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第14話 魔女と出会う
しおりを挟むここはどこなのだろう。夢か現か、果たして俺は生きているのか、死んでいるのか。
彼は二度、同じ光景を見た。二度と起こらぬよう、彼は全力を尽くしていた、つもりだった。
けれど、結果は彼の望まぬ方へと進んでしまった。
どれだけ歩いたのかわからない。どうやってあの場から逃げおおせたのか思い出せない。いや、そもそも逃げることができているのか。それすらも彼はわからず、また、確かめる術を持たなかった。
そして、唐突に想起される彼が守ろうとした少女の最後に見せた表情。温もり、声。
「だから、ごめんなさい。ごめんなさい、ダーシェ…………」
ニコリと微笑む彼女の頬には涙が伝っていた。
「ぅぁ…………うゎああああああああああ!!!」
いくつもの感情が同時に溢れ出し、思考を破壊する。壊れかけの彼の精神には到底耐えられるものではなく、その衝撃はその都度、彼の身体にも影響を及ぼす。
「はっ、はっ…………コホッ、はぁっ……」
呼吸のリズム測れなくなり、肺へ空気を送り込めなくなる。激しい頭痛と寒気が一気に彼を現実へと引き戻す。
左腕にチクリと痛みが走る。何か液体が身体に注入され、程なく呼吸が安定してくる。
「はあ、はあ、はあ…………」
「落ち着いたかね」
「は、はい…………」
側で聞こえたその声に、ダーシェは頷く。聞き覚えのない、不思議な声色だった。
「私に拾われて幸運だったな」
声は女性の声だ。けれど、その声はあまりに幼く、そして、相当な歳を重ねているようにも感じられた。
よく見ればその場所すら見覚えがない。いつ横になったのか、ダーシェは今、ベッド上にいた。
「状況が、わからないのですが」
「状況にも色々ある。お前は何を知りたい?」
「とりあえず、俺がここまで来た経緯を………」
ベッド傍の壁に寄りかかり、ダーシェは声の聞こえる方へ視線を向けた。そして、言葉を途切れさせられることとなった。
「どうした。何を知りたいのかわからなければこちらも教えられんぞ?」
目の前に、幼女がいた。二、三度瞬きをする。けれど目の前には変わらず幼女がいた。明らかに未成熟なその容姿に、自分で切ったのだろうと思われる髪。そして、その容姿にそぐわない、アンニュイな目つき。
「なんだ、ジロジロと。失礼な奴め。ああ、お前もそういう口の奴か」
幼女は勝手に自己完結した。
「最近、多いんだ。お前のような幼女愛好家。好意を持たれるのは構わんが、やはりそう言った目で見られるのは鳥肌が立つな」
「君は、いくつなの………」
「ふむ。女に対し年齢を聞くか。まあ、簡単な自己紹介くらいはしてやろう。私はレムナ・アルデリド。歳はまあ大体お前の十倍くらいか。いわゆる魔女という奴をしている」
「魔女………」
「魔法の概念くらいならお前も知っているだろう? ダーシェ・レインコート」
「え…………」
「なぜ、自分の名前をという顔だな。精霊が啓示をくれたからだよ」
「精霊が………」
「そうだ。私は魔女だ、と言っただろう。お前が大地に関連した魔術を使えるように私もそういった類の物を使える。多少、仕組みは違うが精霊の力を利用する点においてはお前の使う魔術も、私の使う魔法も同じものだ」
「なるほど。では、アルデリドさん。ここに俺がたどり着いた経緯と、あなたの知っている限りでいい。その時の状況を教えてほしい」
「アルデリドさん、など止めろ、レムナでいい。で、君がここに来た経緯についてだな。まず、君がここへたどり着いた経緯だが、ひとえに精霊の導きという奴だ。私のこの隠れ家は、魔女は元来から隠れ家で人知れず研究に明け暮れているのだが、普通なら誰も近づくことができないのだが、この精霊の導きによって君はここのすぐ近くまで来ていた。私はさっきも言ったように啓示で君が来ることを知っていたから、その地点まで迎えに出向いただけなのだ。だから、君の期待する情報はほとんどないと思う」
ダーシェは視線をレムナから外し、俯く。
「俺はどのくらい意識を失っていましたか」
ダーシェの問いにレムナは興味深そうな反応を示した。
「君は意識を失っていた、と感じているのか。なるほどなるほど。まあ、明らかに正気ではなかったが、こうして今のように会話が成立するようになるまで五日ほどだな。実際のところ、この自己紹介は二度目なんだ」
「それは…………」
なんだか、申し訳ありません。こうして助けていただいたのに。恩人に対し、失礼なことを………」
「いや、いいさ。恐らく相当な精神的ショックを受けていたのだろう。身体もボロボロだったし、ずっとうわ言で誰か知らんが名前を呟いていたぞ?」
うわ言を言っていたのか。全く記憶にない分、恥ずかしさが倍増する。
「恋人か何かは知らんがそれ関連のことなのだろう。詳しくは聞かないが、何か必要があれば手伝おう」
レムナは優しかった。よく見ると、全身に負っていたはずの火傷と治っているし、丁寧に清潔な包帯がダーシェの身体には巻かれていた。呼吸も苦しさが取り除かれている。
話し方と、その妖しい容姿で偏見を持ってしまった自分を、ダーシェは恥じた。
「さて、聞きたいことは他にないか? なければ私は研究に戻りたいのだが」
「そう、ですね。今のところは大丈夫です。少し思考を整理しようと思います。そうだ、ここの外って出ても大丈夫ですか?」
「家が見える辺りまでなら。そこから先は私以外は必ず遭難する。あまり広くはないができれば庭からは出ないように」
「わかりました。感謝します」
「うん。じゃあ、ゆっくりと思考をまとめているといい。夕飯の支度ができたらまた呼ぶ」
そう言うとレムナは部屋から出て行った。
そうしてダーシェは部屋に一人になった。恐らく、先ほど打たれたのは精神安定剤のようなものだろう。またしばらくすればさっきのようなパニックになるかもしれない。
「にしても、ここは窓がないな」
窓がないからここがどこなのか全くわからない。記憶がないために一から手探りで情報を集めなければならない。
ダーシェはベッドを降りて立ち上がった。一瞬、くらりとめまいがした。
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