「刀には竜、花は咲かず」~孤独なおっさん武術家と毒舌アイドルの異世界タッグ~

アサバハヤト

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第一章 竜の巻 ようこそ、異世界へ。

1-29 分からず屋:松尾真一郎視点

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 まだ来るのか!? 正気かよ、こいつら!

 くそ、頭が沸いてやがる。鬼の小僧を王として迎えるどころか、串刺しの見世物にしてやる気満々だ。歓迎式典どころか解体ショーかよ。

 だがその瞬間、鬼浅羽の身体から、圧縮された何かが限界を超えたように、赤い光が爆ぜた。

 雷が鉄屑の山に直撃したみてえな衝撃。白熱した火花が炸裂し、スクラップの破片が弾丸みたいに四散する。油と泥と血で汚れた地面が一瞬で焦げ、焦げ臭い煙が立ち上った。

 轟音が耳を劈き、圧力波が廃車のドアをひしゃげさせる。俺の潜んでいる残骸の影まで熱が舐めてきた。焼けた鉄と焦げたゴムの臭いが鼻腔を刺し、目がヒリつく。

 冗談じゃねえ。爆心地の近くにいたら、今ごろ俺は干物だ。

 「おい、瑚依、いい加減目ぇ開けろ!」

 俺は――正確には、俺を抱き締めて震えている瑚依に向かって怒鳴った。ぬいぐるみ扱いは今に始まった話じゃねえが、今は甘えてる場合じゃねえ。

 「今のうちに離れねえと、俺たちも消し炭だぞ!」

 「えっ!? でも、浅羽さんは!?」

 震え声。視線は爆煙の中心から外れねえ。

 「現実見ろ。あいつはもう、俺たちの知ってる小僧じゃねえ。」

 歯を食いしばる。

 「あいつを一番知ってる俺が言ってんだ。お前ら会って何時間だ? そこまであいつを気にかける義理はないだろ!」

 口に出しながら、胸の奥が軋む。

 「逃げねえと、あいつの犠牲まで無駄にするぞ……」

 「嫌だ!」

 瑚依が目を見開いた。涙で濡れてるくせに、芯だけは折れてねえ。

 「浅羽さんは戻ってくる! 一緒に逃げられる! 置いていけるわけない!」

 「ふざけんな。ここにいて何ができる? 無駄死にが増えるだけだ!」

 「刑事さんのバカ! 分からず屋! カピバラのくせに!」

 俺は地面に投げ落とされた。扱い雑すぎだろ。

 「逃げたいなら一人で逃げて! あたしは待つ!」

 「冷静になれ! あいつはもう浅羽隼人じゃねえ、“ミドガル様”だ!」

 「知らない! ミルクパフェでもハーゲンダッツでも関係ない! 浅羽さんは浅羽さん! まっちゃんだって、絶対に帰ってきてくれる!」

 「ソフトクリームの話じゃねえ!」

 本気で頭が痛ぇ。

 俺たちの罵り合いなんざ、戦場の騒音に溶けて消える。

 鉄屑を踏み砕く足音が不協和音のように連なり、百を超える墓守が整然と展開した。赤光の中心を包囲する陣形。外周でグレシラがマントを翻し、冷静に指揮を飛ばしている。

 焼け焦げた網の残骸が崩れ、その中から鬼浅羽が立ち上がった。

 赤い瞳。裂けた肉がみるみる塞がり、傷跡すら消える。一歩踏み出すたび、地面が波紋のように割れ、鉄片が跳ねる。

 だが、墓守は怯まねえ。

 最前列が四角盾を打ち付け、壁を築く。後方の長槍兵が隙間から突き出し、荊の森を形成する。笛の合図が甲高く響き、血と硝煙の匂いに冷たい秩序が重なる。

 「ソウルストーン弾でも通らないとは……素晴らしい。さすがミドガル様」

 グレシラが恍惚を滲ませる。

 「このグレシラと王の子孫が、王を牢獄から解き放ちます!」

 剣が掲げられた瞬間――

 赤い閃光。

 盾と肉体が衝突する鈍い衝撃音が走る。

 鬼浅羽が、盾陣に真正面から体当たりした。

 鉄と骨が軋む音が、スクラップの山に反響した。

 その直後、ほとんど間を置かずに、四発の重い衝突音が炸裂した。

 四人の墓守が、まるで示し合わせた歯車みてえに同時に跳び出す。

 無駄のない踏み込み、剣を逆手に持ち替える動作まで寸分の狂いもねえ。あの手の訓練は血を吐くほどやらされる。分かる。だからこそ嫌になる。

 四方から、剣が落ちる。

 狙いは急所じゃねえ。腕と脚。動力源を潰す算段だ。

 剣先が地面ごと鬼浅羽を縫い止める。鋼が肉を貫き、土と鉄屑を同時に噛む音が、嫌に乾いて響いた。恐ろしいほどの同調。あれは偶然じゃない。

 「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」

 絶叫が、廃車のボンネットを震わせた。

 さっきまで大斧を弾いてた肉体が、装飾もねえ中世の片手剣に、まるで熱したナイフでバターを裂くみてえに貫かれている。見た目が地味な分、余計に質が悪い。武器ってのは、派手さじゃなく理屈だ。

 穿たれた四肢から血が噴き、油と混じって地面を黒く染める。

 だが――止まらねえ。

 鬼浅羽は一瞬の躊躇もなく、己の肉体をそのまま前へ引き剥がした。肉が裂ける湿った音が響き、鋼が骨を擦る感触がこっちまで伝わってくる。普通はそこで心が折れる。だがあいつは違う。

 剣を置き去りにして、自由を奪い返した。

 次の瞬間、血を撒き散らしたまま両脚が唸る。

 竜巻みてえな回転。重機のアームが振り回されたような質量の暴力。

 回し蹴りが四人の戦士をまとめて薙ぎ払った。

 鈍い衝突音とともに、甲冑が宙を舞う。鉄がひしゃげ、空気が裂ける。

 ドスン、ドスンと重たい落下音が続き、四人の身体がスクラップ混じりの地面に叩きつけられた。廃タイヤが跳ね、錆びたボンネットが震える。

 ……今さらだが、人間ってのは、ああも簡単に飛ぶもんだったか?

 いや、違うな。

 飛ばしてる側が、人間じゃねえだけだ。
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