土の魔法使い

前田有機

文字の大きさ
6 / 22

第6話 晴れのち雨のちまた晴れ

しおりを挟む

「ふっ…………!」
 突進からの横薙ぎ。完全な間合いの外からの一撃にダーシェも一瞬だけ反応が遅れる。服の胸のあたりに切れ込みが入った。
「まだまだぁ!」
 横薙ぎから流れるような斬撃が二度、三度、とダーシェを襲う。鋭く正確に振るわれるそれはきちんと基礎を学び、さらにいくつかの修羅場を越えてきたのではと感じるほどに洗練されている。
 しかし、幸いにも狙いが全て急所であるため回避は比較的やりやすい。
「ゴーレムの右手!」
 一瞬のごくわずかな隙にダーシェは間合いを取り、右手を前に突き出しそう叫んだ。
 ダーシェが叫ぶと傭兵の足元から巨大な腕が出現した。それはダーシェの右手の動きに合わせ、傭兵を捕らえようとする。
「遅い!」
 刹那、土から生えた腕は尽く、傭兵によって切り裂かれる。
「これでもダメなのかよ…………!」
 傭兵の剣戟を全て、紙一重で避けるダーシェ。本来なら距離を開け、間合いを掴むため余裕を持って避けるのだが、今のダーシェにはそれが限界なくらいには正確な剣戟が絶え間なく繰り出される。
「案外、魔法なんてのは大したことがないのだな!」
「言ってくれるじゃんか………」
 ダーシェは表情を曇らせる。ダーシェの能力ではあの傭兵を倒すことは叶わない。彼女の腕は生半なものではなく、使っている剣も、ダーシェの見たところただの剣ではなく、何か仕掛けの施されたものと思われる。
「やっぱり君のその武器を壊すしかなさそうだ!」
 そう言うと、ダーシェは真っ直ぐに傭兵へと突っ込んでいった。
「諦めて気でも狂ったか? 素手で剣を壊せるはずもないだろう!」
 傭兵も迎撃の体勢をとる。回避することは一切頭にないようだ。
 しかも、ダーシェにとって幸運なことに彼女はダーシェが死にに行っているように見えるらしい。
「別に俺は気が狂った訳でも、諦めた訳でもないよ。チェックメイトだ!」
 傭兵の剣にダーシェの左手が触れる。
 すると途端に傭兵の剣はボロボロと土塊となって崩れ落ちていった。
「なっ…………!?」
 ダーシェが触れた瞬間に土塊になってしまった自らの剣に驚きを隠せない傭兵。
「その驚き方から察するにやっぱり何か仕掛けがあったんだね」
 呆然としている傭兵の腹部に掌底を叩き込む。
「ごっ……………!!!」
 強制的に肺から空気を吐き出させられた傭兵は呼吸のリズムを失う。呼吸ができなくなれば動けなくなる。
「ごめんね、こうでもしないと君はここを通してくれなさそうだったから。俺には時間がないんだよ………」
 目的地は目前に迫っている。あのケルディ・レイゴールのことだ。まだ何か仕掛けてくる可能性も大いにある。
 ダーシェは道を急いだ。

 * * *

「はい、こうさーん。降参、降参、こうさーん」
 野営地に着くや否やダーシェは驚愕させられることとなった。
 あれほど商人として報復を徹底しようとしたケルディが白旗を振っているのだ。あまりの出来事にダーシェも開いた口が塞がらない。
「降参だよ、ダーシェ・レインコート君。君の勝ちだ」
 ケルディが握手を求めてくる。ケルディの流れに乗せられ、抜け出せないままにダーシェもそれに応じる。
「どういうことなんですか?」
「ま、そうなるよねぇ」
 ケルディはスッと手を引くとニヤ、と笑みを浮かべる。
「まあ、簡単に言えばこれ以上は利益にならない、と感じたからさ。まあ、元々ここに君が到達する時点で負けは確定していたようなものだし」
「商人らしい潔さですね。ところで、一つ聞いても?」
「ああ、なんでも聞いてくれ。俺は君に負けた人間だ。従う他に選択肢を持たない」
「この野営地の手前で待ち構えてた彼女はあなたが雇った傭兵?」
「そうだ。剣の腕前が相当なものだってことと、ちょっとある人から勧められたからね」
「ある人?」
 今までスラスラとダーシェの問いに答えてきたケルディが表情を曇らせる。
「悪いが、それは伝えられない。極秘なんだ。企業秘密ってやつ。もし、おれが誰かにそれを伝えたとしたら確実に消される」
「それならさすがにこれ以上は聞けないですね」
「感謝する」
「なら、彼女の使ってた武器、これについて何か知りませんか?」
「ああ、あれね。なんでも、貰ったらしいよ。ちょっと特殊らしくてね? 本来なら斬れるはずのないものも斬れるとか言う業物らしいんだ」
「斬れないはずのものが斬れる? それなのに業物?」
 所在は不明だが、一部伝説と化しているが斬れないものを斬れる剣なんてのは存在している。しかしそれは本来斬れるものは斬れないというデメリットがある。他にも特殊な武器が存在しているが全て、本来のその武器の持っているはずの性能は著しく低い。つまり、『斬れないものを斬れる』能力と業物と言うのは両立することはないのだ。
「詳しいことは俺も知らんよ。全部あの子から聞いたことなんでね」
「そう、ですか。そういえば、テレサは……」
「ずっとここにいるけど………」
 ケルディが指差す方へ視線を向けると、そこにはムスッと機嫌を損ねた様子のテレサが立っていた。服装はケルディたちに攫われた時と変わらない。ダーシェのコートを羽織っている。
「さすがに、男としてどうかと思うなぁ」
「いや、先に言ってくださいよ……」
「話をグイグイ進めていったのは君だったと記憶してるけど?」
「…………ああ、確かに」
「あまり真剣な表情で質問してくるからこちらとしても向き合わない訳にはいかなくなってしまったんだよねぇ」
「すみません…………」
「まあ、話はこれで終わりかな。あまりここに長居したくないのでね。終わったのなら彼女を連れて早く出て行きたまえ。負けは認めたが、俺も商人としてのプライドは持ち合わせてるんだ」
「そうですね。けれど、これだけは言わせてもらいます」
「いいよ、大体何を言いたいかは予想ついてるけれど言ってみなよ」
「商人としての意地があるのならせめて奴隷商ではなくもう少し真っ当な商売をしてください。やはり人を売り物にするのはなかなかに耐え難い」
「それは無理な話ってもんさね。ああ、そうだ、一つ聞きたいんだけど」
「なんでしょうか」
「そいつの首輪。外せないものがなんで外れてるのか、聞かせてくれないか。俺の部下もそれでやったんだろ?」
 ちらり、とダーシェはテレサを一瞥し、ニコリと微笑み言った。
「企業秘密ってやつです」
「チッ、なーにが企業秘密だってんだ。もういいや、さっさと失せな」
 そうしてほとんど追い出される形でダーシェとテレサは野営地を後にした。

「無事でよかったよ」
 ダーシェはテレサに声をかける。
「ああ、そうですか」
 テレサはスタスタと先を歩き始めた。ダーシェには背を向けて。
「え、ちょっと、怒ってる? ごめんて、別に忘れてた訳じゃないんだ」
「はいはい、わかりました。怒ってないですよ私ー」
 ダーシェの前をあえて早めのペースで歩くテレサ。
 それを追いかけるダーシェ。
 そんな二人の頭上には晴れた空が広がっていた
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

幸福なる侯爵夫人のお話

重田いの
ファンタジー
とある侯爵家に嫁いだ伯爵令嬢。 初夜の場で、夫は「きみを愛することはない」というけれど。 最終的にすべてを手にした侯爵夫人のお話。 あるいは、負い目のある伯爵令嬢をお飾りの妻にして愛人とイチャイチャ過ごそうと思ったらとんでもないハズレくじを引いちゃった侯爵のお話。

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

転生後はゆっくりと

衣更月
ファンタジー
貧しい集落で生まれたリリは、生まれた瞬間から前世の記憶があった。 日本人特有の”配慮”に徹した赤ん坊を演じていたことで、両親から距離を置かれた挙句、村人からも「不気味な子」として敬遠されることに…。 そして、5才の誕生日に遠くの町に捨てられた。 でも、リリは悲観しない。 前世の知識チートは出来ないけど、大人メンタルで堅実に。 目指すは憧れのスローライフが出来るほど、ほどほどの守銭奴としてリリは異世界人として順応していく。 全25話(予定)

十六歳の妹の誕生日、私はこの世を去る。

あいみ
恋愛
碌に手入れもされていない赤毛の伯爵令嬢、スカーレット。 宝石のように澄んだ青い髪をした伯爵令嬢、ルビア。 対極のような二人は姉妹。母親の違う。 お世辞にも美しいと言えない前妻の子供であるスカーレットは誰からも愛されない。 そばかすだらけで、笑顔が苦手な醜い姉。 天使のように愛らしく、誰からも好かれる可愛い妹。 生まれつき体の弱いルビアは長くは生きられないと宣告されていた。 両親の必死に看病や、“婚約者の献身的なサポート”のおかげで、日常生活が送れるようになるまで回復した。 だが……。運命とは残酷である。 ルビアの元に死神から知らせが届く。 十六歳の誕生日、ルビアの魂は天に還る、と。 美しい愛しているルビア。 失いたくない。殺されてなるものか。 それぞれのルビアを大切に思う想いが、一つの選択をさせた。 生まれてくる価値のなかった、醜いスカーレットを代わりに殺そう、と。 これは彼女が死ぬ前と死んだ後の、少しの物語。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

処理中です...