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鹿との邂逅
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そのトレンチはかなり小さかった。
相変わらず何も出土しない女がせっせと壁の跡を掘り出す。
石の1つ位出てくれても良いじゃん!ってやさぐれる。
こんなものかな、と調査員さんに見て貰うと、もう少し床の色をハッキリとさせて下さいだって。
又、せっせと土を削る。
黒っぽい斑土が終わらない。
これ、本当に削って良いのかな?
又、見て貰う。
「ここの色、削っても無くならないみたいなんですけど。
もっと削りますか?」
調査員さん、穴に入って調べる。
「うん?うーん、うん?
あー、うーん?」
せっかくキレイに整えた所を大胆に削っていく。
ちょっとため息が出るわ。
「うん、もしかしたらここ、竃かも知れないですね。
ここからここまで削って落としてみて下さい。
こんな小さな住居に竃あったのかなー?」
首を傾げながらも指示してくる。
私は言われた通りに掘るまでですよ。
どんどん削っていって、キレイに整えて。
「・・・・・??
赤い土が出て来たんですけど?」
「あー、それ、竃の焼けた土ですね!
そのまま残して下さい。
えっと、これ被せて触らないようにしてから周りを整えて下さい。
やっぱり竃かー。
小さい竪穴だから、燻製小屋だったりしたのかな?」
調査員さんは嬉しそうに喋っていた。
土器は発見出来なかったけど、竃の土を発見した女に昇格した。
又、牧草地のトレンチを掘りに行ってると調査員さんに呼ばれた。
赤い土の出た小さい竪穴だ。
掘り残しとかあったのかな?
写真撮った後に又掘る事もあったから今回もそうかもと思った。
「そこに座って写真に入って下さい。
掘る真似してね。」
違った。
モデル?!
もっと見映えの良い人にして下さい!
よりにもよって、こんなオバサンスタイルの私じゃなくって!
と思ったけど、横向きで帽子メガネ、マスク。
顔も何も見えないわ。
トレンチ穴の外で1枚、竃の赤い土を移植スコップで示して1枚撮った。
これ、どこで使う写真なんだろう。
土器とか復元してこの町に戻すらしいから町の資料館なんかで一緒に飾られるんだろうか。
もしかしてパネルになってたりしてーーー。
考えるの止めよう。
駐車場から現場までは数分歩く。
寒かったので車で昼食を食べ、林の間の道を一人で歩いていた。
ザザ、ザザッと音が聞こえていて、何の音だろうと不思議に思い立ち止まって辺りを見回す。
「!」
すぐ傍の林の中から鹿がこちらを見ていた。
野生の鹿。
車では出会う事はあったが、生身で会うのは初めてだ。
うわー、目が合ったよ、どうしよう?!
記憶の補正なのか、まつ毛まで見える気がした。
どうする?
誰か、他の人来てくれないかな?
身動ぎすると、目が合った鹿の後方に角の生えた雄鹿がいた。
ヤバい、ヤバい!
これ、襲って来ないよね?
私の焦りが伝わったのか、甲高く『ピィーッ!!』
と一度鳴いて跳びはねた。
「ギャー!!」
私は身をすくませて乙女にあるまじき声を上げた。
2頭の鹿は笹の海を跳びはねながら逃げて行った。
「城野さん?!
大丈夫?何があった?!」
気が付くと樋山さんにしがみついて震えていた。
「いま、鹿がいて、ピィーって威嚇されて、角のある雄と、雌がそこの笹をザザって跳びはねていて、目が合って、あっちに逃げて行ったんですう!」
「ほら、落ち着いて。
鹿がいたんだね。
そろそろ発情期だからなー。
気が立っていたんだろうね。
何事も無くて良かった。」
「鹿と目が合って、威嚇されて、こっちに襲って来なくて良かったですー!!」
もう支離滅裂で大興奮だったので何をまくし立てているのかも分からなかった。
樋山さんに抱きしめられていたのを後で思いだし、とても恥ずかしくなったのだった。
翌日から埋め戻し作業の予定だったので掘るのは今日が最後。
やっぱり土器は発見出来なかった。
オジサンが土器らしき物を発見し、うらやましく思いながらサポートしていると、土にキラキラした物が混ざりだした。
「このキラキラしたのなんですかね?」
調査員さんに聞く。
「あ、それ、骨ですね。
ここ竃かも知れないなー。
骨が焼けて砕けるとそうなるんですよ。
魚の骨とかね。
この袋に取り上げて下さい。
その土器みたいなのは動かさないように周りを削ってね。」
狭い場所での繊細な作業にオジサンは根を上げ、私と交代した。
キラキラの土を削り袋に取り上げていく。
だんだんと土器の欠片が見えてきた。
割りと小さい円状の物の半分にも満たない欠片。
「出ましたー。」
調査員さんが見る。
「おー、紡錘車ですねー。
これは良い物が出た。」
ボウスイシャ?
「糸を紡ぐ時に使うおもりなんですよ。
この辺の昔の人は色んな物を自分たちで作っていたんですよねー。」
糸紡ぎ?
眠り姫のお話を思い出していた。
この調査員さんにとっては土器よりも嬉しい物だったようだ。
土器を発見出来ない女だったが、何だか満足した。
相変わらず何も出土しない女がせっせと壁の跡を掘り出す。
石の1つ位出てくれても良いじゃん!ってやさぐれる。
こんなものかな、と調査員さんに見て貰うと、もう少し床の色をハッキリとさせて下さいだって。
又、せっせと土を削る。
黒っぽい斑土が終わらない。
これ、本当に削って良いのかな?
又、見て貰う。
「ここの色、削っても無くならないみたいなんですけど。
もっと削りますか?」
調査員さん、穴に入って調べる。
「うん?うーん、うん?
あー、うーん?」
せっかくキレイに整えた所を大胆に削っていく。
ちょっとため息が出るわ。
「うん、もしかしたらここ、竃かも知れないですね。
ここからここまで削って落としてみて下さい。
こんな小さな住居に竃あったのかなー?」
首を傾げながらも指示してくる。
私は言われた通りに掘るまでですよ。
どんどん削っていって、キレイに整えて。
「・・・・・??
赤い土が出て来たんですけど?」
「あー、それ、竃の焼けた土ですね!
そのまま残して下さい。
えっと、これ被せて触らないようにしてから周りを整えて下さい。
やっぱり竃かー。
小さい竪穴だから、燻製小屋だったりしたのかな?」
調査員さんは嬉しそうに喋っていた。
土器は発見出来なかったけど、竃の土を発見した女に昇格した。
又、牧草地のトレンチを掘りに行ってると調査員さんに呼ばれた。
赤い土の出た小さい竪穴だ。
掘り残しとかあったのかな?
写真撮った後に又掘る事もあったから今回もそうかもと思った。
「そこに座って写真に入って下さい。
掘る真似してね。」
違った。
モデル?!
もっと見映えの良い人にして下さい!
よりにもよって、こんなオバサンスタイルの私じゃなくって!
と思ったけど、横向きで帽子メガネ、マスク。
顔も何も見えないわ。
トレンチ穴の外で1枚、竃の赤い土を移植スコップで示して1枚撮った。
これ、どこで使う写真なんだろう。
土器とか復元してこの町に戻すらしいから町の資料館なんかで一緒に飾られるんだろうか。
もしかしてパネルになってたりしてーーー。
考えるの止めよう。
駐車場から現場までは数分歩く。
寒かったので車で昼食を食べ、林の間の道を一人で歩いていた。
ザザ、ザザッと音が聞こえていて、何の音だろうと不思議に思い立ち止まって辺りを見回す。
「!」
すぐ傍の林の中から鹿がこちらを見ていた。
野生の鹿。
車では出会う事はあったが、生身で会うのは初めてだ。
うわー、目が合ったよ、どうしよう?!
記憶の補正なのか、まつ毛まで見える気がした。
どうする?
誰か、他の人来てくれないかな?
身動ぎすると、目が合った鹿の後方に角の生えた雄鹿がいた。
ヤバい、ヤバい!
これ、襲って来ないよね?
私の焦りが伝わったのか、甲高く『ピィーッ!!』
と一度鳴いて跳びはねた。
「ギャー!!」
私は身をすくませて乙女にあるまじき声を上げた。
2頭の鹿は笹の海を跳びはねながら逃げて行った。
「城野さん?!
大丈夫?何があった?!」
気が付くと樋山さんにしがみついて震えていた。
「いま、鹿がいて、ピィーって威嚇されて、角のある雄と、雌がそこの笹をザザって跳びはねていて、目が合って、あっちに逃げて行ったんですう!」
「ほら、落ち着いて。
鹿がいたんだね。
そろそろ発情期だからなー。
気が立っていたんだろうね。
何事も無くて良かった。」
「鹿と目が合って、威嚇されて、こっちに襲って来なくて良かったですー!!」
もう支離滅裂で大興奮だったので何をまくし立てているのかも分からなかった。
樋山さんに抱きしめられていたのを後で思いだし、とても恥ずかしくなったのだった。
翌日から埋め戻し作業の予定だったので掘るのは今日が最後。
やっぱり土器は発見出来なかった。
オジサンが土器らしき物を発見し、うらやましく思いながらサポートしていると、土にキラキラした物が混ざりだした。
「このキラキラしたのなんですかね?」
調査員さんに聞く。
「あ、それ、骨ですね。
ここ竃かも知れないなー。
骨が焼けて砕けるとそうなるんですよ。
魚の骨とかね。
この袋に取り上げて下さい。
その土器みたいなのは動かさないように周りを削ってね。」
狭い場所での繊細な作業にオジサンは根を上げ、私と交代した。
キラキラの土を削り袋に取り上げていく。
だんだんと土器の欠片が見えてきた。
割りと小さい円状の物の半分にも満たない欠片。
「出ましたー。」
調査員さんが見る。
「おー、紡錘車ですねー。
これは良い物が出た。」
ボウスイシャ?
「糸を紡ぐ時に使うおもりなんですよ。
この辺の昔の人は色んな物を自分たちで作っていたんですよねー。」
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