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第一章 竜の巻 ようこそ、異世界へ。
1-21 鬼浅羽:松尾真一郎視点
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この異変に最初に反応したのは、盗賊たちではなかった。
鎖に繋がれ、鼻息を荒くしていたトカゲのような怪物――「裂爪獣」たちだ。
青と赤の光が空気を裂いた瞬間、奴らの瞳孔が一斉に縦に細く絞られた。
長い首が反射的に跳ね上がり、背中の鱗が総毛立つ。
低く、腹の底から絞り出すような唸り。
……生物の本能、ってやつか。
理屈より早い。
人間が理解するより前に、「危険」だけを嗅ぎ取っている。
次の瞬間だった。
裂爪獣たちが、絶叫した。
ギャアアアアアアッ!!
空気が震える。
筋肉の塊のような両脚が地面を叩き、土と石と鉄屑を吹き飛ばす。
鎖が張り詰め、バチンと千切れた。
巨体が暴れ、横にいた盗賊がまるで紙人形のように弾き飛ばされる。
爪が地面を抉り、土煙が爆発するように巻き上がった。
「うわっ!?」
「止めろ!止めろォ!」
止まるわけがない。
裂爪獣は後ろも見ず、牙を剥き、尻尾を振り回し、反対方向へ雪崩のように逃げ出した。
地面が揺れる。
金属片が跳ねる。
盗賊が踏み潰され、悲鳴が連鎖する。
何人かはその場に崩れ落ちた。
膝が笑い、武器を取り落とし、口をぱくぱくさせる。
「な、何だよこれ……」
「俺は降りる!降りるぞ!」
「撤退だ、撤退――!」
声が裏返り、統制が崩れる。
さっきまで勝者気取りだった連中が、瓦解していく。
「何だこれは!? 何だこのクソッタレな状況は!?」
思わず俺も同じ言葉を吐いた。
盗賊と同じ台詞を口にするのは癪だが、正直な感想だ。
「眩しすぎて目がくらむぜ……何だこの光は。」
若頭は目を細め、唇を噛みながらも視線を逸らさない。
冷静だ。さすがに場数を踏んでいる。
ガチャ、ガチャ、と金属音。
リボルバーに弾を装填する手は震えていない。
「こ、この空人の女のせいだ! 妙な魔法使いおって!」
「殺してしまえ!」
瑚依の腕を掴んだ二人の盗賊が、半狂乱になって喚く。
汗と血で滑る手が、彼女の腕にさらに食い込む。
瑚依は顔を上げた。
青光に照らされた瞳は、涙で潤んでいる。
だが、その奥に――怯えとは別の、何かが宿っている。
槍が振り上げられる。
ぎり、と金属が軋む音。
盗賊の腕が震える。理性が崩れたまま、ただ恐怖を断ち切るために振り下ろそうとしている。
その瞬間。
空が裂けた。
白熱した稲妻のような閃光が、横一線に走る。
視界が真っ白になる。
ドォォンッ!!
地面を叩き割るような轟音が、鼓膜を殴った。
時間が、ほんの一拍止まる。
次の瞬間。
盗賊二人の首から、赤い線が走った。
遅れて、噴水のように血が吹き上がる。
ゴロッ――
頭部が地面を転がる音が、妙に生々しく響いた。
体は一瞬立ったまま固まり、次いで力を失い、崩れ落ちる。
血飛沫が雨のように降り注ぎ、瑚依の白いブラウスを赤く染める。
彼女は瞬きもせず、その赤を見つめている。
現実が理解できない顔だ。
その隣に――立っていた。
炎のように赤く光る目。
銀よりも冷たく輝く白髪。
額から伸びる、大きな赤い角。
指先からは黒い刃のような爪が伸び、月光を裂いている。
浅羽の小僧から変貌した「それ」は、怒りを凝縮した塊だった。
口元から白い熱気が噴き出す。
犬歯は槍の穂先のように鋭く、今にも何かを噛み砕きそうだ。
黒い鱗が鎧のように体を覆い、棘が逆立つ。
裂けたシャツが風に揺れ、その異形を隠す役にはなっていない。
仁王か。
地獄門の番人か。
いや、もっと質が悪い。
怒りそのものが、人型を取ったみたいだ。
「えっ……」
瑚依の声が掠れた瞬間、彼女の意識が途切れ、ドサリと倒れ込んだ。
こんな時、どう呼べばいいかさっぱり分からねえ。
とりあえずこいつ、「鬼浅羽」と呼んでやるか、くそくらえ。
「てめえ、舐めるな!」
ロキールがリボルバーを構える。
バンッ!
バンッ!
バンバンバンッ!
銃口が火を噴き、硝煙が爆ぜる。
六発の弾丸が一直線に鬼浅羽へ吸い込まれた。
ガンッ!!
だが次の瞬間、金属を叩くような衝撃音が鳴る。
弾丸は黒い鱗に弾かれ、火花を散らして跳ね返った。
スローモーションのように、回転しながら地面へ落ちる鉛。
鬼浅羽は、微動だにしない。
傷一つない。
「……なっ」
ロキールの顔から血の気が引く。
「ガオオオオオオオ!!」
咆哮が炸裂する。
空気が歪み、衝撃波が放射状に広がる。
鼓膜が裂けそうな低音。
胸骨が震え、内臓が揺れる。
夜空に向かって放たれたその咆哮は、もはや人間のものではない。
地面の砂が跳ね、火の粉が揺れ、盗賊たちがよろめく。
だが、それで終わりじゃなかった。
まるでこの地獄絵図に、さらに上書きするかのように――
チリチリチリチリ……
無数の哨音が夜を裂いた。
最初は遠い。
だが次第に数を増し、音が重なり、空間そのものが振動する。
闇の向こうから、黒い影が一斉に放たれた。
矢だ。
数え切れない矢が、月明かりを遮りながら、雨のように降り注いできた。
ヒュンヒュンヒュンヒュンッ!!
空が黒く染まる。
次の瞬間、地面が矢で埋め尽くされた。
盗賊の悲鳴が、再び夜を引き裂いた。
鎖に繋がれ、鼻息を荒くしていたトカゲのような怪物――「裂爪獣」たちだ。
青と赤の光が空気を裂いた瞬間、奴らの瞳孔が一斉に縦に細く絞られた。
長い首が反射的に跳ね上がり、背中の鱗が総毛立つ。
低く、腹の底から絞り出すような唸り。
……生物の本能、ってやつか。
理屈より早い。
人間が理解するより前に、「危険」だけを嗅ぎ取っている。
次の瞬間だった。
裂爪獣たちが、絶叫した。
ギャアアアアアアッ!!
空気が震える。
筋肉の塊のような両脚が地面を叩き、土と石と鉄屑を吹き飛ばす。
鎖が張り詰め、バチンと千切れた。
巨体が暴れ、横にいた盗賊がまるで紙人形のように弾き飛ばされる。
爪が地面を抉り、土煙が爆発するように巻き上がった。
「うわっ!?」
「止めろ!止めろォ!」
止まるわけがない。
裂爪獣は後ろも見ず、牙を剥き、尻尾を振り回し、反対方向へ雪崩のように逃げ出した。
地面が揺れる。
金属片が跳ねる。
盗賊が踏み潰され、悲鳴が連鎖する。
何人かはその場に崩れ落ちた。
膝が笑い、武器を取り落とし、口をぱくぱくさせる。
「な、何だよこれ……」
「俺は降りる!降りるぞ!」
「撤退だ、撤退――!」
声が裏返り、統制が崩れる。
さっきまで勝者気取りだった連中が、瓦解していく。
「何だこれは!? 何だこのクソッタレな状況は!?」
思わず俺も同じ言葉を吐いた。
盗賊と同じ台詞を口にするのは癪だが、正直な感想だ。
「眩しすぎて目がくらむぜ……何だこの光は。」
若頭は目を細め、唇を噛みながらも視線を逸らさない。
冷静だ。さすがに場数を踏んでいる。
ガチャ、ガチャ、と金属音。
リボルバーに弾を装填する手は震えていない。
「こ、この空人の女のせいだ! 妙な魔法使いおって!」
「殺してしまえ!」
瑚依の腕を掴んだ二人の盗賊が、半狂乱になって喚く。
汗と血で滑る手が、彼女の腕にさらに食い込む。
瑚依は顔を上げた。
青光に照らされた瞳は、涙で潤んでいる。
だが、その奥に――怯えとは別の、何かが宿っている。
槍が振り上げられる。
ぎり、と金属が軋む音。
盗賊の腕が震える。理性が崩れたまま、ただ恐怖を断ち切るために振り下ろそうとしている。
その瞬間。
空が裂けた。
白熱した稲妻のような閃光が、横一線に走る。
視界が真っ白になる。
ドォォンッ!!
地面を叩き割るような轟音が、鼓膜を殴った。
時間が、ほんの一拍止まる。
次の瞬間。
盗賊二人の首から、赤い線が走った。
遅れて、噴水のように血が吹き上がる。
ゴロッ――
頭部が地面を転がる音が、妙に生々しく響いた。
体は一瞬立ったまま固まり、次いで力を失い、崩れ落ちる。
血飛沫が雨のように降り注ぎ、瑚依の白いブラウスを赤く染める。
彼女は瞬きもせず、その赤を見つめている。
現実が理解できない顔だ。
その隣に――立っていた。
炎のように赤く光る目。
銀よりも冷たく輝く白髪。
額から伸びる、大きな赤い角。
指先からは黒い刃のような爪が伸び、月光を裂いている。
浅羽の小僧から変貌した「それ」は、怒りを凝縮した塊だった。
口元から白い熱気が噴き出す。
犬歯は槍の穂先のように鋭く、今にも何かを噛み砕きそうだ。
黒い鱗が鎧のように体を覆い、棘が逆立つ。
裂けたシャツが風に揺れ、その異形を隠す役にはなっていない。
仁王か。
地獄門の番人か。
いや、もっと質が悪い。
怒りそのものが、人型を取ったみたいだ。
「えっ……」
瑚依の声が掠れた瞬間、彼女の意識が途切れ、ドサリと倒れ込んだ。
こんな時、どう呼べばいいかさっぱり分からねえ。
とりあえずこいつ、「鬼浅羽」と呼んでやるか、くそくらえ。
「てめえ、舐めるな!」
ロキールがリボルバーを構える。
バンッ!
バンッ!
バンバンバンッ!
銃口が火を噴き、硝煙が爆ぜる。
六発の弾丸が一直線に鬼浅羽へ吸い込まれた。
ガンッ!!
だが次の瞬間、金属を叩くような衝撃音が鳴る。
弾丸は黒い鱗に弾かれ、火花を散らして跳ね返った。
スローモーションのように、回転しながら地面へ落ちる鉛。
鬼浅羽は、微動だにしない。
傷一つない。
「……なっ」
ロキールの顔から血の気が引く。
「ガオオオオオオオ!!」
咆哮が炸裂する。
空気が歪み、衝撃波が放射状に広がる。
鼓膜が裂けそうな低音。
胸骨が震え、内臓が揺れる。
夜空に向かって放たれたその咆哮は、もはや人間のものではない。
地面の砂が跳ね、火の粉が揺れ、盗賊たちがよろめく。
だが、それで終わりじゃなかった。
まるでこの地獄絵図に、さらに上書きするかのように――
チリチリチリチリ……
無数の哨音が夜を裂いた。
最初は遠い。
だが次第に数を増し、音が重なり、空間そのものが振動する。
闇の向こうから、黒い影が一斉に放たれた。
矢だ。
数え切れない矢が、月明かりを遮りながら、雨のように降り注いできた。
ヒュンヒュンヒュンヒュンッ!!
空が黒く染まる。
次の瞬間、地面が矢で埋め尽くされた。
盗賊の悲鳴が、再び夜を引き裂いた。
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