72 / 152
第一章 竜の巻 ようこそ、異世界へ。
1-29 分からず屋:松尾真一郎視点
しおりを挟む
まだ来るのか!? 正気かよ、こいつら!
くそ、頭が沸いてやがる。鬼の小僧を王として迎えるどころか、串刺しの見世物にしてやる気満々だ。歓迎式典どころか解体ショーかよ。
だがその瞬間、鬼浅羽の身体から、圧縮された何かが限界を超えたように、赤い光が爆ぜた。
雷が鉄屑の山に直撃したみてえな衝撃。白熱した火花が炸裂し、スクラップの破片が弾丸みたいに四散する。油と泥と血で汚れた地面が一瞬で焦げ、焦げ臭い煙が立ち上った。
轟音が耳を劈き、圧力波が廃車のドアをひしゃげさせる。俺の潜んでいる残骸の影まで熱が舐めてきた。焼けた鉄と焦げたゴムの臭いが鼻腔を刺し、目がヒリつく。
冗談じゃねえ。爆心地の近くにいたら、今ごろ俺は干物だ。
「おい、瑚依、いい加減目ぇ開けろ!」
俺は――正確には、俺を抱き締めて震えている瑚依に向かって怒鳴った。ぬいぐるみ扱いは今に始まった話じゃねえが、今は甘えてる場合じゃねえ。
「今のうちに離れねえと、俺たちも消し炭だぞ!」
「えっ!? でも、浅羽さんは!?」
震え声。視線は爆煙の中心から外れねえ。
「現実見ろ。あいつはもう、俺たちの知ってる小僧じゃねえ。」
歯を食いしばる。
「あいつを一番知ってる俺が言ってんだ。お前ら会って何時間だ? そこまであいつを気にかける義理はないだろ!」
口に出しながら、胸の奥が軋む。
「逃げねえと、あいつの犠牲まで無駄にするぞ……」
「嫌だ!」
瑚依が目を見開いた。涙で濡れてるくせに、芯だけは折れてねえ。
「浅羽さんは戻ってくる! 一緒に逃げられる! 置いていけるわけない!」
「ふざけんな。ここにいて何ができる? 無駄死にが増えるだけだ!」
「刑事さんのバカ! 分からず屋! カピバラのくせに!」
俺は地面に投げ落とされた。扱い雑すぎだろ。
「逃げたいなら一人で逃げて! あたしは待つ!」
「冷静になれ! あいつはもう浅羽隼人じゃねえ、“ミドガル様”だ!」
「知らない! ミルクパフェでもハーゲンダッツでも関係ない! 浅羽さんは浅羽さん! まっちゃんだって、絶対に帰ってきてくれる!」
「ソフトクリームの話じゃねえ!」
本気で頭が痛ぇ。
俺たちの罵り合いなんざ、戦場の騒音に溶けて消える。
鉄屑を踏み砕く足音が不協和音のように連なり、百を超える墓守が整然と展開した。赤光の中心を包囲する陣形。外周でグレシラがマントを翻し、冷静に指揮を飛ばしている。
焼け焦げた網の残骸が崩れ、その中から鬼浅羽が立ち上がった。
赤い瞳。裂けた肉がみるみる塞がり、傷跡すら消える。一歩踏み出すたび、地面が波紋のように割れ、鉄片が跳ねる。
だが、墓守は怯まねえ。
最前列が四角盾を打ち付け、壁を築く。後方の長槍兵が隙間から突き出し、荊の森を形成する。笛の合図が甲高く響き、血と硝煙の匂いに冷たい秩序が重なる。
「ソウルストーン弾でも通らないとは……素晴らしい。さすがミドガル様」
グレシラが恍惚を滲ませる。
「このグレシラと王の子孫が、王を牢獄から解き放ちます!」
剣が掲げられた瞬間――
赤い閃光。
盾と肉体が衝突する鈍い衝撃音が走る。
鬼浅羽が、盾陣に真正面から体当たりした。
鉄と骨が軋む音が、スクラップの山に反響した。
その直後、ほとんど間を置かずに、四発の重い衝突音が炸裂した。
四人の墓守が、まるで示し合わせた歯車みてえに同時に跳び出す。
無駄のない踏み込み、剣を逆手に持ち替える動作まで寸分の狂いもねえ。あの手の訓練は血を吐くほどやらされる。分かる。だからこそ嫌になる。
四方から、剣が落ちる。
狙いは急所じゃねえ。腕と脚。動力源を潰す算段だ。
剣先が地面ごと鬼浅羽を縫い止める。鋼が肉を貫き、土と鉄屑を同時に噛む音が、嫌に乾いて響いた。恐ろしいほどの同調。あれは偶然じゃない。
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
絶叫が、廃車のボンネットを震わせた。
さっきまで大斧を弾いてた肉体が、装飾もねえ中世の片手剣に、まるで熱したナイフでバターを裂くみてえに貫かれている。見た目が地味な分、余計に質が悪い。武器ってのは、派手さじゃなく理屈だ。
穿たれた四肢から血が噴き、油と混じって地面を黒く染める。
だが――止まらねえ。
鬼浅羽は一瞬の躊躇もなく、己の肉体をそのまま前へ引き剥がした。肉が裂ける湿った音が響き、鋼が骨を擦る感触がこっちまで伝わってくる。普通はそこで心が折れる。だがあいつは違う。
剣を置き去りにして、自由を奪い返した。
次の瞬間、血を撒き散らしたまま両脚が唸る。
竜巻みてえな回転。重機のアームが振り回されたような質量の暴力。
回し蹴りが四人の戦士をまとめて薙ぎ払った。
鈍い衝突音とともに、甲冑が宙を舞う。鉄がひしゃげ、空気が裂ける。
ドスン、ドスンと重たい落下音が続き、四人の身体がスクラップ混じりの地面に叩きつけられた。廃タイヤが跳ね、錆びたボンネットが震える。
……今さらだが、人間ってのは、ああも簡単に飛ぶもんだったか?
いや、違うな。
飛ばしてる側が、人間じゃねえだけだ。
くそ、頭が沸いてやがる。鬼の小僧を王として迎えるどころか、串刺しの見世物にしてやる気満々だ。歓迎式典どころか解体ショーかよ。
だがその瞬間、鬼浅羽の身体から、圧縮された何かが限界を超えたように、赤い光が爆ぜた。
雷が鉄屑の山に直撃したみてえな衝撃。白熱した火花が炸裂し、スクラップの破片が弾丸みたいに四散する。油と泥と血で汚れた地面が一瞬で焦げ、焦げ臭い煙が立ち上った。
轟音が耳を劈き、圧力波が廃車のドアをひしゃげさせる。俺の潜んでいる残骸の影まで熱が舐めてきた。焼けた鉄と焦げたゴムの臭いが鼻腔を刺し、目がヒリつく。
冗談じゃねえ。爆心地の近くにいたら、今ごろ俺は干物だ。
「おい、瑚依、いい加減目ぇ開けろ!」
俺は――正確には、俺を抱き締めて震えている瑚依に向かって怒鳴った。ぬいぐるみ扱いは今に始まった話じゃねえが、今は甘えてる場合じゃねえ。
「今のうちに離れねえと、俺たちも消し炭だぞ!」
「えっ!? でも、浅羽さんは!?」
震え声。視線は爆煙の中心から外れねえ。
「現実見ろ。あいつはもう、俺たちの知ってる小僧じゃねえ。」
歯を食いしばる。
「あいつを一番知ってる俺が言ってんだ。お前ら会って何時間だ? そこまであいつを気にかける義理はないだろ!」
口に出しながら、胸の奥が軋む。
「逃げねえと、あいつの犠牲まで無駄にするぞ……」
「嫌だ!」
瑚依が目を見開いた。涙で濡れてるくせに、芯だけは折れてねえ。
「浅羽さんは戻ってくる! 一緒に逃げられる! 置いていけるわけない!」
「ふざけんな。ここにいて何ができる? 無駄死にが増えるだけだ!」
「刑事さんのバカ! 分からず屋! カピバラのくせに!」
俺は地面に投げ落とされた。扱い雑すぎだろ。
「逃げたいなら一人で逃げて! あたしは待つ!」
「冷静になれ! あいつはもう浅羽隼人じゃねえ、“ミドガル様”だ!」
「知らない! ミルクパフェでもハーゲンダッツでも関係ない! 浅羽さんは浅羽さん! まっちゃんだって、絶対に帰ってきてくれる!」
「ソフトクリームの話じゃねえ!」
本気で頭が痛ぇ。
俺たちの罵り合いなんざ、戦場の騒音に溶けて消える。
鉄屑を踏み砕く足音が不協和音のように連なり、百を超える墓守が整然と展開した。赤光の中心を包囲する陣形。外周でグレシラがマントを翻し、冷静に指揮を飛ばしている。
焼け焦げた網の残骸が崩れ、その中から鬼浅羽が立ち上がった。
赤い瞳。裂けた肉がみるみる塞がり、傷跡すら消える。一歩踏み出すたび、地面が波紋のように割れ、鉄片が跳ねる。
だが、墓守は怯まねえ。
最前列が四角盾を打ち付け、壁を築く。後方の長槍兵が隙間から突き出し、荊の森を形成する。笛の合図が甲高く響き、血と硝煙の匂いに冷たい秩序が重なる。
「ソウルストーン弾でも通らないとは……素晴らしい。さすがミドガル様」
グレシラが恍惚を滲ませる。
「このグレシラと王の子孫が、王を牢獄から解き放ちます!」
剣が掲げられた瞬間――
赤い閃光。
盾と肉体が衝突する鈍い衝撃音が走る。
鬼浅羽が、盾陣に真正面から体当たりした。
鉄と骨が軋む音が、スクラップの山に反響した。
その直後、ほとんど間を置かずに、四発の重い衝突音が炸裂した。
四人の墓守が、まるで示し合わせた歯車みてえに同時に跳び出す。
無駄のない踏み込み、剣を逆手に持ち替える動作まで寸分の狂いもねえ。あの手の訓練は血を吐くほどやらされる。分かる。だからこそ嫌になる。
四方から、剣が落ちる。
狙いは急所じゃねえ。腕と脚。動力源を潰す算段だ。
剣先が地面ごと鬼浅羽を縫い止める。鋼が肉を貫き、土と鉄屑を同時に噛む音が、嫌に乾いて響いた。恐ろしいほどの同調。あれは偶然じゃない。
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
絶叫が、廃車のボンネットを震わせた。
さっきまで大斧を弾いてた肉体が、装飾もねえ中世の片手剣に、まるで熱したナイフでバターを裂くみてえに貫かれている。見た目が地味な分、余計に質が悪い。武器ってのは、派手さじゃなく理屈だ。
穿たれた四肢から血が噴き、油と混じって地面を黒く染める。
だが――止まらねえ。
鬼浅羽は一瞬の躊躇もなく、己の肉体をそのまま前へ引き剥がした。肉が裂ける湿った音が響き、鋼が骨を擦る感触がこっちまで伝わってくる。普通はそこで心が折れる。だがあいつは違う。
剣を置き去りにして、自由を奪い返した。
次の瞬間、血を撒き散らしたまま両脚が唸る。
竜巻みてえな回転。重機のアームが振り回されたような質量の暴力。
回し蹴りが四人の戦士をまとめて薙ぎ払った。
鈍い衝突音とともに、甲冑が宙を舞う。鉄がひしゃげ、空気が裂ける。
ドスン、ドスンと重たい落下音が続き、四人の身体がスクラップ混じりの地面に叩きつけられた。廃タイヤが跳ね、錆びたボンネットが震える。
……今さらだが、人間ってのは、ああも簡単に飛ぶもんだったか?
いや、違うな。
飛ばしてる側が、人間じゃねえだけだ。
0
あなたにおすすめの小説
ダンジョン嫌いの元英雄は裏方仕事に徹したい ~うっかりA級攻略者をワンパンしたら、切り抜き動画が世界中に拡散されてしまった件~
厳座励主(ごんざれす)
ファンタジー
「英雄なんて、もう二度とごめんだ」
ダンジョン出現から10年。
攻略が『配信』という娯楽に形を変えた現代。
かつて日本を救った伝説の英雄は、ある事情から表舞台を去り、ダンジョン攻略支援用AI『アリス』の開発に没頭する裏方へと転身していた。
ダンジョンも、配信も、そして英雄と呼ばれることも。
すべてを忌み嫌う彼は、裏方に徹してその生涯を終える……はずだった。
アリスの試験運用中に遭遇した、迷惑系配信者の暴挙。
少女を救うために放った一撃が、あろうことか世界中にライブ配信されてしまう。
その結果――
「――ダンジョン嫌いニキ、強すぎるだろ!!」
意図せず爆増するファン、殺到するスポンサー。
静寂を望む願いをよそに、世界は彼を再び『英雄』の座へと引きずり戻していく。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
軽トラの荷台にダンジョンができました★車ごと【非破壊オブジェクト化】して移動要塞になったので快適探索者生活を始めたいと思います
こげ丸
ファンタジー
===運べるプライベートダンジョンで自由気ままな快適最強探索者生活!===
ダンジョンが出来て三〇年。平凡なエンジニアとして過ごしていた主人公だが、ある日突然軽トラの荷台にダンジョンゲートが発生したことをきっかけに、遅咲きながら探索者デビューすることを決意する。
でも別に最強なんて目指さない。
それなりに強くなって、それなりに稼げるようになれれば十分と思っていたのだが……。
フィールドボス化した愛犬(パグ)に非破壊オブジェクト化して移動要塞と化した軽トラ。ユニークスキル「ダンジョンアドミニストレーター」を得てダンジョンの管理者となった主人公が「それなり」ですむわけがなかった。
これは、プライベートダンジョンを利用した快適生活を送りつつ、最強探索者へと駆け上がっていく一人と一匹……とその他大勢の配下たちの物語。
異世界へ行って帰って来た
バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。
そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。
おっさん冒険者のおいしいダンジョン攻略
神崎あら
ファンタジー
冒険者歴20年以上のおっさんは、若い冒険者達のように地位や権威を得るためにダンジョンには行かない。
そう、おっさんは生活のためにダンジョンに行く。
これはそんなおっさんの冒険者ライフを描いた生活記である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる