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1章
ノヴァ様は納得できない
しおりを挟む話し合いの場にと提供された部屋は、テレビの中でしか見たことがないお城の豪華な応接室。
豪華な装飾に、高そうな家具の数々。
私をソファへ座るように促してくれる騎士様達は煌びやかな軍服を着こなして、イケメンに更に拍車がかかっている。
一方で私は、オフショルダーのシフォンブラウスにデニム生地のショートパンツという夏の暑さを凌ぐ為の薄着。
うん、場違い感が凄いね。
私が5人がけくらいの大きいソファに1人で腰掛け、騎士様は相向かいのソファに3人で腰掛けた所で、やはり短髪ブロンドの騎士様が一番最初に口を開いた。
「先程は王が申し訳御座いませんでした。まさか我々も本当に王が異世界から閨係を転移させるとは思っておりませんでしたので、未然に防ぐ事ができませんでした」
「お気になさらないでください。向こうで家族はいなかったので、帰れないのであればそれでも大丈夫です。改めて自己紹介をさせてください。私は椎名たまき。この通り特にこれといって目立つ容姿でもありませんが、皆様の閨係として転移しました」
「申し遅れました。私はサイガ帝国騎士団長、ノヴァ=クレイドルと申します」
「俺はステファン=カレイドだ。空中騎士団の団長をやっている。よろしくな」
「僕はルカ=ブランシェスです。魔道士団長を未熟ながら拝命しています」
短髪ブロンドで瞳の色が碧色なのが、ノヴァ様。
深紅の長い髪を高い位置で結び、瞳の色がレンガ色なのがステファン様。
ライトグレーの髪で、瞳の色がオッドアイなのがルカ様。
予想はしてたけど、皆さん団長様だ。
この人達の閨係を務めてるなんて話が広まったら、どこかのご令嬢に刺される気がする、ほぼ確実に。
「ところで、たまき様」
「なんでしょう?」
ノヴァ様が少し赤面しつつ、視線がチラチラと顔から下へと移ろいながら、気まずそうに尋ねてきた。
他の2人もノヴァ様と大体同じ反応をしている。
「……そのお召し物は、たまき様がいらした世界では普通なのでしょうか?」
そこで気付く。
今の私の服装、思いっきり痴女では?
この世界ではどうか分からないけれど、中世では肌見せは禁忌とされていて、花街で働く花売りだけが男性を誘う欲情的な服を着ていたって聞いた事がある……。
この反応を見るからに、この世界も割とそんな価値観な気がしてきた。
さて、ここで私の服装を思い出してみよう!
上︰オフショルダーシフォンブラウス(透け素材)
下︰デニム生地ショートパンツ
靴︰レースアップサマーブーツ
下着︰オフショル用に見せブラ
はい!アウトー!!!!!
これは超アウト!!!!!一発退場レベル!!!!!
肌見せどころか下着まで見せちゃってるからね!!!!!見せブラだから用途は間違ってないけど!!!!!!
事前に転移するって分かってたら服装もう少し考えたんだけどな~!!今日暑かったんだもん、そりゃオフショル着ちゃうって。ショートパンツも履いちゃうって。
「そうですね。こういった服装を好まない方もいますが、私のいた世界では酷暑だったので暑さを極力抑えるために、私はこのような服装ですね。すみません、きっとご不快ですよね」
「いえ!そんな事は……。世界が違うのですから、装いの文化も違うのは理解しています。この世界では肌見せは花売りくらいですので、耐性がなく、どこを見ればいいのか戸惑っております」
そう言って俯くノヴァ様。
そうだよね、急にこんな服装見たらそうなっちゃうよね。
「顔でも鎖骨でも胸でもお好きな所を」
「そんな……!貴女は女性だ。そんな事を言うべきではありません!」
「今後、共に閨に入るかもしれないのですよ。それに私は皆様の閨係。この体は皆様のものです」
「俺はその胸が好みだな。豊満で柔らかそうだ」
「ステファン団長!」
「僕はその太腿が好きです……」
「ルカ!お前まで!!」
ふむふむ。
ステファン様は胸。ルカ様は太腿。
閨に入る時は、それぞれの好みが強調された服装にしよう。
「私の家系は特殊でして。幼い頃から夜伽の練習をさせられるのです。定期的に男性の悦ぶ事を練習し、破瓜をしていないか確認されるそんな家でした。私はそんな家が嫌で、家を飛び出し現在に至ります。破瓜はしていませんので実際に男性と夜を共にしたことはないですけど、私の胸や太腿は男性に悦んでもらう装飾品だと認識していますので、そんなお顔をしないでください」
私の発言に場が凍る。
そんなに気にしないでいいよって伝えたかっただけなのに、ますます気にされてる感じがする。
これにはステファン様もルカ様も、私を複雑そうに見つめる。
「……貴女はそれが嫌で家を出たのに、ここでもそのような役割を担って嫌ではないのですか?」
「お話を伺った時、そういう運命なんだなと思いました。でも、私は恋をしてみたいんです。胸が焦がれて、この人にならこの身を捧げてもいいという程の恋を。ですから、お互いを知って同意をした上でと条件をつけたんです。この世界でならそんな恋も出来るかもしれないという下心ですね」
家では体だけの関係をたくさん見てきた。
私もそうなるんだろうなと理解はしていたけど、どうしても恋がしてみたかった。
それで家を出て、大学に通って、恋をしようと頑張ってみたけど中々難しかった。言い寄ってくる人はいたけど、私の体だけで心までは見てくれないのが分かったから。
「ノヴァ様が嫌なら、ノヴァ様の閨係はしません。ですが、死と隣り合わせの空間で疲れた皆さんを労いたい王様の気持ちを汲んで、お話係くらいはさせてもらえると嬉しいです」
「……」
「たまき……と呼んでもいいか?」
「はい、ステファン様」
「この後と明日は空いてるか?お前を知る為に俺を知ってもらう為に一緒に過ごさないか?城内も案内する」
「はい、よろしくお願いします」
「じゃあ、僕とは明後日と明明後日」
「はい、ルカ様」
「……」
何も言わないノヴァ様とは対照的に、ステファン様とルカ様のお誘いで一緒に過ごす日程が決まった。
あ、洋服はこれでいいのかな?
いや、ダメだよね。後でどうすればいいか聞いてみよう。
「ノヴァ様」
「……」
「ノヴァ様!」
「ああ、申し訳ない。考え事をしていた」
「私は今日と明日はステファン様、明後日と明明後日はルカ様と一緒に過ごすことになりました。もし、ノヴァ様が話し相手を欲している時は4日後以降にお呼びください」
いつの間にか決まっていたその予定に、ノヴァ様が驚いた顔でステファン様とルカ様を見つめる。信じられないと顔に書いてあるのがよく分かった。
「ノヴァを基準にしてたら話が進まねぇ。別に同意が双方でなければ閨には入らない。まずは互いを知ろうって提案をされただけだろ」
「ノヴァ団長は品行方正ですから。それよりも、たまき。これを」
ルカ様から渡されたのは、ビー玉のようにキラキラ光った玉。
「それは魔法珠。それに願えば危険な事以外は魔法で助けてくれる。きっと着慣れた向こうの服とか必需品があるだろうから、それに願うといいよ」
「世界線が違ってもできるんですか!?」
「ルカは数千年に1度しか産まれないオッドアイの持ち主だからな。これくらいは朝飯前なんだよ」
「ありがとうございます、ルカ様。大切にしますね」
無くさないようにルカ様が魔法珠をネックレスにして、首にかけてくれた。
キラキラして綺麗。こんな小さいのにそんな凄い事が出来るなんてさすが異世界。
未だにノヴァ様は何かを考え込んでいるようで、私が魔法珠を渡された事も気付いていない様子。
とりあえず、通信魔法で現状報告をルカ様が王様にしてくれている。
「たまきには僕達が使う団長寮の一室を使っていいって。既に部屋の準備も整ってるらしいし、行っておいで」
「よし、行くぞ。たまき」
「あのノヴァ様は……」
「ノヴァ団長は僕が責任をもって隊に戻すから安心していいよ」
そう言って、私にいってらっしゃいと手を振るルカ様に見送られながら、まずは私の部屋に向かうのだった。
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