上 下
4 / 9
【第一章】聖女

1. 洞窟での目覚め

しおりを挟む
――ぽたっ。
頬に当たる水滴の刺激が私を現実世界へと引き戻してくれる。
何か夢を見ていたような気がするけれど、まるで覚えていない。
目を開けると、黒っぽい岩壁が見えた。
四肢の感覚が徐々に戻ってくると、自分がどこか固い場所に寝かされていることに気が付く。

(ここは、どこ?)

身体をゆっくりと起こして見れば、周りをぐるりと岩壁に囲まれている。
どうやら私は、岩でできた平らな台の上に寝かされていたようだ。

(私……どうしてこんな所に……?
 ってか、ここは、どこ??)

出口を探して周囲を見回すと、一箇所だけ岩壁をくり抜いて出来た穴があった。
近付いて見てみると、人が一人通れるほどの通路がずっと奥まで続いている。

(この通路……一体どこへ続いてるんだろう)

穴の中は真っ暗で、先が見えない。
少し怖いけど、このままここに居ても、他に出口はなさそうだ。
私は、思い切って、通路の中へと足を踏み入れた。
すると不思議なことに、真っ暗だった筈の通路がほんのり明るく照らされて見えた。
まるで私が通ると、自動で明かりが点く仕掛けのようだ。

(……ううん、違う。私が光ってる……?)

私は、自分の身体がほのかに光っていることに気付き、自分の両手を見つめた。
光は、私の身体の中から放たれているようだ。

(なに……これ……気味が悪い……)

思わず自分の身体を抱き締めた。
ぶるりと寒気すらする。
そう言えば、気を失う前に、誰かと会っていたような気がして、私は、記憶を探った。
そして、私の脳裏に黒いローブを着た男の姿が浮かぶ。

(……あっ、あの男!
 あの男が私の身体に何かしたのかしら?)

あの黒いローブの男が現れてから、私は気を失った……そこまでは思い出すことが出来た。
でも、大学の敷地にいたはずなのに、どうしてこんな洞窟なような場所に居るのか、何故、私の身体が光っているのか……何も分からない。

(まさか……誘拐されたの? あの男に?)

そうだとしたら、ここは、あの男のアジトか何かだろうか。
この通路の先には、あの男が待ち構えているのかもしれない。
思わず後戻りを仕掛けたが、先程目覚めた場所へ戻っても、他に道がなかったことを思い出す。

――とにかく今は、ここを出て、あの男に会わなければいけない。

何故かそんな気持ちになり、私は、歩を進めた。
しばらく通路を歩いて行くと、前方に明かりが見えて来た。
出口だろうか。
嬉しくなって、光を目指して走り出す。
そして、光の中に出た途端、私は、眩しさに目を瞑った。
心地よい風が肌を撫ぜる。
洞窟の外に出たのだ。
私は、期待感を胸にそっと目を開けて見た。

「うそ…………どこよ……ここ………………」

目の前の光景に愕然とする。
そこは、私が見たことのない異世界が広がっていた。

しおりを挟む

処理中です...