「刀には竜、花は咲かず」~孤独なおっさん武術家と毒舌アイドルの異世界タッグ~

アサバハヤト

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第一章 竜の巻 ようこそ、異世界へ。

1-28 捕獲:松尾真一郎視点

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 真の王だと? 銃声? 今度は何だ――くそ、情報が多すぎる。頭の中で状況が渋滞起こしてやがる。

 「ガオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」

 鬼浅羽の喉から、さっきまでとは質の違う咆哮が迸った。怒りだけじゃない。痛みが混じっている。

 丘の上――墓守の陣から放たれた、赤く発光する宝石みたいな弾丸が、今まで弾き返していたはずのあの身体を貫いた。鈍い衝撃音と同時に、血が四肢から噴き出す。赤黒い飛沫がスクラップの山を濡らし、錆と油の匂いに鉄臭さが混ざった。

 続けざまに、赤い光を帯びた巨大な塊が夜空を裂いて飛来する。

 網だ。

 昔、警視庁の対テロ訓練で見せられた捕獲用の特殊ネットに似ている。人間を無傷で拘束するために、相当な研究が積まれた代物だと聞いたことがある。

 だが、目の前のこれは別物だ。網の縁に赤く発光する小型の重りが八つ取り付けられ、それぞれが軌道を制御しているらしい。空中で瞬時に展開し、獲物を締め上げる構造になっている。

 何枚も、何枚も。

 空から厚い捕獲網が降り注ぐ。風を切る音が耳を裂き、罠が一斉に展開される。

 鬼浅羽は、咄嗟に地面に転がるモヒカン野郎の死体を掴み上げ、盾代わりに空へ投げつけた。

 血まみれの肉塊が宙でぶつかり、数枚の網に絡み取られる。重りが赤く瞬き、網が締まり、死体が包み込まれたまま泥へ落ちた。肉と泥が混ざり合い、嫌な臭気が鼻を刺す。

 だが、網は止まらない。

 残りが一斉に鬼浅羽へ降りかかる。

 何枚もの網が巨体を覆い、絡みつく。鬼浅羽が爪で引き裂こうとした瞬間、黒い爪が赤い重りに触れた。

 バチィッ――!

 雷みたいな放電が炸裂する。赤い閃光が走り、網全体が光った。

 焦げた肉の臭いが一気に広がる。

 「ゴオオオオオ!」

 鬼浅羽の咆哮が痛みに変わる。筋肉が痙攣し、鱗の隙間から煙が上がる。

 丘の上の墓守たちは、整列したまま動かない。まるで舞台劇を鑑賞する観客みたいに、静まり返っている。

 「ギャ――! な、何!? 今どうなってるの!?」

 瑚依が俺の体を抱き締め、震えた。血と汗で濡れた腕が締め付ける。顔は真っ青だ。

 「知りたきゃ目ぇ開けろ!」

 「嫌だ!」

 即答かよ。

 「じゃあ聞くな!」

 正直、俺だって整理できてねぇ。

 何だこれは? 鬼の小僧はお前らの“王”じゃなかったのか? 王様に銃ぶち込んで、網で電撃拘束って、どんな忠誠だよ。無礼どころの話じゃねぇぞ、クソッタレ。

 墓守の連中を凝視する。狂ってるのか、それとも計算ずくか。

 「おお……その戦慄を呼び起こす魂……ミドガル様、我ら竜の民が待ち続けたお方……!」

 女指揮官が恍惚に歪んだ顔で叫ぶ。黒マントが揺れ、震える手で鬼浅羽へ剣先を向ける。

 墓守たちが盾を打ち鳴らす。ガン、ガン、と重い音がスクラップの山を震わせ、笛が甲高く鳴り響く。

 「七柱の熾天使の裏切りにより、ミドガル様は時空の狭間に囚われておいででした! しかし、神の座に就くべきはミドガル様のみ! 我らはそのお戻りを待ち続け――」

 長ったらしい演説が続く。

 その声を、

 「ゴオォォォォォォォォォォォォ――ン!!」

 鬼浅羽の咆哮が叩き潰した。

 戦場が凍る。

 さっきまで無双していた鬼浅羽が、片膝をついている。網に絡まれ、爪で引き裂こうとするたびに赤い電流が走る。筋肉が痙攣し、血まみれの四肢が震え、赤い目が濁っている。

 ……マジかよ?

 あれだけ暴れてたくせに、一気に形勢逆転か? 何だこの展開。誰だこんな脚本書いたの。井●敏●!?

 網だけじゃない。あの赤い弾丸、何か仕込んでやがる。毒か、呪術か、麻痺か。

 くそ、本気で仕留めるつもりだ。

 背筋が冷える。墓守が盾を叩く音が、やけに近く感じる。

 「ああ……おいたわしい。ミドガル様が薄汚い空人の体に封じられておいでとは……」

 女指揮官が胸を抱き、酔ったみたいな目で鬼浅羽を見つめる。

 「竜の民の子孫、あなたの忠実なる下僕、グレシラ・トゥールヴェイン! 僭越ながら、その穢れた肉体を捕獲し、解体させていただきます!」

 剣が高く掲げられる。

 「矢を射ろ!」

 グレシラの号令。

 背後に並んだ弓兵が一斉に弦を引く。火矢が放たれ、炎が放物線を描いて夜空を横切る。

 赤い軌跡が幾重にも重なり、鬼浅羽へ向かって唸りを上げて突っ込んでいった。
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