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穴太の衆(あのうの衆)
月光
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今回のサクヤは、小望月、十五夜と十六夜、丁度月暦の満月に合わせ、お役目を果たす事となり、村中に、月の三ヶ日は社に近づいてはならぬと申し触らされる。
満月を挟んでの三日間に係るお役目は、特別な扱いで、特に三日間がピタリと嵌まったというのは、佐々木の歴史を数十年も遡る事で、初日の今日はいつに無い緊張感が漂っている。
「お母様、皆さん、行って参ります」
夕刻より身支度を整えたサクヤは挨拶を済ませると、父のハルヒに手を引かれ、生まれて初めて佐々木の門を踏み出した。
夕暮れから一刻歩くと日はとうに落ち、社に着く頃にはすっかり闇に包まれ、虫の音だけが不定期に鳴っている。
実は、この社には御神体の設置がない。
普段は閉ざされた社の扉を開けると、板の間があるだけの伽藍堂。父のハルヒとサクヤが訪れる三夜に宿る神のため、鳥居の両端に篝火を焚き、神酒を用意して社の夜伽を行う。
待ち人のないまま三夜を終える事もしばしばで、ただ、一度始まってしまったお役目は、次の月も、又その次の月も、お役目が終わるまで、同じ行程を淡々と粛々と執り行うばかりだと、そんな覚悟を決めて暫く、尾根沿いにチラチラと提灯の灯が見え、時折木陰に没しながら、少しづつ近づいて来た。
鳥居の脇の篝火が、見えたであろう頃合いからは、不安な夜道の導として、心強くもあったのでしょうか、遠くにあると思っていた提灯の灯りは、思ったよりも早く社へ辿り着きました。
「ごめんなって。今宵は神事で御座ったかいねぇ。道中歩き詰めやね暫し小休止をしよりましょうかと思とったけね、お邪魔なんらば先へいくねぇ」
背負子を背負い、頭巾を被った行商人が父のハルヒへ問いかける。
「道中お疲れ様でございました。本日は丁度小望月に御座いまして、これから三晩、月夜見尊様へ祝詞と神楽を捧げるところで御座います。もし宜しければ、神酒を一杯召し上がって下さり、残りの道中邪気払いとされるが良かろうと存じます。旅の方はもてなすが慣わし。ささ、ご遠慮なく」
言われるままに背を押され、伽藍とした拝殿に通され、渡された盃へ音もなく歩み寄った巫女がお酌をくれた。
被る雑面で直接顔を見る事は出来ないが、篝火の焔の色が滲み入る程に白い肌と、美しい指先、嗅いだことの無い独特な香の薫で、ここまで歩き詰めだった身体中が緩み、名状し難い心地の良さに包まれながら盃の神酒を口へ運んだ。
満月を挟んでの三日間に係るお役目は、特別な扱いで、特に三日間がピタリと嵌まったというのは、佐々木の歴史を数十年も遡る事で、初日の今日はいつに無い緊張感が漂っている。
「お母様、皆さん、行って参ります」
夕刻より身支度を整えたサクヤは挨拶を済ませると、父のハルヒに手を引かれ、生まれて初めて佐々木の門を踏み出した。
夕暮れから一刻歩くと日はとうに落ち、社に着く頃にはすっかり闇に包まれ、虫の音だけが不定期に鳴っている。
実は、この社には御神体の設置がない。
普段は閉ざされた社の扉を開けると、板の間があるだけの伽藍堂。父のハルヒとサクヤが訪れる三夜に宿る神のため、鳥居の両端に篝火を焚き、神酒を用意して社の夜伽を行う。
待ち人のないまま三夜を終える事もしばしばで、ただ、一度始まってしまったお役目は、次の月も、又その次の月も、お役目が終わるまで、同じ行程を淡々と粛々と執り行うばかりだと、そんな覚悟を決めて暫く、尾根沿いにチラチラと提灯の灯が見え、時折木陰に没しながら、少しづつ近づいて来た。
鳥居の脇の篝火が、見えたであろう頃合いからは、不安な夜道の導として、心強くもあったのでしょうか、遠くにあると思っていた提灯の灯りは、思ったよりも早く社へ辿り着きました。
「ごめんなって。今宵は神事で御座ったかいねぇ。道中歩き詰めやね暫し小休止をしよりましょうかと思とったけね、お邪魔なんらば先へいくねぇ」
背負子を背負い、頭巾を被った行商人が父のハルヒへ問いかける。
「道中お疲れ様でございました。本日は丁度小望月に御座いまして、これから三晩、月夜見尊様へ祝詞と神楽を捧げるところで御座います。もし宜しければ、神酒を一杯召し上がって下さり、残りの道中邪気払いとされるが良かろうと存じます。旅の方はもてなすが慣わし。ささ、ご遠慮なく」
言われるままに背を押され、伽藍とした拝殿に通され、渡された盃へ音もなく歩み寄った巫女がお酌をくれた。
被る雑面で直接顔を見る事は出来ないが、篝火の焔の色が滲み入る程に白い肌と、美しい指先、嗅いだことの無い独特な香の薫で、ここまで歩き詰めだった身体中が緩み、名状し難い心地の良さに包まれながら盃の神酒を口へ運んだ。
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