ヴァンパイアは自分の親友である妹を離さない

星空永遠

文字の大きさ
6 / 10
第1章

「よくも俺の大事なものに触れやがったな」

「夜桜、先輩……っ」

「へぇ~。意外と来るのが早かったね、蒼炎」

木の上に夜桜先輩はいた。そのままおりてきて、私たちの元に近づいてくる。その高さから下りても怪我1つしていない。夜桜先輩の瞳はサファイア色に輝いていた。

「血も吸ってないキミがオレに勝てるつもりでいるの? オレも舐められたものだなぁ~」

「夜桜先輩、なんで私なんかのことを?」

「お前が特別だから」

「え?」

わからない。夜桜先輩にとって私は出会ったばかりの他人なのに。

「人質がいるのに勝てる気でいるなんて、ね」

「っ……!?」

「紫音!!」

私の首に当てられたのは小さなナイフ。首筋からは血が流れた。

「ここで降参を認めたら、彼女を離してあげる」

「クソッ……」

「夜桜先輩。私のことは大丈夫ですから、白虎先輩に一発パンチしちゃってください」

「お前、なんで……」

「さっきまで震えてたくせに、急に強気になっちゃってどうしたの? もしかして、命乞いでもするつもりかなぁ?」

「白虎先輩に私は殺せませんよ」

「何を根拠に? あぁ、そうだった。キミは翼の妹だったね。ふ、ふふふふ、あははははっ!」

この状況で1番置いていかれてるのは多分、夜桜先輩だ。夜桜先輩は私のことを知らないから。

「紫、音? 大丈夫なのか?」

「私は平気なので白虎先輩と戦ってください」

「わかった。白虎、覚悟はできてるよな?」

「ごめ~ん。今日はそろそろ退散するよ」

「なんだと!?」

白虎先輩はジャンプして木の上に乗った。その光景はまるで私たちを上から見下しているかのようで。


「まさかキミが翼のように自覚してるなんて思わなかったからさ。でも収穫は十分にあった。またいずれ会おうね~、紫音ちゃん」

「白虎、待て……っ!」

そう言い残すと白虎先輩は闇の中へと消えていった。

「追わないほうがいいですよ。それに、白虎先輩はもう近くにはいませんから」

「紫音? お前は一体……」

「やっぱり言わなきゃだめ、ですよね」

「無理に聞くつもりはない。が、1人にして悪かった。怖かっただろ?」

「! 夜桜先輩……その、抱きしめ、いま私のこと抱きしめてますよね!?」

「うるせぇ、黙ってろ」

「はい……」

励まそうとしてるはわかるんだけど、女嫌いな夜桜先輩が私のことを抱きしめるなんて大丈夫なの? めっちゃ心配なんだけど。私はすごく落ち着くし、むしろ嬉しいような…?

「探してたのは私だったので、むしろごめんなさい。方向オンチなのを忘れて1人でウロウロしちゃって」

「夜に1人が危険ってわかってて、俺のことを探してたのか?」

「はい」

「そこまで必死に探す理由は?」

「その……私が挑発したせいで私の血を飲んでないので獲物を探してるんじゃないかって。でも、女嫌いな夜桜先輩のことだから、なかなか相手が見つからなくて、どこかで倒れてるんじゃないかと心配で」

「そんなこと気にしてたのか?」

「そんな事って……ヴァンパイアにとって血が吸えないのは人間でいうとこの餓死ってやつでしょ!? 心配もしますよ」

「だったらお前の血をもらってもいいのか?」

そういう流れだよね、うん。一応、覚悟は決めてたつもりだけどやっぱり恥ずかしい、な。

「紫音……」

「夜桜先輩? どうしたんです?」

私の名前を呼んだかと思えば、抱きしめる力が強くなって。

「好きだなんて言わねぇ。だけど、これからは俺の側を離れるんじゃねえぞ」

「っ……はいっ!」

側にいろって言われちゃった。これはすこしくらい勘違いしちゃってもいいよね?

「紫音……。血を吸うからな」

「今更恥ずかしがる必要あります?」

夜桜先輩があまりにも恥ずかしがるから私のほうが平常心にもどっちゃった。
ほら、友達と一緒にホラー映画を見てて友達が先に泣いたり叫んだりしたら、こっちは涙が出ないみたいな、そんなかんじ。

あと自然に私の名前を何度も呼んでくれるのはなんだか嬉しいな。
翼お兄ちゃんの代わりじゃなく、私として見てくれてるかんじがして、とても心地がいい。

「いくぞ」

「っ……!」

プツッ。と、牙が私の首筋に……。前の吸血とは全然ちがう。痛いけど、気持ちいい。

「あっ……」

「ん……」

思わず甘い声が漏れる。
私の声がうるさいのか、それとも反応したのか、夜桜先輩の噛む力はつよくなった。
深く、奥深くまで牙が刺さる。普通の人間なら噛み跡がしばらく残るんじゃないかってくらい。

「夜桜先輩、どうでした?」

「翼と同じ味だな」

「むぅ……。翼お兄ちゃんに嫉妬しちゃいます」

「冗談だ。お前のほうが極上だよ、紫音」

「なっ……!そ、そういうのをいきなりいうのは反則ですよ!?」

「反則もなにもないだろ。それに、お前が聞いてきたんだぞ」

「それはそうですけど」

「満足しました?」

「ああ。ありがとな」

「……」

じっーと夜桜先輩を見つめる。

「なんだよ」

「夜桜先輩が私にお礼なんて明日は雨かなぁ~なんて」

「雨の方が俺にとっては好都合だ」

「そうでしたね。でも、私は憂鬱なんですけど」


「だったら一緒に傘でも入るか? そしたら雨の日でも楽しいって思えるだろ」

「夜桜先輩にしてはいい提案ですね!」

「俺にしてはってどういう意味だ」

「どういういみでしょうね~?」

私たちは口喧嘩? らしきものをしながら寮へと戻った。雨の日が楽しくなる? なんて、考えたこともなかった。夜桜先輩の発言にはドキドキさせられることがいっぱいだ。

だけど1つ、私は隠し事をしている。私の正体について、だ。

無理に話す必要はないと言われたけれど、いつかは話さなければならない。夜桜先輩には知ってもらいたいから。

☆    ☆    ☆
 

それから1ヶ月が過ぎた。翼お兄ちゃんの容態は変わらず。悪化はしてないけど、良くもないって感じだ。
私は夜桜先輩のフォローのお陰か、意外と翼お兄ちゃんの代わりが上手くやれている。
そのため、翼お兄ちゃんからしばらくはフリを続けてほしいと頼まれてしまった。
私としては夜桜先輩と一緒にいられるからいいんだけど。でも、あの日から夜桜先輩の様子はどこかおかしい。

「俺、紫音がいないと死ぬ」

「大げさですって」

「今日も血をもらっていいのか? って、許可なんていらねぇよな」

「ちょっ……夜桜、先輩っ!」

寮の自室にて、2人きりなのをいいことに夜桜先輩は私にベッタリだ。出会った頃は想像もつかなかった。

「んっ……」

「その声を聞いてると理性が飛びそうになる」

「なっ……」

「襲ってもいいよな?」

「夜桜先輩、ダメですっ」

学校から帰ってきたばかりで汗もかいてるし。

「汗かいてるのを気にしてるなら、一緒に入るか?」

「入りませんっ!」

「お前は男なんだろ? だったらいいよな?」

「そうやって都合の良い時は私を男にして……。夜桜先輩イジワルしないで」

「上目遣いされると今すぐ襲いたくなってきた」

えぇ!? わたし的に普通のつもりだったんだけど。

そもそも私も女の子のほうでは身長高いほうだから普段なら上目遣いにならないのに。
夜桜先輩はそれよりもさらに高身長だからなぁ。

「大体、中学生は子供じゃなかったんですか?」

「紫音は女らしいし、大人ぽっいとこもあるぞ」

「女らしいと夜桜先輩的にアウトなんじゃ……」

「紫音は特別だって言ってるだろ? むしろ紫音に触れてないと俺のほうが駄目になる」

「もう……しょうがない人ですね」

抱きついてきた夜桜先輩。その姿は、デレモードの猫ちゃんみたいでなんだか可愛い。

「あれから白虎になにかされてないか?」

「夜桜先輩も知ってるとおり、白虎先輩は私の前に姿を現してないどころか……」

あの日以来、白虎先輩を見ていない。同じクラスだったはずなのに誰1人として白虎先輩を覚えてる人はいなくて。
ここまで何も無いと逆に不安になる。またあの時みたいに襲われそうになったりしたら……。

「紫音、大丈夫だ。俺はお前の側にずっといるから。お前を守ってやるから安心しろ」

「夜桜先輩、ありがとうございます」

だけど、狙われるのは私だけじゃない。夜桜先輩だって、白虎先輩にとってはターゲットだ。だって、ヴァンパイアであることをまわりに隠してる。白虎先輩をそのことを知ってる敵なんだから。
私たちは秘密という名の爆弾を抱えたまま日々を過ごしている。

どうか、このままなにも起きませんように……。私の小さな願いですらも一瞬で砕け散ってしまうことを今のわたしは知らなかった。
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています

かきんとう
恋愛
 王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。  磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。  その中心に、私は立っていた。  ――今日、この瞬間のために。 「エレノア・フォン・リーベルト嬢」  高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。

マジメにやってよ!王子様

猫枕
恋愛
伯爵令嬢ローズ・ターナー(12)はエリック第一王子(12)主宰のお茶会に参加する。 エリックのイタズラで危うく命を落としそうになったローズ。 生死をさまよったローズが意識を取り戻すと、エリックが責任を取る形で両家の間に婚約が成立していた。 その後のエリックとの日々は馬鹿らしくも楽しい毎日ではあったが、お年頃になったローズは周りのご令嬢達のようにステキな恋がしたい。 ふざけてばかりのエリックに不満をもつローズだったが。 「私は王子のサンドバッグ」 のエリックとローズの別世界バージョン。 登場人物の立ち位置は少しずつ違っています。

【完結】悪役令嬢の反撃の日々

ほーみ
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。 「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。 お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。 「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。

【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。

猫屋敷むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で―― 私の願いは一瞬にして踏みにじられました。 母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、 婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。 「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」 まさか――あの優しい彼が? そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。 子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。 でも、私には、味方など誰もいませんでした。 ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。 白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。 「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」 やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。 それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、 冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。 没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。 これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。 ※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ ※わんこが繋ぐ恋物語です ※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ

側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません!

花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」 婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。 追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。 しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。 夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。 けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。 「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」 フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。 しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!? 「離縁する気か?  許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」 凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。 孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス!

モブなので思いっきり場外で暴れてみました

雪那 由多
恋愛
やっと卒業だと言うのに婚約破棄だとかそう言うのはもっと人の目のないところでお三方だけでやってくださいませ。 そしてよろしければ私を巻き来ないようにご注意くださいませ。 一応自衛はさせていただきますが悪しからず? そんなささやかな防衛をして何か問題ありましょうか? ※衝動的に書いたのであげてみました四話完結です。

毒姫の婚約騒動

SHIN
恋愛
卒業式を迎え、立食パーティーの懇談会が良い意味でも悪い意味でもどことなくざわめいていた。 「卒業パーティーには一人で行ってくれ。」 「分かりました。」 そう婚約者から言われて一人で来ましたが、あら、その婚約者は何処に? あらあら、えっと私に用ですか? 所で、お名前は? 毒姫と呼ばれる普通?の少女と常に手袋を着けている潔癖症?の男のお話し。

【完結】シュゼットのはなし

ここ
恋愛
子猫(獣人)のシュゼットは王子を守るため、かわりに竜の呪いを受けた。 顔に大きな傷ができてしまう。 当然責任をとって妃のひとりになるはずだったのだが‥。