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第6話 晴れのち雨のちまた晴れ
しおりを挟む「ふっ…………!」
突進からの横薙ぎ。完全な間合いの外からの一撃にダーシェも一瞬だけ反応が遅れる。服の胸のあたりに切れ込みが入った。
「まだまだぁ!」
横薙ぎから流れるような斬撃が二度、三度、とダーシェを襲う。鋭く正確に振るわれるそれはきちんと基礎を学び、さらにいくつかの修羅場を越えてきたのではと感じるほどに洗練されている。
しかし、幸いにも狙いが全て急所であるため回避は比較的やりやすい。
「ゴーレムの右手!」
一瞬のごくわずかな隙にダーシェは間合いを取り、右手を前に突き出しそう叫んだ。
ダーシェが叫ぶと傭兵の足元から巨大な腕が出現した。それはダーシェの右手の動きに合わせ、傭兵を捕らえようとする。
「遅い!」
刹那、土から生えた腕は尽く、傭兵によって切り裂かれる。
「これでもダメなのかよ…………!」
傭兵の剣戟を全て、紙一重で避けるダーシェ。本来なら距離を開け、間合いを掴むため余裕を持って避けるのだが、今のダーシェにはそれが限界なくらいには正確な剣戟が絶え間なく繰り出される。
「案外、魔法なんてのは大したことがないのだな!」
「言ってくれるじゃんか………」
ダーシェは表情を曇らせる。ダーシェの能力ではあの傭兵を倒すことは叶わない。彼女の腕は生半なものではなく、使っている剣も、ダーシェの見たところただの剣ではなく、何か仕掛けの施されたものと思われる。
「やっぱり君のその武器を壊すしかなさそうだ!」
そう言うと、ダーシェは真っ直ぐに傭兵へと突っ込んでいった。
「諦めて気でも狂ったか? 素手で剣を壊せるはずもないだろう!」
傭兵も迎撃の体勢をとる。回避することは一切頭にないようだ。
しかも、ダーシェにとって幸運なことに彼女はダーシェが死にに行っているように見えるらしい。
「別に俺は気が狂った訳でも、諦めた訳でもないよ。チェックメイトだ!」
傭兵の剣にダーシェの左手が触れる。
すると途端に傭兵の剣はボロボロと土塊となって崩れ落ちていった。
「なっ…………!?」
ダーシェが触れた瞬間に土塊になってしまった自らの剣に驚きを隠せない傭兵。
「その驚き方から察するにやっぱり何か仕掛けがあったんだね」
呆然としている傭兵の腹部に掌底を叩き込む。
「ごっ……………!!!」
強制的に肺から空気を吐き出させられた傭兵は呼吸のリズムを失う。呼吸ができなくなれば動けなくなる。
「ごめんね、こうでもしないと君はここを通してくれなさそうだったから。俺には時間がないんだよ………」
目的地は目前に迫っている。あのケルディ・レイゴールのことだ。まだ何か仕掛けてくる可能性も大いにある。
ダーシェは道を急いだ。
* * *
「はい、こうさーん。降参、降参、こうさーん」
野営地に着くや否やダーシェは驚愕させられることとなった。
あれほど商人として報復を徹底しようとしたケルディが白旗を振っているのだ。あまりの出来事にダーシェも開いた口が塞がらない。
「降参だよ、ダーシェ・レインコート君。君の勝ちだ」
ケルディが握手を求めてくる。ケルディの流れに乗せられ、抜け出せないままにダーシェもそれに応じる。
「どういうことなんですか?」
「ま、そうなるよねぇ」
ケルディはスッと手を引くとニヤ、と笑みを浮かべる。
「まあ、簡単に言えばこれ以上は利益にならない、と感じたからさ。まあ、元々ここに君が到達する時点で負けは確定していたようなものだし」
「商人らしい潔さですね。ところで、一つ聞いても?」
「ああ、なんでも聞いてくれ。俺は君に負けた人間だ。従う他に選択肢を持たない」
「この野営地の手前で待ち構えてた彼女はあなたが雇った傭兵?」
「そうだ。剣の腕前が相当なものだってことと、ちょっとある人から勧められたからね」
「ある人?」
今までスラスラとダーシェの問いに答えてきたケルディが表情を曇らせる。
「悪いが、それは伝えられない。極秘なんだ。企業秘密ってやつ。もし、おれが誰かにそれを伝えたとしたら確実に消される」
「それならさすがにこれ以上は聞けないですね」
「感謝する」
「なら、彼女の使ってた武器、これについて何か知りませんか?」
「ああ、あれね。なんでも、貰ったらしいよ。ちょっと特殊らしくてね? 本来なら斬れるはずのないものも斬れるとか言う業物らしいんだ」
「斬れないはずのものが斬れる? それなのに業物?」
所在は不明だが、一部伝説と化しているが斬れないものを斬れる剣なんてのは存在している。しかしそれは本来斬れるものは斬れないというデメリットがある。他にも特殊な武器が存在しているが全て、本来のその武器の持っているはずの性能は著しく低い。つまり、『斬れないものを斬れる』能力と業物と言うのは両立することはないのだ。
「詳しいことは俺も知らんよ。全部あの子から聞いたことなんでね」
「そう、ですか。そういえば、テレサは……」
「ずっとここにいるけど………」
ケルディが指差す方へ視線を向けると、そこにはムスッと機嫌を損ねた様子のテレサが立っていた。服装はケルディたちに攫われた時と変わらない。ダーシェのコートを羽織っている。
「さすがに、男としてどうかと思うなぁ」
「いや、先に言ってくださいよ……」
「話をグイグイ進めていったのは君だったと記憶してるけど?」
「…………ああ、確かに」
「あまり真剣な表情で質問してくるからこちらとしても向き合わない訳にはいかなくなってしまったんだよねぇ」
「すみません…………」
「まあ、話はこれで終わりかな。あまりここに長居したくないのでね。終わったのなら彼女を連れて早く出て行きたまえ。負けは認めたが、俺も商人としてのプライドは持ち合わせてるんだ」
「そうですね。けれど、これだけは言わせてもらいます」
「いいよ、大体何を言いたいかは予想ついてるけれど言ってみなよ」
「商人としての意地があるのならせめて奴隷商ではなくもう少し真っ当な商売をしてください。やはり人を売り物にするのはなかなかに耐え難い」
「それは無理な話ってもんさね。ああ、そうだ、一つ聞きたいんだけど」
「なんでしょうか」
「そいつの首輪。外せないものがなんで外れてるのか、聞かせてくれないか。俺の部下もそれでやったんだろ?」
ちらり、とダーシェはテレサを一瞥し、ニコリと微笑み言った。
「企業秘密ってやつです」
「チッ、なーにが企業秘密だってんだ。もういいや、さっさと失せな」
そうしてほとんど追い出される形でダーシェとテレサは野営地を後にした。
「無事でよかったよ」
ダーシェはテレサに声をかける。
「ああ、そうですか」
テレサはスタスタと先を歩き始めた。ダーシェには背を向けて。
「え、ちょっと、怒ってる? ごめんて、別に忘れてた訳じゃないんだ」
「はいはい、わかりました。怒ってないですよ私ー」
ダーシェの前をあえて早めのペースで歩くテレサ。
それを追いかけるダーシェ。
そんな二人の頭上には晴れた空が広がっていた
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