【完結】僕はヤンデレ彼女を愛してやまない。

小鳥鳥子

文字の大きさ
17 / 43
『妹と姉と』

第十三話  『どちらが先にあいつを排除できるか競争しましょうか?』

しおりを挟む
「もう帰ってください!!」

 緊迫した様子の澪の声が聞こえ――。
 同時に、僕は行動を開始していた。

「ちょっとごめんね!」

 二人から強引に腕を取り返し、すぐに玄関へと向かう。

 玄関では、澪と知らないおばさんが揉めているようだった。

「澪!!」

 僕は二人の間に割り込み、澪の前に立ち塞がった。

「お兄さんですか!? お兄さんも是非どうですか!?」

 そんな僕へと何の躊躇ちゅうちょもなく、ずずいと詰め寄ってくるおばさん。
「今度はこっちね!」という圧迫感を感じる。

「な、なにを……」

 おばさんの圧は強すぎた……。
 そのあまりの圧に、澪を助けに来たはずの僕は後ずさりしてしまった。

「わたくし、『大いなる祝福』の一員でして、この素晴らしい会のご紹介にあがりました!!」

 勢いそのままに一気に捲し立てる。
 その手にはパンフレットらしきものが握られている。
 どうやら宗教勧誘のたぐいのようだ。

「教祖のヒカル様が本当にイケメンでしてね! 勿論、イケメンなだけではありません! 『混沌が世界を包むとき、大いなる光が輝きを放つ』という教義の元、わたくしたちに教えを説いてくださいますのよ!」
「いや、興味ありませんから! もう帰ってください!!」

 全く止まる気配のないおばさんに、澪と全く同じセリフを吐く。
 だが、しかし――。

「一度ヒカル様に会って頂ければ分かって頂けるはずです! 是非とも!!」

 全く帰る気配のないおばさんは、手にしたパンフレットを見せつけてくる。
 そこには、三十代前半くらいの金髪のイケメン(?)が載っていた。
 キラキラとした背景の中で、イケメンは爽やかな笑顔を振りまいていた。

「いやいやいや……」

 何とも言えない感情が湧き上がってきたわけだが、おばさんはそんなのお構いなしである。

「素晴らしい教義の一端を今お伝えいたしますね! この光というのは救世主様のことを示唆しておりまして……」

 まだまだガンガン来そうなおばさんの口が閉じられることは、当分なさそうである。

(これは警察にでも通報するしか…………ん??)

 思案していた僕は背後から寒気を感じ、振り返った。
 ――そこで僕は凍り付いた。

 そこには、果たして、殺気を放つ莉子がいた。
 両手には当然包丁を持っている。
 更には、莉子のすぐ隣には毛を逆立てたアオまでがいる。

「陸、あたしに任せて。あたしがすぐにそいつを排除するわ!」
「ニャニャ!」

 莉子の宣言とともに、アオも同様の宣言を行っているようだ。

「アオは邪魔だから、ここで見てなさい?」
「ニャニャ?」

 アオに待機するように声を掛けるが、アオも莉子に待機を命じているようである。
 もうすっかり仲良しのようだ……。

「ならば、どちらが先にあいつを排除できるか競争しましょうか?」
「ニャニャ!」

 莉子の挑発に、「望むところだ!」とでも言うかのように返事を返すアオ。

「いや、ちょ、待っ……」

 慌てて声を掛けようとするが――。

「行くわよ!!」
「ニャ!!」

 当然のように制止の声を聞かず、二人は同時に突っ込んでくる!
 さすがに、二人同時の突撃は物理的にも止められない!
 かくなる上は――。

「ごめんなさい!!」

 二人が目前にまで迫ったとき。
 僕は、――突き飛ばした。
 こんな危機的状況にも気付かずに、未だにしゃべり続けているおばさんを。

「キャ!?」

 妙に可愛い悲鳴とともに、莉子の包丁が、アオの爪が、投げ出されたパンフレットを十字に切り裂いた。
 切り裂かれたパンフレットのヒカル様がヒラヒラと宙を舞う。

「ひ、ひぃ~~~!!」

 やっとこ危険に気付いたおばさんはすぐに立ち上がり、悲鳴を上げながら逃げ出した。
 しかし、まだ安心はできない。
 すぐに二人の追撃が――って、アレ??

 二人は追撃を行っていなかった。
 ただただ、お互いを見つめ合っていた。

「……なかなかやるじゃない、アオ」
「ニャニャ」

 アオは「お前こそ」と言っている。
 どうやら今の一太刀でお互いを認め合ったようである。

 莉子が膝を折り、包丁を地面に置いた。
 そして、アオへと手を差し出した。
 アオはそれに応えるように、莉子の手に前足を重ねた。

「あたしの名前は雪野莉子よ。陸の彼女をさせてもらっているわ。アオ、今後ともよろしく頼むわ!」
「ニャニャ!」

 アオの前足を強く握りながら、改めて挨拶をする莉子。
 対するアオも「こちらこそ!」と、精一杯の礼を尽くしているようだった。


 ◆ ◆ ◆


「結局さ、アオが最初にお兄ちゃんに甘えていたのは何でだったの?」

 アオと莉子の様子をチラチラと見ながら、話し掛けてくる澪。

「それがよく分からないんだよね……」

 アオは今、莉子の膝の上にいた。
 莉子はというと、膝上のアオを夢中になって撫でている。
 そして、ゴロゴロと喉を鳴らしているアオである。

 両腕が少し寂しくはあったが、二人が仲良くしてくれるのは言葉にできないくらいに嬉しい。
 二人のこんな様子はずっと見ていられる気がする。

「莉子ちゃんにお兄ちゃんを取られたくなかったんじゃない? つまり、嫉妬してたとか?」

 反対に澪は二人を羨ましそうに見ている。
 羨ましいのは莉子だろうか、もしくはアオだろうか?
 または両方か?

「アオは嫉妬しないと思うんだよなぁ……」

 いつも気品と自信に満ちあふれているアオである。
 嫉妬という感情を持っているようには思えない。
 むしろ理性的によく考え、先を読んで行動している気が多い印象すら受ける。
 とすると、今回の行動にも何か理由があったんじゃないかと思ったりするわけだが……。

(ん? ……もしかして、――甘えているところを莉子に見せつけた?)

 そう思って二人を見ると、莉子の膝で寛いでいるアオと目が合った。
 そして、アオは一声鳴いた。

「にゃあ~」

 ――えっ!?
 それを聞いて僕は驚きを隠せなかった。
 アオは言っていたのだ。

「合格よ。良い子じゃない」

 と。



 雨宮家は、僕と澪の二人兄妹である。
 僕に兄や姉はいない。

 しかし、賢く、気高く、美麗な猫がいる。
 その猫は、姉のようにいつも僕を見守ってくれているのである。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

処理中です...