第二の人生は王子様の花嫁でした。

あいえだ

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本編

中身もイケメンだったベン

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ベン・シュワルツ…以下、ベンが俺を抱いて広間をあとにしようとした時だった。

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」

アニメなんかのヒロインさながらにどっかで聞いたような上からの「待ちなさいよ!」コールが聞こえる。

見ると、転生者の女の子が腰に手を当てて思い切りこちらに啖呵を切っているのだった。

「…はぁ?」

ベンがめんどくさげに女の子に答えると、彼女はハッキリと挑戦的に話しはじめた。

「さっきの話を聞かせてもらったわ、貴方…第二王子だそうね。自己紹介させていただくわ…私は世にも珍しい転生者、私を側に置くと王になれるという伝説の転生者なのよ!」

転生者!って二回言ったよこの子…大事なことだから二度言いました的にドヤってるけど、それしか脳がないみたいに聞こえるからちょっと見てる方が痛くて恥ずかしい。

「…それが何か?」
「え?」

少し首を傾げて全く興味がなさげに返答したベンに、転生者の女の子の目が点になった。

「世の中の誰もが私を欲しがる筈なんだけど…い、いらないの?私といれば王座が約束されるのよ?ほしくはないの?」

転生者の女の子がウッド王子そっちのけでベンにアプローチをするのに必死だ。

この女、自分の転生した国がここだったので、その価値観で手っ取り早くここのカーストの頂点を落としたが、それはこの国だけの話。

今、もっと高いカースト上位に属する男を目の前にして、今までの自分の世界がすこぶる狭かったことに気づきやがった。

だからといってこの手のひら返しはウッド王子が気の毒すぎる。
ま、同情なんて微塵もないけど。

「お、おまえ…!」

ウッド王子がわなわなと震えながら転生者の女の子の腕を掴む。なんと女の子はその手を振り払った。

「お前はそのウッド王子と結ばれるのだろう?私は一歩遅かったな、残念だ」

ふっ、と笑いながらベンが転生者の女の子に言うと、その子はものすごく嬉しそうに笑った。

「え?どうして?ちっとも遅くはないわ、私を今から貴方のものにしていいのよ?早く私と一緒に本国へ行きましょうよ、あ、その子はウッド王子に返してあげて頂戴」

「貴様!」

ウッド王子が真っ赤になって怒りで震えている。まあ、そうだろうな…。だけど俺にはベンの言葉が面白くて仕方なかった。

だって、俺を抱き締めるローブの中で、彼の指先はずっと俺の腕を優しく撫でていたから。

とたんにベンが笑い出した。

「ははっ、私が欲しかったのは白い妖精と呼ばれ諸国でも有名なこのレイだ。そのためにはるばるここで機を伺っていたのだが、とんだ茶番というか、幸運が転がった。レイはもう私のものだ」

一同、驚いてベンを見た。俺もだ。
なんと、俺が欲しくてわざわざこの国に来ていたというのかこの人は?

「待ちなさい!私を選ばないと王冠は手に入らないわよ!?」
「やかましい!!」

転生者の女の子が言い終わらないうちに突然ベンが怒鳴り付けた。凍りつく広間。

「誰が転生者だろうと私の知ったことではない!我がガルデスフィールを愚弄しお前ごときが王冠を語るなど無礼千万!この私まで馬鹿にするなど…!このベン・シュワルツ、欲しいものは自らの力で手にいれる…黙れ」
「ひぃっ…!」

転生者の女の子は思惑が外れ、ベンにビビりまくって小さな悲鳴を上げ、腰を抜かしてその場にへたりこんでしくしく泣き出した。

すげぇな、おい!ベン…!
王座がほしくば自らの…あっ全然違う、欲しいものは自らの…覚えられなかった。
とにかく俺はこの男に痺れてしまった。

「もうここにいる必要はない、…行こうかレイ」

ベンは愛しそうに俺に視線を向けると踵をかえし、広間を全く顧みることなく王宮を後にした。

エントランスの前にベンの黒塗りの馬車がつけられており、すぐに乗り込む。
俺は裸にローブというエロス丸出しの破廉恥な格好でベンに抱き締められ、すぐに唇を奪われた。

ウッド王子が俺の名前を絶叫する声が、まるで遠吠えのように聞こえたけど、犬か狼かな?聞き間違いってことにしとこう。


その後、王宮のあの場がどうなったかは俺は知らない。

ベンの腕に抱かれて無一文、この身一つになった俺の第二の人生はこれから始まろうとしていた。







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