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『アオの誘拐』
第二十九話 『莉子なら、手元が狂うことなんてないだろ?』
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(絶対に、絶対に、アオは助けなければならない。僕の約束のためだけではない。莉子のためにもだ)
僕は考えを巡らせた。
(どうすれば、アオを救い出せる?)
莉子がこれだけ斬りつけても檻が壊れそうな様子はない。
やはり錠を開けるしかない。
が、鍵はどこを探せば良いかすら……。
……いや、鍵が無くても、もしかしたら……。
あることを思い付いた僕は、檻に付いた南京錠の確認を始めた。
そして、南京錠を持ったままで僕は言った。
「莉子、ちょっと来て。……これ、何とかできないかな?」
「……もしかして、南京錠を……壊すつもり?」
莉子の問いに、僕は頷いた。
「ここが欠けているから、何とかできないかと思って」
南京錠の上部にあるツル部分が一部欠けていた。
この欠けた部分から錠を壊すことができるのではないかと、僕は思ったのだ。
「……そうね。これならば、何とかなるかもしれないわ」
錠の確認をした莉子が頷く。
「ただ、ここを正確に狙うには南京錠を固定しないといけないわ」
南京錠はぶら下がっているため、ゆらゆらと揺れている。
このままではツルの欠けたところを狙うことはできない。
「これなら、どうかな?」
僕は南京錠を両手でしっかり掴み、引っ張るように固定した。
これなら、多少の衝撃では動かないだろう。
「大丈夫だと思うけど……、もしあたしの手元が狂ったら……」
錠の欠けたところと僕の手とはほんの僅かしか離れていなかった。
確かに普通は、怪我をしかねない危険な距離だろう。
しかし――。
「莉子なら、手元が狂うことなんてないだろ?」
包丁を持った莉子へと僕は幾度となく飛び付いている。
それでも一度だって傷付けられたことはない。
もちろん、傷付かなかったのはたまたまではない。
莉子が傷付けないようにしているのである。
莉子が刃物の扱いをミスするわけがない。
僕は自信を持って、そう言うことができた。
「……そうね」
僕の返事に嬉しそうに応える莉子。
「あとは……」
「莉子ちゃん、私がこれで手元を照らすよ」
そう言った澪は懐中電灯で南京錠を照らし始めた。
澪自身もやるべきことを心得ていたのだ。
「二人とも、ありがとう。――じゃあ、やるわよ」
準備は整った。
僕たち三人は顔を見合わせ、大きく頷いた。
莉子は今回、一本の包丁を両手で握っていた。
「アオ。あなたはあたしたちが必ず助けるわ」
アオは無言のまま、綺麗なグリーンの瞳で僕らを見つめていた。
きっと分かっていたのだろう。
僕らが何を想い、何をしているのか。
しばし集中力を高めた莉子。
目を見開き、逆手に持った包丁振り下ろした。
キンっと先程より甲高い音が響いた。
すぐに莉子は再び包丁を振り上げ、振り下ろした。
キン、キンっという音とともに、何度も包丁を振り下ろす莉子。
莉子は南京錠の僅かに欠けている箇所狙い、何度も斬りつけているのである。
同じ箇所を斬り続け、少しずつ切れ込みが深くなっていく。
そして――。
「これで最後よ!」
キキンっという音とともに、南京錠のツルが切断された。
「アオ!!」
すぐさま南京錠を取り外し、扉を開けると同時に立ち尽くすアオを抱き締める。
「アオ! アオ!!」
柔らかく、温かな感触が腕の中にあった。
これまでずっと僕の傍にいてくれたアオの感触だった。
そんな僕の指先を控えめに舐めるアオ。
『心配かけたわね……』
ざらざらとしたアオの舌からは、そんな思いが伝わってきた。
「ありがとう。莉子のおかげだよ」
檻から出た僕は、アオを温かく見つめる莉子へと微笑みかけた。
「あたしはあたしのために行動しただけよ」
恥ずかしそうに顔を背ける莉子。
アオに言ったことといい、本当に素直じゃないのだから。
「……ん?」
そこで僕は莉子の持っている包丁に目を止めた。
というより、目が止まったのだ。
莉子がいつも愛用している包丁の刃先が、大きく欠けていたから……。
「ああ、これ?」
そう言った莉子は持っていた包丁を持ち上げた。
「さっきので少し欠けてしまったのよ。陸のせいではないわ。あたしが無茶な使い方をしたせいよ」
平気な顔をしてみせる莉子。
「それにアオを助け出せたのだから、全く問題ないわ」
「…………そんな、、、そんなわけないだろう……」
その包丁が決して軽いものではないことを僕は知っている。
莉子が父親に作成してもらい、今までずっと一緒に過ごしてきた包丁である。
いつも莉子が大切に手入れをしていた。
何度も僕らを助けてくれた包丁だ。
「本当に大丈夫よ、陸。そんなことより――」
僕との話を切り上げた莉子は包丁を持っているのとは反対の手を持ち上げた。
その手には、青い宝石の付いたチョーカーが握られていた。
アオのチョーカーである。
「アオ、返しておくわね。今度は大事にしなさいよ」
そう言った莉子は、アオの首へとチョーカーを巻き付けていった。
その姿は誕生日のとき以上の、愛おしさと優しさにあふれていた。
「にゃう……」
成すがまま、また言われるがままのアオは、申し訳なさそうにしている。
「やっぱりアオにはよく似合うわね」
アオのグリーンの瞳とブルーの宝石、二つが光り輝いて見える。
それを見て、莉子はニッコリと笑顔を見せていた。
「お兄ちゃん、なんか嬉しそうね?」
それまで黙って見ていた澪が横から茶々を入れてくる。
「まあね」
笑顔の澪と同様、どうやら僕自身も笑顔になっていたらしい。
まあ……、仕方ない。
莉子が僕の傍にいてくれる。
それがたまらなく嬉しいことであると、再度思ってしまったのだから。
「じゃあ、帰ろうか」
「――――まだお帰りには早いぜ!!」
僕の呼び掛けに答えたのは、莉子でも澪でもなかった。
聞き覚えの無い男の声だった。
僕は考えを巡らせた。
(どうすれば、アオを救い出せる?)
莉子がこれだけ斬りつけても檻が壊れそうな様子はない。
やはり錠を開けるしかない。
が、鍵はどこを探せば良いかすら……。
……いや、鍵が無くても、もしかしたら……。
あることを思い付いた僕は、檻に付いた南京錠の確認を始めた。
そして、南京錠を持ったままで僕は言った。
「莉子、ちょっと来て。……これ、何とかできないかな?」
「……もしかして、南京錠を……壊すつもり?」
莉子の問いに、僕は頷いた。
「ここが欠けているから、何とかできないかと思って」
南京錠の上部にあるツル部分が一部欠けていた。
この欠けた部分から錠を壊すことができるのではないかと、僕は思ったのだ。
「……そうね。これならば、何とかなるかもしれないわ」
錠の確認をした莉子が頷く。
「ただ、ここを正確に狙うには南京錠を固定しないといけないわ」
南京錠はぶら下がっているため、ゆらゆらと揺れている。
このままではツルの欠けたところを狙うことはできない。
「これなら、どうかな?」
僕は南京錠を両手でしっかり掴み、引っ張るように固定した。
これなら、多少の衝撃では動かないだろう。
「大丈夫だと思うけど……、もしあたしの手元が狂ったら……」
錠の欠けたところと僕の手とはほんの僅かしか離れていなかった。
確かに普通は、怪我をしかねない危険な距離だろう。
しかし――。
「莉子なら、手元が狂うことなんてないだろ?」
包丁を持った莉子へと僕は幾度となく飛び付いている。
それでも一度だって傷付けられたことはない。
もちろん、傷付かなかったのはたまたまではない。
莉子が傷付けないようにしているのである。
莉子が刃物の扱いをミスするわけがない。
僕は自信を持って、そう言うことができた。
「……そうね」
僕の返事に嬉しそうに応える莉子。
「あとは……」
「莉子ちゃん、私がこれで手元を照らすよ」
そう言った澪は懐中電灯で南京錠を照らし始めた。
澪自身もやるべきことを心得ていたのだ。
「二人とも、ありがとう。――じゃあ、やるわよ」
準備は整った。
僕たち三人は顔を見合わせ、大きく頷いた。
莉子は今回、一本の包丁を両手で握っていた。
「アオ。あなたはあたしたちが必ず助けるわ」
アオは無言のまま、綺麗なグリーンの瞳で僕らを見つめていた。
きっと分かっていたのだろう。
僕らが何を想い、何をしているのか。
しばし集中力を高めた莉子。
目を見開き、逆手に持った包丁振り下ろした。
キンっと先程より甲高い音が響いた。
すぐに莉子は再び包丁を振り上げ、振り下ろした。
キン、キンっという音とともに、何度も包丁を振り下ろす莉子。
莉子は南京錠の僅かに欠けている箇所狙い、何度も斬りつけているのである。
同じ箇所を斬り続け、少しずつ切れ込みが深くなっていく。
そして――。
「これで最後よ!」
キキンっという音とともに、南京錠のツルが切断された。
「アオ!!」
すぐさま南京錠を取り外し、扉を開けると同時に立ち尽くすアオを抱き締める。
「アオ! アオ!!」
柔らかく、温かな感触が腕の中にあった。
これまでずっと僕の傍にいてくれたアオの感触だった。
そんな僕の指先を控えめに舐めるアオ。
『心配かけたわね……』
ざらざらとしたアオの舌からは、そんな思いが伝わってきた。
「ありがとう。莉子のおかげだよ」
檻から出た僕は、アオを温かく見つめる莉子へと微笑みかけた。
「あたしはあたしのために行動しただけよ」
恥ずかしそうに顔を背ける莉子。
アオに言ったことといい、本当に素直じゃないのだから。
「……ん?」
そこで僕は莉子の持っている包丁に目を止めた。
というより、目が止まったのだ。
莉子がいつも愛用している包丁の刃先が、大きく欠けていたから……。
「ああ、これ?」
そう言った莉子は持っていた包丁を持ち上げた。
「さっきので少し欠けてしまったのよ。陸のせいではないわ。あたしが無茶な使い方をしたせいよ」
平気な顔をしてみせる莉子。
「それにアオを助け出せたのだから、全く問題ないわ」
「…………そんな、、、そんなわけないだろう……」
その包丁が決して軽いものではないことを僕は知っている。
莉子が父親に作成してもらい、今までずっと一緒に過ごしてきた包丁である。
いつも莉子が大切に手入れをしていた。
何度も僕らを助けてくれた包丁だ。
「本当に大丈夫よ、陸。そんなことより――」
僕との話を切り上げた莉子は包丁を持っているのとは反対の手を持ち上げた。
その手には、青い宝石の付いたチョーカーが握られていた。
アオのチョーカーである。
「アオ、返しておくわね。今度は大事にしなさいよ」
そう言った莉子は、アオの首へとチョーカーを巻き付けていった。
その姿は誕生日のとき以上の、愛おしさと優しさにあふれていた。
「にゃう……」
成すがまま、また言われるがままのアオは、申し訳なさそうにしている。
「やっぱりアオにはよく似合うわね」
アオのグリーンの瞳とブルーの宝石、二つが光り輝いて見える。
それを見て、莉子はニッコリと笑顔を見せていた。
「お兄ちゃん、なんか嬉しそうね?」
それまで黙って見ていた澪が横から茶々を入れてくる。
「まあね」
笑顔の澪と同様、どうやら僕自身も笑顔になっていたらしい。
まあ……、仕方ない。
莉子が僕の傍にいてくれる。
それがたまらなく嬉しいことであると、再度思ってしまったのだから。
「じゃあ、帰ろうか」
「――――まだお帰りには早いぜ!!」
僕の呼び掛けに答えたのは、莉子でも澪でもなかった。
聞き覚えの無い男の声だった。
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