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25話 【新人類―カコ―】
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「思えば……ここまでよくも立ち上がったものだ」
様々な電子機器が明滅しながらあらゆる数字を叩きだしていく。
残存戦力、本機、ロムルス5、レムス10、敵の残存戦力、推定250へ増加、内増加量100、重武装した騎馬隊。
ガイアを見た新人類は戦意を喪失しかけていたが新たに現れた騎馬隊の動きは見事な物だ。
レムスに大量のワイヤーを打ち込み縛り上げる、馬上でも衰えない練度から自分達より巨大な相手と戦う事に慣れているのだろう。
雪国は今も怪獣の国だ、それ故に戦術が確立されていったのだろう。
そうで無くてはならない、そうでなくてはいけない。
「我々を乗り越えねばならぬ、乗り越えられぬなら死なねばならぬ。この星で生きていきたいと思うなら戦え」
あらゆる破壊がモニターを通して見えている。
レムスの攻撃を受け止める男がいた、薙ぎ払われた女性がいた、骨が曲がってはいけない方向へ曲がった男がいた、レムスにトドメを刺した女性がいた。
その一人一人を記憶する、散っていった魂を、英雄の誕生を、救う者を、戦う者を。
ガイアのコックピットで全ての命をユピテルは見つめていた。
「決めようではないか。我々が未来へ行くか、貴様達が未来へ行くかを――四度目の、世界大戦にて」
この戦いは必然だ。
今の人類に与えられた運命だ。
未来への道を過去の人類が通るか、今の新人類が通るか。
「む……」
ガイアに搭載されているAIが警告を上げる。
熱源接近、小型戦艦クラス、マッハ2。
明らかに今の人類が出せる速度、大きさではない。
つまり――
「……アレスか」
イレギュラーと言うべきか、それともある意味これも運命と言うべきか。
ウェヌスの作った現代に残る最強の兵器、500年前のリソースが残っていた最後の兵器がこのガイアなら500年前にあった技術全てを注ぎ込んだ兵器がアレスだろう。
今の人類にとって、最大の兵器であるガイア。
今の人類にとって、最強の兵器であるアレス。
その二つが今ぶつかるのだ。
*
「あ、あれって……アルゴナウタイ!? 凄い! 飛んでいる!!」
「あ、あの船飛べたのか!?」
沈みかける夕陽に映るアルゴナウタイにコルキスの艦橋でキルケーが歓喜の声を挙げイアソンが飛んでいる事に驚愕する。
窓の外に映るアルゴナウタイは凄まじい速度で上空を飛んでいる、特徴的な羊の飾りが無ければ解らなかった程の速度だ。
主翼になったイカロスのブースターとアルゴナウタイのブースターを利用しイカリアの島から数時間で到着できた。
「よし! アルケイデスの軍とアルゴナウタイの戦力なら鉄ゴーレム達に打ち勝つこともできる! この戦あのデカブツがどうなるかで決まるぞ!」
イアソンの中にある不安はガイアの事だ。
今も動くそぶりは見せないがバリアーで身を守りレールガンすら受け付けない。
あのガイアをアレス達が何とかしてくれれば、この戦に勝機が見えてくる。
「ア、アルゴナウタイ速度低下……!? あ、な、何か落ちてきてます!」
「あれは……タロスか!?」
*
「2分後に速度低下と同時にハッチを開きます! コレーさん! 発進準備はどうですか!?」
「……ふう、まっかせて下サイ! ボクもプルートも準備はOKデス!」
タロスのコックピットの中でコレーが深呼吸をする。
地上で戦っている人々の為にコレーはタロスで出撃する、上空からの落下だがパラシュートなどは無くイカロスの魔法を利用し速度を落としながら降りる事になる。
時間さえ許されればタロスの装甲をヨクトマシンの装甲に改造する事もできたのだが、この短時間では足に強化魔法を受けられる程度の改造しかできなかった。
それでも落下の衝撃は消しきれない、戦闘に耐えうる程度のダメージに押える事ができるだけだ。
「PM用ブレイド、PM用ショットガン、肩部のミサイルポット、オールグリーン。何時でも行けるぞ、コレー!」
「ハイ! PMタロス! プルートとコレーで出マス!」
アルゴナウタイのハッチが開き夕陽がタロスを照らす。
ロックが解除され自重でカタパルトからタロスが落下していく。
パイロットスーツすらない劣悪な環境での降下で、その振動は常人には耐えられる物ではないがホワイトドラゴンのハーフである彼女は己の体を強化することでその振動に耐えている。
「ブースターを全力で使え! 地面へ墜落した時の衝撃を和らげるんだ!」
「ハイ!」
足を下に、全力でジャンプ用のブースターを起動させ着地の衝撃を軽減する。
勿論急なブレーキによる減速はコレーにも負荷を与える、苦しそうに歯を食いしばり己の身体強化を全力で使用する。
それに足の強化魔法が無ければ落下の衝撃に耐えられないだろう。
降りる、と言うだけの行為に装備が無ければここまでの苦労をする。
「ぐ、く……着地! さあ、行きマスよ! プルート!」
「ああ! 狙いはロムルス、レムスは地上部隊に任せてワタシ達は大型の無人兵器を叩くぞ!」
「ハイ!」
ショットガン構えロムルスに狙いを定める。
地上の部隊が一番苦戦しているのは大型無人兵器のロムルスだ、コルキスからのレールガン以外決定打が無かったが同じサイズのタロスなら互角以上に戦える。
二人の戦いはアルゴナウタイが後方の援護が無くても良いように、ガイアに集中できる環境を作ることだ。
なのでロムルスを倒さなければならないし自分達が倒れる事はあってはならない。
あのガイアが今の人類にとって、最大の脅威なのだから。
*
「タロス降下、着地確認したよ!」
「ありがとうレアちゃん! 兄さん! 突入角を合わせます! 相手から火器の仕様があった場合知らせて下さい!」
「お、おう! 確か音が鳴るんだったな!?」
「ええ、マーズさん! アレスさんとクラトスさんへの第二回線オープン! アレスさんへは艦橋から見える情報を常にリアルタイムで伝えてください!」
『かしこまりました』
バイコーン帽を被ったローデが勢員に指示を出している。
タロスを降下させたアルゴナウタイは一度ガイアの上空を旋回しつつ待機している。
ガイアからの攻撃を警戒すると同時に突入角度の調整を行っている。
「ディータさん、本当に良いんですね?」
「うむ、やるならワシがやるべきだ、昔アレスに頼んでアルゴナウタイの火器データをまとめて貰ってそれを見たこともあるしの」
そう言いながらディータが座っているのは火器管制システム、砲雷長の椅子だ。
子供に火器を使わせたくない、そしてトリトは機械に弱いのでこの位置にディータが座る事になった。
レアはコレーやアレス、クラトスへの通信を行っている。
簡単に使い方を教えてあるので外に出る四人への通信は何時でも可能だ。
トリトはレーダーによる相手の攻撃を知らせる場所に座っている。
トリトはイカロスで戦う事も出来たのだが今回空を飛ぶ空中能力を得るために、イカロスをアルゴナウタイに合体させているので戦闘には出られないのだ。
なのでブザーの音等で解りやすいレーダーの管理をしている。
そしてこれらを総合的に管理しているのはアルゴナウタイに搭載されたアレスのサポートAI、マーズだ。
「此方アレス、通信は繋がった。このままチャンネルは繋げておく。クラトス、そろそろティターンスーツを着てくれ」
「ああ、転身」
アレスとクラトスがいるのは姿勢制御用のチェーンジャベリンが設置されてる場所だ。
勿論人が入る様な場所ではない、二人とも膝に足を付けなければ動けない程の狭さである。
そんな状況で射出されるチェーンジャベリンに捕まりガイアの中に入る作戦だ。
「改めて思うが無茶な作戦だ。射出時も突き刺さった時も衝撃は計り知れないだろう」
「それでも、それしか手が無いんだからやるべきだろう。オレだって確率が高く安全な方があるならそっちで行きたいが……確率が低く危険な作戦しかないのならそれでも進むさ」
ティターンアーマーを装着したクラトスがジャベリンの上に跨る。
覚悟の決まったクラトスに、アレスは何時の間にか頬が緩んでいた。
「前々から思っていたが。皆は、今の人類は強いな……どんな時でも前に進もうとしている」
「そうか? 意識したことはないが……」
同じようにジャベリンに跨りながら、アレスはふとそんな事を言った。
勿論クラトスにそんな自覚は無い、そもそもその比較が出来るのは500年前の人類を知っている者だけだ。
「そうさ、今の人類は何と言うか……ああ、そうだな、元気だ」
戦争に疲れ切っていた500年前の人類とは違う。
明日の為に、明後日の為に未来の為に生きている。
そんな姿が、アレスに取って凄く輝かしく見えた。
「元気か、曖昧だな。だが悪い気分では無い」
「そう思ってくれると助かる。この数か月皆と過ごして得た答えなんだ――なんだ、あれは……?」
準備をしていたアレスの動きが止まった。
今彼の視界は半分が艦橋の映像を見ている。
その映像で、ガイアがこちらに手を向けているのが見える。
勿論上空を飛んでいるアルゴナウタイにその拳が届く事は無い、それ故に何をしているのかが解らない。
「どうした?」
「手のひらが、開いて……金の、光……? ――クロケアモスルだ!! 避けろおおおお!!」
普段声を上げる事の無いアレスがこの通路で響くくらいの大きな声を上げる。
だが、それ程の事態だった、それ程の脅威だった。
サフラン色の死神と呼ばれるクロケアモルスがアルゴナウタイに襲い掛かるのだった。
*
「緊急回避!! 皆さん椅子に捕まって下さい!!」
ローデが大声で叫ぶと同時にアルゴナウタイが大きく機体を逸らす。
全員が悲鳴を上げながらも椅子の上で悲鳴を挙げる。
アルゴナウタイの艦橋にある椅子は重力操作で人が張り付くように座る事ができる。
しかしその機能があってなお、椅子にしがみ付かなくては振り落とされてしまう位にアルゴナウタイは無茶な体勢を取った。
そうでなくては、この黄金の光に切り裂かれてしまうから——
「うわあああああ!?」
艦橋にいる全員が断末魔の様な悲鳴を上げ艦橋のあらゆるモニターが赤い警告を発する。
放たれた黄金の光はアルゴナウタイを掠める様に天へと昇っていく、その余波でも船内は大きく揺れ船底の装甲を焼き溶かす。
「マーズさん! ダメージは!?」
『船底と第五ブースターに余波が被弾! 飛行にも作戦にも問題は無いハズです!』
「な、何じゃ今の……爆弾か!?」
「大型の荷電粒子砲だ! 高出力部が当たればバリアすら貫通するぞ!」
通信からアレスの声が響く、彼の声から冗談を言っている訳ではないのがよく分かる。
クロケアモルス、当時電磁バリアーへの攻撃手段として開発されていた対バリア用の攻撃兵器だ。
当時の技術ですら大出力すぎて装置が巨大化、本来の目的はPMに持たせるレベルの小型化を目指したのに失敗、防衛兵器になってしまった。
しかし、戦艦ローマと合体したガイアは通常のPMの数倍の大きさを誇る巨大兵器、その出力を介してクロケアモルスを腕に装着する事が可能になった。
「くっそ、あの二人でてく前に教えろってんだよ!?」
「アレスさん! クラトスさん! 大丈夫ですか!?」
戦場に着く少し前に水上バイクで降りて行ったウェヌスとディアナに悪態を付くトリト。
それ以上にレアは船底の近くに居たアレスとクラトスに声をかけていた。
「大丈夫だ! 周りは少し溶けたが俺もクラトスも平気だ!」
「事前にアーマーを着てなければ危なかったな……」
二人の声が聞こえてきたことにレアが安堵のため息を吐く。
しかし、あんな物が直撃すればアルゴナウタイですら危険なのは変わらない。
「第二射が来る前にこっちの作戦を開始します! ディータさん! 全ての火器をアクティブ! ガイアにロックオン! ミラービット展開!」
「うむ、後は発射指示を待てば良いのだな?」
モニターにガイアが表示されロックオンされた音が聞こえる。
説明を聞いた通り、このロックオンが終わった後にディータがボタンを押せばアルゴナウタイの火器を使用できる。
コントロールレーザー、直線の光線を特殊加工の有線ミラービットにより他方向への攻撃を可能にした光学兵器だ。
その破壊力はロムルスですら数発の被弾で機能停止になる程の威力がある。
しかし、その破壊力があっても闇雲に撃っては相手の電磁バリアーに弾かれるだけだ。
『熱源反応! クロケアモルス第二射! 来ます!!』
「コントロールレーザー!! 発射!!」
「うむ!!」
ディータがボタンを押すと同時に赤く細い光線が六発発射される。
貫通力の高い光線兵器ですら本来は電磁バリアーに効果は無い。
しかし、その足元は別だ。
『ガイアの足元にコントロールレーザーの着弾を確認! 体勢が崩れました!』
「電磁バリアー展開! 圧力最大! レアちゃん! 電磁バリアーの稼働カウント! 5秒毎にお願い!」
「うん! バリヤー展開! カウントは後60秒!」
「一分か……! その間に相手のばりやー破ってアレスとクラトスを送り込むのか!」
「これしか手が無いのじゃから、やるしかないじゃろ!」
「出力最大! 全速前進! 皆! 衝撃に備えて!」
『全速前進! ヨーソロー!』
ブースターの全てを使いアルゴナウタイがクロケアモルスを回避しながらガイアに突撃する。
今のアルゴナウタイでは電磁バリヤーを一分しか保つ事ができない、その一分以内にガイアの電磁バリヤーを破りチェーンジャベリンを打ち込まなければならない。
不利な戦いだ、しかしこれしか勝つ手段は無い。
「カウント、55!」
「アルゴナウタイ……突撃ぃ!!」
ローデの雄叫びと共にお互いの電磁バリヤーがぶつかり合い、激しい稲光を産む。
地上に居る人類や無人兵器はまるで太陽が近くにある様な光に目を眩ませお互いがその手を止めている。
「カウント50!」
「マーズ! 電磁バリヤーの突破は!?」
『ダメです! 今のままの速度では電磁バリヤーの破壊は三分後です! 相手の電磁バリヤーの出力が思った以上に高かったのと先ほど被弾した第五ブースターが影響しています!』
「作戦に支障ねぇんじゃなかったのかよ!?」
アルゴナウタイ全体が揺れて赤い危険信号が鳴り響く。
何か、何か手は無いかと、このまま引き下がっては次は無い、この一瞬で勝負を付けなくてはならない。
「カウント45!」
「……まだか? このままでは……」
「待とう、俺ですらここから策は浮かばないが、この船を知り尽くしているローデなら、きっと……!」
チェーンジャベリンにしがみ付きながらアレスは前を見据えていた。
ガイアの電磁バリヤーの圧力は想像以上だった、自分が船長を勤めていたのならこの場で即座に引いていただろう。
しかしローデは引いていない、何か策があるのか、諦めていないのか、この状態を維持している。
この船の事なら既にアレスと同等の知識がある、そして今の人類の持つ力強い発想力なら、この事態を打破できるかも知れない。
「カウント40!」
「どうするのじゃ!?」
「……マーズ! アルゴナウタイの出力をオーバーブースト! 大気圏突破用のエンジンを使います!」
『なんですって!? 嫌、だが、それなら! かしこまりました! ローデ、スイッチを!』
「いっけぇええええ!!」
普段は押せない様にシャッターが閉まっているスイッチを開くと同時に拳で殴る様にローデが押し込む。
ブーストのエネルギーが大きく増大しバリヤーのぶつかり合いにも負けない程の光になる。
本来、何かを別の用途に使う、と言う発想はAIには難しい。
特に用途が限定されている物を代用したりして使う事は、機械的な部分をどうしても拭えないアレスやマーズには持ちえない発想だった。
その発想力に、アレスは賭けた。
「カウント35!」
『オーバーブースト! 残り時間30! ですが効果あり! 電磁バリアーを押し込んでいます!』
「そのまま、限界ギリギリまで、相手の電磁バリアーを砕くまで進めて!」
少しずつ、本当に少しずつだがアルゴナウタイはガイアの電磁バリアーに食い込む様に押し進んでいく。
「カウント30!」
「もう少し、もう少し……!」
「こ、これではどっちが潰れるかじゃな……!」
「相手も動けねぇのが救いか……!」
ガイアも電磁バリアーを使っている間は攻撃が出来ないのだろう、防御に精一杯に見える。
「カウント25!」
『ローデ! オーバーブーストの稼働限界までカウント20! エンジンの限界が近づいています!』
「ギリギリまで! ギリギリまでバリアーを破る為に……!」
(ローデ……こんなに大きくなったんだな……)
睨むようにバリアーの攻防を見ているローデにトリトは見惚れていた。
あの時、寒さで震える事しか出来なかった彼女が今やこんなに大きな船を任される程になった。
「カウント20!」
(今や人類の命運を決める戦いをしている、か……オレも随分遠い所に来たもんだぜ)
発掘者だったディータ。
その発掘者の護衛だったトリト。
そして家で帰りを待つだけだったローデ。
仲間が増え、この数カ月で大きく環境が変わってしまった気がする。
「カウント15!」
『敵の電磁バリアーに歪み、このまま行けます!』
「チェーンジャベリンの射出準備! バリアーに穴が空いたと同時に射出します!」
ガラスに皹が入る様に、ガイアの電磁バリアーが破れていく。
今の人類が決して破る事のできない鉄壁の守りを、今の人類が操作する古代兵器が打ち破った。
「カウント10!」
『電磁バリア-突破!』
「チェーンジャベリン! 射出!!」
「うむ! アレス、クラトス! ちゃんと帰ってくるのじゃぞ!?」
ローデの号令と共にチェーンジャベリンが二人を乗せて発射された。
*
「…………まるで、海賊だな」
電磁バリアーが破られている様子をユピテルはずっと見つめていた。
その戦法、後半の応用力、全く度し難い。
船を無理矢理接近させ、鎖を伸ばして人を送り込む。
大航海時代の海賊の様な戦法、こんな戦法をあのアレスが考えるとは。
「しかし愚かな……あれでは船を動かす者が居ないでは無いか……船を捨てたか?」
ユピテルは想像すらしてない、あの船を動かしているのがアレスでは無いと。
チェーンにしがみつきながらアーマーを換装するアレスを見る、その後ろにティターンアーマーを着ている今の人類を見る。
今の人類がティターンアーマーを着ている事には驚かない、あれは子供ですら兵器に変える、どんな人間でも一定以上の戦力を持てる、そういうコンセプトの兵器だ。
「……あれは、セイレーンアーマーか」
セイレーンアーマー、対艦用の武装を様々取り付けたアレスで無いとその戦力を十分に発揮できない換装武装。
両肩に対人殲滅兵器のクレイモア、戦艦装甲用にパイルバンカー、ハッキング及び電子破壊用にボルトワイヤー、そしてプラズマを利用した円型の切断兵器。
あまりに大型で各種の武装を一遍に積めばバランスを崩し碌に戦えなくなるだろう。
アレスの様に高次元の思考速度を持ったコスモAIを持つ彼だからこそ使えるアーマーだ。
そんなアレスがチェーンジャベリンに張りつきパイルバンカーを着弾と同時に起動させローマの装甲を打ち砕く。
そのまま素早く二人が戦艦に乗り込んでくる、それはそうだ、もう後数秒で再生する電磁バリアーは鎖を地面に叩きつけるだろう。
しかしそれは、鎖を繋いでいるアルゴナウタイにも影響が出るだろう。
鎖だけを切ればいいが操作する者が居ない艦をどうするのか、それを見ていたかった。
――だが。
「な、に……!?」
アルゴナウタイは打ち込んだ鎖がローマに着弾すると同時に断ち切り、その上で即座に離脱した。
しかもその上で地上部隊の大型無人兵器に攻撃を始めている、見た所AIによる補助はあれど的確な指揮者が居る動きだ。
「馬鹿な――あの船を、我々の時代の船を動かしている人間がいるのか!?」
アレスの様なAIを持つロボットが他に居ないとは言わない、しかし調査の結果そのロボットはあの船に乗っていない事が解っている。
他に操縦している者が居るとすれば同じように500年の時を生きた誰かだ、しかしあの者たちが裏切る事はありえない、それではこの戦いに意味が無い。
「居るのか……? あの船を操縦する程の知識を持った今の時代の人間が……!?」
何て愚か、何て愚劣、何て愚昧。
コルキスの姫等この人間の前では霞む、何がキルケーを倒す事がこの戦の勝利になるだ。
アレだ、あの人間だ、姿形も見たことの無いあの人間こそがこの戦いを決める敵だった。
「……アビリティコネクターによるガイアの機能停止か。ガイアは防衛モードで待機だ」
ガイアが揺れてその動きを止めてしまう。
下のフロアでアレスがこのガイアの動きを止めたのだろう、これでは侵入者の二人を押さえるのも難しいかも知れない。
「……あの船を、落とす必要があるか。その上で、コンセンテスの発動も必要かも知れん――ウェスタ。ポイボスとヴァルカンに戦艦を落とすよう連絡しろ」
「――はい、かしこまりました」
ユピテルの裏に、ずっと立っていたウェスタが答える。
まるで彫刻の様に、意思も無しに立ち続けていた彼女、既に任務コードで本人の意思は無くただ命令を聞くだけの人形になっている。
彼女の意思とは関係なく、彼女の育て上げた我が子を危険に晒すのだった。
*
「こっちだ! ユピテルの居る場所を見つけた! 艦橋にいる!」
ガイアの中に潜入したアレスが最初に行ったのはクロケアモルスの無効化だった。
アビリティコネクターを利用してガイアのあらゆる武装を停止させ、その上でこのガイア、正確にはガイアとドッキングしている戦艦ローマのマップを得た。
ユピテルが居るのは恐らく艦橋、リーダーらしく一番戦況が見える場所で構えているのだろう。
「指揮官の場所か、相応しいと言えばそうだが……距離はどのくらいだ?」
「直線では10メートルだが、途中に誰かが居る」
クラトスと共に走りながら先ほど艦内カメラで見た映像を思い出す。
艦橋に入る寸前の部屋で、この艦にユピテルとウェスタ以外の人影が唯一あった。
この状況で残っているのは今の人類ではない、カメラの映像でもヒトとは思えなかった。
「門番か?」
「恐らくはな……そして、その門番は恐らく――」
走っている間にその部屋には簡単にたどり着く。
その門番に相当自信があるのか、それともこの場所にたどり着けるとは思えなかったのか。
ともかく、その場所に立っていたのは――
「なんだ、アイツは……?」
「アレス、か?」
「ほお、衰退人類がここに立てるとは思わなかった」
「この、声は……貴様マルスか!?」
聞き覚えのある声にクラトスは即座に構える。
声を聴くまでマルスだと分からなかったのはマルスの見た目のせいだ。
似ている、アレスに似ているのだ。
スパルの村で対決した時もアレスのプロトボディを使っていたのでその時点でも似ていたが今回は違う。
アーマーの細かな違いはあれど一見すると見た目はアレスそのもので同じように暮らしていたアルゴナウタイの者でなければ見間違えてしまうくらいだ。
「あの時の術師か……よくある話だがユピテルに会いに行きたければ我を倒せ」
そう言ってあの時と同じ様にΛ型の光の剣を取り出す。
あの時の様にプロトボディを遠隔操作していた時とは違う、本当の英雄マルスが二人の前に立ちふさがる。
「そう言うのならそうさせて貰うが……お前は、何の為に戦うんだ? この戦争にどんな意味がある?」
構えを解かないまま、クラトスはマルスに問いかける。
勿論今でも彼を許す事など出来ない、しかしクラトスは知ったのだ。
500年前の人類が何を思っているのか、戦うのは運命だと言っていたがそれと同時に戦うだけが全てではない。
「クラトス……」
「何の為に、だと?」
何を目的に戦うのか、何をする為に戦っているのか。
今でも500年前の人類の目的は解らない、何故戦争をしなければならないのか。
「そうだ、他の500年前の人類に会ってこの戦いに目的があるのは解った。その目的はお前も話す事ができないの――」
「ふざけるなぁああああ!!!」
「クラトス!!!」
マルスからの言葉を待っていたクラトスの前にアレスが立ちふさがる。
即座に自分のメリアルセイバーを起動し振り下ろされた狂刃からクラトスを守った。
「く!? 何故だ!? お前だって――」
「前にも言ったはずだ! 我の目的は戦う事! 戦争の高揚感こそが我の望み! 怪獣を切り殺すだけでは味わえない人間と戦い殺し合う快楽! 実に498年ぶりの高揚感だ!」
「クラトス!」
「……ああ!」
狂ったように頬を歪ませるマルスに話は無駄とクラトスも悟った。
戦うしかない、戦うしか道はない、この英雄を打ち倒さなければこのガイアは止まらないだろう。
しかし相手はあのマルス、500年前の戦争で英雄と呼ばれた当時最強であろう戦士だ。
「メリアルセイバーはティターンアーマーごと切り裂かれる、あの刃は俺が止めるから援護を頼む!」
「ああ、元々オレの格闘技術はティターンアーマーの補助があってこそだ。前列は任せる」
「懸命だな……そのスーツとは何百体も戦っている」
マルスは500年前から戦っている、勿論ティターンアーマーの戦闘補助能力も知っている。
己の物でない格闘戦を挑んで戦える程マルスは甘くは無いだろう。
「あの時とは違う、完全な我に勝てるか?」
「勝つさ、俺達は進まないといけないんだ!」
アレスの振るう光刃をあっさりとマルスが受け止める。
あの時より鋭く、正確に、マルスの身体を切り裂こうと光を走らせる。
「はっはっは! 剣は振るわずとも何度もシュミレートは行ってきた様だな! そうでなくては面白くない! この500年セイバー戦を行える相手等終ぞ現れなかったからな!」
しかしマルスはアレスの攻撃をあっさりと受け止めいなしている。
本来ならロボットの反応速度で勝てるアレスの方が有利なのにその全てにマルスは追いついている。
(何故だ……!? 新しい動きもインプットしているのに追いつけない!? それに――)
「フン!! はあ!!」
「な!? ぐあ!?」
「アレス!!」
突然セイバーの出力を上げて地面に叩きつけ大きな光の刃を作り出す、その刃に一瞬気を取られたアレスはセイバーを持っていない手でアレスの胸部を撃つ。
ガァン! という甲高い金属音が鳴り響きアレスが吹き飛ばされ戦艦の壁に皹を入れる程の勢いで衝突する。
何が起きたかを一瞬で判断し態勢を整える、追撃が来るかと思ったがマルスはその場を動かず、しかしそれ故にアレスはとある状況を理解した。
「マルス、貴様の腕……ヘラクレス合金か!?」
「腕だけではない、この脳と髄液以外は全てがヘラクレス合金だ……そしてエネルギー回路はクロノス、解るな?」
「……殆どがアレスと同じ!?」
ヘラクレス合金に万能変換機クロノス。
アレスと同じ体、それなのにその戦闘能力は全く違う。
「元々我の戦闘能力を再現する事を目的に作られたのがお前だ、あの女はそんな目的など関係無しにお前を開発していたが大元はそこだ。当時の我なら当然苦戦はしただろうよ」
「……500年分の、研鑽がお前にはあるのか?」
「当然だ! この500年その全てを戦争の為、己を研鑽し続けた!」
ダメだ、このままでは勝機はない。
アレスと同じスペックでアレス以上の戦術。
アレスだけでは勝機は無い、そう確信するのに十分な差があった。
*
「電磁バリアーを収縮! ロムルスと戦っている部隊を援護します! コントロールレーザー第二射! 発射して下さい!!」
アルゴナウタイからアレスとクラトスを送り出した後、即座に離脱しロムルスを倒すために動き出す。
コントロールレーザーなら十分ロムルスを打倒できる攻撃力がある。
「うむ、ロックオンは終わっておる、コルキスのレールガンと連携してもう一度ロムルスを攻撃じゃ!」
「おし! 一体倒した! ……あ? えっと、こっちか? あ? おい、あれ、なんだ?」
ロムルスにコントロールレーザーを当て一体撃墜したのを見たトリトはふと、見ていたレーダーに新しい反応があったのを見つけた。
位置的には左舷側に、艦橋から見える位置だったのでトリトは思わず肉眼でその光景を確認した。
小さな豆にも見えた物がドンドンと大きくなっていく。
「へ!? マーズ!」
『解析、ミサイル……いや戦闘機です! 真っ直ぐ此方へ突っ込んできます!!』
「ぶ、ぶつかっちゃうよ!?」
「迎撃を! ディータさん!」
「速度が速くてロックオンが定まらぬ! 撃つだけ撃つが、当たるかは解らぬぞ!?」
凄まじい速度で上空から、音速の壁を越え円錐の雲を作りながらコントロールレーザーを回避しながら、しかし攻撃する事はなく、アルゴナウタイに突き進んでくる。
「な、なんじゃあの速度!? 攻撃するまでもなく突っ込んくるぞ!?」
「あ、あわわわわわわ!?」
「おいおい!?」
「く!? マーズ! 電磁バリアー展開!」
『え!? バリアーシステムの冷却はまだ終了してませんが!?』
「直撃を避けられればいいです! 艦橋以外に当たるようにアルゴナウタイの軌道修正! 対ショック防御! 皆さん衝撃に備えて下さい!!」
空を斬る音と共に戦闘機が半端に張られた電磁バリアーを突破しアルゴナウタイの甲板とイカロスがドッキングしていた位置に突撃してくる。
「うわああああああ!?」
『行けません!! イカロスのエンジン損傷!! アルゴナウタイのバランサー推力低下!!』
艦橋全員の悲鳴と振動にアルゴナウタイが大きくバランスを崩し大きな爆発音が響く。
翼をも破壊されアルゴナウタイは地面に堕ちていくのだった。
*
「おいおい、本当にアレスが居ねぇのに戦艦を動かしてたぜ、ヴァルカンの旦那」
突き刺さった戦闘機から二つの影が降りてくる。
一人はポイボス、以前キプロの街でマリオンを殺した500年前の人間だ。
その隣には険しい顔をしているヴァルカン、アイギーナで大きな被害を出した同じ500年前の人間だ。
「どしたん? トーク聞こか?」
「ポイボス……劣化人類共がこの船を動かしているだと? 本当か?」
「あー、そうなんじゃねぇの? この規模の戦艦をAIだけは不可能だし、補助があるにしても最低四人は居ねぇと何ともならんっしょ?」
ポイボスだって500年前の人間だ、その500年前に戦争屋をやっていた彼はそれなりに機械に知識がある。
どうすれば機械を動かせるか、何をすれば戦力を削げるかの知識は戦争において必然だ。
このアルゴナウタイを攻略するに当たってコントロールレーザーを回避するために、マッハを越える速度を維持できる秘蔵の戦闘機を使って特攻を仕掛けた。
その効果は十分でアルゴナウタイの無力化を成し遂げた。
「……劣化人類如きが、ふざけている」
「ひえー、ヴァルカンの旦那がおこだよ。んじゃ俺様もお仕事と行きますかー」
二人の凶刃が不時着を始めたアルゴナウタイの中へ進んでいくのだった。
様々な電子機器が明滅しながらあらゆる数字を叩きだしていく。
残存戦力、本機、ロムルス5、レムス10、敵の残存戦力、推定250へ増加、内増加量100、重武装した騎馬隊。
ガイアを見た新人類は戦意を喪失しかけていたが新たに現れた騎馬隊の動きは見事な物だ。
レムスに大量のワイヤーを打ち込み縛り上げる、馬上でも衰えない練度から自分達より巨大な相手と戦う事に慣れているのだろう。
雪国は今も怪獣の国だ、それ故に戦術が確立されていったのだろう。
そうで無くてはならない、そうでなくてはいけない。
「我々を乗り越えねばならぬ、乗り越えられぬなら死なねばならぬ。この星で生きていきたいと思うなら戦え」
あらゆる破壊がモニターを通して見えている。
レムスの攻撃を受け止める男がいた、薙ぎ払われた女性がいた、骨が曲がってはいけない方向へ曲がった男がいた、レムスにトドメを刺した女性がいた。
その一人一人を記憶する、散っていった魂を、英雄の誕生を、救う者を、戦う者を。
ガイアのコックピットで全ての命をユピテルは見つめていた。
「決めようではないか。我々が未来へ行くか、貴様達が未来へ行くかを――四度目の、世界大戦にて」
この戦いは必然だ。
今の人類に与えられた運命だ。
未来への道を過去の人類が通るか、今の新人類が通るか。
「む……」
ガイアに搭載されているAIが警告を上げる。
熱源接近、小型戦艦クラス、マッハ2。
明らかに今の人類が出せる速度、大きさではない。
つまり――
「……アレスか」
イレギュラーと言うべきか、それともある意味これも運命と言うべきか。
ウェヌスの作った現代に残る最強の兵器、500年前のリソースが残っていた最後の兵器がこのガイアなら500年前にあった技術全てを注ぎ込んだ兵器がアレスだろう。
今の人類にとって、最大の兵器であるガイア。
今の人類にとって、最強の兵器であるアレス。
その二つが今ぶつかるのだ。
*
「あ、あれって……アルゴナウタイ!? 凄い! 飛んでいる!!」
「あ、あの船飛べたのか!?」
沈みかける夕陽に映るアルゴナウタイにコルキスの艦橋でキルケーが歓喜の声を挙げイアソンが飛んでいる事に驚愕する。
窓の外に映るアルゴナウタイは凄まじい速度で上空を飛んでいる、特徴的な羊の飾りが無ければ解らなかった程の速度だ。
主翼になったイカロスのブースターとアルゴナウタイのブースターを利用しイカリアの島から数時間で到着できた。
「よし! アルケイデスの軍とアルゴナウタイの戦力なら鉄ゴーレム達に打ち勝つこともできる! この戦あのデカブツがどうなるかで決まるぞ!」
イアソンの中にある不安はガイアの事だ。
今も動くそぶりは見せないがバリアーで身を守りレールガンすら受け付けない。
あのガイアをアレス達が何とかしてくれれば、この戦に勝機が見えてくる。
「ア、アルゴナウタイ速度低下……!? あ、な、何か落ちてきてます!」
「あれは……タロスか!?」
*
「2分後に速度低下と同時にハッチを開きます! コレーさん! 発進準備はどうですか!?」
「……ふう、まっかせて下サイ! ボクもプルートも準備はOKデス!」
タロスのコックピットの中でコレーが深呼吸をする。
地上で戦っている人々の為にコレーはタロスで出撃する、上空からの落下だがパラシュートなどは無くイカロスの魔法を利用し速度を落としながら降りる事になる。
時間さえ許されればタロスの装甲をヨクトマシンの装甲に改造する事もできたのだが、この短時間では足に強化魔法を受けられる程度の改造しかできなかった。
それでも落下の衝撃は消しきれない、戦闘に耐えうる程度のダメージに押える事ができるだけだ。
「PM用ブレイド、PM用ショットガン、肩部のミサイルポット、オールグリーン。何時でも行けるぞ、コレー!」
「ハイ! PMタロス! プルートとコレーで出マス!」
アルゴナウタイのハッチが開き夕陽がタロスを照らす。
ロックが解除され自重でカタパルトからタロスが落下していく。
パイロットスーツすらない劣悪な環境での降下で、その振動は常人には耐えられる物ではないがホワイトドラゴンのハーフである彼女は己の体を強化することでその振動に耐えている。
「ブースターを全力で使え! 地面へ墜落した時の衝撃を和らげるんだ!」
「ハイ!」
足を下に、全力でジャンプ用のブースターを起動させ着地の衝撃を軽減する。
勿論急なブレーキによる減速はコレーにも負荷を与える、苦しそうに歯を食いしばり己の身体強化を全力で使用する。
それに足の強化魔法が無ければ落下の衝撃に耐えられないだろう。
降りる、と言うだけの行為に装備が無ければここまでの苦労をする。
「ぐ、く……着地! さあ、行きマスよ! プルート!」
「ああ! 狙いはロムルス、レムスは地上部隊に任せてワタシ達は大型の無人兵器を叩くぞ!」
「ハイ!」
ショットガン構えロムルスに狙いを定める。
地上の部隊が一番苦戦しているのは大型無人兵器のロムルスだ、コルキスからのレールガン以外決定打が無かったが同じサイズのタロスなら互角以上に戦える。
二人の戦いはアルゴナウタイが後方の援護が無くても良いように、ガイアに集中できる環境を作ることだ。
なのでロムルスを倒さなければならないし自分達が倒れる事はあってはならない。
あのガイアが今の人類にとって、最大の脅威なのだから。
*
「タロス降下、着地確認したよ!」
「ありがとうレアちゃん! 兄さん! 突入角を合わせます! 相手から火器の仕様があった場合知らせて下さい!」
「お、おう! 確か音が鳴るんだったな!?」
「ええ、マーズさん! アレスさんとクラトスさんへの第二回線オープン! アレスさんへは艦橋から見える情報を常にリアルタイムで伝えてください!」
『かしこまりました』
バイコーン帽を被ったローデが勢員に指示を出している。
タロスを降下させたアルゴナウタイは一度ガイアの上空を旋回しつつ待機している。
ガイアからの攻撃を警戒すると同時に突入角度の調整を行っている。
「ディータさん、本当に良いんですね?」
「うむ、やるならワシがやるべきだ、昔アレスに頼んでアルゴナウタイの火器データをまとめて貰ってそれを見たこともあるしの」
そう言いながらディータが座っているのは火器管制システム、砲雷長の椅子だ。
子供に火器を使わせたくない、そしてトリトは機械に弱いのでこの位置にディータが座る事になった。
レアはコレーやアレス、クラトスへの通信を行っている。
簡単に使い方を教えてあるので外に出る四人への通信は何時でも可能だ。
トリトはレーダーによる相手の攻撃を知らせる場所に座っている。
トリトはイカロスで戦う事も出来たのだが今回空を飛ぶ空中能力を得るために、イカロスをアルゴナウタイに合体させているので戦闘には出られないのだ。
なのでブザーの音等で解りやすいレーダーの管理をしている。
そしてこれらを総合的に管理しているのはアルゴナウタイに搭載されたアレスのサポートAI、マーズだ。
「此方アレス、通信は繋がった。このままチャンネルは繋げておく。クラトス、そろそろティターンスーツを着てくれ」
「ああ、転身」
アレスとクラトスがいるのは姿勢制御用のチェーンジャベリンが設置されてる場所だ。
勿論人が入る様な場所ではない、二人とも膝に足を付けなければ動けない程の狭さである。
そんな状況で射出されるチェーンジャベリンに捕まりガイアの中に入る作戦だ。
「改めて思うが無茶な作戦だ。射出時も突き刺さった時も衝撃は計り知れないだろう」
「それでも、それしか手が無いんだからやるべきだろう。オレだって確率が高く安全な方があるならそっちで行きたいが……確率が低く危険な作戦しかないのならそれでも進むさ」
ティターンアーマーを装着したクラトスがジャベリンの上に跨る。
覚悟の決まったクラトスに、アレスは何時の間にか頬が緩んでいた。
「前々から思っていたが。皆は、今の人類は強いな……どんな時でも前に進もうとしている」
「そうか? 意識したことはないが……」
同じようにジャベリンに跨りながら、アレスはふとそんな事を言った。
勿論クラトスにそんな自覚は無い、そもそもその比較が出来るのは500年前の人類を知っている者だけだ。
「そうさ、今の人類は何と言うか……ああ、そうだな、元気だ」
戦争に疲れ切っていた500年前の人類とは違う。
明日の為に、明後日の為に未来の為に生きている。
そんな姿が、アレスに取って凄く輝かしく見えた。
「元気か、曖昧だな。だが悪い気分では無い」
「そう思ってくれると助かる。この数か月皆と過ごして得た答えなんだ――なんだ、あれは……?」
準備をしていたアレスの動きが止まった。
今彼の視界は半分が艦橋の映像を見ている。
その映像で、ガイアがこちらに手を向けているのが見える。
勿論上空を飛んでいるアルゴナウタイにその拳が届く事は無い、それ故に何をしているのかが解らない。
「どうした?」
「手のひらが、開いて……金の、光……? ――クロケアモスルだ!! 避けろおおおお!!」
普段声を上げる事の無いアレスがこの通路で響くくらいの大きな声を上げる。
だが、それ程の事態だった、それ程の脅威だった。
サフラン色の死神と呼ばれるクロケアモルスがアルゴナウタイに襲い掛かるのだった。
*
「緊急回避!! 皆さん椅子に捕まって下さい!!」
ローデが大声で叫ぶと同時にアルゴナウタイが大きく機体を逸らす。
全員が悲鳴を上げながらも椅子の上で悲鳴を挙げる。
アルゴナウタイの艦橋にある椅子は重力操作で人が張り付くように座る事ができる。
しかしその機能があってなお、椅子にしがみ付かなくては振り落とされてしまう位にアルゴナウタイは無茶な体勢を取った。
そうでなくては、この黄金の光に切り裂かれてしまうから——
「うわあああああ!?」
艦橋にいる全員が断末魔の様な悲鳴を上げ艦橋のあらゆるモニターが赤い警告を発する。
放たれた黄金の光はアルゴナウタイを掠める様に天へと昇っていく、その余波でも船内は大きく揺れ船底の装甲を焼き溶かす。
「マーズさん! ダメージは!?」
『船底と第五ブースターに余波が被弾! 飛行にも作戦にも問題は無いハズです!』
「な、何じゃ今の……爆弾か!?」
「大型の荷電粒子砲だ! 高出力部が当たればバリアすら貫通するぞ!」
通信からアレスの声が響く、彼の声から冗談を言っている訳ではないのがよく分かる。
クロケアモルス、当時電磁バリアーへの攻撃手段として開発されていた対バリア用の攻撃兵器だ。
当時の技術ですら大出力すぎて装置が巨大化、本来の目的はPMに持たせるレベルの小型化を目指したのに失敗、防衛兵器になってしまった。
しかし、戦艦ローマと合体したガイアは通常のPMの数倍の大きさを誇る巨大兵器、その出力を介してクロケアモルスを腕に装着する事が可能になった。
「くっそ、あの二人でてく前に教えろってんだよ!?」
「アレスさん! クラトスさん! 大丈夫ですか!?」
戦場に着く少し前に水上バイクで降りて行ったウェヌスとディアナに悪態を付くトリト。
それ以上にレアは船底の近くに居たアレスとクラトスに声をかけていた。
「大丈夫だ! 周りは少し溶けたが俺もクラトスも平気だ!」
「事前にアーマーを着てなければ危なかったな……」
二人の声が聞こえてきたことにレアが安堵のため息を吐く。
しかし、あんな物が直撃すればアルゴナウタイですら危険なのは変わらない。
「第二射が来る前にこっちの作戦を開始します! ディータさん! 全ての火器をアクティブ! ガイアにロックオン! ミラービット展開!」
「うむ、後は発射指示を待てば良いのだな?」
モニターにガイアが表示されロックオンされた音が聞こえる。
説明を聞いた通り、このロックオンが終わった後にディータがボタンを押せばアルゴナウタイの火器を使用できる。
コントロールレーザー、直線の光線を特殊加工の有線ミラービットにより他方向への攻撃を可能にした光学兵器だ。
その破壊力はロムルスですら数発の被弾で機能停止になる程の威力がある。
しかし、その破壊力があっても闇雲に撃っては相手の電磁バリアーに弾かれるだけだ。
『熱源反応! クロケアモルス第二射! 来ます!!』
「コントロールレーザー!! 発射!!」
「うむ!!」
ディータがボタンを押すと同時に赤く細い光線が六発発射される。
貫通力の高い光線兵器ですら本来は電磁バリアーに効果は無い。
しかし、その足元は別だ。
『ガイアの足元にコントロールレーザーの着弾を確認! 体勢が崩れました!』
「電磁バリアー展開! 圧力最大! レアちゃん! 電磁バリアーの稼働カウント! 5秒毎にお願い!」
「うん! バリヤー展開! カウントは後60秒!」
「一分か……! その間に相手のばりやー破ってアレスとクラトスを送り込むのか!」
「これしか手が無いのじゃから、やるしかないじゃろ!」
「出力最大! 全速前進! 皆! 衝撃に備えて!」
『全速前進! ヨーソロー!』
ブースターの全てを使いアルゴナウタイがクロケアモルスを回避しながらガイアに突撃する。
今のアルゴナウタイでは電磁バリヤーを一分しか保つ事ができない、その一分以内にガイアの電磁バリヤーを破りチェーンジャベリンを打ち込まなければならない。
不利な戦いだ、しかしこれしか勝つ手段は無い。
「カウント、55!」
「アルゴナウタイ……突撃ぃ!!」
ローデの雄叫びと共にお互いの電磁バリヤーがぶつかり合い、激しい稲光を産む。
地上に居る人類や無人兵器はまるで太陽が近くにある様な光に目を眩ませお互いがその手を止めている。
「カウント50!」
「マーズ! 電磁バリヤーの突破は!?」
『ダメです! 今のままの速度では電磁バリヤーの破壊は三分後です! 相手の電磁バリヤーの出力が思った以上に高かったのと先ほど被弾した第五ブースターが影響しています!』
「作戦に支障ねぇんじゃなかったのかよ!?」
アルゴナウタイ全体が揺れて赤い危険信号が鳴り響く。
何か、何か手は無いかと、このまま引き下がっては次は無い、この一瞬で勝負を付けなくてはならない。
「カウント45!」
「……まだか? このままでは……」
「待とう、俺ですらここから策は浮かばないが、この船を知り尽くしているローデなら、きっと……!」
チェーンジャベリンにしがみ付きながらアレスは前を見据えていた。
ガイアの電磁バリヤーの圧力は想像以上だった、自分が船長を勤めていたのならこの場で即座に引いていただろう。
しかしローデは引いていない、何か策があるのか、諦めていないのか、この状態を維持している。
この船の事なら既にアレスと同等の知識がある、そして今の人類の持つ力強い発想力なら、この事態を打破できるかも知れない。
「カウント40!」
「どうするのじゃ!?」
「……マーズ! アルゴナウタイの出力をオーバーブースト! 大気圏突破用のエンジンを使います!」
『なんですって!? 嫌、だが、それなら! かしこまりました! ローデ、スイッチを!』
「いっけぇええええ!!」
普段は押せない様にシャッターが閉まっているスイッチを開くと同時に拳で殴る様にローデが押し込む。
ブーストのエネルギーが大きく増大しバリヤーのぶつかり合いにも負けない程の光になる。
本来、何かを別の用途に使う、と言う発想はAIには難しい。
特に用途が限定されている物を代用したりして使う事は、機械的な部分をどうしても拭えないアレスやマーズには持ちえない発想だった。
その発想力に、アレスは賭けた。
「カウント35!」
『オーバーブースト! 残り時間30! ですが効果あり! 電磁バリアーを押し込んでいます!』
「そのまま、限界ギリギリまで、相手の電磁バリアーを砕くまで進めて!」
少しずつ、本当に少しずつだがアルゴナウタイはガイアの電磁バリアーに食い込む様に押し進んでいく。
「カウント30!」
「もう少し、もう少し……!」
「こ、これではどっちが潰れるかじゃな……!」
「相手も動けねぇのが救いか……!」
ガイアも電磁バリアーを使っている間は攻撃が出来ないのだろう、防御に精一杯に見える。
「カウント25!」
『ローデ! オーバーブーストの稼働限界までカウント20! エンジンの限界が近づいています!』
「ギリギリまで! ギリギリまでバリアーを破る為に……!」
(ローデ……こんなに大きくなったんだな……)
睨むようにバリアーの攻防を見ているローデにトリトは見惚れていた。
あの時、寒さで震える事しか出来なかった彼女が今やこんなに大きな船を任される程になった。
「カウント20!」
(今や人類の命運を決める戦いをしている、か……オレも随分遠い所に来たもんだぜ)
発掘者だったディータ。
その発掘者の護衛だったトリト。
そして家で帰りを待つだけだったローデ。
仲間が増え、この数カ月で大きく環境が変わってしまった気がする。
「カウント15!」
『敵の電磁バリアーに歪み、このまま行けます!』
「チェーンジャベリンの射出準備! バリアーに穴が空いたと同時に射出します!」
ガラスに皹が入る様に、ガイアの電磁バリアーが破れていく。
今の人類が決して破る事のできない鉄壁の守りを、今の人類が操作する古代兵器が打ち破った。
「カウント10!」
『電磁バリア-突破!』
「チェーンジャベリン! 射出!!」
「うむ! アレス、クラトス! ちゃんと帰ってくるのじゃぞ!?」
ローデの号令と共にチェーンジャベリンが二人を乗せて発射された。
*
「…………まるで、海賊だな」
電磁バリアーが破られている様子をユピテルはずっと見つめていた。
その戦法、後半の応用力、全く度し難い。
船を無理矢理接近させ、鎖を伸ばして人を送り込む。
大航海時代の海賊の様な戦法、こんな戦法をあのアレスが考えるとは。
「しかし愚かな……あれでは船を動かす者が居ないでは無いか……船を捨てたか?」
ユピテルは想像すらしてない、あの船を動かしているのがアレスでは無いと。
チェーンにしがみつきながらアーマーを換装するアレスを見る、その後ろにティターンアーマーを着ている今の人類を見る。
今の人類がティターンアーマーを着ている事には驚かない、あれは子供ですら兵器に変える、どんな人間でも一定以上の戦力を持てる、そういうコンセプトの兵器だ。
「……あれは、セイレーンアーマーか」
セイレーンアーマー、対艦用の武装を様々取り付けたアレスで無いとその戦力を十分に発揮できない換装武装。
両肩に対人殲滅兵器のクレイモア、戦艦装甲用にパイルバンカー、ハッキング及び電子破壊用にボルトワイヤー、そしてプラズマを利用した円型の切断兵器。
あまりに大型で各種の武装を一遍に積めばバランスを崩し碌に戦えなくなるだろう。
アレスの様に高次元の思考速度を持ったコスモAIを持つ彼だからこそ使えるアーマーだ。
そんなアレスがチェーンジャベリンに張りつきパイルバンカーを着弾と同時に起動させローマの装甲を打ち砕く。
そのまま素早く二人が戦艦に乗り込んでくる、それはそうだ、もう後数秒で再生する電磁バリアーは鎖を地面に叩きつけるだろう。
しかしそれは、鎖を繋いでいるアルゴナウタイにも影響が出るだろう。
鎖だけを切ればいいが操作する者が居ない艦をどうするのか、それを見ていたかった。
――だが。
「な、に……!?」
アルゴナウタイは打ち込んだ鎖がローマに着弾すると同時に断ち切り、その上で即座に離脱した。
しかもその上で地上部隊の大型無人兵器に攻撃を始めている、見た所AIによる補助はあれど的確な指揮者が居る動きだ。
「馬鹿な――あの船を、我々の時代の船を動かしている人間がいるのか!?」
アレスの様なAIを持つロボットが他に居ないとは言わない、しかし調査の結果そのロボットはあの船に乗っていない事が解っている。
他に操縦している者が居るとすれば同じように500年の時を生きた誰かだ、しかしあの者たちが裏切る事はありえない、それではこの戦いに意味が無い。
「居るのか……? あの船を操縦する程の知識を持った今の時代の人間が……!?」
何て愚か、何て愚劣、何て愚昧。
コルキスの姫等この人間の前では霞む、何がキルケーを倒す事がこの戦の勝利になるだ。
アレだ、あの人間だ、姿形も見たことの無いあの人間こそがこの戦いを決める敵だった。
「……アビリティコネクターによるガイアの機能停止か。ガイアは防衛モードで待機だ」
ガイアが揺れてその動きを止めてしまう。
下のフロアでアレスがこのガイアの動きを止めたのだろう、これでは侵入者の二人を押さえるのも難しいかも知れない。
「……あの船を、落とす必要があるか。その上で、コンセンテスの発動も必要かも知れん――ウェスタ。ポイボスとヴァルカンに戦艦を落とすよう連絡しろ」
「――はい、かしこまりました」
ユピテルの裏に、ずっと立っていたウェスタが答える。
まるで彫刻の様に、意思も無しに立ち続けていた彼女、既に任務コードで本人の意思は無くただ命令を聞くだけの人形になっている。
彼女の意思とは関係なく、彼女の育て上げた我が子を危険に晒すのだった。
*
「こっちだ! ユピテルの居る場所を見つけた! 艦橋にいる!」
ガイアの中に潜入したアレスが最初に行ったのはクロケアモルスの無効化だった。
アビリティコネクターを利用してガイアのあらゆる武装を停止させ、その上でこのガイア、正確にはガイアとドッキングしている戦艦ローマのマップを得た。
ユピテルが居るのは恐らく艦橋、リーダーらしく一番戦況が見える場所で構えているのだろう。
「指揮官の場所か、相応しいと言えばそうだが……距離はどのくらいだ?」
「直線では10メートルだが、途中に誰かが居る」
クラトスと共に走りながら先ほど艦内カメラで見た映像を思い出す。
艦橋に入る寸前の部屋で、この艦にユピテルとウェスタ以外の人影が唯一あった。
この状況で残っているのは今の人類ではない、カメラの映像でもヒトとは思えなかった。
「門番か?」
「恐らくはな……そして、その門番は恐らく――」
走っている間にその部屋には簡単にたどり着く。
その門番に相当自信があるのか、それともこの場所にたどり着けるとは思えなかったのか。
ともかく、その場所に立っていたのは――
「なんだ、アイツは……?」
「アレス、か?」
「ほお、衰退人類がここに立てるとは思わなかった」
「この、声は……貴様マルスか!?」
聞き覚えのある声にクラトスは即座に構える。
声を聴くまでマルスだと分からなかったのはマルスの見た目のせいだ。
似ている、アレスに似ているのだ。
スパルの村で対決した時もアレスのプロトボディを使っていたのでその時点でも似ていたが今回は違う。
アーマーの細かな違いはあれど一見すると見た目はアレスそのもので同じように暮らしていたアルゴナウタイの者でなければ見間違えてしまうくらいだ。
「あの時の術師か……よくある話だがユピテルに会いに行きたければ我を倒せ」
そう言ってあの時と同じ様にΛ型の光の剣を取り出す。
あの時の様にプロトボディを遠隔操作していた時とは違う、本当の英雄マルスが二人の前に立ちふさがる。
「そう言うのならそうさせて貰うが……お前は、何の為に戦うんだ? この戦争にどんな意味がある?」
構えを解かないまま、クラトスはマルスに問いかける。
勿論今でも彼を許す事など出来ない、しかしクラトスは知ったのだ。
500年前の人類が何を思っているのか、戦うのは運命だと言っていたがそれと同時に戦うだけが全てではない。
「クラトス……」
「何の為に、だと?」
何を目的に戦うのか、何をする為に戦っているのか。
今でも500年前の人類の目的は解らない、何故戦争をしなければならないのか。
「そうだ、他の500年前の人類に会ってこの戦いに目的があるのは解った。その目的はお前も話す事ができないの――」
「ふざけるなぁああああ!!!」
「クラトス!!!」
マルスからの言葉を待っていたクラトスの前にアレスが立ちふさがる。
即座に自分のメリアルセイバーを起動し振り下ろされた狂刃からクラトスを守った。
「く!? 何故だ!? お前だって――」
「前にも言ったはずだ! 我の目的は戦う事! 戦争の高揚感こそが我の望み! 怪獣を切り殺すだけでは味わえない人間と戦い殺し合う快楽! 実に498年ぶりの高揚感だ!」
「クラトス!」
「……ああ!」
狂ったように頬を歪ませるマルスに話は無駄とクラトスも悟った。
戦うしかない、戦うしか道はない、この英雄を打ち倒さなければこのガイアは止まらないだろう。
しかし相手はあのマルス、500年前の戦争で英雄と呼ばれた当時最強であろう戦士だ。
「メリアルセイバーはティターンアーマーごと切り裂かれる、あの刃は俺が止めるから援護を頼む!」
「ああ、元々オレの格闘技術はティターンアーマーの補助があってこそだ。前列は任せる」
「懸命だな……そのスーツとは何百体も戦っている」
マルスは500年前から戦っている、勿論ティターンアーマーの戦闘補助能力も知っている。
己の物でない格闘戦を挑んで戦える程マルスは甘くは無いだろう。
「あの時とは違う、完全な我に勝てるか?」
「勝つさ、俺達は進まないといけないんだ!」
アレスの振るう光刃をあっさりとマルスが受け止める。
あの時より鋭く、正確に、マルスの身体を切り裂こうと光を走らせる。
「はっはっは! 剣は振るわずとも何度もシュミレートは行ってきた様だな! そうでなくては面白くない! この500年セイバー戦を行える相手等終ぞ現れなかったからな!」
しかしマルスはアレスの攻撃をあっさりと受け止めいなしている。
本来ならロボットの反応速度で勝てるアレスの方が有利なのにその全てにマルスは追いついている。
(何故だ……!? 新しい動きもインプットしているのに追いつけない!? それに――)
「フン!! はあ!!」
「な!? ぐあ!?」
「アレス!!」
突然セイバーの出力を上げて地面に叩きつけ大きな光の刃を作り出す、その刃に一瞬気を取られたアレスはセイバーを持っていない手でアレスの胸部を撃つ。
ガァン! という甲高い金属音が鳴り響きアレスが吹き飛ばされ戦艦の壁に皹を入れる程の勢いで衝突する。
何が起きたかを一瞬で判断し態勢を整える、追撃が来るかと思ったがマルスはその場を動かず、しかしそれ故にアレスはとある状況を理解した。
「マルス、貴様の腕……ヘラクレス合金か!?」
「腕だけではない、この脳と髄液以外は全てがヘラクレス合金だ……そしてエネルギー回路はクロノス、解るな?」
「……殆どがアレスと同じ!?」
ヘラクレス合金に万能変換機クロノス。
アレスと同じ体、それなのにその戦闘能力は全く違う。
「元々我の戦闘能力を再現する事を目的に作られたのがお前だ、あの女はそんな目的など関係無しにお前を開発していたが大元はそこだ。当時の我なら当然苦戦はしただろうよ」
「……500年分の、研鑽がお前にはあるのか?」
「当然だ! この500年その全てを戦争の為、己を研鑽し続けた!」
ダメだ、このままでは勝機はない。
アレスと同じスペックでアレス以上の戦術。
アレスだけでは勝機は無い、そう確信するのに十分な差があった。
*
「電磁バリアーを収縮! ロムルスと戦っている部隊を援護します! コントロールレーザー第二射! 発射して下さい!!」
アルゴナウタイからアレスとクラトスを送り出した後、即座に離脱しロムルスを倒すために動き出す。
コントロールレーザーなら十分ロムルスを打倒できる攻撃力がある。
「うむ、ロックオンは終わっておる、コルキスのレールガンと連携してもう一度ロムルスを攻撃じゃ!」
「おし! 一体倒した! ……あ? えっと、こっちか? あ? おい、あれ、なんだ?」
ロムルスにコントロールレーザーを当て一体撃墜したのを見たトリトはふと、見ていたレーダーに新しい反応があったのを見つけた。
位置的には左舷側に、艦橋から見える位置だったのでトリトは思わず肉眼でその光景を確認した。
小さな豆にも見えた物がドンドンと大きくなっていく。
「へ!? マーズ!」
『解析、ミサイル……いや戦闘機です! 真っ直ぐ此方へ突っ込んできます!!』
「ぶ、ぶつかっちゃうよ!?」
「迎撃を! ディータさん!」
「速度が速くてロックオンが定まらぬ! 撃つだけ撃つが、当たるかは解らぬぞ!?」
凄まじい速度で上空から、音速の壁を越え円錐の雲を作りながらコントロールレーザーを回避しながら、しかし攻撃する事はなく、アルゴナウタイに突き進んでくる。
「な、なんじゃあの速度!? 攻撃するまでもなく突っ込んくるぞ!?」
「あ、あわわわわわわ!?」
「おいおい!?」
「く!? マーズ! 電磁バリアー展開!」
『え!? バリアーシステムの冷却はまだ終了してませんが!?』
「直撃を避けられればいいです! 艦橋以外に当たるようにアルゴナウタイの軌道修正! 対ショック防御! 皆さん衝撃に備えて下さい!!」
空を斬る音と共に戦闘機が半端に張られた電磁バリアーを突破しアルゴナウタイの甲板とイカロスがドッキングしていた位置に突撃してくる。
「うわああああああ!?」
『行けません!! イカロスのエンジン損傷!! アルゴナウタイのバランサー推力低下!!』
艦橋全員の悲鳴と振動にアルゴナウタイが大きくバランスを崩し大きな爆発音が響く。
翼をも破壊されアルゴナウタイは地面に堕ちていくのだった。
*
「おいおい、本当にアレスが居ねぇのに戦艦を動かしてたぜ、ヴァルカンの旦那」
突き刺さった戦闘機から二つの影が降りてくる。
一人はポイボス、以前キプロの街でマリオンを殺した500年前の人間だ。
その隣には険しい顔をしているヴァルカン、アイギーナで大きな被害を出した同じ500年前の人間だ。
「どしたん? トーク聞こか?」
「ポイボス……劣化人類共がこの船を動かしているだと? 本当か?」
「あー、そうなんじゃねぇの? この規模の戦艦をAIだけは不可能だし、補助があるにしても最低四人は居ねぇと何ともならんっしょ?」
ポイボスだって500年前の人間だ、その500年前に戦争屋をやっていた彼はそれなりに機械に知識がある。
どうすれば機械を動かせるか、何をすれば戦力を削げるかの知識は戦争において必然だ。
このアルゴナウタイを攻略するに当たってコントロールレーザーを回避するために、マッハを越える速度を維持できる秘蔵の戦闘機を使って特攻を仕掛けた。
その効果は十分でアルゴナウタイの無力化を成し遂げた。
「……劣化人類如きが、ふざけている」
「ひえー、ヴァルカンの旦那がおこだよ。んじゃ俺様もお仕事と行きますかー」
二人の凶刃が不時着を始めたアルゴナウタイの中へ進んでいくのだった。
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