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2 はじめての友だち
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わたしにとって衝撃的なことが起こりすぎたからか、図書室から家に帰るまでのことをまったく覚えていない。気がついたら自分の部屋でソーイングケースの整理整頓をしていた。
覚えているのは、内田さんと話したことだけだ。友だちになってって言われたよ。それで、いいよ、って答えたよ。
ということは……明日から、黒板とノートと教科書ばっかり見つめていなくていいってこと? 内田さんとおしゃべりしたり、お昼ごはんを食べたりできちゃうってこと?
夕ごはんのとき、家族にこのことを話すと、みんな喜んでくれた。特に夕映ちゃんは大はしゃぎだ。
「よかったねえ。やっと深白ちゃんの魅力がその人に通じたんだよ!」
「夕映ちゃん、魅力ってそんな、大げさな……」
口ごもりながらも、わたし以上に喜んでくれるのはうれしかった。
言葉にできないお礼の気持ちを伝えようと、わたしは自分のコロッケをひとつ、夕映ちゃんのお皿にそっと載せた。
「うわあー、深白ちゃんありがとう!」
夕映ちゃんはコロッケを頬張りながら、さらにたたみかけてきた。
「深白ちゃん、コロッケだけじゃなくておやつだってわけてくれるし、パッチワーク上手だもん! この間作ってくれたベッドカバーだって、ふわふわで気持ちいいし、売ってるものみたいにきれいだし!」
「え、ええ、そんなに?」
「そんなにだよ! 作ってくれるって言ってたクッションカバーも、すっごい楽しみにしてるから!」
「……ありがとう。うん、クッションカバー、がんばるね」
「わーい!」
夕映ちゃんはわたしのことをほめるのがうまいんだよね。
お母さんに「そうやっておだてて、お姉ちゃんになんでもやらせようとしてー」ってたしなめられてるけど、わたしのパッチワークの腕が上達したのは、間違いなく夕映ちゃんのおかげだと思う。
「ケーキ買いに行っちゃおうか。お姉ちゃんに友だちができた記念に」
お母さんはにこにこ笑いながら、そんなことを言いだした。
さすがに大げさすぎるよ、恥ずかしいよ……。でも、それだけわたしのことを心配してくれてたんだと思うと、やっぱりうれしいような気もして、わたしは小さくうなずいた。
「あ、深白ちゃん、今、手をぎゅっとしてるから、すっごく喜んでる!」
「そうね、口元もちょっとだけ動いたもの」
お母さんと夕映ちゃんが口に手を当ててひそひそ話をしている。だけど目の前にいるんだから、当然丸聞こえだった。
「もう、お母さんも夕映ちゃんも、またそうやって……」
「だって深白ちゃん、うれしいとき、ちょっと笑うだけだし声もちっちゃいし、あんまり変わらないんだもん。こーやって喜びを表に出さないと!」
夕映ちゃんは両手で頬を持ち上げて笑ってみせる。わたしがまねをしてみると、ふたりは「ほっぺがかたすぎる!」「もうちょっとがんばれー」なんて言いつつ大笑いだ。
そんなに表情変わってないのかなあ……。頬の筋肉をほぐしつつ、その理由について考えてみた。
「……次になに話そうって考えてたら、表情を変えることまで気が回らない、のかも……」
わたしが出した結論を聞いて、夕映ちゃんとお母さんは目を丸くした。
「ええー、深白ちゃんは考えすぎだよー。話すときって、顔もいっしょに変わっちゃうものじゃない?」
「お姉ちゃんは真面目だからねえ」
ふたりが「よくわからない」という反応をしている中、今まで黙々とご飯を食べていたお父さんが、大きくうなずいて言った。
「お父さんは……わかる」
お母さんと夕映ちゃんはそれを聞いて、ふふっと笑う。
「そりゃあねえ、深白ちゃんはお父さんそっくりだもん」
わたしの無表情さはお父さんゆずりらしい。お父さんもなにを考えているかわかりにくい。
だけど、わたしに友だちができたという話をしていたとき、お父さんはうんうんと満足そうにうなずいたり、わたしのお茶碗にごはんを大盛りによそってくれたりして、喜んでくれているのは様子が感じられた。
わたしだって、表には出ていなくても、心の中は喜びでいっぱいだもんね。
明日、学校に行くのがちょっと怖くて、でもやっぱり楽しみだ。
内田さんという友達がいる一日は、どんな日になるんだろう。どんな色が見えるんだろう。
次の日、どきどきしながら学校に行くと、内田さんはもう教室にいた。昨日と同じように文庫本を読んでいる。
話しかけてみようか、でも読書の邪魔かな、なんて考えていると、わたしに気づいた内田さんが席まで来てくれた。
「おはよう待井さん」
「……おはよう、内田さん」
あいさつしたあとも、内田さんはどこかに行っちゃったりせず、そばにいてくれる。これが、友だち……! 感動だ。
「あ、呼び方、瑠璃でいいよ」
「瑠璃……ちゃん?」
おそるおそる名前を呼んでみたわたしに、内田さんは笑って首を振った。
「ちゃんはなくてもいいよ。瑠璃でいい」
「……わかった、瑠璃。じゃあ、わたしも深白で」
「うん。よろしく、深白」
うわあ、人を呼び捨てにするなんて初めてだし、クラスの子に下の名前で呼ばれるのだって初めてだ。恥ずかしくてうれしくて、口の中がくすぐったい。
目に映る景色が変わった気がする。
今いるのは間違いなくいつもどおりの教室だけど、全然違う場所にいるみたいだ。学校ってこんなに明るかったの? ってびっくりしちゃうくらい。
その明るい教室で、瑠璃と授業が始まるまでおしゃべりをした。お互いの誕生日や血液型の話をして、それから趣味の話になった。
「深白は普段、どんな本読むの? わたしは、自然科学の本が好き。科学っていってもそんな難しいのじゃなくて、身の回りの疑問に答えてくれるような本が好きなんだ」
「へえ……」
本気で感心した。趣味で読む本でも勉強しているなんて、瑠璃ってすごい。
わたしが読むのは手芸の本ばっかりだもの。パッチワークの作り方が図になっているものを見たり、かわいい完成作品の写真を見たり。
瑠璃のようにたくさんの文字が詰まった本を読んでいるわけじゃないから、ちょっと答えるのに気が引けちゃうなあ。
だけどまあ、隠すほどのことでもないし……そう思いつつ口を開きかけたとき、窓際にいる女子が突然、悲鳴をあげた。
近くにいた男子もわっと声をあげ、なにか動くものを目で追っているように視線を動かした。なにを見ているんだろう。
答えはすぐにわかった。ハチだった。しかも、大きい。スズメバチだったらどうしよう。
席を立って逃げようとする人、大声を上げる人。教室中はまたたく間におおさわぎになった。瑠璃も両手をぎゅっと握りしめ、不安そうにハチを目で追っている。
わたしもこわくてたまらない。しばらく動けずにかたまってたけど、ふと思いついて、机の上に置いてあったクリアファイルを手に取った。少しでもハチから身を守りたい一心だった。
その直後、なんとハチはこちらめがけて飛んできた。わたしと瑠璃に……というか、このままじゃ瑠璃の顔にぶつかりそう。大変だ!
わたしは瑠璃の頭の横にクリアファイルを差しだした。パシッと音がしたので、当たったのかもしれない。ハチの姿は確認できなかったけど、羽音が遠ざかっていくのが聞こえた。なんとか瑠璃が刺されずにすんだみたいだった。
「もういない?」
「うん、窓から出てったよ、大丈夫」
クラスの人たちの会話で、危機が去ったことがわかった。瑠璃も、ほうっと安心したように息を吐く。
その様子を見て、早鐘のように鳴っていたわたしの心臓もしずまっていった。
「深白、ありがとう。助けてくれたよね」
「え、うん……?」
興奮したように言う瑠璃に、わたしはあいまいに答えた。クリアファイルにハチが当たったのはまったくの偶然だったから、助けたことになるのか自信がなかったんだよね。
「さっきの深白、すごかった。みんなも、わたしもパニックになってたのに、ひとりだけ落ち着いてて、すっと助けてくれて、めちゃくちゃクールだった」
瑠璃は、ぱっと花が咲いたような笑顔になった。メガネの硬いレンズがふんわりとやわらかく感じるくらい。
「昨日わたしが本を落としちゃったときも、深白は全然あわてたりしないで拾うの手伝ってくれたし。わたしも、なにがあってもびくともしない人になりたいけど、なかなかうまくいかないんだ」
話を聞いていて、瑠璃は本当に「クールで格好いい」なわたしがいいって思ってくれてるんだなあ、と実感した。
本当のわたしはびくびくして怖がって、とてもクールじゃないから、申しわけない気持ちになる。
だけどそれ以上に、瑠璃が喜んでくれることがうれしいと思ってしまった。パッチワークを作って家族に感謝されたときもうれしかったけど、今回は特別の中の特別だ。
はじめてできた友だちに、喜んでもらえた。
瑠璃が笑ってくれるなら、クールで格好いい自分になりたいな、という気持ちがふくらんできた。
そうなると、さっきわたしが答えかけた「手芸の本」は、なんとなくクールじゃない気がした。
もちろんクールでシンプルな手芸作品は世にたくさんある。あるけど、わたしの好みはかわいい系に振り切れちゃってる。今だって、自作のうさぎのマスコットがポケットに入ってるくらいだもの。さわってるとやわらかくて落ち着くんだよね。
ハチの騒動でいったん途切れた本の話は、一時間目後の休み時間に再開した。
「あっ、そうそう、深白、どんな本が好きなんだっけ?」
尋ねる瑠璃に答える前に、もう一度考えた。ここで手芸のことを隠したって、わたしの性格が変わるわけじゃない。わかってるけど、でも……。
「本に興味はあるけど、その、あんまり読んでなくて。図書室の雰囲気が好きで、行ってみたっていうか……」
悩みに悩んだ末の答えは、こうだった。手芸の本のことは言えなかったけど、図書室が好きなのは本当だ。
「そうだったんだ。図書室、わたしも好き。落ち着ける場所だよね」
わたしはうんうん、とうなずいた。やっぱり瑠璃もそうなんだ。
「じゃあ、おすすめの本持ってきてもいい? 深白と本の話ができたらいいなと思って」
「うん、瑠璃の好きな本、読んでみたい」
「よかった。明日持ってくるね!」
瑠璃の笑顔にわたしもうれしくなって、今度は大きくうなずいてみせた。
覚えているのは、内田さんと話したことだけだ。友だちになってって言われたよ。それで、いいよ、って答えたよ。
ということは……明日から、黒板とノートと教科書ばっかり見つめていなくていいってこと? 内田さんとおしゃべりしたり、お昼ごはんを食べたりできちゃうってこと?
夕ごはんのとき、家族にこのことを話すと、みんな喜んでくれた。特に夕映ちゃんは大はしゃぎだ。
「よかったねえ。やっと深白ちゃんの魅力がその人に通じたんだよ!」
「夕映ちゃん、魅力ってそんな、大げさな……」
口ごもりながらも、わたし以上に喜んでくれるのはうれしかった。
言葉にできないお礼の気持ちを伝えようと、わたしは自分のコロッケをひとつ、夕映ちゃんのお皿にそっと載せた。
「うわあー、深白ちゃんありがとう!」
夕映ちゃんはコロッケを頬張りながら、さらにたたみかけてきた。
「深白ちゃん、コロッケだけじゃなくておやつだってわけてくれるし、パッチワーク上手だもん! この間作ってくれたベッドカバーだって、ふわふわで気持ちいいし、売ってるものみたいにきれいだし!」
「え、ええ、そんなに?」
「そんなにだよ! 作ってくれるって言ってたクッションカバーも、すっごい楽しみにしてるから!」
「……ありがとう。うん、クッションカバー、がんばるね」
「わーい!」
夕映ちゃんはわたしのことをほめるのがうまいんだよね。
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お母さんはにこにこ笑いながら、そんなことを言いだした。
さすがに大げさすぎるよ、恥ずかしいよ……。でも、それだけわたしのことを心配してくれてたんだと思うと、やっぱりうれしいような気もして、わたしは小さくうなずいた。
「あ、深白ちゃん、今、手をぎゅっとしてるから、すっごく喜んでる!」
「そうね、口元もちょっとだけ動いたもの」
お母さんと夕映ちゃんが口に手を当ててひそひそ話をしている。だけど目の前にいるんだから、当然丸聞こえだった。
「もう、お母さんも夕映ちゃんも、またそうやって……」
「だって深白ちゃん、うれしいとき、ちょっと笑うだけだし声もちっちゃいし、あんまり変わらないんだもん。こーやって喜びを表に出さないと!」
夕映ちゃんは両手で頬を持ち上げて笑ってみせる。わたしがまねをしてみると、ふたりは「ほっぺがかたすぎる!」「もうちょっとがんばれー」なんて言いつつ大笑いだ。
そんなに表情変わってないのかなあ……。頬の筋肉をほぐしつつ、その理由について考えてみた。
「……次になに話そうって考えてたら、表情を変えることまで気が回らない、のかも……」
わたしが出した結論を聞いて、夕映ちゃんとお母さんは目を丸くした。
「ええー、深白ちゃんは考えすぎだよー。話すときって、顔もいっしょに変わっちゃうものじゃない?」
「お姉ちゃんは真面目だからねえ」
ふたりが「よくわからない」という反応をしている中、今まで黙々とご飯を食べていたお父さんが、大きくうなずいて言った。
「お父さんは……わかる」
お母さんと夕映ちゃんはそれを聞いて、ふふっと笑う。
「そりゃあねえ、深白ちゃんはお父さんそっくりだもん」
わたしの無表情さはお父さんゆずりらしい。お父さんもなにを考えているかわかりにくい。
だけど、わたしに友だちができたという話をしていたとき、お父さんはうんうんと満足そうにうなずいたり、わたしのお茶碗にごはんを大盛りによそってくれたりして、喜んでくれているのは様子が感じられた。
わたしだって、表には出ていなくても、心の中は喜びでいっぱいだもんね。
明日、学校に行くのがちょっと怖くて、でもやっぱり楽しみだ。
内田さんという友達がいる一日は、どんな日になるんだろう。どんな色が見えるんだろう。
次の日、どきどきしながら学校に行くと、内田さんはもう教室にいた。昨日と同じように文庫本を読んでいる。
話しかけてみようか、でも読書の邪魔かな、なんて考えていると、わたしに気づいた内田さんが席まで来てくれた。
「おはよう待井さん」
「……おはよう、内田さん」
あいさつしたあとも、内田さんはどこかに行っちゃったりせず、そばにいてくれる。これが、友だち……! 感動だ。
「あ、呼び方、瑠璃でいいよ」
「瑠璃……ちゃん?」
おそるおそる名前を呼んでみたわたしに、内田さんは笑って首を振った。
「ちゃんはなくてもいいよ。瑠璃でいい」
「……わかった、瑠璃。じゃあ、わたしも深白で」
「うん。よろしく、深白」
うわあ、人を呼び捨てにするなんて初めてだし、クラスの子に下の名前で呼ばれるのだって初めてだ。恥ずかしくてうれしくて、口の中がくすぐったい。
目に映る景色が変わった気がする。
今いるのは間違いなくいつもどおりの教室だけど、全然違う場所にいるみたいだ。学校ってこんなに明るかったの? ってびっくりしちゃうくらい。
その明るい教室で、瑠璃と授業が始まるまでおしゃべりをした。お互いの誕生日や血液型の話をして、それから趣味の話になった。
「深白は普段、どんな本読むの? わたしは、自然科学の本が好き。科学っていってもそんな難しいのじゃなくて、身の回りの疑問に答えてくれるような本が好きなんだ」
「へえ……」
本気で感心した。趣味で読む本でも勉強しているなんて、瑠璃ってすごい。
わたしが読むのは手芸の本ばっかりだもの。パッチワークの作り方が図になっているものを見たり、かわいい完成作品の写真を見たり。
瑠璃のようにたくさんの文字が詰まった本を読んでいるわけじゃないから、ちょっと答えるのに気が引けちゃうなあ。
だけどまあ、隠すほどのことでもないし……そう思いつつ口を開きかけたとき、窓際にいる女子が突然、悲鳴をあげた。
近くにいた男子もわっと声をあげ、なにか動くものを目で追っているように視線を動かした。なにを見ているんだろう。
答えはすぐにわかった。ハチだった。しかも、大きい。スズメバチだったらどうしよう。
席を立って逃げようとする人、大声を上げる人。教室中はまたたく間におおさわぎになった。瑠璃も両手をぎゅっと握りしめ、不安そうにハチを目で追っている。
わたしもこわくてたまらない。しばらく動けずにかたまってたけど、ふと思いついて、机の上に置いてあったクリアファイルを手に取った。少しでもハチから身を守りたい一心だった。
その直後、なんとハチはこちらめがけて飛んできた。わたしと瑠璃に……というか、このままじゃ瑠璃の顔にぶつかりそう。大変だ!
わたしは瑠璃の頭の横にクリアファイルを差しだした。パシッと音がしたので、当たったのかもしれない。ハチの姿は確認できなかったけど、羽音が遠ざかっていくのが聞こえた。なんとか瑠璃が刺されずにすんだみたいだった。
「もういない?」
「うん、窓から出てったよ、大丈夫」
クラスの人たちの会話で、危機が去ったことがわかった。瑠璃も、ほうっと安心したように息を吐く。
その様子を見て、早鐘のように鳴っていたわたしの心臓もしずまっていった。
「深白、ありがとう。助けてくれたよね」
「え、うん……?」
興奮したように言う瑠璃に、わたしはあいまいに答えた。クリアファイルにハチが当たったのはまったくの偶然だったから、助けたことになるのか自信がなかったんだよね。
「さっきの深白、すごかった。みんなも、わたしもパニックになってたのに、ひとりだけ落ち着いてて、すっと助けてくれて、めちゃくちゃクールだった」
瑠璃は、ぱっと花が咲いたような笑顔になった。メガネの硬いレンズがふんわりとやわらかく感じるくらい。
「昨日わたしが本を落としちゃったときも、深白は全然あわてたりしないで拾うの手伝ってくれたし。わたしも、なにがあってもびくともしない人になりたいけど、なかなかうまくいかないんだ」
話を聞いていて、瑠璃は本当に「クールで格好いい」なわたしがいいって思ってくれてるんだなあ、と実感した。
本当のわたしはびくびくして怖がって、とてもクールじゃないから、申しわけない気持ちになる。
だけどそれ以上に、瑠璃が喜んでくれることがうれしいと思ってしまった。パッチワークを作って家族に感謝されたときもうれしかったけど、今回は特別の中の特別だ。
はじめてできた友だちに、喜んでもらえた。
瑠璃が笑ってくれるなら、クールで格好いい自分になりたいな、という気持ちがふくらんできた。
そうなると、さっきわたしが答えかけた「手芸の本」は、なんとなくクールじゃない気がした。
もちろんクールでシンプルな手芸作品は世にたくさんある。あるけど、わたしの好みはかわいい系に振り切れちゃってる。今だって、自作のうさぎのマスコットがポケットに入ってるくらいだもの。さわってるとやわらかくて落ち着くんだよね。
ハチの騒動でいったん途切れた本の話は、一時間目後の休み時間に再開した。
「あっ、そうそう、深白、どんな本が好きなんだっけ?」
尋ねる瑠璃に答える前に、もう一度考えた。ここで手芸のことを隠したって、わたしの性格が変わるわけじゃない。わかってるけど、でも……。
「本に興味はあるけど、その、あんまり読んでなくて。図書室の雰囲気が好きで、行ってみたっていうか……」
悩みに悩んだ末の答えは、こうだった。手芸の本のことは言えなかったけど、図書室が好きなのは本当だ。
「そうだったんだ。図書室、わたしも好き。落ち着ける場所だよね」
わたしはうんうん、とうなずいた。やっぱり瑠璃もそうなんだ。
「じゃあ、おすすめの本持ってきてもいい? 深白と本の話ができたらいいなと思って」
「うん、瑠璃の好きな本、読んでみたい」
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