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第一章 竜の巻 ようこそ、異世界へ。
1-27 武の頂点:松尾真一郎視点
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「ちくしょう! こうなったら、やるしかねえ!」
追い詰められた盗賊のひとりが喚いた。逃げ道は塞がれ、背後には墓守の弓兵、正面には鬼浅羽。袋の鼠だと理解してなお、引きつった顔で歯を食いしばり、震える膝を無理やり伸ばして武器を構える。
追い込まれた獣は牙を剥く。
だが――目の前にいるのは、もっとでかい牙だ。
雄叫びを上げ、槍や斧を振り回しながら鬼浅羽へ雪崩れ込む。鉄と鉄がぶつかり合う音が、スクラップの山に反響する。
鬼浅羽は動じない。
突き出された槍をわずかに身体を傾けてかわし、柄を持つ盗賊の手首を鷲掴みにした。骨が軋む音がはっきり聞こえる。そのまま手首を捻り上げ、体勢を崩させ、体重を乗せて地面へ叩きつける。泥と錆びた鉄片が跳ね上がる。
倒れた盗賊の肩へ足を踏み込む。関節を固定したまま、腕を逆方向へ引きちぎった。
肉が裂け、血が噴き出す。
「うわぁぁぁ!」
絶叫が途中で濁る。鬼浅羽は引きちぎった腕を無造作に放り捨て、悶える盗賊の顔面へ黒い爪を突き立てた。頬を貫き、顎を裂き、悲鳴が泡のように潰れる。
「くそ、くらえ!」
別の盗賊が涙混じりの声で槍を投げつける。
鬼浅羽は振り返りもせず、さきほど奪った腕を横へ投げ捨てると、飛来した槍を片手で掴み取った。握力で軌道を止め、柄を反転させ、そのまま逆向きに投げ返す。
鈍い穂先が盗賊の胸を貫き、勢いを殺さぬまま後方へ吹き飛ばす。背後にいたもう一人の腹部に突き刺さり、二人まとめて廃棄タイヤの山へ縫い止めた。
一本で二人。
命は軽い。鉄くずより軽い。
鬼浅羽は爪を伸ばす。黒光りする刃が月明かりを吸う。
踏み込みと同時に右腕を振るう。盗賊の腕が肘から先ごと宙を舞い、武器が錆びたフレームに当たって跳ねる。切断面から血が噴き出し、泥に赤い線を描いた。
一瞬で四人が倒れた。
それでも、残りは引かない。いや、引けない。
墓守の矢が膝を正確に射抜く光景を目の当たりにした以上、背中を見せた瞬間に人生終了だって本能で分かってるだけだ。仮に〇・〇〇〇一%の悪運で生き延びられたとしても、せいぜい衛兵にでもなって、ある日「昔は冒険してた」なんて言い訳を繰り返す羽目になる。そんな末路は、さすがに御免だろうさ。
二人が震えながら同時に掴みかかる。片方が鬼浅羽の頭部へ腕を伸ばし、もう片方が背後を取ろうとする。
鬼浅羽は後退しない。
踏ん張り、押し返し、そのまま身体を滑らせるように背後へ回る。首に腕を回し、力を込めた。
ガキッ。
首が折れる音は、思ったより乾いていた。
「はぁぁぁ!」
巨大な斧を振り上げた盗賊が飛び込む。
鬼浅羽は視線を向けることすらせず、両手の爪を交差させて受ける。金属同士が激突し、火花が散る。その反動で斧の軌道が逸れ、背後にいた二人をまとめて斬り裂いた。
胴体が横にずれ、遅れて血が噴き出す。上半身が崩れ、下半身がその場に残る。
鉄くずの山に血が滴り、油と混ざって黒赤く光る。
鬼浅羽は止まらない。
悲鳴を上げる暇も与えず、二人の頭を同時に掴むと、積み上げられた廃材の壁へ叩きつけた。そのまま押し付けたまま走る。
鉄板の角、パイプの断面、歪んだフレームが顔面を削る。
「ぎゃあああああああああああああ!!」
肉が擦り下ろされ、血と皮膚片が後方へ飛び散る。鬼浅羽は力尽きた二つの身体を、雑巾でも投げるみたいに放り捨てた。
「やめて! 助けてくれ!」
地面にうずくまった盗賊たちが、涙と鼻水を垂らしながら喚き散らす。
……何度も耳にした響きだ。
喉の奥で崩れ、理性が剥がれ落ち、ただ生きたいという本能だけが露出した声。
今まで、あいつらの手にかかった誰かも、きっと同じように命乞いしたはずだ。
だが、今は逆だ。
絶対的な暴力に押し潰され、膝を折り、視界を奪われ、ただ怯える側に回った。
鬼浅羽は容赦しない。
命乞いしている男を片手で掴み上げ、空いた拳で殴る。
一発。
二発。
三発。
顔の形が崩れ、歯が飛び、目玉と骨が砕ける。それでも止めない。感情も怒号もない。作業のように、ただ殴り続ける。
「や、やめ……」
「もう……」
他の盗賊たちの目から、光が消える。跪く者、腰を抜かす者、失禁する者。戦意どころか、生存への希望そのものが剥ぎ取られていく。
……墜落前のハイジャック機内を思い出す。
あの時は俺が止めに入った。
だが今回は違う。
仮に俺が人間の姿のままだとしても――あれを止める自信は、正直ない。
モヒカンどもが、俺の思考より早く、次々と無様に倒れていく。
動きは獰猛で、同時に無駄がない。喰らいつく獣と、舞う武人の調和。
山岡先生の言葉を借りるなら、武人が目指す「武の頂点」ってやつだ。誇張じゃない。
「素晴らしい! その勇ましい戦いぶり、まさに我らが待ち望んだ真の王だ! 称えよ、戦士たちよ!」
丘の上から、墓守の女指揮官が長剣を掲げて叫ぶ。黒いマントが風を孕み、声に酔ったような響きがある。
「うぉぉぉぉ!」
墓守たちが応じる。盾を地面に叩きつけ、低い雄叫びを上げ、笛が鋭く鳴る。戦場が祭壇みたいに騒がしくなる。
あまりにも残酷な光景に、瑚依は目を固く閉じた。それでも絶叫は耳を裂く。「グアアア!」という断末魔が何度も響き、肉が裂ける音が止まらない。
瑚依の顔は真っ青で、俺を抱く腕が小刻みに震えている。
やがて、動く者がいなくなった。
怪獣の死骸と、モヒカンどもの無残な残骸。そして、血に濡れた鬼浅羽だけが立っている。
赤い目が、静まり返ったスクラップ置き場を見下ろす。血まみれの鱗が月光を反射し、本物の地獄の鬼みたいだ。
だが――
終わってねぇ。
墓守の連中はまだ動かない。丘の上の女の視線が、こちらを測っている。何かを待っている空気が、皮膚を刺す。
その瞬間。
スクラップの影の向こうから、重低音の銃声が連なって響いた。
ズドドドドッ、と。
追い詰められた盗賊のひとりが喚いた。逃げ道は塞がれ、背後には墓守の弓兵、正面には鬼浅羽。袋の鼠だと理解してなお、引きつった顔で歯を食いしばり、震える膝を無理やり伸ばして武器を構える。
追い込まれた獣は牙を剥く。
だが――目の前にいるのは、もっとでかい牙だ。
雄叫びを上げ、槍や斧を振り回しながら鬼浅羽へ雪崩れ込む。鉄と鉄がぶつかり合う音が、スクラップの山に反響する。
鬼浅羽は動じない。
突き出された槍をわずかに身体を傾けてかわし、柄を持つ盗賊の手首を鷲掴みにした。骨が軋む音がはっきり聞こえる。そのまま手首を捻り上げ、体勢を崩させ、体重を乗せて地面へ叩きつける。泥と錆びた鉄片が跳ね上がる。
倒れた盗賊の肩へ足を踏み込む。関節を固定したまま、腕を逆方向へ引きちぎった。
肉が裂け、血が噴き出す。
「うわぁぁぁ!」
絶叫が途中で濁る。鬼浅羽は引きちぎった腕を無造作に放り捨て、悶える盗賊の顔面へ黒い爪を突き立てた。頬を貫き、顎を裂き、悲鳴が泡のように潰れる。
「くそ、くらえ!」
別の盗賊が涙混じりの声で槍を投げつける。
鬼浅羽は振り返りもせず、さきほど奪った腕を横へ投げ捨てると、飛来した槍を片手で掴み取った。握力で軌道を止め、柄を反転させ、そのまま逆向きに投げ返す。
鈍い穂先が盗賊の胸を貫き、勢いを殺さぬまま後方へ吹き飛ばす。背後にいたもう一人の腹部に突き刺さり、二人まとめて廃棄タイヤの山へ縫い止めた。
一本で二人。
命は軽い。鉄くずより軽い。
鬼浅羽は爪を伸ばす。黒光りする刃が月明かりを吸う。
踏み込みと同時に右腕を振るう。盗賊の腕が肘から先ごと宙を舞い、武器が錆びたフレームに当たって跳ねる。切断面から血が噴き出し、泥に赤い線を描いた。
一瞬で四人が倒れた。
それでも、残りは引かない。いや、引けない。
墓守の矢が膝を正確に射抜く光景を目の当たりにした以上、背中を見せた瞬間に人生終了だって本能で分かってるだけだ。仮に〇・〇〇〇一%の悪運で生き延びられたとしても、せいぜい衛兵にでもなって、ある日「昔は冒険してた」なんて言い訳を繰り返す羽目になる。そんな末路は、さすがに御免だろうさ。
二人が震えながら同時に掴みかかる。片方が鬼浅羽の頭部へ腕を伸ばし、もう片方が背後を取ろうとする。
鬼浅羽は後退しない。
踏ん張り、押し返し、そのまま身体を滑らせるように背後へ回る。首に腕を回し、力を込めた。
ガキッ。
首が折れる音は、思ったより乾いていた。
「はぁぁぁ!」
巨大な斧を振り上げた盗賊が飛び込む。
鬼浅羽は視線を向けることすらせず、両手の爪を交差させて受ける。金属同士が激突し、火花が散る。その反動で斧の軌道が逸れ、背後にいた二人をまとめて斬り裂いた。
胴体が横にずれ、遅れて血が噴き出す。上半身が崩れ、下半身がその場に残る。
鉄くずの山に血が滴り、油と混ざって黒赤く光る。
鬼浅羽は止まらない。
悲鳴を上げる暇も与えず、二人の頭を同時に掴むと、積み上げられた廃材の壁へ叩きつけた。そのまま押し付けたまま走る。
鉄板の角、パイプの断面、歪んだフレームが顔面を削る。
「ぎゃあああああああああああああ!!」
肉が擦り下ろされ、血と皮膚片が後方へ飛び散る。鬼浅羽は力尽きた二つの身体を、雑巾でも投げるみたいに放り捨てた。
「やめて! 助けてくれ!」
地面にうずくまった盗賊たちが、涙と鼻水を垂らしながら喚き散らす。
……何度も耳にした響きだ。
喉の奥で崩れ、理性が剥がれ落ち、ただ生きたいという本能だけが露出した声。
今まで、あいつらの手にかかった誰かも、きっと同じように命乞いしたはずだ。
だが、今は逆だ。
絶対的な暴力に押し潰され、膝を折り、視界を奪われ、ただ怯える側に回った。
鬼浅羽は容赦しない。
命乞いしている男を片手で掴み上げ、空いた拳で殴る。
一発。
二発。
三発。
顔の形が崩れ、歯が飛び、目玉と骨が砕ける。それでも止めない。感情も怒号もない。作業のように、ただ殴り続ける。
「や、やめ……」
「もう……」
他の盗賊たちの目から、光が消える。跪く者、腰を抜かす者、失禁する者。戦意どころか、生存への希望そのものが剥ぎ取られていく。
……墜落前のハイジャック機内を思い出す。
あの時は俺が止めに入った。
だが今回は違う。
仮に俺が人間の姿のままだとしても――あれを止める自信は、正直ない。
モヒカンどもが、俺の思考より早く、次々と無様に倒れていく。
動きは獰猛で、同時に無駄がない。喰らいつく獣と、舞う武人の調和。
山岡先生の言葉を借りるなら、武人が目指す「武の頂点」ってやつだ。誇張じゃない。
「素晴らしい! その勇ましい戦いぶり、まさに我らが待ち望んだ真の王だ! 称えよ、戦士たちよ!」
丘の上から、墓守の女指揮官が長剣を掲げて叫ぶ。黒いマントが風を孕み、声に酔ったような響きがある。
「うぉぉぉぉ!」
墓守たちが応じる。盾を地面に叩きつけ、低い雄叫びを上げ、笛が鋭く鳴る。戦場が祭壇みたいに騒がしくなる。
あまりにも残酷な光景に、瑚依は目を固く閉じた。それでも絶叫は耳を裂く。「グアアア!」という断末魔が何度も響き、肉が裂ける音が止まらない。
瑚依の顔は真っ青で、俺を抱く腕が小刻みに震えている。
やがて、動く者がいなくなった。
怪獣の死骸と、モヒカンどもの無残な残骸。そして、血に濡れた鬼浅羽だけが立っている。
赤い目が、静まり返ったスクラップ置き場を見下ろす。血まみれの鱗が月光を反射し、本物の地獄の鬼みたいだ。
だが――
終わってねぇ。
墓守の連中はまだ動かない。丘の上の女の視線が、こちらを測っている。何かを待っている空気が、皮膚を刺す。
その瞬間。
スクラップの影の向こうから、重低音の銃声が連なって響いた。
ズドドドドッ、と。
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