6 / 9
【第一章】聖女
3. 門兵
しおりを挟む
「ちょ、ちょっと待ってください。
私には、何がなんだか……とにかく顔を上げてください」
私の言葉に、男がゆっくりと顔を上げる。
何かの冗談かと思ったが、男の目は真剣で、涙が頬を流れている。
嘘を言っているようには見えなかった。
「……ずっとお待ちしておりました。
この日が来るのを……毎日毎日……雨の日も嵐の日も……欠かさずこの聖なる道を通い続けた苦労が今、やっと実ったのです……!
ああ……聖女様……これで私達は救われる……!」
男が何のことを話しているのか私にはさっぱり分からなかったが、これだけは分かる。
男は、何か勘違いをしている。
否定しなければ、と思い口を開くが、男が涙を流しながら手を合わせ、天に向かって喜ぶ姿を見て、言葉を失う。
誤解だったと知ったら、この男は、一体どれほど落胆し、己を責めるだろう。
それに、この男は先程、ここを〝禁域〟だと言っていた。
どうやらここは、一般の人が出入りしてはいけない場所のようだ。
もし、誤解だと知られたら、不可抗力とは言え、ここへ入った私は、罰せられることになりはしないだろうか。
「とにかく、このことを一刻も早く上に報告しなくては……聖女様。
お手間をお掛けして申し訳ありませんが、私とご同行頂けないでしょうか」
男の期待と羨望に満ちた瞳が真っ直ぐ私を見上げる。
私は、頷くしかなかった。
男の後に付いて長い石段を降りて行くと、木造の大きな門が見えてきた。
上から見た時には、小さな木戸にしか見えなかったが、近付いて見ると、見上げる程に大きい立派な門だ。
両開きの門で、よく見ると何かの意匠が彫られているが、何の模様かは分からなかった。
男が門を叩き、開けろ、と門の向こう側に向かって叫んだ。
すると、程なくして門が向こう側から開かれ、そこに武装した二人の男が立っていた。
まるで映画やゲームで見た事のある西洋の騎士のような格好をしている。
「……早いな。何かあったのか」
聞かれた男が一呼吸間を置き、厳かな口調で答えた。
「聖女様がお戻りになられました」
最初、眉をしかめて見せた二人の騎士は、後ろに控えている私を見つけると、信じられないものを見たような顔で口を開けた。
「まさか……」
「そんな…………本物なのか?」
二人の視線が痛くて、私は、反射的に顔を俯け、身を固くした。
「……とにかく、急ぎ騎士団長様へお知らせ願います。
私は、聖女様を官邸へとお連れしますので、馬車をお借り出来ますか」
それから用意された馬車に乗るまでの間、私は、一言も言葉を発することが出来なかった。
私には、何がなんだか……とにかく顔を上げてください」
私の言葉に、男がゆっくりと顔を上げる。
何かの冗談かと思ったが、男の目は真剣で、涙が頬を流れている。
嘘を言っているようには見えなかった。
「……ずっとお待ちしておりました。
この日が来るのを……毎日毎日……雨の日も嵐の日も……欠かさずこの聖なる道を通い続けた苦労が今、やっと実ったのです……!
ああ……聖女様……これで私達は救われる……!」
男が何のことを話しているのか私にはさっぱり分からなかったが、これだけは分かる。
男は、何か勘違いをしている。
否定しなければ、と思い口を開くが、男が涙を流しながら手を合わせ、天に向かって喜ぶ姿を見て、言葉を失う。
誤解だったと知ったら、この男は、一体どれほど落胆し、己を責めるだろう。
それに、この男は先程、ここを〝禁域〟だと言っていた。
どうやらここは、一般の人が出入りしてはいけない場所のようだ。
もし、誤解だと知られたら、不可抗力とは言え、ここへ入った私は、罰せられることになりはしないだろうか。
「とにかく、このことを一刻も早く上に報告しなくては……聖女様。
お手間をお掛けして申し訳ありませんが、私とご同行頂けないでしょうか」
男の期待と羨望に満ちた瞳が真っ直ぐ私を見上げる。
私は、頷くしかなかった。
男の後に付いて長い石段を降りて行くと、木造の大きな門が見えてきた。
上から見た時には、小さな木戸にしか見えなかったが、近付いて見ると、見上げる程に大きい立派な門だ。
両開きの門で、よく見ると何かの意匠が彫られているが、何の模様かは分からなかった。
男が門を叩き、開けろ、と門の向こう側に向かって叫んだ。
すると、程なくして門が向こう側から開かれ、そこに武装した二人の男が立っていた。
まるで映画やゲームで見た事のある西洋の騎士のような格好をしている。
「……早いな。何かあったのか」
聞かれた男が一呼吸間を置き、厳かな口調で答えた。
「聖女様がお戻りになられました」
最初、眉をしかめて見せた二人の騎士は、後ろに控えている私を見つけると、信じられないものを見たような顔で口を開けた。
「まさか……」
「そんな…………本物なのか?」
二人の視線が痛くて、私は、反射的に顔を俯け、身を固くした。
「……とにかく、急ぎ騎士団長様へお知らせ願います。
私は、聖女様を官邸へとお連れしますので、馬車をお借り出来ますか」
それから用意された馬車に乗るまでの間、私は、一言も言葉を発することが出来なかった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
5
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる