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本編
真心の密室2
しおりを挟む(なんであんなこと……!)
自分の口を押さえながらジルクは部屋の隅で、自分を守るように小さくなっていた。
確かに先程口から漏れた事を思っていなかったと言ったら嘘になる。
だからといって、種族の違いによる寿命のことをミーグに言ったってどうしようもないし、困らせるだけだと分かっていたから今まで言わなかったのに。
少しでも声を出せばまた何かが出てしまう様な気がして、ジルクはキツくくちびるを噛んだ。
……だが、それがいけなかった。
白い霧がいつの間にか濃くなって、部屋を探索していたミーグの姿が見えなくなる。
「……師匠?」
そして次の瞬間、石造りだった部屋の景色も変わっていた。
『このままだと私たちはあのバケモノに殺されてしまうわ!!!』
『だが、あれはおまえが産んだのだろう?』
『私のせいだって言いたいの?!半分は貴方の血よ!!』
「……え?」
ドレスで着飾ったジルクによく似た女性と、妙齢の男性が言い争っている。
『魔力暴走だなんて恐ろしい!!どうしてこんなことに!!』
そして目の前には昔の自分。
今よりずっと幼くて、細くて。
『お母様……』
何より不安そうだ。
『近寄らないで!!バケモノ!!あんたなんか産むんじゃなかったわ!!』
女性はその後も小さなジルクを罵り続ける。
男性は興味がないのだろう、見て見ぬふりだ。
そのうち女性は乗馬鞭を取り出して、ジルクを激しく打つ。
『いたい!!いたいよぉ!お母様やめてっ!やめてっ!!』
『うるさいうるさいうるさい!!あんたさえ産まれなければこの侯爵家は平和で過ごせたのよ!!!このバケモノ!!』
ジルクは幼い頃、魔力を暴走させてしまい、屋敷は半壊、幸い死者はいなかったものの使用人の中には重症を負うものも出た。
ジルクの生家の侯爵家では屋敷の立て直しと使用人への慰謝料で大量の金を払った。
侯爵家の財力からすれば大した額ではなかったのでは、と今なら思えるがそれでも装飾品やドレスなどに派手に金を使う母親からすれば気に食わなかったのだろう。
ジルクは魔力暴走を起こしてしまった日から暗い部屋に閉じ込められ死なない程度の粗末な食事を与えられ、苛立った母親に鞭で打たれる日々を過ごしていた。
「はっ、はぁっ……やめて……やめて……っ」
目の前の事は幻だ。
もう過去の記憶で、過ぎ去ったことだ。
それは分かっているはずなのに、ジルクの息は浅く荒くなり、身体は震え出す。
「ごめんなさい、ごめんなさいっ……」
必死に耳を塞いでも、声と鞭の音がどんどん頭の中に響いてくる。
「誰か……だれか、たすけて……」
「……ジルク」
その一声は真っ直ぐと耳に届いた。
震えるジルクの腕を誰かがそっと優しく掴む。
「ジルク」
「ごめんなさい……ごめんなさいっ!」
「どうした、何も謝ることなどない。我は怒ってはおらんぞ?」
苦笑混じりのその声に恐る恐る顔を上げると、ミーグがいた。
「……ししょう」
「あぁ、我だジルク。我はここにおるぞ」
そっと優しく抱きしめられ、その声と温もりに強ばっていた身体と心が少しずつ解かれていく。
(そうだ、あの頃だって師匠はこうして……)
ジルクは安心して身体の力を抜いた。
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