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17 かすかに残った情
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何かが私の中で砕け散った。
目の前の景色が変わり、眩い光が私の目に入り込んでくる。
フッと気が軽くなって、今まで悩んでいたことがバカみたいに思えてきた。
「私……どうして気が付かなかったのかしら」
目の前にはお姉様が居る。
お姉様は心配そうな顔で私を見ているけど……ああ、そんな顔をしないで、私が心配をかけていた事は間違いないけど、こんな顔をさせてしまうほど酷かったのね。
「イングリッド……大丈夫?」
「ええお姉様。私……私は何も見えていなかったのね。自分の殻に閉じこもって、自分の間違いを認めたくないから人の意見を聞かず、みんなに心配をかけっぱなしで……」
お姉様が優しく私を抱きしめてくれる。
温かい。
こんなに優しい温もりを感じたのはいつ以来かしら。
「いいのよイングリッド。間違いは誰にでもある事よ、だから今のアナタにはやるべきことがある。分かるわね?」
「ええお姉様。私は一度国に戻ります。そこでケジメをつけて戻ってきます」
「いってらっしゃい。私はしばらくこの国残るから、こっちは心配しなくてもいいわ」
「ありがとう。私、すぐに行きます」
「気を付けてね」
私はすぐに着替えて馬車に乗り込んだ。
国に到着したのは夜だった。
馬車で自宅へ向かうと、家は真っ暗で人の気配が無かった。
もう寝てるのかな? とも思ったけど、ひょっとしたらまだ拘留されているのかもしれない。
家に入りろうそくに火をつける。
奥の寝室の扉は開きっぱなしで、ベッドには誰もいない。
やっぱりまだ帰ってきていないのね。それにしても……廃虚みたいになってるわね。
私が家を空けてから、きっと一度も掃除なんてしていないんだろう。
物は出しっぱなし、服も脱いだまま、食べ物は……腐ってる。
それにこの匂い……換気なんてしてないわよね。
思わず片づけをしそうになったけど、今のうちにやる事をやらないといけない。
やる事が一通り終わり、私は最低限の片づけだけはする事にした。
何年かは暮らした家ですもの、このまま去るのは後味が悪すぎるわ。
何とか廃虚ではなくなり、普通の汚い家になった頃、あの人が帰ってきた。
「ん~? あんだぁ~? 帰ってきたのかぁ~?」
……酔っぱらっている。
お店のお金に手を付けようとしたのに、まだお酒はやめられない様ね。
「お帰りなさい。今日はお話があって帰ってきました」
「うるさい、お前のせいで俺は酷い目にあったんだぞ、まずは謝るのが筋だろうが!」
謝る? どうして私が謝らなくちゃいけないの? ……ああ、以前の私なら、きっと謝っていたのかもしれない。
でも私は目が覚めている。
これ以上付き合う必要はない。
「謝るのはアナタではありませんか? アントン」
「あんだぁ? なんで俺があやまるんだ?」
「話は聞きました。私の店のお金に手を出そうとした事、謝ってください」
「バカか! お前の置いて行った金が少なすぎたからいけないんだろうが! お前が謝れ!」
ああ……アントン、昔のアナタはどこへ行ってしまったの?
お金なんて無くても2人で楽しく暮らしていた日々は、あの時のアナタはどこへ行ってしまったの?
涙が出そうになってくる。でも必死にこらえてアントンを見つめる。
「あなたにお金を渡したのが失敗でした。それに今日は、そんな話をするために来たんじゃないの」
「なんだ? やっぱり世間知らずのお姫様か。 社会ってものを教えてやってるのにな」
「……アントンさん、私は今日限りでこの家を出ます。あなたとの生活も終わりです。短い間でしたが、あなたとの夫婦生活は今後の糧にさせて頂きます」
頭を下げると、アントンさんは目をパチクリさせて私を見ている。
ええそうでしょうね。今までの私だったら、こんな事が出来るはずがないものね。
「ふん、お前がそんなくだらん事を言う女だったとはな、直ぐに謝ればゆるしてや……あん? 随分と物が減ってるな」
アントンさんが椅子に座り、何気に周りを見回すと、有ったはずの物がいくつも無くなっている事に気が付いた。
タンス、服、ランタン……他にもなくなっている物があるけど、それらは全て私が持ってきた物だった。
「私が持ってきた物、私の私物は全て運び出しました。これで私の用事は全て終わりましたので、これにて失礼させていただきます」
軽く会釈をしてドアに手をかけると、アントンさんは慌てて立ち上がり駆け寄ってくる。
「ままま、まて、まてまて! どうしたんだ一体、何があったんだ? そうか! 最近は他の女とばかり遊んでいて、お前とは遊んでなかったもんな、寂しかったろう、ほら、今日は一杯可愛がってやるから、な? 機嫌を直せよ」
アントンさんが私の腕を握っている。
昔のアントンさんならば、たくましかった腕をしていたころのアントンさんだったら、振り切る事なんてできなかっただろう。
でも今は、簡単に腕を振りほどけた。
「もう夫婦でも何でもありません。さようなら」
しかしアントンさんはすがり付いて来る。
「たのむ行かないでくれ! もう酒はやめる、女遊びもやめる! 昔みたいに仕事に精を出す! 心を入れ替えるから、頼む行かないでくれ!」
必死に頭を下げて、涙を流しながら懇願するさまを見ると、ああ、私にはまだ情が残っていたんだなと気が付いた。
でも極わずか。
そのわずかに残った情を満足させるために、一つの条件を出した。
「私達が離婚する事は覆りませんし、私はしばらくは国に戻ってこれません。しかしもし、もしも1年か2年が過ぎて戻ってきた時、あなたが改心したと判断出来たら、1度だけお会いしましょう。それで終わりです」
まるでダダをこねる子供を見ているような感じだ。
こんな約束でこの人が改心できるとは思わないけど、その時は気持ちよくお別れが出来る。
「分かった、待っててくれ! きっとまたお前が好きになった頃の俺に戻って見せる!」
その言葉を聞いて家を出た。
ふぅ、よかった、きちんと言う事が言えて。
少し不安に思ってた。予想よりも情が残ってて、説得されたらどうしようかと。
でも大丈夫、これで私は前に進める。
「とは言っても、問題は山積みされてるんですけどね」
イースター国のリチャードとの関係、シュタット国のフィリップ王太子との関係、そしてお父さま、国同士の関係……アントンさんとの関係よりも、もっと複雑な物が残ってる。
これからはそっちに集中しましょう!
目の前の景色が変わり、眩い光が私の目に入り込んでくる。
フッと気が軽くなって、今まで悩んでいたことがバカみたいに思えてきた。
「私……どうして気が付かなかったのかしら」
目の前にはお姉様が居る。
お姉様は心配そうな顔で私を見ているけど……ああ、そんな顔をしないで、私が心配をかけていた事は間違いないけど、こんな顔をさせてしまうほど酷かったのね。
「イングリッド……大丈夫?」
「ええお姉様。私……私は何も見えていなかったのね。自分の殻に閉じこもって、自分の間違いを認めたくないから人の意見を聞かず、みんなに心配をかけっぱなしで……」
お姉様が優しく私を抱きしめてくれる。
温かい。
こんなに優しい温もりを感じたのはいつ以来かしら。
「いいのよイングリッド。間違いは誰にでもある事よ、だから今のアナタにはやるべきことがある。分かるわね?」
「ええお姉様。私は一度国に戻ります。そこでケジメをつけて戻ってきます」
「いってらっしゃい。私はしばらくこの国残るから、こっちは心配しなくてもいいわ」
「ありがとう。私、すぐに行きます」
「気を付けてね」
私はすぐに着替えて馬車に乗り込んだ。
国に到着したのは夜だった。
馬車で自宅へ向かうと、家は真っ暗で人の気配が無かった。
もう寝てるのかな? とも思ったけど、ひょっとしたらまだ拘留されているのかもしれない。
家に入りろうそくに火をつける。
奥の寝室の扉は開きっぱなしで、ベッドには誰もいない。
やっぱりまだ帰ってきていないのね。それにしても……廃虚みたいになってるわね。
私が家を空けてから、きっと一度も掃除なんてしていないんだろう。
物は出しっぱなし、服も脱いだまま、食べ物は……腐ってる。
それにこの匂い……換気なんてしてないわよね。
思わず片づけをしそうになったけど、今のうちにやる事をやらないといけない。
やる事が一通り終わり、私は最低限の片づけだけはする事にした。
何年かは暮らした家ですもの、このまま去るのは後味が悪すぎるわ。
何とか廃虚ではなくなり、普通の汚い家になった頃、あの人が帰ってきた。
「ん~? あんだぁ~? 帰ってきたのかぁ~?」
……酔っぱらっている。
お店のお金に手を付けようとしたのに、まだお酒はやめられない様ね。
「お帰りなさい。今日はお話があって帰ってきました」
「うるさい、お前のせいで俺は酷い目にあったんだぞ、まずは謝るのが筋だろうが!」
謝る? どうして私が謝らなくちゃいけないの? ……ああ、以前の私なら、きっと謝っていたのかもしれない。
でも私は目が覚めている。
これ以上付き合う必要はない。
「謝るのはアナタではありませんか? アントン」
「あんだぁ? なんで俺があやまるんだ?」
「話は聞きました。私の店のお金に手を出そうとした事、謝ってください」
「バカか! お前の置いて行った金が少なすぎたからいけないんだろうが! お前が謝れ!」
ああ……アントン、昔のアナタはどこへ行ってしまったの?
お金なんて無くても2人で楽しく暮らしていた日々は、あの時のアナタはどこへ行ってしまったの?
涙が出そうになってくる。でも必死にこらえてアントンを見つめる。
「あなたにお金を渡したのが失敗でした。それに今日は、そんな話をするために来たんじゃないの」
「なんだ? やっぱり世間知らずのお姫様か。 社会ってものを教えてやってるのにな」
「……アントンさん、私は今日限りでこの家を出ます。あなたとの生活も終わりです。短い間でしたが、あなたとの夫婦生活は今後の糧にさせて頂きます」
頭を下げると、アントンさんは目をパチクリさせて私を見ている。
ええそうでしょうね。今までの私だったら、こんな事が出来るはずがないものね。
「ふん、お前がそんなくだらん事を言う女だったとはな、直ぐに謝ればゆるしてや……あん? 随分と物が減ってるな」
アントンさんが椅子に座り、何気に周りを見回すと、有ったはずの物がいくつも無くなっている事に気が付いた。
タンス、服、ランタン……他にもなくなっている物があるけど、それらは全て私が持ってきた物だった。
「私が持ってきた物、私の私物は全て運び出しました。これで私の用事は全て終わりましたので、これにて失礼させていただきます」
軽く会釈をしてドアに手をかけると、アントンさんは慌てて立ち上がり駆け寄ってくる。
「ままま、まて、まてまて! どうしたんだ一体、何があったんだ? そうか! 最近は他の女とばかり遊んでいて、お前とは遊んでなかったもんな、寂しかったろう、ほら、今日は一杯可愛がってやるから、な? 機嫌を直せよ」
アントンさんが私の腕を握っている。
昔のアントンさんならば、たくましかった腕をしていたころのアントンさんだったら、振り切る事なんてできなかっただろう。
でも今は、簡単に腕を振りほどけた。
「もう夫婦でも何でもありません。さようなら」
しかしアントンさんはすがり付いて来る。
「たのむ行かないでくれ! もう酒はやめる、女遊びもやめる! 昔みたいに仕事に精を出す! 心を入れ替えるから、頼む行かないでくれ!」
必死に頭を下げて、涙を流しながら懇願するさまを見ると、ああ、私にはまだ情が残っていたんだなと気が付いた。
でも極わずか。
そのわずかに残った情を満足させるために、一つの条件を出した。
「私達が離婚する事は覆りませんし、私はしばらくは国に戻ってこれません。しかしもし、もしも1年か2年が過ぎて戻ってきた時、あなたが改心したと判断出来たら、1度だけお会いしましょう。それで終わりです」
まるでダダをこねる子供を見ているような感じだ。
こんな約束でこの人が改心できるとは思わないけど、その時は気持ちよくお別れが出来る。
「分かった、待っててくれ! きっとまたお前が好きになった頃の俺に戻って見せる!」
その言葉を聞いて家を出た。
ふぅ、よかった、きちんと言う事が言えて。
少し不安に思ってた。予想よりも情が残ってて、説得されたらどうしようかと。
でも大丈夫、これで私は前に進める。
「とは言っても、問題は山積みされてるんですけどね」
イースター国のリチャードとの関係、シュタット国のフィリップ王太子との関係、そしてお父さま、国同士の関係……アントンさんとの関係よりも、もっと複雑な物が残ってる。
これからはそっちに集中しましょう!
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