【完結】僕はヤンデレ彼女を愛してやまない。

小鳥鳥子

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『アオの誘拐』

第三十話  『あたしが全員を駆除すれば良いということよね?』

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「じゃあ、帰ろうか」
「――――まだお帰りには早いぜ!!」

 僕の呼び掛けに答えたのは、莉子でも澪でもなかった。
 聞き覚えの無い男の声だった。
 振りむいて男を確認をする前に、周りがパッと明るくなる。

「くっ……」

 眩しさに目がくらむ。
 ……目が慣れてくると、光の中に一人の男がいるのが分かった。
 三十代くらいと思われる金髪の男である。

(なんだ、こいつは? それに、どこかで……)

 男を確認していると、男の後ろに見える倉庫の出入り口から、続々と人が入り込んでいた。
 柄の悪そうな男ばかりである。
 あまり良い雰囲気ではない。

(こいつらは、知ってる……)

 スイーツ屋で僕と莉子に絡んできた奴がいる。
 澪に股間を蹴られた奴もいる。
 お化け屋敷で会ったフランケンシュタインも。
 その他にも会ったことのある奴らが何名もいるようだった。

 前に立つ金髪がダルそうに髪をかきあげる。
 そして、こちらを睨み付けながら話し始めた。

「お前ら何でここにいるんだよ? 折角あっちで色々用意していたのに、台無しじゃねーかよ」

 あっちで色々用意していた?
 ――ということは。

「お前がアオの誘拐犯か!? お前は……、お前らは何者だ!?」

 語気を強め、僕は金髪を睨み返した。

「そうだな、初めましてか? 俺は『大いなる祝福』の教祖、ヒカル様だ。で、後ろの連中が俺の信者というわけだ」

 アオを誘拐されたという怒りのせいだけではないだろう。
 偉そうな態度と口調が、異常に鼻につく奴である。

 しかし――、大いなる祝福?
 どこかで聞いたような……。

(――そうか、アレか!?)

 確かうちに来た宗教勧誘がそんなことを言っていた。
 パンフレットか何かで、恐らくこの金髪の顔を僕は見ている。

「――で、そのヒカル様が何の用だ?」

 パンフレットでしか見たことのない奴に、アオを人質として呼び出される覚えなんて全くない。

「何の用だと? お前らがあまりに邪魔をしてくるから、おきゅうをすえてやろうと思ったんだろうが!」

 よく分からないことを、キレ気味に言うヒカル様。

「……邪魔?」

 僕らが何かしただろうか?
 むしろ僕には、ヒカル様の後ろの連中が人に迷惑をかけていただけのように思えるが?

「良いだろう! 説明してやろう! 俺の教義はな、混とn……」
「――陸? もう良いかしら?」

 ヒカル様の説明をまさにぶった切ってきたのは、心底つまらなそうな顔をしている莉子だった。

「……えっ、と…………そう、だね……」

 僕としては、今、割と重要な犯人の説明シーンだと思ったのだけども。
 どうやら莉子的には、説明を聞く価値はこれっぽっちも無いらしい。

 ――まさか説明をさせてもらえないとは思っていなかったのだろう。
 莉子にぶった切られたヒカル様は口をパクパクさせている。

「そいつの話に全く興味は無いのだけど……。とりあえず、こいつらは全て陸の敵で――」

 ヒカル様一行を、じろりと睨みつける莉子。

「――アオをさらった奴らということでしょう?」
「まあ、そう……だね」

 僕は頷いた。
 それは考えるまでもなく、確定事項だ。

「じゃあ、やるべきことは単純ね。あたしが全員を駆除すれば良いということよね?」

 両手に包丁を構え直し、強烈な殺気を放ち始める莉子。

「はっ! お前は、この人数を相t……」
「一匹が百匹に増えてしまったのはまあ、仕方がないわ」

 ヒカル様の言葉をまるっきり聞くつもりのない莉子。

「でも…………こんなに一気に駆除できるだなんて、とても素敵なことね」

 莉子は微笑を浮かべていた。
 この人数相手にも、全く怯む様子はない。
 むしろ、本気で喜んでいるようだ。

 相手が一匹だろうが百匹だろうがそれ以上だろうが、当然莉子のやることは変わらないのだろう。
 両手の包丁で害虫駆除を行うだけである。
 そんな莉子の様子に、ヒカル様の取り巻きがざわつき始めた。

「この人数なら大丈夫と聞いたから俺は――!?」
「話が違うぞ!?」
「包丁怖い……包丁怖い……」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」

 どうやら莉子に対してのトラウマが呼び覚まされたようである。

「では、死にたい奴からかかってきなさい」

 殺気を放ちつつ、莉子は包丁を男たちへと向ける。
 しかし、男たちは動かない。
 ……動けない。

「……来ないの?」

 笑顔のままで首を傾げる莉子。

「なら、仕方ないわね。――端から順に刻んでいきましょう」
「ヒィィィーーー!!!」

 その瞬間、悲鳴をあげつつ、端から順に逃げ出す取り巻き連中。
 我先にと出口へ向かう。
 それを追おうと一歩踏み出した莉子は、ちらりとこちらを見て……。
 ――その動きを止めた。

「お前ら、ちょっと待て! ガキ相手に何をそんなに!」

 ヒカル様が必死に混乱をしずめようとしているが、パニックは治まらない。
 全ての取り巻きが倉庫外へと脱出し、一人ポツンと取り残されることとなった。
 呆然と立ち尽くすヒカル様。

「ま、待て!! 話せば分かる!!」

 焦った様子で莉子へと声を掛ける。
 しかし、僕はその様子に違和感を感じた。
 奴からは何故か必死さが感じられなかったのだ。
 莉子に睨まれた奴なら、通常もっとこう……。

 ヒカル様は左手で莉子を制止しながら、右手で自身の胸を抑えている。
 そして、右手が上着の内へと差し込まれ……。

「……なんて、な」

 不敵な笑みを浮かべ始めた。

「莉子! 危ないっ!!」

 声を上げながら莉子に駆け寄ろうとしたが、――遅かった。
 パンッっと軽い音が聞こえ、莉子は地面にうずくまった。

 ……ヒカル様の右手には拳銃が握られていた。
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