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28 再侵攻
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すぐに誰かが迎えに来ると思ったけど、誰も迎えに来ないまま、そろそろひと月が経とうとしていた。
お陰で私は仕事に精を出している。
「ユリア、試作品の完成度はどのくらい?」
「そうだね、85%といった所かな。後は細部を調整していきたいね」
「順調ね、その調子でお願い。新しい卸先のリストをちょうだい……ありがとう」
それにしても、最近は他の社員たちが頑張ってくれて、新作もどんどん増えて行ってる。
お陰で今の店では手狭になり、別に工場兼倉庫を作る事になった。
商品点数は100を超え、1商店の、しかも自社商品のみとしては、随分と数が増えてしまった。
だから商品のジャンル分けをして、お客さんにも、私達店員も分かりやすいようにしている。
「ふ~、この調子だと、来年には商品点数が凄い事になりそうね」
「私の部下たちも頑張っているが、金型の数も膨大になっているからね、店の規模も大きくしないと持ちそうにない」
ほんと、嬉しい悲鳴だわ。
なんだか凄く充実してるけど、シュタット国とイースター国は大丈夫なのかしら。
4ヶ国同盟が発足してからひと月、リシア連邦とシチーナ共和国の動きは止まってるみたいだけど、その東西にある国と友好を結んだって話が聞えてこない。
支援や情報は送ったはずだし、同盟に参加しないまでも、友好は結べるはずなんだけど……。
態勢を整えられたらまた攻めてくるはずだし、それまでに同盟を大きくしないといけないのに。
そんな心配をしていたら、数日後に情報が入ってきた。
リシア連邦とシチーナ共和国が南下を再開した、と。
「どういう事よ! あの状況でどうやって南下しようっていうの!? 一旦引いた兵をそのまま前線に戻すって、どれだけ無駄な事だと思ってるの!!!」
朝食時にその報告を聞いて、私は思わずテーブルを叩いてしまった。
「イングリッド、ミルクがこぼれてしまうよ」
「あ、ご、ごめんなさい」
ユリアの家だけど、まるで自分の家みたいに振る舞っちゃった。
それにしてもどうして? 南下を再開したって事は、東の国は兵を動かさなかったって事? もしくは牽制にならなかったのかしら。数が少なすぎた? でも少数でも警戒はすると思うし……。
「あ~んもう! わっかんない!」
「ジェームス王太子に聞いてみたらどうだい?」
「お兄様が教えてくれるわけ無いじゃない……はぁ、また戻らなくちゃいけないのかな」
「忙しい身分だね」
「いくとまた数ヶ月は戻ってこれなくなるし、残ってる仕事はどうしよう……向こうの方が優先だしなぁ」
「ま、こっちは大丈夫だろうから、今からでも向かったらどうだい?」
「そうね、お店を優先して国が無くなったら困るもんね。後はよろしくねユリア」
「こんにちわ、フィリップ王太子、リチャード王太子」
「い、イングリッドさん! ど、どうしてこちらに!?」
「イングリッドが戻ってくるような事は何も起きていないよどうしたの?」
随分と早口になってるわね、後ろめたいことがある証拠だわ。
「リシア連邦とシチーナ共和国が、再び南下を開始してと聞きましたので」
2人が硬く口を閉ざして目をそらす。
あ、これは何か失敗をしてしまったっぽいわね。
「お兄様とアーロン王太子はどちらに?」
「い、今使いを送っているから、しばらくしたら到着すると思います」
「なら丁度いいですね、詳しく話を聞かせてくださる?」
私が以前使っていた部屋へ行き、詳しく話を聞いた。
どうやら東西の国とは上手く行っていたようだけど、同盟の話を出した時にこじれた様だ。
東西の国は同盟に加入するのは問題ないけど、逆に4ヶ国同盟としては、セックトン国が加入する時のように、優位に立とうとされては困るため、同等かそれ以下の立場でというスタンスで進めたらしい。
それで向こうが反発したみたい。
それはそうよね、東西の国の方が大きいのに、同盟では下に扱われるって屈辱だもの。
こちら側の考えも分かるけど、そいう話はもっと内容を突き詰めてから、ゆっくりと探りを入れて行かないといけないナイーブな問題だ。
そこで反感を買って、同盟は消滅、逆にリシア連邦とシチーナ共和国に勢いを付けさせてしまったのね。
最悪じゃない……。
「2人なら慎重に進めてくれると思ったのに……」
「い、いやだって、4ヶ国同盟ならば東よりも、西よりも大きいんだから、こっちが優位に立って当たり前だろう?」
「そんなわけ無いじゃない。あちらからしたら、結局は小国の集まり、シュタット国、イースター国、ロイツェン=バッハ国でしか無いのよ? 国力の差もあるし、同等かそれ以上の選択肢しかあるわけ無いじゃない」
「う……しかし……」
あ~、男っていつもこう。少し有利になったと思ったら、自分は強いって勘違いしちゃうの。
4ヶ国同盟なんて、他の国が本気を出したら、簡単に瓦解しちゃう程度のモノなのに。
本当は8ヶ国10か国同盟まで考えていたけど、4か国でこれなら無理ね。
「イングリッド、何かいい手は無いだろうか」
「今から謝っても意味は無いし、完全に向こうに主導権を取られちゃうから無理だし……う~ん」
こうなったら仕方がない、やりたくなかったけど、アノ手を使うしか無いわね。
お陰で私は仕事に精を出している。
「ユリア、試作品の完成度はどのくらい?」
「そうだね、85%といった所かな。後は細部を調整していきたいね」
「順調ね、その調子でお願い。新しい卸先のリストをちょうだい……ありがとう」
それにしても、最近は他の社員たちが頑張ってくれて、新作もどんどん増えて行ってる。
お陰で今の店では手狭になり、別に工場兼倉庫を作る事になった。
商品点数は100を超え、1商店の、しかも自社商品のみとしては、随分と数が増えてしまった。
だから商品のジャンル分けをして、お客さんにも、私達店員も分かりやすいようにしている。
「ふ~、この調子だと、来年には商品点数が凄い事になりそうね」
「私の部下たちも頑張っているが、金型の数も膨大になっているからね、店の規模も大きくしないと持ちそうにない」
ほんと、嬉しい悲鳴だわ。
なんだか凄く充実してるけど、シュタット国とイースター国は大丈夫なのかしら。
4ヶ国同盟が発足してからひと月、リシア連邦とシチーナ共和国の動きは止まってるみたいだけど、その東西にある国と友好を結んだって話が聞えてこない。
支援や情報は送ったはずだし、同盟に参加しないまでも、友好は結べるはずなんだけど……。
態勢を整えられたらまた攻めてくるはずだし、それまでに同盟を大きくしないといけないのに。
そんな心配をしていたら、数日後に情報が入ってきた。
リシア連邦とシチーナ共和国が南下を再開した、と。
「どういう事よ! あの状況でどうやって南下しようっていうの!? 一旦引いた兵をそのまま前線に戻すって、どれだけ無駄な事だと思ってるの!!!」
朝食時にその報告を聞いて、私は思わずテーブルを叩いてしまった。
「イングリッド、ミルクがこぼれてしまうよ」
「あ、ご、ごめんなさい」
ユリアの家だけど、まるで自分の家みたいに振る舞っちゃった。
それにしてもどうして? 南下を再開したって事は、東の国は兵を動かさなかったって事? もしくは牽制にならなかったのかしら。数が少なすぎた? でも少数でも警戒はすると思うし……。
「あ~んもう! わっかんない!」
「ジェームス王太子に聞いてみたらどうだい?」
「お兄様が教えてくれるわけ無いじゃない……はぁ、また戻らなくちゃいけないのかな」
「忙しい身分だね」
「いくとまた数ヶ月は戻ってこれなくなるし、残ってる仕事はどうしよう……向こうの方が優先だしなぁ」
「ま、こっちは大丈夫だろうから、今からでも向かったらどうだい?」
「そうね、お店を優先して国が無くなったら困るもんね。後はよろしくねユリア」
「こんにちわ、フィリップ王太子、リチャード王太子」
「い、イングリッドさん! ど、どうしてこちらに!?」
「イングリッドが戻ってくるような事は何も起きていないよどうしたの?」
随分と早口になってるわね、後ろめたいことがある証拠だわ。
「リシア連邦とシチーナ共和国が、再び南下を開始してと聞きましたので」
2人が硬く口を閉ざして目をそらす。
あ、これは何か失敗をしてしまったっぽいわね。
「お兄様とアーロン王太子はどちらに?」
「い、今使いを送っているから、しばらくしたら到着すると思います」
「なら丁度いいですね、詳しく話を聞かせてくださる?」
私が以前使っていた部屋へ行き、詳しく話を聞いた。
どうやら東西の国とは上手く行っていたようだけど、同盟の話を出した時にこじれた様だ。
東西の国は同盟に加入するのは問題ないけど、逆に4ヶ国同盟としては、セックトン国が加入する時のように、優位に立とうとされては困るため、同等かそれ以下の立場でというスタンスで進めたらしい。
それで向こうが反発したみたい。
それはそうよね、東西の国の方が大きいのに、同盟では下に扱われるって屈辱だもの。
こちら側の考えも分かるけど、そいう話はもっと内容を突き詰めてから、ゆっくりと探りを入れて行かないといけないナイーブな問題だ。
そこで反感を買って、同盟は消滅、逆にリシア連邦とシチーナ共和国に勢いを付けさせてしまったのね。
最悪じゃない……。
「2人なら慎重に進めてくれると思ったのに……」
「い、いやだって、4ヶ国同盟ならば東よりも、西よりも大きいんだから、こっちが優位に立って当たり前だろう?」
「そんなわけ無いじゃない。あちらからしたら、結局は小国の集まり、シュタット国、イースター国、ロイツェン=バッハ国でしか無いのよ? 国力の差もあるし、同等かそれ以上の選択肢しかあるわけ無いじゃない」
「う……しかし……」
あ~、男っていつもこう。少し有利になったと思ったら、自分は強いって勘違いしちゃうの。
4ヶ国同盟なんて、他の国が本気を出したら、簡単に瓦解しちゃう程度のモノなのに。
本当は8ヶ国10か国同盟まで考えていたけど、4か国でこれなら無理ね。
「イングリッド、何かいい手は無いだろうか」
「今から謝っても意味は無いし、完全に向こうに主導権を取られちゃうから無理だし……う~ん」
こうなったら仕方がない、やりたくなかったけど、アノ手を使うしか無いわね。
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