33 / 43
『アオの誘拐』
第二十八話 『陸はあなたに見捨てないと約束したのよ! 陸を嘘つきになんて、あたしがさせないわ!』
しおりを挟む
「ここね。この建物の中にアオはいるわ」
そう言った莉子が示す先には、大きな古びた倉庫があった。
「莉子ちゃん、凄い~!」
感心しきりの澪。
「えっと、……いつの間にアオに発信機を?」
僕の予想した通り、莉子はアオにプレゼントしたチョーカーへと発信機を仕込んでいたのだった。
飼い主である僕は全く知らなかったわけだが……。
「チョーカーをプレゼントして、すぐだったかしら。アオとの共同訓練で作戦を練っているときよ」
言うまでもないが、莉子とアオの訓練は一度だけでは終わらなかった。
何日も何度も行われていた。
そして、それは実技だけでなく、座学も存在した。
「本当は陸に何かあったときのために、アオが居場所を知らせるということになっていたのだけどね」
それが今回活きたというわけである。
莉子とアオの訓練も役立つ。
そういう理解と納得をして、良い…………のだろうか?
うーん……。
「お兄ちゃん、早くアオを助けに行こうよ」
思案し始めた僕を急かす澪。
「ええ、陸。アオを助けるまでは余計なことを考えるべきではないわ。ここは敵陣なのだから集中しましょう」
少し考えるべきことではあるとは思うが……。
まあ確かに、今すべきことではないな。
「そうだな。では、まずは犯人に見つからないようにしながら、アオの救出を最優先に考えよう」
莉子のおかげで犯人の裏をかくことはできたが、まだ油断はできない。
僕の言葉に二人がこくりと頷く。
そして、辺りに人影がないことを確認し、僕らは建物内へと入っていった。
建物内は物がほとんど無く、がらんとした空間が広がっていた。
薄暗く見通しが悪いが、人の気配は感じられない。
「陸、あっちの奥よ」
莉子の案内で奥へと進み、ついに僕らはアオを対面を果たした。
野生動物を捕獲するかのような頑丈そうな檻の中にアオはいた。
伏せた状態で眠っているように見えるが、爪はボロボロで出血もしているようだ。
よく見ると、檻のところどころに血痕が付いている。
檻の中から何とか外に出ようとしたのだろう……。
「……アオ」
僕は檻の中のアオへと小声で話し掛ける。
目を閉じ、伏せたままのアオは動かなかった。
「アオ!」
少し大きな声にしてみたが、それでも動かないアオに心臓の鼓動が早くなる。
(もしかして……)
最悪の想定が頭をよぎったとき、アオがゆっくりと目を開いた。
そして、目が合った。
「アオ、良かった……」
「――にゃ、にゃう!」
アオはこちらに気付くと、一瞬驚いた様子を見せた。
が、よろよろと立ち上がって、すぐにこちらを睨み始めた。
「やっぱり、怒ってるわね」
「莉子ちゃんの言う通りだったね~」
予想通りの反応に苦笑をもらす二人。
しかし、安心した様子でもあった。
「アオ、後でいっぱい怒ってくれて良いから……。すぐにここから出すよ。もう少し待ってて」
アオを安心させるように、僕は優しく言った。
「にゃう……」
諦めたかのように大人しくなるアオ。
「お兄ちゃん、扉には鍵がかかってるよ……」
澪は檻の扉を確認し、かかっている南京錠をガチャガチャと左右に揺らした。
当たり前と言えば当たり前だが、扉は鍵が無いと開きそうにない。
「この檻を壊すのも、ちょっと難しそうね……」
莉子は檻の周りを回って、強度をチェックしているようだ。
檻の柵は太い金属でできていて、格子状になっている。
特殊な工具でもない限り、破壊するのは難しそうである。
「…………」
鍵を探すにも、檻を破壊するにも、時間がかかりそうだ。
しかし、時間をかければ誘拐犯が戻ってくる可能性がある。
莉子にも澪にも危険が及ぶかもしれない……。
「……アオ、何をしてるの?」
どうするか悩んでいる僕を前に、アオが後肢で首をかき始めた。
そして、首に着けていたチョーカーを器用に外してしまった。
更に、そのチョーカーを口でくわえ、僕の足元に投げて寄こしたのだった。
こちらを真剣な眼差しで見つめるアオは、何も言わなかった。
何も言わずに、ただ僕らに態度で示したのだ。
『私を残して帰れ』と……。
「そんなこと――」
「勘違いするんじゃないわよーー!!」
僕の声を遮り、大きな怒りの声を上げたのは莉子だった。
両手には包丁を構えている。
莉子は、包丁を大きく振りかぶり、目の前の檻を力いっぱい斬りつけた。
ガキィィィン!という大きな音が鳴り響く。
「あたしはあなたを助けたいわけじゃないの! あなたが陸に必要だから助けるのよ!」
両手に持った包丁で、交互に檻を斬りつける莉子。
ガキィィィン、カキィィィンという音が切れ間なく響く。
「あたしの愛する陸の傍には――――! アオ! あなたが絶対に必要なのよ!」
包丁を振り回し続ける莉子を、アオはじっと見つめていた。
「あなたがいない陸は、あたしが好きになった陸じゃないのよ!」
手は止めずに莉子は叫び続けた。
「陸はあなたに『見捨てない』と約束したのよ! 陸を嘘つきになんて、あたしがさせないわ!」
斬りつけるのを止め、肩で息をする莉子。
そのまま、流れ出る涙を拭う。
……違う。
莉子は全てを吐露していない。
僕のためにアオを助けたいというのは嘘ではないかもしれない。
だが、それだけじゃない。
莉子本人もアオを見捨てられないのだ。
僕を危険な目には合わせたくはない。
でも、アオを助けたいと葛藤していたのだ。
(絶対に、絶対に、アオは助けなければならない。僕の約束のためだけではない。莉子のためにもだ)
僕は考えを巡らせた。
そう言った莉子が示す先には、大きな古びた倉庫があった。
「莉子ちゃん、凄い~!」
感心しきりの澪。
「えっと、……いつの間にアオに発信機を?」
僕の予想した通り、莉子はアオにプレゼントしたチョーカーへと発信機を仕込んでいたのだった。
飼い主である僕は全く知らなかったわけだが……。
「チョーカーをプレゼントして、すぐだったかしら。アオとの共同訓練で作戦を練っているときよ」
言うまでもないが、莉子とアオの訓練は一度だけでは終わらなかった。
何日も何度も行われていた。
そして、それは実技だけでなく、座学も存在した。
「本当は陸に何かあったときのために、アオが居場所を知らせるということになっていたのだけどね」
それが今回活きたというわけである。
莉子とアオの訓練も役立つ。
そういう理解と納得をして、良い…………のだろうか?
うーん……。
「お兄ちゃん、早くアオを助けに行こうよ」
思案し始めた僕を急かす澪。
「ええ、陸。アオを助けるまでは余計なことを考えるべきではないわ。ここは敵陣なのだから集中しましょう」
少し考えるべきことではあるとは思うが……。
まあ確かに、今すべきことではないな。
「そうだな。では、まずは犯人に見つからないようにしながら、アオの救出を最優先に考えよう」
莉子のおかげで犯人の裏をかくことはできたが、まだ油断はできない。
僕の言葉に二人がこくりと頷く。
そして、辺りに人影がないことを確認し、僕らは建物内へと入っていった。
建物内は物がほとんど無く、がらんとした空間が広がっていた。
薄暗く見通しが悪いが、人の気配は感じられない。
「陸、あっちの奥よ」
莉子の案内で奥へと進み、ついに僕らはアオを対面を果たした。
野生動物を捕獲するかのような頑丈そうな檻の中にアオはいた。
伏せた状態で眠っているように見えるが、爪はボロボロで出血もしているようだ。
よく見ると、檻のところどころに血痕が付いている。
檻の中から何とか外に出ようとしたのだろう……。
「……アオ」
僕は檻の中のアオへと小声で話し掛ける。
目を閉じ、伏せたままのアオは動かなかった。
「アオ!」
少し大きな声にしてみたが、それでも動かないアオに心臓の鼓動が早くなる。
(もしかして……)
最悪の想定が頭をよぎったとき、アオがゆっくりと目を開いた。
そして、目が合った。
「アオ、良かった……」
「――にゃ、にゃう!」
アオはこちらに気付くと、一瞬驚いた様子を見せた。
が、よろよろと立ち上がって、すぐにこちらを睨み始めた。
「やっぱり、怒ってるわね」
「莉子ちゃんの言う通りだったね~」
予想通りの反応に苦笑をもらす二人。
しかし、安心した様子でもあった。
「アオ、後でいっぱい怒ってくれて良いから……。すぐにここから出すよ。もう少し待ってて」
アオを安心させるように、僕は優しく言った。
「にゃう……」
諦めたかのように大人しくなるアオ。
「お兄ちゃん、扉には鍵がかかってるよ……」
澪は檻の扉を確認し、かかっている南京錠をガチャガチャと左右に揺らした。
当たり前と言えば当たり前だが、扉は鍵が無いと開きそうにない。
「この檻を壊すのも、ちょっと難しそうね……」
莉子は檻の周りを回って、強度をチェックしているようだ。
檻の柵は太い金属でできていて、格子状になっている。
特殊な工具でもない限り、破壊するのは難しそうである。
「…………」
鍵を探すにも、檻を破壊するにも、時間がかかりそうだ。
しかし、時間をかければ誘拐犯が戻ってくる可能性がある。
莉子にも澪にも危険が及ぶかもしれない……。
「……アオ、何をしてるの?」
どうするか悩んでいる僕を前に、アオが後肢で首をかき始めた。
そして、首に着けていたチョーカーを器用に外してしまった。
更に、そのチョーカーを口でくわえ、僕の足元に投げて寄こしたのだった。
こちらを真剣な眼差しで見つめるアオは、何も言わなかった。
何も言わずに、ただ僕らに態度で示したのだ。
『私を残して帰れ』と……。
「そんなこと――」
「勘違いするんじゃないわよーー!!」
僕の声を遮り、大きな怒りの声を上げたのは莉子だった。
両手には包丁を構えている。
莉子は、包丁を大きく振りかぶり、目の前の檻を力いっぱい斬りつけた。
ガキィィィン!という大きな音が鳴り響く。
「あたしはあなたを助けたいわけじゃないの! あなたが陸に必要だから助けるのよ!」
両手に持った包丁で、交互に檻を斬りつける莉子。
ガキィィィン、カキィィィンという音が切れ間なく響く。
「あたしの愛する陸の傍には――――! アオ! あなたが絶対に必要なのよ!」
包丁を振り回し続ける莉子を、アオはじっと見つめていた。
「あなたがいない陸は、あたしが好きになった陸じゃないのよ!」
手は止めずに莉子は叫び続けた。
「陸はあなたに『見捨てない』と約束したのよ! 陸を嘘つきになんて、あたしがさせないわ!」
斬りつけるのを止め、肩で息をする莉子。
そのまま、流れ出る涙を拭う。
……違う。
莉子は全てを吐露していない。
僕のためにアオを助けたいというのは嘘ではないかもしれない。
だが、それだけじゃない。
莉子本人もアオを見捨てられないのだ。
僕を危険な目には合わせたくはない。
でも、アオを助けたいと葛藤していたのだ。
(絶対に、絶対に、アオは助けなければならない。僕の約束のためだけではない。莉子のためにもだ)
僕は考えを巡らせた。
0
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております
紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。
二年後にはリリスと交代しなければならない。
そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。
普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる