青夏_せいか

フロッちゃん

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青夏(せいか)

修学旅行 一日目 午前

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「それじゃ、行ってきます」
「行ってらっしゃい。忘れ物、してない?」
「何回確認したと思ってんの?」
「そうね、行ってらっしゃい」
母親に見送ってもらい、いつもの何倍も軽くなったドアを開く。開けた途端に肌に冷たい空気が頬を撫でた。まだ寒いなあ。マフラーつけてくらば良かった。でも、荷物になるしなあ。だが、マフラーを持ってこなかった後悔よりも、今から修学旅行に行くという期待が、私の体温を上げていた。少し首を上に傾けると、乾燥した空気に澄み切った空が私を見送っているような気がする。でも、やっぱり寒いので服を少し伸ばして顔を埋めると人目に晒されなくなった口角が上がっていく。今日は、六年生はいつもより少しだけ早めに登校する。なので、ほとんど人がいない通学路をこの時間に歩いている。というのも口角が上がる理由の一つだ。このワクワク感。やっぱりこういう何かの始まりって、緊張とは違う何かを感じて楽しい。
 服を戻して、口角も少しずつ戻していきながら校門をすぎると既に何人かの同級生が荷物を一箇所に移動させていた。私もクラス別にしてされた場所に荷物を移して、班別に並んで座る。続々と人が集まっていく。私はたまに動画投稿サイトでイラストのタイムラプスを見るのだが、この光景も、タイムラプスを見ているみたいで面白い。このタイムラプスは、どこが区切りめかがわからないけれど、まあ多分全員集まるまでだろう。
そして全員が集まり、修学旅行って感じがする。何があるだろう。楽しみだな。
「それでは、朝の挨拶をします。まず最初に校長先生のお話です」
そう、修学旅行の実行委員が言うと、うちの学校の少しふくよかな校長先生が白い息を出して話し始める。
「皆さん。こんな初めっから堅苦しい話なんて聞きたくないので、私からは一つだけ言わせてもらいます。マナーを守って楽しんでください」
修学旅行といっても、朝故に少し低かったみんなのテンションも校長先生の一言で大盛り上がりした。正確には、いつも元気な人たちが校長先生の言葉に続いて「おー!」とかなんとか騒いでるからなんだけど。
「皆さん。楽しそうなのはいいですが、一旦聴いてください。それでは次に院卒の先生を紹介します」
一組の担任の先生が淡々と引率の先生達を紹介していく。普段、無愛想な先生だが、もしかしたらみんなをこの事で時間を使わせたくないという先生なりの愛情表現なのかも、…しれない。
そして最後に、きっと学年でいちばんうるさいであろうこの学年の盛り上げ役とも言える男子が指揮上げのための音頭を上げる。
「おっしゃお前らー!楽しむぞー!」
校長先生の時とは比べ物にならない程、みんなが声をあげる。普段おとなしい女の子が私と同じ班なのだが、その子も今回ばかりはいつもと比べたら、だけど声をあげていた。
 そして挨拶が終わると、校門に近い班の人達から、以下署に集めておいた荷物を持ってゾロゾロと歩いて行く。私は活動班のリーダーなので、列の先頭にいてみんなを導かなければならない。なので、急いで荷物を持ってサザエさんのedのように並ぶ。バスが置いてある少し大きめの駐車場に行くために、少し歩いていると、副リーダーなのだろう。健太が話しかけてくれた。
「なーなー石田」
「どうしたの?」
「めっちゃワクワクしない?」
健太は寒さで顔を赤く染めながら、曇りなき笑顔でそう言った。…この顔の赤さが、寒さじゃなくて私のせいならいいのに。
「…そうだね。私も」
「俺、バス寝るかも」
「私も、酔いやすいし寝とこうかな」
「えっ石田酔いやすいの?今からでも前の方の席行ったら?」
「いや、いいや。外見てれば大丈夫だし。…心配してくれてありがと」
「そう?」
健太が心配してくれたのが嬉しくて、結構にやけながら話してしまった気がする。でも、笑顔の方がいい…よな。あれ?でもにやけと笑顔って違う?…考えないでおこ。それに、バスは班の順番で座るから、少しでも健太の近くの席がいいし。
 そうやって話しているうちに駐車場についた。一組から順番にバスに乗って行く。バスが3台もあると、なんとなく圧倒させられる。うちの学年は人が少なめなので、架空の三組が作られる。そして合計3台のバスで移動するのだ。幸い、私は健太の次の班なので意外と近くだ。もしかしたらバスが一番楽しみかもしれない。
 大きい宿舎用のバックをバスの下に置いてもらい、バスに入る。中は最適な温度で保たれていて、今にも寝てしまいそうだ。先生が声をかけ、みんなでバスの運転手さんに挨拶をする。後ろに座っている小田がうるさい…。
 結局、バスが出発してから十分ほどで寝てしまった。どちらにせよ、健太は他の男子達と楽しそうに話してる声が聞こえたので、話すことは叶わなかったはずだ。サービスエリアにつき、隣に座っている同じ班の優奈ゆうなちゃんに起こされ、外に出ると近所とは全然違う風景が広がっていた。見渡す限りの山。親の実家にでもきたような気分だ。私の家は、基本公共機関で基本移動しているので、サービスエリアに来るのは初めてだ。なんか、ワクワクする場所だな。
「さ、さむっ」
「愛花ちゃん上着着ずにバス、降りたでしょ?そりゃ、寒いよー」
「ほんとじゃん!?上着、着てない…」
寝ぼけてたんだろう。バスに乗っていた生徒が一気にトイレに並んだ。なかなか進まないので、優奈ちゃんと話していると、優奈ちゃんに突拍子のないことを聞かれた。
「ねね、愛花ちゃん。最近聞いた話なんだけどさ、山野ってこの前恋ちゃんに告ったらしいよ?この前って言っても夏だけどね」
「そ、そうなんだ…」
やっぱ噂って回るんだ。私は関係ないことのはずなのに、「噂しないでほしい」と思ってしまった。私だって噂をしたり、聞いたりしたことがない、と言えば嘘になる。筈なのに。
 そこからは全然違う話になったので、内心ほっとした。トイレから戻ってすぐ、バスが出発した。空は快晴で、澄み切った空気に太陽がよく似合っている。窓を通して空を見ると、小さめの集落が何個か見つかる。外を見ている方が気分がいいので、流れていく景色を淡々と眺める。
 それから一時間ほど経つと、宿舎についた。先生に誰のでもいいから持っていってと言われたので適当に大きめのバックを運ぶ。男物っぽかったので、もしかしたら健太のでは?と思ったが、出発前健太のバックはしっかり見ていたので特に期待はしなかった。
 大きめの体育館らしきところに荷物を集め、各々が自分の荷物を部屋に持っていく。私の部屋は、確か322号室だった筈。でも、間違えでもしたらきっと迷子になるので部屋のみんなと合流してからいこう。
 体育館の隅っこの方で天井を眺める。少し上の方にある窓からは、少し雪が枝に積もった木が見えている。ぼーっとしているうちに段々と人が減ってきた。班はともかく、部屋割りは自由だった。まあ、同じクラスの人としか組めないんだけど。そのおかげで仲の良い人達だけで組むことができた。…まだかな。
「愛花!部屋にいないと思ったらまだここにいたの?」
「合流してから部屋行こうと思ってたんだ…けど、知らないうちにすれ違ってたね」
「え?まじかー。ごめん、気づかなくて。じゃ、行こ」
黄昏ていた私を迎えにきてくれのは、みなみだ。この子は、すごく華奢な感じの可愛い子だ。元々幼稚園が一緒なのだが、最近になってようやく仲良くなり始めた。恋ちゃんは男の人に限らず、度がつくほどの面食いだ。本人にいうと、飽きるまで語られるから言わないけど。それもあって恋ちゃんと南は、私よりも先に仲良くなっていた。確か、由衣と恋ちゃんが仲良くなった経緯もそんな感じだった気がする。
 体育館から、意外と長く歩いているとちょっと和風な、襖とかではないドアに323と書かれていた。
 「あ、意外と部屋広い」
床は畳。敷布団が島わえているのであろう襖も、なんとなく、心が落ち着く。…でも誰か汚したな。きっと優香だろう。優香は三日目の自由行動で泉と周るらしい。意外と好き勝手スキンケア類らしきものが散らかっていた。
「愛花、どこいってたのー?」
室長である由衣が心配そうに声をかけてきた。
「ごめんごめん。合流してから部屋に行こうと思ったんだけど、すれ違ってたみたいで」
「なんだーよかった。愛花誰かに攫われたのかと思った」
「修学旅行始まってすぐなのに物騒なこと言わないでよ…」
「ごめんって」
でも、確かに言っちゃ失礼かもしれないけど、田舎だからって不審者が出ないわけじゃないよな。気をつけよう。
「あ、じゃあ私食事だから先行くね」
「みあみちゃん食事か、がんば」
「それじゃ、行ってくる」
「生きて、帰ってこいよ」
「さっきから物騒だな。あと、みあみちゃんって何?」
「母音邪魔だったから消した」
「恋ちゃんのネーミングセンス。果たしていいのかどうか」
「そんじゃ、みあみちゃんが用意してる間我々はだらだらすっかー」
「なんて薄情な」

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