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若旦那
しおりを挟む267 若旦那
「ここで会えて良かったよー。ちょうど今ケイくんたちを探すか宿に戻って待つか迷ってたとこなんだー。市場の中は見た?市場はだいたい午前中までだから人がいなくて驚いたんじゃない?」
3男の案内で市場の中に入る。何だか入りづらそうな雰囲気だったからさっきは素通りしてしまった。
「あー、もう後片付け始めちゃってるねー。魚屋は今日は終わりだね。加工品を扱う店ならまだやってるかもー」
路地を曲がって突き当たりまで行くとまだ営業している店があった。
「こんにちはー。少し売ってるものを見させてもらってもいいかな?こっちに着いたのがお昼だったから仕入れは明日来ようと思っているんだけど、何があるのか少し知っておきたくてさー」
「別に構わないけど、もう目ぼしいものは売れてしまったよ。あるのは干物と海苔くらいかな。欲しいものがあれば数にもよるけど明日取り置きしても良いよ。タラコはけっこう人気があるからね。いい時期はもう少し後なんだが最近少しずつ良いのが入るようになってきたんだ」
「タラコが売ってるんですか?領都の魚屋のジェイクさんにお土産でもらったんです。とても美味しかった」
「ジェイク?先週来ていろいろ仕入れて行ったよ。最近店に来るようになった料理人の兄ちゃんに上等なヤツをってタラコも買って行ったけど、もしかしてお兄さんがジェイクの言ってた子かい?ジェイクが仕入れた鯛ですごく美味い料理を作ったって」
「あのタラコすごく美味しかったです。あっという間になくなっちゃった」
「いいヤツ選んでやったからね。気に入ってくれたんなら良かったよ。いろいろ見て行ってくれって言いたいけど日持ちがするものが少ないからね。どうしてもその日の午前中に売り切らないと悪くなってしまうんだ。この時間は売り物があまり無いんだよ」
おじさんに店で扱ってるものを簡単に教えてもらう。
タラコの他にはイクラやウニもあって食べると美味しいのだけれど、悪くなるのが早いからそこまで高く売れないらしい。希少価値や品質とかではなくて長持ちして遠くまで運べるものが人気で値段も高いようだ。
「ウニなんて好きなやつは自分で海に潜って獲ってくるからね。鮮度が良いやつは腹も壊すこともないし、やっぱり美味いから」
鮮度がいいから生でも食べられると言っても、それなりにお腹を壊してしまったりすることもあるから生の魚を食べる人は港町でもそこまで多くはないそうだ。
だけど美味しいのは事実だから好きな人は本当に好きみたい。
おじさんのところは貝とか塩漬けにした魚の切り身とかを扱ってるみたいだ。
また明日出直すことを伝えておじさんにお礼を言って市場を出た。
「けっこう閑散としてるから驚いたんじゃない?この向こう側の通りに普通の店がいくつか固まってるからそっちはまだ少し人がいるかな。あっちの港の方は船乗りがいるからお酒を出す店とかいろいろあったりするんだけど歓楽街だからね。フェルちゃんと一緒に入れる店は少ないかも」
3男が言う通り市場から宿の方に向かうに連れて普通の店が増えていく。八百屋や肉屋もあり夕飯の買い物だろうか、街に住む人たちが買い物をしている。
「港町って言うけど結局田舎の村とそんなに変わらないんだ。南の方から船でいろいろ商品が入ってくるけど結局売れるのは領都や王都だからねー。わざわざここで店を開いたりはしないんだよ」
仕入れに来る商人は大通りに並んでいる問屋か、あるいは直接港に着いた船と直接取引をする。小売りのお店はこの町にはないそうだ。問屋によっては一般のお客さんのために売ってくれないこともないみたいなのだけど。
何となく町を眺めて僕たちは宿に戻る。
そしてその日の夕食の席で3男に相談事を持ちかけられた。
食堂のテーブルについて相談があるんだと言ったきり何だかめずらしく3男が言い淀んでる。どうしたの?と声をかけると3男は少し難しい表情をしながら話し始めた。
「ケイくんは今日この町を見てどう思った?いや、こう言う聞き方は良くないよね。僕が思うことをまずは聞いてくれる?」
こんなに苦しそうに話す3男は初めて見た。フェルと僕は少し姿勢を正して3男の話を聞く。
「この町の港は王都の貿易のために開かれてる。ここで入ってくる商品は大部分が王都に流れるからね。南の領地からも砂糖とかも船で運ばれてくるし、王国の流通の拠点の一つだと言ってもいい。だけど活気がないというか、なんか閑散としてるんだよね。僕たち商人はこの町の外から来て、品物を受け取りまた王都に向かう。荷物を運んで来た船もまた別の港に向けて出港する。大部分の卸問屋は王都の大きな商会か、品物を持ち込む商人たちがやっているからね。この街の人がそれに関わることは少ないんだ。そして僕たちはこの町をただ通過するだけ」
3男が気にしているのはこの町自体の廃れてしまいそうな感じのことだと思う。
港がなかったらこの港町もチコの村とそう変わらないのかもしれない。
この町自体に産業がないんだ。
「魚が高値で売れると言っても需要には限界があると思うんだ。そしてたくさん獲れる魚は日持ちがしないからこの町で消費するしかない。それだって売れる数には限度があるわけで、働いたら働いた分お金が入るような仕組みがこの町には無いんだよ」
美味しい料理を作ればお客さんがたくさん来てくれる。だけど商売ってそんな単純なことじゃない。お店の広さはどれくらいで、1日にさばける人数はどれくらいなのか。こういうことも考えなきゃお店を続ける事なんてできない。
「魚を獲ってくる漁師の人たちがさー。獲ってきたら獲ってきた分だけお金が貰えて、美味しい魚を捕まえてくればその分儲かる。そういうのがこの町には無いんだよ」
ウニとイクラがタラコより安いのは需要が前世の暮らしとは異なるからだ。
だけど3男。そういう世の中の仕組みなんて僕たちにはそうそう変える事なんて出来ないぞ。僕はちりめん問屋の若旦那じゃ無いんだ。世直しの旅をする一行じゃ無いんだよ。
「ケイくんに相談したいのはさ、チコちゃんの村でやったようなことをこの港町でも出来ないかってそういうことなんだ。あのカマボコだっけ?あれを作った時僕はすごく驚いたんだ。こんなことが簡単にできるんだって」
「いや、簡単じゃないよ。カマボコを商品にできるかはチコの村の人たちがこれからすごく頑張らなきゃいけないわけで、僕は捨てちゃうくらいならこうやったら美味しく食べられるよってただ紹介しただけなんだ」
「だとしても、あの思いつきは大きな可能性があると僕は思う。だけど、ケイくんにそれをお願いするのは何か友達を便利に使ってるみたいで僕としては嫌なんだ」
これまで見たこともない表情で真剣に話す3男を見たのは初めてだ。逆にそういう姿を見せてくれるくらい信頼してくれているってことでもある。
その気持ちに応えたいな。でもどうしたらいいんだろう。
「僕が製氷の魔道具を持ってきたのはね。魚を運べる馬車を持った商人だけじゃなくてこの町の人たちが自分たちで魚を遠くの町に売ることができるようになると思ったからなんだー。だけど今日ケイくんがカマボコの作り方を教えたじゃない。たぶんあの村では村人たちに仕事が生まれるよ。そしたらお金も入ってくる。そしたら今度はその村の人たちが買い物しにきてくれるようになるんだー。うちの店だけじゃなくいろんな店で買い物をする。僕思うんだけど商売ってみんなが笑顔にならなくちゃいけないんだよ。ケイくんが今日やってたことを見て、僕がこの町をどうしたいのかわかった気がしたんだー」
難しいな。3男。ただ美味しい魚を食べたかっただけなのにどうしてこうなった。
宿の食事を食べながら3男のお願いにどうやったら協力できるかを考えていた。
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