みやこ落ち

皇海翔

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 バイトを辞めてからというもの、家賃の滞納がかさんでしまい、大家さんから電気とガスの使用を禁じられて一か月になる。当初はどうなることかと危ぶんでいたが、意外と平穏に暮らしてこられた。
 炊事は昼のあいだ留守にしている守谷さんのガス台を使わせてもらっている。電気がこないので、本が読めるのは陽のあるうちに限られているが、おかげで早寝早起きの習慣がついた。半斗缶に入れておいた米が底をつき、外食しようと引き出しの底に散らばっている硬貨をかき集めたものの五百円に満たない。仕方がないので街の私鉄の駅まで歩いていって、立ち食いそばのスタンドですますことにした。
 ぼくは二十一になっていた。たてまえは受験生ということにして、『高嶺』では学生を装っているものの、求められて外出する機会をほとんど持たない身空だった。大学や実社会で活動している同級生たちに比べると、この世にあるんだか無いんだか分からないような存在になった。活気にあふれた世界はこの街より遥か遠くに隔たっており、こちらからものを言えば手痛いしっぺ返しに遭うのではないか――そんな怯懦な性向を帯びるようになった。
 なにしろ人と比べて自分を見るからおかしな気分に沈むのだ――そう割り切ったつもりでいても、行くあてのない自分は通行人をすら装っている。いわれない後ろめたさが、尻尾のように自分にだけ極印されてあるような気がした。
 かけそばをすすりつつ、駅の高架橋からこの街を望む。
 住宅街の彼方に藤紫色の八国山の山容がくっきりと浮き立っている。昨日の強風で街の上空はきれいに拭われ、汗ばむほどの陽気だった。
 商店街を抜けて八国山のふもとに拡がる北山公園へ行くと、入り口でパワーシャベルが二台呻りをあげて作業していた。公園脇を流れる北川という、多摩湖からくる流れの護岸工事中だった。小橋のたもとから下を覗くと、水は瓦礫の山に堰き止められて、露わになった川床で数人の土工が汗みずくになって鶴嘴やバールを振るっていた。道具を持たない二人は人間の歯根の形をしたコンクリート塊を土の法面に埋めこんで川床に積み上げていた。
 住宅街を流れるその川は、生活排水をあつめたどぶ川の様相をしていたが、それでも鳥獣保護区の看板の立つこの辺りでは渡りの冬鳥が羽を休めることもあったのだ。小魚でもいるかと思い、本気で覗き見たこともある。春には川の縁を菜の花が彩っていたが、膝丈ほどの深さしかない浅い流れをこれほど掘り起こしてしまっては、錯覚で味わっていた野趣すらコンクリの下敷きになってしまう。
 川床にいる一人に睨まれてぼくは公園を後にした。
 様々な作物の植わった畑を行くと、黒土の放つかぐわしい匂いがした。ほぼ百メートル四方を障害物なく眺め渡され、身体ごとすっぽり青空につつまれてしまう。都心の逼迫した市街地で、四六時中の伸縮を余儀なくされてきた瞳孔が、ここでは遠い地平を眺めやれる渡り鳥の目となった。都会育ちのぼくは自然の本質を知らない。それを知っているのは土くれと汗まみれになって格闘している、農夫や土工たちであるのかも知れなかった。
 住宅街にわずかばかりの本を並べている文房具店がある。一分の隙なく詰めこまれた書棚には、うっすらと埃がかむっていた。けれども試みに手にする本、どれ一つ取ってみても実社会向けの意気盛んな内容に感じられ、こちらの渇望を充たす本に出会うことがない。十代のころの知的好奇心や問題意識といったものも、しょせんは他人の借り着であったような、空々しい気がした。自分はきっと、何かに目覚め、つかみ掛けようとしているのだが、自分の力では到底それが探し出せず求めあぐねているのだった。
 異常な日射しを照りつけていた大暑はしかしようやく傾きつつあった。欅のはるか高いところにゼンマイの切れたような叫びが起こり、一匹の油蝉がゆくあても定まらぬといった無軌道な軌跡を描いて晩夏の空に弾けていった。

 アパートの階段を上りつめドアを開けると、
「ああっ、やってらんねえなあ」
 はす向かいの部屋からそんな声が洩れてきた。今年の春に越して来た、酒井さんのぼやきに違いなかった。
   廊下には、めったに風呂にも出掛けない男たちの体臭が熱気に蒸されて澱んであった。このうだるような暑さのなか、エアコンを持たない彼らが部屋の戸を締めきっているのも、共同便所と他人の異臭が自室に流れ込むのを忌むからなのだ。
 部屋に一歩入ると、西日をあびて焼けた古畳の匂いが充満していた。ふた月近くも机上に開かれたままになっている、プラトンにぼくは鬱々としてとして埋没していった。
 入居したばかりの酒井さんは定職を持っていない。たるんだ腹をあらわにし、扇風機の前で四十がらみの体躯を横たえたまま、この屋根の下でひねもすグウタラしている。世間とは没交渉だったが、自分と似たような境遇の人のため息は、ややもするとこちらの鬱屈にも聞こえてしまう。やってられないとはこの暑さのことなのか、無聊に苦しんでのことなのか。もとより何もしていないではないか――たるんだ精神そのものの嘆きにも聞こえ、居たたまれなくなってくる。
 人生の究理に触れるべく議論に明け暮れていた、哲人たちの思想の海をさすらっていた魂が、タム、という音で我に返った。額の汗が落ちたのだった。黄ばんでささくれだった畳の粗目に、自らの体液が滲んでいくのを見つめていると、それが何だかひどく不潔なものに思われてくる。職を持たない自分たちの暮らしぶりはさしずめ獣のおぞましさと変わらない、そんな哀しい気分に襲われてきた。

「カツーン、カカッ」という断続音はどうやら夢の中で聞いたらしい。誰かが壁に石を投げつけているようだった。時計を見ると午前二時を回ろうとしている。
 投石は酒井さんの部屋に向けられているようだが、誰ひとり起きだそうとはしなかった。酒井さんより、他の住人たちに向けて今夜の来意を訴え掛けようとしているようで、真夜中というのに異様な熱気を帯びている。石はやがて、大ぶりのつぶてに変わり、壁をはねたのが庇のタキロン屋根に落下して大音響がとどろき渡った。石を投げつけられるのがこれほどの侮辱だとは知らなかった。
 誰かは知らないが上がりこまれては堪らないと思い、ぼくは入口のドアと自室に鍵をかけ、布団をひっかむって眼をつむった。一回の住人たちはよく堪えていられる。するとこれだけの侮辱を加えられてもなお、他人事ですまそうとしている住人たちの無関心が次第に訝しく思われてきた。これでは同じ屋根の下、同じ時代に生きている意味もない。
 ダーン、と廊下の奥で便所の扉の閉まる音がした。寝床を起って見に行くと、便所の小窓が開け放しになっていた。小窓から上空を仰ぐと、外界は巨大なふいごに送られたような生暖かな大風が、人気ない舗道に横殴りの雨を吹きつけていた。不穏な明るみを孕ませた薄紫の雲脚がみるみると上空をよぎっていく。向かいの家の檜は、上体をそろえたまま胴のあたりが立ち割れんばかりのなびき方をしている。 
 下を覗くと、酒井さんの部屋の下で二つの黒い影が動いていた。一人はずぶ濡れのまま肩で荒く息をつき、一人はじっと傘を傾けて二階の窓を見上げている。「よしおさん、よしおさん」そう言って小声で呼びかけながら、石を物色しているのは別れた酒井さんの奥さんに違いなかった。便所を出て、廊下を引き返していくと奥の引き戸が開いてようやく酒井さんが顔を出した。
「ああっ、すまない騒がせちゃって」
「入り口のドアの鍵、閉めちゃいましたけど」
「いい、ほっとこ、あんなの。相手にしなけりゃそのうち帰るから――あいつ、ちょっとコレなんだ」
 歪んだ薄笑いを浮かべて酒井さんはこめかみのあたりを二三度つついた。「いや、そういう訳にも……」おかしいのはあなたの方ではないか、そう言おうとしたとき向かいの部屋から守谷さんが出てきた。
「ああっ、守谷さんまで起こしちゃって……例の女がまた押しかけてきたんで……じきにあきらめて帰ると思いますんで」
「起きてんのはアパート中が起きてるよ。下に来てるんだったら入ってもらった方がいいんじゃないの」
「いや。あんなヒステリー、中に入れたら何をされるか。ほっときゃあいいんですよ、あんなやつ。好きだなあ、人んちのことに首突っ込むの……二人ともお願いだからもう寝てくんないかなあ」
「そうします」ぼくは腹立たしいのを通り越していたので自室に戻り、鍵をしてから床についた。
「……それじゃあ、私が仲介役になりますから。何も好き好んであんた方の間に入る訳じゃないですよ。こう見えてもね、私だって昔は小さな会社を立ち揚げて、人を使ってたこともあるんだから」
「えっ守谷さんが?」
「まあ、短期間で失敗。ポシャッちゃったんですけどね。今から考えるとわが人生の絶頂期といってもよかったですなあ……ナニ、これからだってもうひと花咲かせるつもりではいるんですよ今はその下準備ってわけで」
 ぼくは布団の中でアクビを噛み殺していた。やがて二人は酒井さんの部屋へ入っていき、部屋の窓を開けたらしい。
「ああっ、やっと開いたっ。金返せッ」
 女の金切り声がアパート界隈にとどろき渡った。
「どちらさんです」世間体を盾にして、精一杯ドスを利かせたつもりの酒井さんの声音も、事情が読めてしまうとひどく間が抜けて聞こえる。
「ばかっ、あんたの昔の女房じゃないかっ、何だってんだい、ここのアパートの住人はよう。ずーっと、びしょ濡れだったじゃないか。あたい、お母さんにおん出されてきたんだよう……せめて廊下にでも入れてくれたっていいじゃないか。女子供みんなでいじめて何が面白いってんだよう」
 僕は寝床の中でハッとした。それから三四人が鉄階段を上下する振動がしばらくアパートの二階を揺すぶった。
「静かにしろ」
「なにさ人の目ばかり気にしちやっ……」奥さんの言い切らぬうち、パーンと平手打ちの音がした。
「ぎゃっ。あたい、頭の病気だっての。わかってんだろっ。いたた……髪を放しておくれよう」ふたたび平手打ちの音。今度は廊下に倒れ伏したらしい。「ま、ま、酒井さん。ここはひとつ冷静になって」守谷さんが割って入った。「ともかく坊やを拭いてやらないと」
「ああ。ミツル、あんたもシヤツとズボン脱ぎな」
 どやどやと三人が部屋に向かう後を、ダダダッと子供の駆ける音がする。戸が閉まり、アパートはようやく静けさを取り戻した。
 寝床の中で雨音に聞き入りつつ、ぼくは天井を見つめて吐息をついた。ドアに鍵をしたことが、なんだか非情な行為に思われてきた。都会の人間関係を捨てて知らない土地に越してきても、人の世に生きるかぎり、否応なく新たなしがらみに取り込まれてしまう。なんぼプラトンを読んで上等な考えを頭に入れても、現実は聞きかじりの知識なぞ容易に土足で踏みにじる。
(これが共に生きるというものか)
   僕は枕の上で浅く嘆いた。そのとき、廊下に面したガラス窓が頭一個分ほど無造作に開いた。常夜灯の豆ランプに浮かび上がったのは、ザンバラ髪に扁平な顔の下半分を突き出した、ダウン症に特有の面立ちだった。毛先から滴をしたたらせ、紫色の下唇を小刻みに震わせ、挑むような目でこちらを見ている。ぎょっとしてぼくが半身を起こすと、ダダッと廊下を鳴らして立ち帰り、奥の部屋に入るや、
「とうちゃん!」と叫んだ。

   電気を灯すことをやめたぼくの部屋に今日も宵闇がしのび寄ってくる。
 寄る辺ない郊外で過ごす晩夏の夕暮れ――ややうらぶれた気分に傾きつつある一方、いつか母の言ったように暗い室内にこうしてひとり置かれているのが人間本来の清浄な処し方にも思われてくる。
 おびただしい数に粉砕された入り日の色が、西向きの磨りガラスを透してずいぶんと長くぼくにあたった。
 窓を開けると、水飴にくるんだ杏のような茜のぽってりした日輪が、ずるずる山の端めざして落ちていく。西の空から頭上にかけては立秋を思わせる鱗雲が片々として敷かれてあった。淡い紅色の残照をあびて、見事に照り映えている無数の雲の配列に、ぼくはほのかに旅愁を帯びた。
(なんという清々しい孤独だろう)
 どういう理由か分からないが、この街に来てからぼくの神経は十代の頃のように刺々しく研ぎ澄まされることはなかった。外界の暮色にあるがままに染まろうとしている。忘れ去られ、誰からも求められることのない暮らしのなかで、自意識も反発する対象を見失い、みじめに沈静してゆくかにみえた。ぼくの自我がその程度のものであるのなら、この収束は精神衛生上喜ばしい兆候であるのに違いなかった。
 夕映えを映した後のガラス窓を立て切ると、ぼくは石のように身を固くして蹲った。都会に暮らす同窓生たちは今このひと時をどれだけ有意義に過ごしていることだろう。
 屋外の闇は刻々と濃度を深めていって、自分の輪郭すら見定めがつかなくなってくる。いったい自分に何ができるというのか、実社会の厳しさを予感すると今さらのように怖くなった。自我はみるみると委縮して、緊密に張りつめた世間の労働者たちの思惑がどっと身辺に殺到してくる。
 滅入ったときにはこうしてけし粒にまで縮小し、月夜の晩にはかなたの山影を眺めて救われていられる、ぼくの求めあぐねているものというのは、結局自分に見合った自我の対象――いずこかの、安定したまとまりのある領域ではなかったか。
(現実に生きることを考えなければ)
 そう観念したとき、突然ずばん、と部屋が揺らいだ。窓を開け、身を乗り出して外を見ると、八国山の上空に光の大輪が彩っていた。山越の空にふわりと開花してから一、二と数え、ようやく夜空にドン、と轟く。打ち上がった瞬間、毬の直径は漆黒に浮かび上がる山容のほぼ半分ほどもあったから、見応えとしては充分に立派な花火だった。
「いやーっ、いい。ここは特等席だ」
 振り返ると、空き部屋のはずの隣室で、上半身裸の酒井さんが鉄柵にもたれて夜空を見ていた。
「誰も使ってない部屋っていうのは、物がなくってせいせいするなあ。ボロ屋だって、ちったあ風通しよくしてやんねえと腐っちまうぜ。どうだい、こっちへ来て一杯やんねえか。大家さんには内緒でさ」言いながら、グラスの氷をカキンと鳴らした。
 隣の部屋は、ひと夏のあいだ蒸された空気が重苦しくたち澱み、ひどいカビ臭さだった。裸足で中に入ると畳がざらざらしている。流しの暗がりには動物の死臭が漂っていた。
「この部屋も、電気が来てないんですね」
「電気なんかつけない方が、こまいところが目に入らなくってせいせいすらあ」似たような事を――さっきぼくも考えていましたよ、そう言おうとして口をつぐんだ。
 向かいの部屋は、廊下を挟んで入り口の戸も室内の窓も全開にしてある。外気は筒抜けになった東西を自由に出入りできるはずだが、風はいつになっても抜けていかない。窓枠に背をもたせ、室内から顔をそむける形で花火を見ていると、それでも異臭をふくんだ熱気が少しずつ鼻先をかすめていくのが分かった。
 刺し込む外灯のわずかな明かりで、酒井さんは足元に新聞を開いて眺めていた。縦横に区画された紙面は求人欄であるらしい。
「ウチのやつさ……ほら、こないだ押しかけてきた前の女房とガキだけど、ここで一緒に暮らそうかと思うんだ。騒がしくなって申し訳ないけど……。そしたら、君の勉強の邪魔になるかな」
「もともと勉強なんかしてやしません。賑やかな方がきっと楽しいですよ。でも不思議だなあ。ぼくもさっき働くことを考えていたんですよ」毒気を抜かれたような気がして思わずぼくは素直に答えた。
「そう……」
 やつれた面立ちで呟くと、酒井さんはいつにないこまやかさでグラスの液体を喉奥に注ぎ、じっと新聞に視線を落とした。
 一つ屋根の下に暮らしている者同士が同時刻、同じ考えを抱いているということが偶然とは思えなかった。互いに世間を踏み外してしまった似たような境遇とはいえ、追いつめられて弱った魂がひとつ屋根のもと、よすがを求めてひきつけあう――そんな無意識下の交流が当人たちの気づかないうちに交わされている。他人の影響下にあることは、不愉快に違いないが逃れようのない運命のようにも受け取れた。
 暴風雨の晩、鍵をかけて親子を締め出したことの後悔が、無意識理に二人を呼んでいたのではなかったか。凡俗がいくらあがいたところで到底流転からは逃れられない、まとまるべくしてまとまっていくのが人知を超えた自然の意思のように思われて来るのだ。だとするなら、一体ぼくはどこへ引きつけられていくのだろう。
 ゆるゆると、天高くたち昇った光球の周囲がチチッと爆ぜた。音もなく枝垂れ空がなりに開花したのち、空が破れんばかりにドン、と轟く。花火は佳境に入ろうとしていた。
「あらあ、西武園で揚げてる花火だな。土曜の晩だから盛大なんだ。へっ。金払って下から見上げるんだったら、こんくらいの距離を置いた方がどれだけ上等か知れやしねえ。ま、花火って歳でもねえけどな」
「歳は関係ないでしょう」
「君はまだ若いから言えるのさ。そんな気分にひたってみたいよ」
 そう言うと、酒井さんは新聞を引き寄せ真剣に求人欄を探し始めた。ぼくは眼にふれた一発目の花火にこそ久々の爽快を覚えたものの、十代の頃ほどのセンチメントに染められることはなかった。気持ちのどこかが頑なになっており、素直に満ちていこうとしない。せっかくの美に心身を委ねてしまうことができずにいた。
(ああ――あの頃のように感動できたら)
 外聞もなく感傷にひたることができたなら、どんなにかいいだろう。取るに足らぬ路傍の花にこの魂が揺すぶられるなら、そこがつまりぼくの自我の居場所なのだ。
 通りには、夕涼みがてら近所の主婦や子供たちが大勢出ていた。誰もがしばらくは生活の手を休め、ゆく夏の夜空を彩る大輪に無心に眺め入っている。
「ああっ。だめだ、だめだっ。今週もろくな仕事がねえなっ」
 地域の求人ビラを放り投げ、酒井さんは大アクビした。
「酒井さん。このアパートから近いところじゃ、どんなのがあるんです?」
「近い所は……と。高田製作所。板金加工?。なんだ町工場の旋盤工じゃねえか。よしなよしな、どうせクソ暑い倉庫で朝から晩まで重たい鉄の塊もたされるんだから。とても小宮山君には勤まらないよ」
「あした、行ってみようかな」
 サイコロでも振って目が出たような、そんな気軽さでぼくはその日職をきめた。



































































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