ヒトの世界にて

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24話 【団結力―シュウケツ―】

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「……本当に、貴女なのか? 貴女が、Dr.ウェヌス……?」

 飛びつくように抱き付いてきたウェヌスにアレスは動く事ができなかった。
 目の前に居る彼女が本当にウェヌスなのか、その確信があるのに、信じられないのだ。
 機械の身体になっているのにその見た目は自分の知ってる彼女そのものだ。

「えぇ、えぇそうよ……こんな体になってしまったけど、わたしはウェヌスよ」

 涙を流すことも無いのに声が震えているのが解る。
 確かに、確かに彼女だ。

「ウェスタが言っていた事通り、耐放射線用機械化手術を受けて……?」
「ええ……自分から受けた訳じゃないんだけど。えっと……ごめんなさい、何から話せばいいのか……」
「ウェヌス、先ずはこの船を動かすとこから始めなさいよ。早くイストモスに行かないとないのよ?」

 ディアナの言葉にその場の全員がはっ、となる。
 今は急いでイストモスへ向かわなければならない、戦争が始まっているイストモスへ援護に行かなければ無人兵器に打ち勝つ事はできないだろう。

「そ、そうだった。Dr.ウェヌス、少し待ってて欲しい。イカロスを飛行ユニットに変換させて移動を開始しなくてはならない」
「そうね、うん……話は後でいくらでもできるわ」



「先ずはあたしから。今イストモスで起きているであろうことを話すわ」

 全員が艦橋に集まる中、先ずディアナが皆の前に立った。
 ウェヌスも話したそうにしていたがこちらの方が優先順位が高い、と先ずディアナが話を始めた。
 艦橋の窓の外は今まで海を渡ってきた時よりも早い速度で背景が過ぎ去っていく。
 イカロスを利用した飛行ユニットはまだ十分に生きており、これなら予定通りにイストモスに到着するであろう。

「イストモスには、無人兵器があるんでシタよね?」
「ええ、恐らく簡易量産型レムスが20、ロムルスと同型だけど再生装置が一個少ないヤツが10ね。でもこの二つはある種の囮なの」
「囮だと? その軍団だけでも軍を壊滅させられそうだが……」

 クラトスの疑問もその通りだろう。
 レムスもロムルスも量産型とはいえ今の人類には十分手に余る兵器だ。
 これだけでも既に勝てるかどうかわからない、それだけの戦力差がある筈だ。

「そうもいかないわ、今までユピテルやヴァルカンは今の人類がどんな戦力を持っているかを綿密に観察していた。改造人とか各地で色んな動きがあったのはそれが理由よ」

 ウェヌスのその言葉にディアナ以外が思う所があったのかそれぞれ自分に起こった出来事を思い返している。

「今まであった事……ディアナさんが街で暴れたり、クラトスさん達がマルスって人に襲われたり、マリオンさんがポイボスって人に殺されたり、プルートさんが暴れたり、アタシが爆弾見たいな人に襲われたりした、やつ?」
「あたしのは暴走だから一応カウントしないで欲しいんだけど……そうね、計画的に行われたのには理由があるわ……え? いや待って? なんかおかしいのあったわ。最後のなに!?」
「え? えっと、鹿見たいな魔族の人が自分の角とかを爆弾にして……アタシの、クレータの街に出たんですけど」

 今思い出しても震えそうになる。
 まるで自分がそこに居ないかのような言動で己の体を引きちぎり爆弾に変えていた男の事だ。
 クレータの街に現れたまるで改造人のような、それとも何か違った雰囲気を感じていたが。

「クレータで? ウェヌス、知ってる?」
「いいえ、あの街は戦術的な戦力を持ってないから調査の必要はないって……ウェスタが定期的に報告していたし、改造人の素材を探していただけだと思ったけど……」
「改造人の、素材だと……!?」

 ウェヌスの漏らした言葉にクラトスが立ち上がった。

「……ウェスタの任務よ、身寄りのない子供の中から才能がある子を選んで改造人やこちら側の軍人として育てる孤児園を……もしかして、その子」
「……うそ、シスターが、そんな事を?」

 自らを育ててくれた母のような存在の真実にレアの全身の力が抜けていく。
 その姿にその真実を喋ってしまったウェヌスは思わず眼を逸らしてしまう。

「ごめんなさい……彼女も、任務だったのよ」
「……もしかして、任務コード、デスか? 絶対的な命令権を上位の人が所有する」
「びっくりした、貴女今の時代の人なのに妙に詳しいわね」
「ボクはプルートに基本的な機械工学を教えてもらいまシタ。今使っているタロスも修理をして使っていマス」
「今補助エンジンとして使っている航平パーツのPMを貴女が? じゃあ船はアレスって子と一緒に使ってるの?」
「あ、いえ……船の全体的な移動等は最近はアレスさんに教えて貰って私が、この船をアレスさんやAIさんの次に知っているのは私ですし」
「え、えぇ……? そ、そういえばその位置って船長の場所だけど……ディアナ、この子達凄くない?」

 コレーやローデの言葉に思わず目を見開く。
 彼女達が思った以上に機械工学に精通しておりこの船の管理すらしている。

「……コレーさん、任務コードって?」
「簡単に言えば絶対に逆らえない命令デス、一部の人が隊の統率を統一する為に作った物で敵にAIの制御を奪われたりした時に使っていた見たいデスね……だから、レアちゃんのお母サンは仕方なかったんデスよ」
「……すまぬ、レア。少し辛い話じゃったな」

 ディータが震えるレアを抱きしめ優しく頭を撫でる。
 話の流れとはいえこんな幼い子供には辛い話だっただろう。

「話がそれちゃったわね……じゃあそれだけの兵器を用意して何が囮なのかって話なんだけど。ガイアってPMがあたし達の切り札って事になるわ」
「ガイア? 俺も聞いたことが無いが……Dr.ウェヌスは、知っているのか?」
「勿論。そもそもわたしとヴァルカン、メルクリウス……そして死んでしまった四人によって作られた決戦兵器なの。戦艦ローマと合体する事で58メートル級の巨大PMに変形できるの」
「ごじゅ……!? え!? ま、待ってください!? 58メートルってアルゴナウタイの二倍以上の大きさがありますよ!? もしそれがヨクトマシンを利用した装甲で作られているとしたら、コルキスのレールガンでも歯が立ちませんよ!?」

 ガイアと呼ばれる巨大なPM、ウェヌスから話を聞いただけでも今の人類が倒す事のできない大きさだろう。
 アルゴナウタイの二倍以上の大きさ、そう聞くだけでも絶望感が押し寄せてきそうだ。

「当たり前だけど装甲はヨクトルムス装甲、ヨクトマシンの装甲ね。確かにレールガンじゃ厳しいかも……戦艦ローマには電磁バリアーがあるわ」
「……一ついいか? あまり関係ないかも知れないが、メルクリウスとは誰だ?」

 今まで出会ってきた500年前の人類の中に聞きなれない名前があった。

「ああ、そうね……メルクリウスはアカイアの科学者だったの、ガイアの設計に関わった後何時の間にか何処かに行ってしまって、それ以降は連絡が取れてないわ……」
「多分死んでるわよ、気にしないでいいわ。で、ガイアを何とかしないと今の人類に勝ち目は無いわ」
「何とかと言っても、どうすればいいんじゃ?」

 正直、ガイアを何とかできる戦略が見えて来ない。
 あまりに相手が巨大すぎて勝てる手段が何も見えてこない。
 58メートル級のヨクトマシンの装甲、バリアがある事も考えるとタロスやイカロスですら決定打を撃つことはできないであろう。

「……手段が無い訳ではないな。外からではなく内側から壊せばいい」
「そうね、アレスのセイレーンアーマーなら電磁バリアー以外の問題はクリアできると思うわ」
「セイレーンアーマー?」

 アレス、ウェヌス、ディアナの三人以外が首を傾げる。
 今まで聞いたことの無い名前だ。

「戦艦攻撃用のアーマーツールだ、戦艦を内部から破壊する事に特化しているんだが……Dr.ウェヌス、電磁バリアーへの攻撃手段は結局できなかったのか?」
「当時でも課題だった電磁バリアーへの対策は時間が足りなかったわ、貴方を完成させたら割と直ぐに囚われちゃったんだから」
「そうなると問題は電磁バリアーだけね、電磁バリアーの理屈わかる人いる?」

 ディアナのその言葉に手を挙げたのはローデだけだった。
 一見すると自信無さげに見えるのだが先程の見聞からディアナはローデを侮ってはいない。

「説明までできるかしら?」
「えっと、高い電圧を纏って攻撃物を装甲に当たる前に無効化する機能ですよね? ミサイルとかなら着弾前に爆発させる、とか。弾丸とかなら勢いを失わせて落とすとか。前にアレスさんに貰ったD02っていう防御装置と同じ原理です」
「貴女本当に勉強してるわね、うちで働かない? その勤勉さ欲しくなっちゃうわ。電磁バリアーは基本的に物体の動きを止める物、膜のように貼られた重力エリアで相手の動きを止めるの」
「今そんな話してる場合じゃねぇだろうがよ、つーてっといくらアレスでもそのばりあー? にゃ動けなくなっちまうってことか?」

 いくらアレスの体が電磁バリアーに耐えることができてもその場から動けなくなるのでは突破は不可能だ。

「潰れることは無いんだけど、動くこともできない……ただ硬直するだけよ」
「それではなんの解決にもなりまセン、500年前はどの様に対策をしていたんデスか?」
「中和剤を乗せたミサイルで穴を開けてたの……原理としては正反対の方向性の重力エリアを発生させて一時的に穴を開けるって感じ」
「それは、理屈的には電磁バリアーに電磁バリアーをぶつける、と言うことか?」

 相手のバリアーと真逆のバリアーをぶつけて一時的に相殺する。
 電磁バリアーの中和とはそういうことだろう。
 言われた事を噛み砕いて理解するのはクラトスの得意なことだ。
 ディアナやウェヌスの言ったことをその手の知識が無くても最低限の説明がされれば整理はできる。

「あ、その理屈なら、アルゴナウタイの電磁バリアーを使えばなんとかなるかも知れません!」
「……そうか! アルゴナウタイのバリアーでぶつかれば何とか穴を開けられるかもしれん! そうすれば後は内部に、アルゴナウタイにはアンカー用のチェーンジャベリンで取り付ければ!」
「アルゴナウタイの大きさで開けられる穴は恐らく3メートル程度、チェーンジャベリンがギリギリ入れる大きさね。問題はその射出してから取り付けいた後、よ?」
「電磁バリアーが割れたとしても穴が空くのは数秒、チェーンジャベリンを放射する時には捕まってないと間に合わないわ、放射される速度の勢い、そして船体に突き刺さった時の衝撃に耐えないと……アレス以外無理じゃない?」

 ウェヌスとディアナの言葉はディータ達でも何となく意味がわかる。
 数秒間しか開かない上にチェーンジャベリンは人を乗せる様にはできていない。
 なのでチェーンジャベリンにしがみついたまま、その衝撃に耐えなくてはならない。

「ティターンスーツなら、どうだ? アレス一人では手が足りないかも知れないだろ?」
「ふむ、確かにティターンスーツの性能なら俺の防御武装を併用すれば耐えられるな……乗り込むなら俺とクラトスで乗り込む事になるだろう」
「決まりね、電磁バリアーは速度を出して突っ込めば割れると思うわ中和剤が無い以上速度が大事よ、電磁バリアーに逆らって穴を開ける以上」

 理屈上ではあるがウェヌスもこれなら一定の確率があると確信したのだろう。
 他の意見が出ることも無く皆がそれで納得した様だ。

「ワタシはプルートと共に地上の援護に向かいマス、プルートの合体装置は飛行ユニットでは無いのでそっちの方は任せマス」

 コレーはプルートと共に地上で戦う事になる、プルートのユニットは水上移動用でありこの状況ではアルゴナウタイに取り付けておく理由がない。
 地上の部隊は今もロムルスに苦戦している、弱点が解っている今ならタロスでも十分ロムルスに対応できるだろう。

「んじゃあたしからは以上」
「……一つ聞いてもよいか? お主等は何故戦争をするのじゃ?」

 一番の疑問、何故500年前の人類が戦争を仕掛けてくるのか。
 アレスですら解ってない、根本的な疑問だ。
 そもそも今一500年前の人類が何をしたいのかが噛み合ってない。
 戦争を望むユピテルとそれを手伝う者、そしてそれに反する様に今の人類を助ける者。
 本来一枚岩とも思えない500年前の人類の実態、その何かを知れるだろうか。

「……ごめんなさい、何故なのかは言う事はできないの。任務コード、絶対の命令権をこの体に改造された時に埋め込まれている。言えばわたしの体中の回路が全て遮断されるわ」
「勿論あたしにも同じコードがかかってるわ、でも一つだけ言えるとすれば。この戦争は今の人類が乗り越える為にあるわ」

 乗り越える為の戦争。
 そう言われても意味が解らないだろう。
 しかし喋る事そのものが彼女達の死に繋がるのなら、無理強いをする訳にも行かない。

「わたし達はきっと、戦場に着けばユピテルと共に戦わなければならないわ。これはどうやっても決まっている、運命見たいなものよ」
「そうなったらもう容赦しなくていいわ、今の人類は自分達が生き残る為にあたし達を思いっきりぶっ飛ばしちゃって殺しちゃいなさい!」
「目の前に本人居るのに殺せって言われてもよお……」

 あまりにあっけからんと自分達を殺せと行ってくるディアナに言葉が詰まる。

「ふふ、ディアナはこう言ってるけど、いいのよ? わたし達はもう何百年も生きた……人間はもう終わって新しい人類が生きていけばいいってね」
「……それが俺が完成した後、長い間この星で生きていた貴女の答え、ですか?」

 真っすぐウェヌスを見つめるアレスに彼女は困ったように軽く笑う。
 自分の子供とも言える様な存在であるアレス、折角その本人に出会えたというのに、その本人はもう十分生きて、何時死んでも良いと言っている。
 残酷な程、二人の間には懸け離れた生きている時間がある。

「そう、ね……でも500年って年数は人間が生きるには長すぎたのよ。わたしもディアナも、何時狂ってしまうか解らない、そんな時に貴方達に迷惑をかけられないわ……」

 何時何がきっかけで自分が狂ってしまうのかが解らない。
 その暴走がどういう物なのか、ディアナを通じて理解はしている。

「アンタも、暴れるって事か?」
「ちょっとトリト人を暴れ馬みたいに言わないでくれる?」
「ディアナはそういう感じだったのね……わたしは、目の前にある物を何でも食べちゃうのよ……それが無機物でも生き物でも、なんでもね」
「……何でも? まさか、時々血だけを残して行方不明になっている人は――!?」

 今までいくつかの村や町でその様な事件が起こった事がある。
 少なくない血だまりと共に唐突に姿を消した人の記録が何度か上がっている。
 どの様な事件が起きてこんな事態になっていたのかずっと解らなかったがもし、もし目の前のウェヌスが人を食べていた、と言うのなら――

「……ええ、その通りよ。多分この体になる前に一番大事にしたかったモノが暴走すると現れるのだと思うの。ディアナは昔忙しすぎたって聞いたから休みが欲しかった、わたしは戦争時代に食事を楽しめなかったから食事に関する暴走……いいえ、こんな事言い訳ね。アレス、わたし達500年前の人間は少なからず人を殺しているの、その罪は裁かれなければならないわ」

 ウェヌスのその言葉に誰もが何も言えなくなってしまう。
 人を殺した、だからその罪が裁かれなければならない、それは今も変わらない人類のルールだ。

「そう、ですか……それが、貴女の選択なのですね。Dr.ウェヌス」

 そう本人に言われてしまえば、アレスは引き留める事ができなかった。
 それがウェヌスの選択だ、それがウェヌスの罪だ、それをここにいる誰もが解っていた。



「はぁ……」

 仄かな灯りが艦橋を照らしている。
 夜空が凄まじい速度で流れていく中、ローデが小さなため息を吐いた。
 今艦橋にはローデ以外に誰も居ない、何時もならアレスが寝ずの番をしているのだが今夜はウェヌスと予定がある為にここには居ない。
 そんな中ローデが最近座る事になった艦長の椅子に座っている。
 ぼんやりと外を見るその瞳は好奇心で輝いている様には見えない。

『……どうかなさいましたか? ローデ』
「あぁ……はい、明日が決戦だって思うと、やっぱり落ち着かなくて」

 明日の夕方には戦場に立つことになる、少しでも間違えれば大きな犠牲が伴う。
 その責任を、自分が負わなくてはならない、アレスや知識のあるクラトスは相手の船に入ってしまう。
 そうなってしまえばアルゴナウタイの操舵はローデが一任されるだろう、アレスとクラトスをガイアに送り込んだ後は戦場のロムルスを迎撃しなくてはならない。
 武装のアンロックは終わっている、ミラービットを射出し射撃角を調整し敵機に当てるコントロールレーザー、ミサイルや雷撃防衛弾、そして機雷などはそれぞれはロムルスには効果は無いだろう、黒色火薬の限界だ。
 主砲の弾も同じように実弾を撃つので現状はロムルスを怯ませる事も出来ないだろう、その上で補給も受けられず弾数はそれぞれ一回だけ放てる程度の数しかない。
 残りの頼みの綱である荷電粒子砲は周りの被害も考えて安易に使えないだろう。

「火器の使い方は記憶しました、一応当てられると思います……ですが、その一手を失敗すれば皆に被害が出ます」
『その被害が、怖いと?』
「怖い、ですね……アルゴナウタイは今の人類にとって大きな戦力になります。大きな戦力であるからこそ、私達の動き一つで犠牲が大きくも小さくもなります」
『貴女は、本当に聡明ですね……ローデ。貴女の様な艦長を手伝えて光栄です』
「そ、そんな事は……」

 AIから褒められた事でほんのりと顔を赤くする。
 ローデ自身、自分がこんな大きな船を動かす等思っても無かった。
 今まで兄であるトリトに守られていた、少し過保護過ぎるとは思っていたがそれ以上に感謝をしていた。
 この世界で力ないまま生き残る事がどれだけ難しいか、見聞を広めて様々な出会いと旅を経て、自分の道を見つけた。
 力を付けるだけでも、生きるだけでも、今の人類には厳しすぎる世の中、その中でひたすら知識を得る事ができた。

『いいえ、貴女の存在はそれこそ500年前の人類ですら予想外でしょう。向こうは間違いなくアレス以外に船を動かせる存在等信じられないでしょうからね』

 AIはAIなりに彼女らを見て解った事があった。

『500年前の人類は。今の人類が自分達の技術は扱えないと思っています』
「でも、それは……」
『そう、そんな事は無いのです』

 今の人類の大半は確かに500年前の人類が使っていた機械の操作はできないだろう。
 しかしそれは存在すら知らないだけだ、ローデの様に熟読し使い方を理解した者、コレーの様に指南された者、ゼロスの様に生き抜くために手に入れた者。

「便利であると同時に、恐ろしい技術でもあるんです、ですが今の人類が理解できない物では、決してありません」

 凄まじい技術であると同時に危険な物でもある。
 マリオンの様に手に入れた技術が何かを知らずに作り出してしまった者、ファイスの様に何がそこにあるか知らずに残ってしまった者。
 解らないが故に恐ろしくも感じるのだが、決して理解できない物ではない。

『ええ、技術とは知識ですから。今の人類が技術を手に入れるのは決して手遅れなんかでは無いのです』
「そうですよね……ですが今の人類は生きる事に必死で、星を見る余裕だってないですから」
『星、ですか?』
「あ、えっと……昔遺跡で発掘された大きな眼鏡があったんです。空の星がどんな色か解る位遠くが見える、大きな筒の様な眼鏡です」
『ああ、天体望遠鏡ですね。戦争の時代以前に星を観測する為に使われていました。戦争時代に入ってからは見れる場所が遠すぎるので破棄されてましたが残っていたのですね』
「てんたいぼーえんきょー……それがあの眼鏡の名前なんですね」

 何時の間にか艦橋に置くのが定番になったバイコーン帽のつばを軽く握り微笑む。

『どうなさいましたか?』
「ふふ、昔イアソン王の自伝で見たんです。遠い遠い星々ですら見る事のできるこの眼鏡はきっと戦争なんかに使われない遺産だ、そんな遺産だってきっと残っている筈なんだって」
『イアソン王、ローデの愛読書ですね』

 人類は戦いだけをしてきた訳ではない、そうイアソン王は信じていた。
 今は生き残るだけでも精一杯なのに遺跡の発掘が盛んに行われているのには理由がある。
 遺跡を見つけても出てくるのはどれも武器や防具の名残ばかり、そんな物しか発掘できない中で今の人類はこう思った。
 人類は――永遠に戦うだけの歴史しか無いんじゃないか。
 武器しか見つからないから、破壊の後しか見つからないから、もう発掘なんてしなくて良いんじゃないかと。
 その答えに待ったをかけたのがイアソン王だった。

「本当に戦争ばかりをしていたなら美味しいパンを作る技術などいらなかっただろう、温かなスープを作らなくても良いだろう、そう言っていたんです。きっと戦う以外にも、人類は生きる術を持っていたんだって」
『確かに人類は歴史の中で戦争をしていない時代もありました……中には戦争を知らずに平均寿命を全うした者だっています。長い戦いの歴史があっても、確かに穏やかな時間はあったのです』
「そうなんですね……もう一度、その時が来るように。この戦いを終わらせないと行けませんね私もAIさん、も……」
『どうかしましたか?』
「AIさんって呼んでますけどAIだけですと名前じゃないなぁって……こんなにお話してるのに」
『そう言われましても……アレスのサポートAIというのが役割でありまして……』

 何時からだろうか、確かにサポートAIであるこのAIは自我とも言えるものを獲得していた。
 大元はアレスの演算機能を助ける為の一装置でしかない、それが知らぬ内に明確な自我を獲得していた。
 アレスもそれを尊重し自由にさせている、それ故にこうやってアルゴナウタイの中で人と話す機会を設けている。

「だってAIってだけですとアレスさんだってプルートさんだってAIじゃないですかー、一人だけ名前無しっていうのもおかしな話ですよ!」
『おかしい、ですかねぇ?』
「名前は、大事な物なんですから……いっその事私が名前を付けちゃおうかなぁ」
『ああ、良いですねそれ』
「え?」
『名前が無いと言うなら、誰かに付けて貰えばいい……しかし自分ではその必要を感じない。AIと言うのは基本的に感情では動きません、効率だけを重視します。なので名前に意味を感じられません……ですがローデなら、名前の意味を知っているローデならば……』

 自分、という自我を得たには得たがアレス程の自分を持っている気はしない。

「私が、ですか?」
『ええ、自分の事を、人類で一番解ってくれている貴女だからこそ、自分に名前を付けて欲しいのです』

 納得がいく、とAIは思った。
 一番技術に触れてくれた人類、一番自分達を理解してくれた人類。
 そんな彼女が付けてくれた名前なら、自我が芽生えた自分は納得がいく、と。

「わかりました……じゃあ、マーズ。なんてどうですか?」
『マーズ? 星の事、ですか?』
「はい、昔てんたいぼーえんきょーを使った時に見た赤くて綺麗な星……マーズという名前が付けられてまして。一番好きな星なんです」

 昔、港町に天体望遠鏡が体験可能遺産として展示されていた事があった。
 他にも様々な展示物があるのにポツンと一つだけ、その天体望遠鏡だけが誰も見て無かった。
 イアソン王の書物が好きだった自分が一番楽しみにしていたのに誰も星を見て無かったあの日の事。
 その時に見た赤く綺麗なあの星、見惚れて数分間は見ていただろう。
 その美しい星の名前、それがマーズだ。

『成程、マーズ――ああ、いいですね。名前を付けて貰って確かに、価値を感じます』
「ふふ、そうでしょう? マーズ、明日は――よろしくお願いしますね? まだ不慣れな私を、助けてください」
『勿論です、貴女と共に、勝利を掴みましょう』



「恐らく状況からしてヴァルカンが作ったクローンね。暴走させられたのは、多分任務コードに近い仕組みだと思うけど……それ程のエネルギーを得られたのは別の要因がありそうね」

 ディータの寝室でウェヌスが彼女の事を診察していた。
 前にヴァルカンに出会った時に彼女が暴走してしまった事をアレスが相談したのだが、その原因はしっかりとは解らなかった。
 特に暴走したエネルギー、あれはヨクトマシンの性能を考えてもありえない出力が出ている、との事だった。

「……そうなると任務コードが問題か?」
「厄介なもんじゃのぉ……それにしても自分と同じ顔の人に脱がされて触られるの何て変な気分じゃ。む? アレスーくろーんとなるとこの体もウェヌス殿と同じなんじゃろ? 生前こんな体じゃったのかー、マニア向けじゃな」
「ちょっと!? 誰がマニア向けよ!?」
「嫌だってお主……胸なんてワシ何年も成長しとらんぞー? 肉付きは良いから尻とかは程よい感触じゃが……」
「いやー!! 若干気にしてたのにやっぱり遺伝だったのねこれ!?!?」
(これ、多分今部屋に入らない方がいいな)

 何となく、こういう時は口を出さない方がいい、と最近学んだ。
 自分に性別は無いのだが、何故か男性と扱われているしそれは間違いじゃないと思う。
 何と言うか女性同士のこういった話題は苦手だ。
 色んな場所を見るから、外に出なさい、とウェヌスに言われたがそれでよかった。

「遺伝じゃったかぁ……嫌でも触ってみるとそれなりじゃぞ? 何と言うか感触が良い、小さくてもこれだけで割と落とせたんじゃ。アレスには意味が無かったが」
「アレスに!? アンタ人の顔で何してるの!?」
「こんなイケメン居ったら抱きに行かぬ方が失礼じゃろうが!? お主はあの顔見て疼かんのか!?」
「何が!? ってかアレスは息子見たいな子よ!?」

 これ、収拾つくのだろうか。
 変な方向に話が飛んでいく前に助け舟を出した方がいいのではないだろうか。
 きっとそうだ、だってあの二人性格は異なるが根っこの部分は似ている、与太話になると永遠に終わらない。

「何言っておるんじゃ、あんなイケメン誰ぞモデルが居らぬと作れんじゃろ? なんぞお主の初恋の子とかじゃろ?」
「な、なななななななあぁに言ってんのよ!? だ、だだだ誰があんな奴の事なんか!?」
「嫌なんじゃその反応、大分拗らせておらぬか? あぁ、もしかして研究一筋で婚期でも逃したかの?」
「違うもん! わたし悪くないもん! あれはちょっとタイミングが悪かったんだもん!」
「馬鹿者! さっさと抱いてしまわぬから!」
「お、おい二人とも、色々聞いていられない、嫌本当に聞いてられないから……」

 これ以上聞いてると本当に何か大切な物を失いそうだ。
 親の劣情を聞くというか、色々聞きたくない部分というか。
 なんか、そんな感じの、兎も角これ以上ウェヌスの痴態を聞いていたく無かった。
 そう思って、扉を開くと――

「あ」

 全員が口を揃えてそう呟いた。
 嫌違うのだ、こうなるとは思わなかった。
 扉を開けてアレスが見た物は、恐らく触診をしていてそうなって居たのであろう、上半身を露出した状態のディータがそこに居た。

「……お主、こういう時は話の内容がアレでもノックするもんじゃよ?」
「す、すまん」

 背を向けてごそごそと布団で己を体を隠すディータにアレスの眼が泳ぐ。

「……ほらぼーっとしてないで部屋から出て風にでも当たって来なさいよ。ディータさんこのままだと動けないわよ?」
「あ、ああ……そう、する」

 何処かバツが悪そうにアレスが部屋を出ていく。
 その後の足音からして部屋から離れていくのも解った。
 アレスが部屋から離れたであろうタイミングを狙って、ぼそっとウェヌスが呟く。

「アレスの事、好きなの?」
「…………解らぬ」

 背を向けていたディータは正面から見なくても解る位、それこそ耳まで真っ赤になっていた。

「ふふ、不思議ね……サキュバスなら裸を見られるのは慣れてるんじゃないの?」
「そ、そうなんじゃよ……ワシ何度も抱いたし抱かれたし……子供はおらぬが慣れっこの筈なんじゃよ……でも、でもアレスに対しては、その。何か良く分からぬが……恥ずかしくて仕方ないんじゃよ」

 裸など見られ慣れてる筈なのに、男の劣情交じった目線など慣れている筈なのに。
 何故かアレスに対しては顔が赤くなってしまう。
 サキュバスなのだから異性と同性とも何度も肌を重ねた筈なのに、アレスに肌を見せる事が恥ずかしくて仕方ない。

「多分、アレスとは肌を重ねられないからじゃない? 今まで貴女に言い寄る男は皆貴女の身体を求めていたけど、アレスにそんな機能は無い。身体ではなく貴女自身を見ているから、恥ずかしいんじゃないかしら?」
「……なる、ほど? うむ……そうかも、知れぬ……」

 家族の様に一緒に暮らしているクラトスやトリトですらそういう目で見られている、という自覚が何処かにある。
 しかしそれは仕方の無い事だ、サキュバスと言う種族は元々男性をその気にさせてしまう種族だ。
 匂いが、動作が、声が、無意識に男を誘惑してしまう。
 普段はサキュバスは香水を、男は服薬でその影響を押さえているのだがそれでも影響が無いとは言えない。
 しかしアレスは違う、アレスはディータをディータとして見ている。

「貴女が彼を復活させて、本当に良かった……こんなに似ているのにわたしと全く違う貴女、だからこそ彼を正しく導けたのかも」
「導くなど、ワシはそんなつもりは無かったぞ?」
「だから良かったのよ、Astronaut peace hope seek。平和と希望を探す宇宙飛行士、そんな名前を彼に付けたのだから……この時代で生きてきた貴女達だからこそ彼と共に未来を歩んでいけると思うの」

 その名前を前に一回聞いたことがある。
 アレスと言うのは所謂略称で本当は別の意味を持つ名前だと。

「いえ、違うわね。こんな意味も無い大きな事を言っても……貴女達には重荷になる。これまで通り、アレスと友達でいてね?」
「言われずとも、あんないい男簡単に手放せぬわ」

 こんな事言うなんて、本当に母親にでもなった気分だ。
 そう自分の中で、少しだけ温かな気持ちになった。



「……くそ」

 反撃を始めた人類を見て、イアソンは先ず舌打ちをした。
 混乱は確かに収まった、開戦から四時間程経ったのだが、戦況は悪い。
 レールガンがあれば大型の無人兵器を倒す事は可能だ、しかし本当の問題は小型の無人兵器だ。
 大型の無人兵器はその大きさもあって攻撃は大振りだ、だが小型の方は完全に人を狙う為の武器が付けられている。
 中には小型の無人兵器を破壊できている者も居るが数が圧倒的に負けている。
 何よりも。

「疲れ知らずの鉄ゴーレムと人じゃスタミナの差が出てしまう……それに何よりも」

 数だ、数が足りない。
 こちらの数は相手の10倍はあるのに固まって行動すれば大型の無人兵器に薙ぎ払われてしまう。

「お互いの残存戦力はどうなっている!?」
「敵無人兵器、大型が6、小型が13! こちらの戦力は一番隊が一部負傷、二番隊が全滅、三番隊が全滅、五番から七隊が半壊! アイギーナの部隊は兵力が四割減ったとの報告です!」
「……くそ、明日まで持たせる等大口だったか!」

 あの五十m程の大きなロボット、あれの威圧感も凄まじい。
 バリアーを貼っているだけで動いては無いが一部の兵士は戦意を喪失している程だ。
 ここまで戦力差があるとは思っても無かった、このままではあの大きなロボットを攻撃する前に此方が力尽きてしまう。

「最悪、撤退の準備が必要だな……ぺレウスに信号弾を撃つ準備だ、撤退を視野に入れろと伝えろ!」

 夕日が海に沈み始めそうになる時間にこのままでは勝ち目がない、そう思うには十分な状況だった。
 攻め込むのは無理でも防衛だけでも、そう思ったのだが特異な戦力が数名居た所で話にならない。
 力を生かすにも、何か相手の足止めができれば。

「え、あ……イ、イアソン王! 三時の方向から多数の人影! これは、これは……! 白い獅子の旗印、戦闘を戦馬で駆けるのは――オリュンポスのアルケイデス王です!!」
「な、なにぃ!?」

 ありえない、かの王がこの場所に現れる筈がない。

「……あいつ、何で、こんな時期に」

 イアソン王は知っている、今の時期は巨大怪獣が出る可能性があるのでオリュンポスを開ける事はできない筈だ。

「イアソン王! オリュンポス軍から簡易魔法通信です!」
「読み上げろ!」
「ワレラ、トモノタメ、カイジュウト、コノイクサヲ、タタカウ――アルケイデス」

 簡易魔力通信、馬上でも使える様な魔法通信装置だが代わりに使える文字と一度に送れる文字数に制限がある。
 なのでこのように片言に、それも時間をかけて送る事になるのだが。

「あの、馬鹿野郎が。自分が強いからって、たく……この戦勝てるぞ! 巨大怪獣との心得があるオリュンポス軍と連携が取れるなら相手の動きを押さえる事も可能な筈だ! レールガン部隊の装填を急ぐように命令しろ!」
「あ、あの、イアソン王? 信号弾の準備はどうしますか?」
「ああ? あぁそんなの歓迎パーティーの準備にでも変えておけ!」

 海に落ち始めた夕陽に黒い影が見え始めた頃、今の人類に光が見え始めた。
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