「刀には竜、花は咲かず」~孤独なおっさん武術家と毒舌アイドルの異世界タッグ~

アサバハヤト

文字の大きさ
70 / 152
第一章 竜の巻 ようこそ、異世界へ。

1-27 武の頂点:松尾真一郎視点

しおりを挟む
 「ちくしょう! こうなったら、やるしかねえ!」

 追い詰められた盗賊のひとりが喚いた。逃げ道は塞がれ、背後には墓守の弓兵、正面には鬼浅羽。袋の鼠だと理解してなお、引きつった顔で歯を食いしばり、震える膝を無理やり伸ばして武器を構える。

 追い込まれた獣は牙を剥く。
 だが――目の前にいるのは、もっとでかい牙だ。

 雄叫びを上げ、槍や斧を振り回しながら鬼浅羽へ雪崩れ込む。鉄と鉄がぶつかり合う音が、スクラップの山に反響する。

 鬼浅羽は動じない。

 突き出された槍をわずかに身体を傾けてかわし、柄を持つ盗賊の手首を鷲掴みにした。骨が軋む音がはっきり聞こえる。そのまま手首を捻り上げ、体勢を崩させ、体重を乗せて地面へ叩きつける。泥と錆びた鉄片が跳ね上がる。

 倒れた盗賊の肩へ足を踏み込む。関節を固定したまま、腕を逆方向へ引きちぎった。

 肉が裂け、血が噴き出す。

 「うわぁぁぁ!」

 絶叫が途中で濁る。鬼浅羽は引きちぎった腕を無造作に放り捨て、悶える盗賊の顔面へ黒い爪を突き立てた。頬を貫き、顎を裂き、悲鳴が泡のように潰れる。

 「くそ、くらえ!」

 別の盗賊が涙混じりの声で槍を投げつける。

 鬼浅羽は振り返りもせず、さきほど奪った腕を横へ投げ捨てると、飛来した槍を片手で掴み取った。握力で軌道を止め、柄を反転させ、そのまま逆向きに投げ返す。

 鈍い穂先が盗賊の胸を貫き、勢いを殺さぬまま後方へ吹き飛ばす。背後にいたもう一人の腹部に突き刺さり、二人まとめて廃棄タイヤの山へ縫い止めた。

 一本で二人。

 命は軽い。鉄くずより軽い。

 鬼浅羽は爪を伸ばす。黒光りする刃が月明かりを吸う。

 踏み込みと同時に右腕を振るう。盗賊の腕が肘から先ごと宙を舞い、武器が錆びたフレームに当たって跳ねる。切断面から血が噴き出し、泥に赤い線を描いた。

 一瞬で四人が倒れた。

 それでも、残りは引かない。いや、引けない。

 墓守の矢が膝を正確に射抜く光景を目の当たりにした以上、背中を見せた瞬間に人生終了だって本能で分かってるだけだ。仮に〇・〇〇〇一%の悪運で生き延びられたとしても、せいぜい衛兵にでもなって、ある日「昔は冒険してた」なんて言い訳を繰り返す羽目になる。そんな末路は、さすがに御免だろうさ。

 二人が震えながら同時に掴みかかる。片方が鬼浅羽の頭部へ腕を伸ばし、もう片方が背後を取ろうとする。

 鬼浅羽は後退しない。

 踏ん張り、押し返し、そのまま身体を滑らせるように背後へ回る。首に腕を回し、力を込めた。

 ガキッ。

 首が折れる音は、思ったより乾いていた。

 「はぁぁぁ!」

 巨大な斧を振り上げた盗賊が飛び込む。

 鬼浅羽は視線を向けることすらせず、両手の爪を交差させて受ける。金属同士が激突し、火花が散る。その反動で斧の軌道が逸れ、背後にいた二人をまとめて斬り裂いた。

 胴体が横にずれ、遅れて血が噴き出す。上半身が崩れ、下半身がその場に残る。

 鉄くずの山に血が滴り、油と混ざって黒赤く光る。

 鬼浅羽は止まらない。

 悲鳴を上げる暇も与えず、二人の頭を同時に掴むと、積み上げられた廃材の壁へ叩きつけた。そのまま押し付けたまま走る。

 鉄板の角、パイプの断面、歪んだフレームが顔面を削る。

 「ぎゃあああああああああああああ!!」

 肉が擦り下ろされ、血と皮膚片が後方へ飛び散る。鬼浅羽は力尽きた二つの身体を、雑巾でも投げるみたいに放り捨てた。

 「やめて! 助けてくれ!」

 地面にうずくまった盗賊たちが、涙と鼻水を垂らしながら喚き散らす。

 ……何度も耳にした響きだ。

 喉の奥で崩れ、理性が剥がれ落ち、ただ生きたいという本能だけが露出した声。

 今まで、あいつらの手にかかった誰かも、きっと同じように命乞いしたはずだ。

 だが、今は逆だ。

 絶対的な暴力に押し潰され、膝を折り、視界を奪われ、ただ怯える側に回った。

 鬼浅羽は容赦しない。

 命乞いしている男を片手で掴み上げ、空いた拳で殴る。

 一発。

 二発。

 三発。

 顔の形が崩れ、歯が飛び、目玉と骨が砕ける。それでも止めない。感情も怒号もない。作業のように、ただ殴り続ける。

 「や、やめ……」
 「もう……」

 他の盗賊たちの目から、光が消える。跪く者、腰を抜かす者、失禁する者。戦意どころか、生存への希望そのものが剥ぎ取られていく。

 ……墜落前のハイジャック機内を思い出す。

 あの時は俺が止めに入った。
 だが今回は違う。
 仮に俺が人間の姿のままだとしても――あれを止める自信は、正直ない。

 モヒカンどもが、俺の思考より早く、次々と無様に倒れていく。

 動きは獰猛で、同時に無駄がない。喰らいつく獣と、舞う武人の調和。

 山岡先生の言葉を借りるなら、武人が目指す「武の頂点」ってやつだ。誇張じゃない。

 「素晴らしい! その勇ましい戦いぶり、まさに我らが待ち望んだ真の王だ! 称えよ、戦士たちよ!」

 丘の上から、墓守の女指揮官が長剣を掲げて叫ぶ。黒いマントが風を孕み、声に酔ったような響きがある。

 「うぉぉぉぉ!」

 墓守たちが応じる。盾を地面に叩きつけ、低い雄叫びを上げ、笛が鋭く鳴る。戦場が祭壇みたいに騒がしくなる。

 あまりにも残酷な光景に、瑚依は目を固く閉じた。それでも絶叫は耳を裂く。「グアアア!」という断末魔が何度も響き、肉が裂ける音が止まらない。

 瑚依の顔は真っ青で、俺を抱く腕が小刻みに震えている。

 やがて、動く者がいなくなった。

 怪獣の死骸と、モヒカンどもの無残な残骸。そして、血に濡れた鬼浅羽だけが立っている。

 赤い目が、静まり返ったスクラップ置き場を見下ろす。血まみれの鱗が月光を反射し、本物の地獄の鬼みたいだ。

 だが――

 終わってねぇ。

 墓守の連中はまだ動かない。丘の上の女の視線が、こちらを測っている。何かを待っている空気が、皮膚を刺す。

 その瞬間。

 スクラップの影の向こうから、重低音の銃声が連なって響いた。

 ズドドドドッ、と。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ダンジョン嫌いの元英雄は裏方仕事に徹したい ~うっかりA級攻略者をワンパンしたら、切り抜き動画が世界中に拡散されてしまった件~

厳座励主(ごんざれす)
ファンタジー
「英雄なんて、もう二度とごめんだ」 ダンジョン出現から10年。 攻略が『配信』という娯楽に形を変えた現代。 かつて日本を救った伝説の英雄は、ある事情から表舞台を去り、ダンジョン攻略支援用AI『アリス』の開発に没頭する裏方へと転身していた。 ダンジョンも、配信も、そして英雄と呼ばれることも。 すべてを忌み嫌う彼は、裏方に徹してその生涯を終える……はずだった。 アリスの試験運用中に遭遇した、迷惑系配信者の暴挙。 少女を救うために放った一撃が、あろうことか世界中にライブ配信されてしまう。 その結果―― 「――ダンジョン嫌いニキ、強すぎるだろ!!」 意図せず爆増するファン、殺到するスポンサー。 静寂を望む願いをよそに、世界は彼を再び『英雄』の座へと引きずり戻していく。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

軽トラの荷台にダンジョンができました★車ごと【非破壊オブジェクト化】して移動要塞になったので快適探索者生活を始めたいと思います

こげ丸
ファンタジー
===運べるプライベートダンジョンで自由気ままな快適最強探索者生活!=== ダンジョンが出来て三〇年。平凡なエンジニアとして過ごしていた主人公だが、ある日突然軽トラの荷台にダンジョンゲートが発生したことをきっかけに、遅咲きながら探索者デビューすることを決意する。 でも別に最強なんて目指さない。 それなりに強くなって、それなりに稼げるようになれれば十分と思っていたのだが……。 フィールドボス化した愛犬(パグ)に非破壊オブジェクト化して移動要塞と化した軽トラ。ユニークスキル「ダンジョンアドミニストレーター」を得てダンジョンの管理者となった主人公が「それなり」ですむわけがなかった。 これは、プライベートダンジョンを利用した快適生活を送りつつ、最強探索者へと駆け上がっていく一人と一匹……とその他大勢の配下たちの物語。

異世界へ行って帰って来た

バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。 そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。

おっさん冒険者のおいしいダンジョン攻略

神崎あら
ファンタジー
冒険者歴20年以上のおっさんは、若い冒険者達のように地位や権威を得るためにダンジョンには行かない。 そう、おっさんは生活のためにダンジョンに行く。 これはそんなおっさんの冒険者ライフを描いた生活記である。

処理中です...