁談の相手はやっぱり卯月ちゃんだったの? なら、この御神木の桜を咲かせるって自信ありげに言っていた巫女っていうのも……。
身体の震えが止まらない。足が子鹿のようにブルブルと震えていた。今すぐここから逃げだしたい……。
出来ることなら穏便に、卯月ちゃんやお母様を傷つけずに団子屋に帰りたい。でも、卯月ちゃんはそれを許さない。
「椿の花の着物……見ただけでも高級だとわかるわ。ねぇ、緋翠姉さん。これ、私にちょうだい? 穢れ巫女の着た着物なんて死んでも着たくないけれど、この着物には十分価値がある。私が売ってあげる。感謝してよね」
「……っ」
私が触れたものは穢れている。卯月ちゃんにはいつもそう言われ続けていた。
だからこそ、卯月ちゃんが私が持っている物を欲しがることなんて滅多にない。けれど、高価な物は別だ。
それは、まだお母様と仲が良かった頃、お母様にかんざしや鏡を貰ったことがあった。
大事に大事に引き出しに閉まっていたのに、ある日それはなくなっていた。
犯人は卯月ちゃんだった。
『卯月ちゃん。そのかんざしと鏡は私がお母様から貰ったもので……』
『アンタは穢れていても私の姉なんでしょ? だったらアンタの物は私のモノよ。それに私のほうが似合ってるし。ねぇ、お母様。私のほうが似合うよね?』
『えぇ、似合ってるわ、卯月。そのゴミ巫女には卯月が以前使っていたかんざしを渡したらいいわ』
『それが良さそうね。……ほら、緋翠姉さん。私が使い古したかんざし、あげるわ。アンタにはこっちのほうがお似合いよ』
『っ……』
それは使い古したというよりも壊れていた。
『なに? なんか文句でもあんの? 大体、穢れ巫女がかんざしをつけて外を出歩くなんて恥ずかしいと思わないわけ?』
『緋翠ちゃん。貴女と一緒に外を歩くだけで卯月ちゃんが恥ずかしい思いをするの。姉なら妹の幸せを願うのが当然でしょ? 私の言ってること、わかるわよね?』
『……はい』
私が使えない巫女だとわかってからお母様の態度は一変した。
私がお母様から貰った物も卯月ちゃんによって簡単に奪われる。それだけならいい。
姉なら妹の幸せを願うのが当たり前。その言葉が私を何年も苦しめた。呪いのように付きまとう言葉。
私は幸せになれない。私は幸せにはなってはいけない。私は卯月ちゃんのお荷物。
だから私は、いつしか自身の心に蓋をするようになった。何を言われても我慢しよう。そうすれば家を追い出されずに済む。
だけど私は、神無月家から追放された。
今まで私が我慢してきたのは一体なんだったの?
「これは私の大切な友人が仕立ててくれたもの。そして、私が支えたいと思う相手が私に似合うと思ってくれたものなの。……だから卯月ちゃんには渡せない」
「は? なにそれ。緋翠姉さんに友達? 支えたい人? ……そんなの嘘に決まってる!」
「っ、きゃっ……!」
私は卯月ちゃんに突き飛ばされた。
「私に渡したくないからって……嘘をつくなら、もう少しまともな嘘をつきなさいよ!」
「私は本当に……」
「それと、私が神宮庵様との縁談が上手くいけば、アンタなんか、この国から追い出してやるんだから」
「うっ……」
私は卯月ちゃんによって、御神木に頭を押しつけられた。
御神木様、ごめんなさい。穢れ巫女の私が貴方に触れてしまうだなんて。
姉妹の言い争いなんて、御神木には見せたくない。
「アンタがどこで野垂れ死のうと妹の私には関係ないけど、私の邪魔だけはしないでよ。ねぇ、緋翠姉さん。お願いがあるの」
「っ……いったっ……な、なんですか? 卯月様」
髪を引っ張られ、無理やり立たされる。お母様は遠くから私たちを見ているけど、決して止めに入ろうとしない。
お母様にとって大事な娘は卯月ちゃんただ一人。 私は所詮、使用人なんだ。使用人の替えはいくらでもいる。使用人の私が暴力を振るわれたってお母様の心は痛まない。
「私が神宮様と上手くいくよう協力してよ」
「えっ……」
「今から私たちは仲のいい姉妹。……わかった?」
「……わかりました。庵様との縁談が上手くいくように手助けします」
「流石、私のお姉ちゃん。……アンタが私の言うことを聞けば穢れも少しは浄化されるわ。
まっ、いつ綺麗になるかはわからないけどね。だって、アンタはいくら拭いても穢れたままなんだし? アハハッ」
「っ……」
御神木に勇気をくださいって願ったばかりなのに……。
私はいつまでも経っても卯月ちゃんの呪縛から逃れられそうにない。
庵様、朱里さん、ごめんなさい。
どうか、こんな弱い私を許してください。
「っ……」
どうして、卯月ちゃんとお母様が桜ノ国にいるの?
朱里さんが庵様に話していた縁談の相手はやっぱり卯月ちゃんだったの? なら、この御神木の桜を咲かせるって自信ありげに言っていた巫女っていうのも……。
身体の震えが止まらない。足が子鹿のようにブルブルと震えていた。今すぐここから逃げだしたい……。
出来ることなら穏便に、卯月ちゃんやお母様を傷つけずに団子屋に帰りたい。でも、卯月ちゃんはそれを許さない。
「椿の花の着物……見ただけでも高級だとわかるわ。ねぇ、緋翠姉さん。これ、私にちょうだい? 穢れ巫女の着た着物なんて死んでも着たくないけれど、この着物には十分価値がある。私が売ってあげる。感謝してよね」
「……っ」
私が触れたものは穢れている。卯月ちゃんにはいつもそう言われ続けていた。
だからこそ、卯月ちゃんが私が持っている物を欲しがることなんて滅多にない。けれど、高価な物は別だ。
それは、まだお母様と仲が良かった頃、お母様にかんざしや鏡を貰ったことがあった。
大事に大事に引き出しに閉まっていたのに、ある日それはなくなっていた。
犯人は卯月ちゃんだった。
『卯月ちゃん。そのかんざしと鏡は私がお母様から貰ったもので……』
『アンタは穢れていても私の姉なんでしょ? だったらアンタの物は私のモノよ。それに私のほうが似合ってるし。ねぇ、お母様。私のほうが似合うよね?』
『えぇ、似合ってるわ、卯月。そのゴミ巫女には卯月が以前使っていたかんざしを渡したらいいわ』
『それが良さそうね。……ほら、緋翠姉さん。私が使い古したかんざし、あげるわ。アンタにはこっちのほうがお似合いよ』
『っ……』
それは使い古したというよりも壊れていた。
『なに? なんか文句でもあんの? 大体、穢れ巫女がかんざしをつけて外を出歩くなんて恥ずかしいと思わないわけ?』
『緋翠ちゃん。貴女と一緒に外を歩くだけで卯月ちゃんが恥ずかしい思いをするの。姉なら妹の幸せを願うのが当然でしょ? 私の言ってること、わかるわよね?』
『……はい』
私が使えない巫女だとわかってからお母様の態度は一変した。
私がお母様から貰った物も卯月ちゃんによって簡単に奪われる。それだけならいい。
姉なら妹の幸せを願うのが当たり前。その言葉が私を何年も苦しめた。呪いのように付きまとう言葉。
私は幸せになれない。私は幸せにはなってはいけない。私は卯月ちゃんのお荷物。
だから私は、いつしか自身の心に蓋をするようになった。何を言われても我慢しよう。そうすれば家を追い出されずに済む。
だけど私は、神無月家から追放された。
今まで私が我慢してきたのは一体なんだったの?
「これは私の大切な友人が仕立ててくれたもの。そして、私が支えたいと思う相手が私に似合うと思ってくれたものなの。……だから卯月ちゃんには渡せない」
「は? なにそれ。緋翠姉さんに友達? 支えたい人? ……そんなの嘘に決まってる!」
「っ、きゃっ……!」
私は卯月ちゃんに突き飛ばされた。
「私に渡したくないからって……嘘をつくなら、もう少しまともな嘘をつきなさいよ!」
「私は本当に……」
「それと、私が神宮庵様との縁談が上手くいけば、アンタなんか、この国から追い出してやるんだから」
「うっ……」
私は卯月ちゃんによって、御神木に頭を押しつけられた。
御神木様、ごめんなさい。穢れ巫女の私が貴方に触れてしまうだなんて。
姉妹の言い争いなんて、御神木には見せたくない。
「アンタがどこで野垂れ死のうと妹の私には関係ないけど、私の邪魔だけはしないでよ。ねぇ、緋翠姉さん。お願いがあるの」
「っ……いったっ……な、なんですか? 卯月様」
髪を引っ張られ、無理やり立たされる。お母様は遠くから私たちを見ているけど、決して止めに入ろうとしない。
お母様にとって大事な娘は卯月ちゃんただ一人。 私は所詮、使用人なんだ。使用人の替えはいくらでもいる。使用人の私が暴力を振るわれたってお母様の心は痛まない。
「私が神宮様と上手くいくよう協力してよ」
「えっ……」
「今から私たちは仲のいい姉妹。……わかった?」
「……わかりました。庵様との縁談が上手くいくように手助けします」
「流石、私のお姉ちゃん。……アンタが私の言うことを聞けば穢れも少しは浄化されるわ。
まっ、いつ綺麗になるかはわからないけどね。だって、アンタはいくら拭いても穢れたままなんだし? アハハッ」
「っ……」
御神木に勇気をくださいって願ったばかりなのに……。
私はいつまでも経っても卯月ちゃんの呪縛から逃れられそうにない。
庵様、朱里さん、ごめんなさい。
どうか、こんな弱い私を許してください。
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