「刀には竜、花は咲かず」~孤独なおっさん武術家と毒舌アイドルの異世界タッグ~

アサバハヤト

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第一章 竜の巻 ようこそ、異世界へ。

1-23 憑依:松尾真一郎視点

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 裂爪獣たちが鬼浅羽と瑚依へ一直線に迫る。

 地面が爆ぜる。

 ゴゴゴゴゴゴ――!!

 巨体が地を蹴るたびに、鉄屑が跳ね、砂塵が爆発する。
 鱗に覆われた脚が土を抉り、血まみれの牙がガチガチと鳴り合う。

 まるで怪獣映画のクライマックスだ。

 月明かりを背に、五つの影が同時に突進する。
 地響きが腹の奥まで響き、空気が振動で歪む。

 俺の耳に轟音が突き刺さる。

 くそ、砲撃かよ!

 周囲では盗賊が逃げ惑い、裂爪獣に弾き飛ばされ、矢が飛び交う。
 俺は四足で必死に方向を変え、踏み潰されないように走る。

 まるで戦場のど真ん中に放り込まれたキイハンターだ。
 誰か千葉真一でも呼んで来い!

 「ちくしょうがっ!クソが!クソッタレが!ふざけんな!終わるかよ、こんなクソみてぇな終わり方で!」

 自分でも呆れるほど汚い言葉が口から飛び出す。

 カピバラの短い脚を必死に回転させ、瑚依へ飛び掛かろうとした瞬間――

 ガクッ!

 彼女の体が突然跳ねた。

 「うわっ!?びっくりした!」

 心臓が止まるかと思った。

 「ジャンプスケアか!?」
 「おい、気絶したんじゃなかったのか!? 何だこの動きは!?」

 混乱で頭が真っ白になる。
 毛が逆立つ、ってより、皮膚そのものがビリビリ震えている感じだ。

 くそ、小僧がライダーなら、こいつはエクソシストかよ!?
 せめて観客サービスでセーラームーンにでもなれってんだ!

 次の瞬間。

 瑚依の体が、ふわりと浮いた。

 両足が地面から離れる。

 彼女の瞳が、深海のような青に染まる。

 背中から噴き上がる青光が、炎のように吹き荒れる。

 空気がねじれる。

 青い光が空へと柱のように立ち上がり、その中に巨大な竜の幻影が重なった。

 翼が広がる。

 尾がうねる。

 口を開いた竜が、無音の咆哮を上げる。

 瑚依の顔から幼さが消える。

 天真爛漫な表情が消え、神像のような静かな威厳に変わる。

 目が青く燃える。

 唇が震え、言葉にならない声が漏れる。

 盗賊の一人が後ずさりする。

 「バカな……」

 足がもつれ、血まみれの地面に膝をつく。

 「あの姿、竜神様じゃねえのか!?」
 「ふざけるな! なぜ空人の女が……!?」

 誰かが武器を落とし、誰かが泣きそうな声を上げる。

 青光が一気に拡張する。

 バンッ!!

 衝撃波のように空気が弾け、透明な壁が球状に形成された。

 ビリビリと空間が震える。

 突進してきた裂爪獣が、その壁に激突した。

 ドガァンッ!!

 巨体が弾かれ、まるで見えないトラックに衝突したかのようにひしゃげる。

 鱗が割れ、血が噴き、地面に叩きつけられる。

 衝撃が俺の体まで伝わる。

 鉄屑が跳ね、砂が吹き飛ぶ。

 耳鳴りが止まらない。

 血の臭いが濃くなる。

 鬼浅羽はその隙を逃さない。

 両腕が閃く。

 二匹を同時に掴み上げる。

 鱗と肉が軋む音。

 裂爪獣が悲鳴を上げる。

 鬼浅羽は力任せに押し返す。

 ゴゴゴゴゴッ!!

 特撮映画のワンカットだ。

 怪獣同士が組み合い、地面が砕ける。

 鬼浅羽が首を締め上げ、一匹を持ち上げる。

 ブンッ!!

 巨体が空を舞う。

 風を切る音。

 ガツン!!

 地面に叩きつけられ、衝撃波が走る。

 投げ飛ばされた二匹が、残り三匹に激突。

 ドカァン!!

 五匹が絡み合って転がる。

 鱗が剥がれ、血が飛び散る。

 まるで血の嵐だ。

 裂爪獣が苦痛の咆哮を上げる。

 だがすぐ立ち上がる。

 再び突進。

 鬼浅羽の力は異常だが、奴らも簡単には死なない。

 戦場の中心が瑚依から離れた瞬間。

 青光が、ふっと消えた。

 彼女の体が、糸の切れた操り人形のように崩れ落ちる。

 「くそ、まずいぞ!」

 「クソッタレ!」

 俺は跳んだ。

 カピバラの体で。

 ドスッ!

 毛むくじゃらの腹に、彼女の体重がのしかかる。

 内臓が潰れる。

 肺から空気が抜ける。

 短い脚がガクガク震える。

 だが、落とすかよ。

 「いい加減起きろ! じゃねえと一緒に死ぬぞ!」

 俺は必死に彼女を揺らす。

 鼻先で顔を押し、腹で支える。

 くそ、この俺が小娘のクッションだと?

 笑えねえ。

 「うう……」

 彼女の瞼が、ゆっくり持ち上がる。

 焦点が合わない目が、俺を映す。

 「何!? 何!? 何!?」
 「誰!? 誰!? 誰だ!?」

 状況を理解できず、パニックで叫ぶ。

 「いい加減逃げろ! ゴジラとガメラの戦いに巻き込まれる前に逃げろ! このバカ娘が!」

 「古っ! 刑事さん! その例え、PS2並みに古っ!」

 そう言いながらも、瑚依は即座に俺を抱き上げる。

 判断は早い。

 腕が震え、息が荒い。

 だが走る。

 「PS2は古くねえ!くそっ、ゴジラとガメラは不朽の名作だろ!せめてファミコンって言ってくれ、ファミコン! このギャル脳が!」

 一緒に走りながら、俺は吠え返す。

 背後では怪獣同士の衝突音。

 爆発音。

 裂爪獣の断末魔。

 瑚依は五十メートル先の飛行機残骸へ全力疾走。

 血と汗が混ざった腕で俺を抱え、太ももを震わせながら駆ける。

 転がる角。

 飛び交う矢。

 爆風。

 そして俺は彼女の胸に押し潰されながら、必死に息をする。

 ようやく残骸の陰に飛び込む。

 息が荒い。

 物陰から顔を出し、戦場を見る。

 鬼浅羽の咆哮。

 裂爪獣の衝突。

 血飛沫。

 クロスボウの矢。

 地獄絵図だ。

 ロキールの姿は見えない。

 あいつなら逃げている。

 絶対に。

 「動けるならもっと離れろ! この戦場に近いと死ぬぞ!」

 「うるさい!黙れ!8ビット!」

 瑚依が俺の口を塞ぐ。

 くそ、何だこの女は!

 8ビットじゃねえ!

 せめてスーファミの16ビットだ!

 この無知ギャルが!
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