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竜騎士になったよ

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目を開くと、すごく綺麗な天井。キラキラした紋様がシャンデリアに反射してる…。俺の部屋じゃないよな、ここ、どこ…?

ん?隣に誰かいる。フィリックスじゃない。
黒髪のめちゃくちゃイケメンな男性の上裸が眠っている。

「…。」

うぉ!?あ!

思い出した、この人は…。

国王陛下だ。


昨日陛下に呼び出され、二人きりになった。

「可愛いな、シン…」

膝に抱かれて固まる俺に、ゆっくりと陛下の秀麗な顔が近づいた。唇がどんどん近くなり、俺のそれに重ねられる。
柔らかい、そしていい匂い…。くらくらしてしまう。

俺の腰を引き付けて、手首を掴んだ陛下はそのまま熱い口づけを続けていく。

キスしてる、俺と…陛下が。

でも、俺の唇には違うキスの感触が残っていた。
陛下の前から俺を連れ去り、熱いキスを投下した…甘い唇。優しい、そして激しいあの唇が。

エリアス。

それが、消えちゃう。今、何故かそう思ってしまったんだ。わからないけれど、この気持ちは何なんだろう?

「ん…っ…」

どうしてだろう、俺の目尻から涙が一筋落ちた。それに気づいた陛下が目を開けて、唇を離す。

「嫌か…?」

優しく涙を唇で拭ってくれる陛下に俺は頷きも首を振ることもできずにただ、目を伏せた。俺の目に軽いキスをして陛下は俺を軽々と抱き上げ、寝室へと向かう。

ベッドに降ろされた俺の上にうつ伏せになった陛下は、そっと俺の唇を人差し指でなぞる。されるがままに呆然と陛下の顔を見上げる俺に、口角を上げて微笑んだ。

「なるほどね…。これはエリアスに同情する…」

ククッと笑い、堪えきれず吹き出して笑い始めた陛下に俺はきょとんとした。

「すまん、竜騎士たちのことを考えたら笑ってしまった…。楽しくやってるのか?」

涙目になって笑いを堪える陛下に目を丸くしながらも俺はうんうんと頷く。そして俺の頬を撫でて優しく微笑んだ。

「シンの、騎士や王宮の者に受けたトラブルは報告を受けている。…これからもっと困難があるかもしれない。私が何か手助けできることは…これくらいしかないのだが」

俺は陛下のおっしゃる意味がわからなくて困ってしまった。

「辺境で生まれ育ったそうだな。あそこには昔活躍した優秀な魔道士がいたはずだ…カイトといったかな、祖父の代で引退したがな」
「それ、うちの長老です。まだ元気ですよ」
「そうか、息災ならいい」

陛下はほっとしたように微笑んだ。陛下が長老のことを覚えていたなんて驚いた。

それから陛下は辺境のこと、竜騎士のこと、俺の生い立ちの話を聞きたがった。夢中で話をして、陛下と昔話で笑い転げ、時間が経つのも忘れて話し込む。
陛下は俺がヘラクレス号と仲良くなったきっかけも知りたがった。

「シン、これからも…話をしにきて欲しい。呼んだら、来てくれるか?」

陛下が不意に真顔なり、俺に問いかける。俺が頷くと、陛下が微笑む。それが少し悲しげで、嬉しそうでなんとも言えない笑顔だった。

着替えてから、まだ眠っている陛下をそっとそのままにして部屋を出る。扉を開けると衛兵が警護している。俺に気づいて敬礼され、軽く会釈をした俺は竜騎士の棟へと向かった。

竜騎士のフロアに戻った時。

ロビーにエリアスとフィリックスがいた。二人とも顔色が真っ青で、目が赤い。俺に気づいてソファから立ち上がる。

「え…」

フィリックスが走り出し、俺にがばりと抱きついた。エリアスはそのまま動かずに俺のことを目を細めて見ている。何だかものすごくつらそうに見えてしまった。

「あの…?」
「何も言わなくていいから…」

きょとんとする俺にフィリックスが絞り出したような声で囁く。フィリックスの手が震えていた。

「?…楽しかったよ?」

俺が昨夜の報告をすると、二人は固まり、みるみるうちに眉間が険しくなる。

「楽しかった?」

エリアスがつかつかと歩み寄ってきて、俺は頷いた。

「うん、昔話をして、笑い転げて、疲れてそのまま寝たの。また話を聞かせてほしいって」

楽しげに昨夜の話を二人に語り、どれだけ面白かったかを説明する。

「嘘だろう…?あの陛下が…?まさか」
「エリアス、これはどういう事でしょうか」

エリアスとフィリックスが顔を合わせて二人で難しい顔をしている。

「あの陛下にも落とせなかったということですか…」

フィリックスが俺の背中を抱いたまま、エリアスにこまったように話す。エリアスはしばらくこめかみを押さえたまま、苦悩の表情で答えた。

「まさに難攻不落の砦だな…陛下も面食らったろうな…」
「んー、何か、陛下がエリアスに同情するっていってたよ?何で?」

俺の言葉にエリアスもフィリックスも、げー!という表情になる。

「また来いというのはいつかまたお召しがあるということか?」

フィリックスが唇を尖らせて俺に聞いてきたので、手に持っているものを二人に見せた。

壮麗な刺繍の施されたカバーをかけられた本が三冊。エリアスとフィリックスはそれを手に取り、パラパラとめくっていく。

「陛下が面白いから読めって貸してくれたの。読み終わったら部屋に来いって。また違うの貸してやるって」

本を見ている二人が神妙な顔つきになる。

「マジか…陛下…」
「そうですね、これは…」

なに?何の本なのかな?

「恋愛ものですね…かなりガチな。陛下がこういうのをお読みになるとは驚きました」
「ああ、さすが温室育ちを感づかれたんだな。この本は知る人ぞ知るってやつだぞ…」

「よくご存じですねエリアス。そうですね、BLガチエロ純恋愛ものがまさか陛下の部屋から出てくるとは。それもこんなカバーがついてるなんて」
「それな!これでシンに教育を施そうっていう…でもフィリックスも知ってたんだな、この本…」
「この作家読破してますよ」

ひそひそと話す二人に俺はきょとんとして尋ねた。

「この本、何か勉強になることが書いてあるんだね?すごーい!」

本気で喜ぶ俺に、二人はただただ頷いた。
でも、エリアスとフィリックスは頼むから二人で先に読みたいと言い、この本を持っていってしまって。

俺は未だに読ませてもらっていない。



























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