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第一章 竜の巻 ようこそ、異世界へ。
1-30 理不尽:松尾真一郎視点
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「ゴロォォォォォォォ!」
鬼浅羽が耳をつんざく咆哮を上げた。
最前線の兵士が構える大盾に両手の爪を食い込ませ、金属製のそれを段ボールみてえに引き裂く。裂けた鋼が火花を散らし、破片がスクラップの山に突き刺さった。
血しぶきが周囲の兵士の顔や鎧に降りかかる。だが、目に浮かぶのは動揺でも恐怖でもない。後退の意思もねえ。
四方から迫る長剣と長槍が、寸分の狂いもなく同時に鬼浅羽へ突き立てられた。ズドドッ、と肉と鉄を貫く鈍い衝撃音が重なる。
「やめて……もう……お願い、やめて……」
背後で、瑚依の震える声が零れた。
だが、そんな祈りはこの戦場じゃ雑音だ。油と血と鉄屑に塗れた地面は、涙の価値なんざ知らねえ。
鬼浅羽の喉から苦痛の唸りが漏れる。それでも墓守の戦士たちはためらわない。恐怖も、迷いも、影すら見せねえ。盗賊どもとは比較にならない。感情を削ぎ落とされた戦闘装置だ。
正直に言えば、あの瞬間だけは鬼浅羽よりも、こいつらのほうがよほど悪鬼に見えた。
そのときだ。
瑚依が、俺の背後から一歩踏み出した。
嫌な予感しかしねえ。
次の瞬間、鬼浅羽を包囲していた数十人の墓守が青い炎に包まれた。槍も剣もろとも、まるで見えねえ巨人に殴り飛ばされたみてえに数十メートル先へ転がる。鎧がスクラップに激突し、鉄が悲鳴を上げた。
鬼浅羽は陣形の外へ出ると、グレシラを睨み据え、そのまま一直線に突進を始める。
「おい、瑚依、何する気だ!?」
俺の叫びを完全に無視し、瑚依は飛行機の残骸を蹴って躊躇なく飛び出した。
鬼浅羽の進路上に立ちはだかった墓守たちが、トラックに撥ねられたみてえに吹き飛ぶ。鎧が宙を舞い、鉄骨に叩きつけられ、動きが止まる者はいない。止められねえ。
対するグレシラは、シュン、と空気を裂く音とともに腰から長剣を抜いた。無駄のない構え。逃げる気は毛ほどもねえ。
「やめろ! 死ぬ気か!?」
俺は瑚依の靴に噛みつき、必死に引き留める。だが力が足りねえ。俺は今、ただの邪魔な荷物だ。
「不運にもサルベージの聖地に送られた汝らの魂に、ミドガル様の慈悲あらんことを。汝らはこのノーバス・テンプルムの大地の塩となれば、我らの愛する……」
グレシラが祈るように言葉を紡ぐ。剣先は、迷いなく鬼浅羽へ向けられている。
「ダメだ! お願い、オッサン! 浅羽さん! もう十分だ! 誰も殺すな!」
俺の制止を振りほどき、瑚依が戦場の中心へ駆け込んだ。
「誰でもいい! 助けて! こんな理不尽から助けてくれぇぇぇぇぇぇっ――!」
その瞬間、瑚依の背から青白い光が爆ぜた。
洪水みてえな奔流が一気に周囲を呑み込み、油に濡れた鉄屑まで白く照らす。廃車の窓ガラスが反射し、視界が焼き切れそうになる。
――そして。
二つの月の間を裂くように、巨大な影が滑り込んできた。
深淵から這い出した怪物が、星の海を泳いでいるかのような錯覚。
「眩しすぎて……!」
俺も、墓守どもも、目を開けていられねえ。構えた武器が空中で止まり、時間ごと縫い止められたみたいに動きが鈍る。
混沌を引き裂く羽ばたきの轟音が、スクラップの山を震わせた。
「止まれ!」
グレシラが叫ぶ。
「射手! あの光る女を仕留めろ!」
だが命令が飛んだ瞬間、再び巨大な翼音が頭上を薙ぐ。怒れる神の怨嗟みてえな響きだ。
鬼浅羽も、グレシラも、俺たちも、思わず空を見上げた。
夜空を横切る、巨大な影。
「この光、この力は、まさか……!?」
グレシラが呟き、月明かりに照らされた空に釘付けになる。
影は一直線に落下してきた。
高度を下げるごとに、誰もが息を呑む。何が降ってくるのか、理解が追いつかねえまま、影が地面へ叩きつけられた。
凄まじい地響き。
廃棄物の山が崩れ、鉄骨が軋み、砂塵と煤が霧のように立ち上る。衝撃波が頬を打ち、耳鳴りが走る。
やがて霧が晴れ――
そこに立っていたのは、月光を浴びて銀白に輝く鱗を纏った流線型の巨躯。
筋肉質で力強く、それでいて異様なほど優雅。大きく広げられた翼は、空を断つ大剣のようだ。一振りすれば、スクラップ置き場ごと吹き飛ばしかねねえ。
想像を超えた存在感に、誰もが言葉を失う。
深海みてえに静かで、だが鋭い双眸が、そこにいる全員を見渡した。
視線だけで、戦場を支配する。
それは――
銀白色の、巨大な飛竜だった。
鬼浅羽が耳をつんざく咆哮を上げた。
最前線の兵士が構える大盾に両手の爪を食い込ませ、金属製のそれを段ボールみてえに引き裂く。裂けた鋼が火花を散らし、破片がスクラップの山に突き刺さった。
血しぶきが周囲の兵士の顔や鎧に降りかかる。だが、目に浮かぶのは動揺でも恐怖でもない。後退の意思もねえ。
四方から迫る長剣と長槍が、寸分の狂いもなく同時に鬼浅羽へ突き立てられた。ズドドッ、と肉と鉄を貫く鈍い衝撃音が重なる。
「やめて……もう……お願い、やめて……」
背後で、瑚依の震える声が零れた。
だが、そんな祈りはこの戦場じゃ雑音だ。油と血と鉄屑に塗れた地面は、涙の価値なんざ知らねえ。
鬼浅羽の喉から苦痛の唸りが漏れる。それでも墓守の戦士たちはためらわない。恐怖も、迷いも、影すら見せねえ。盗賊どもとは比較にならない。感情を削ぎ落とされた戦闘装置だ。
正直に言えば、あの瞬間だけは鬼浅羽よりも、こいつらのほうがよほど悪鬼に見えた。
そのときだ。
瑚依が、俺の背後から一歩踏み出した。
嫌な予感しかしねえ。
次の瞬間、鬼浅羽を包囲していた数十人の墓守が青い炎に包まれた。槍も剣もろとも、まるで見えねえ巨人に殴り飛ばされたみてえに数十メートル先へ転がる。鎧がスクラップに激突し、鉄が悲鳴を上げた。
鬼浅羽は陣形の外へ出ると、グレシラを睨み据え、そのまま一直線に突進を始める。
「おい、瑚依、何する気だ!?」
俺の叫びを完全に無視し、瑚依は飛行機の残骸を蹴って躊躇なく飛び出した。
鬼浅羽の進路上に立ちはだかった墓守たちが、トラックに撥ねられたみてえに吹き飛ぶ。鎧が宙を舞い、鉄骨に叩きつけられ、動きが止まる者はいない。止められねえ。
対するグレシラは、シュン、と空気を裂く音とともに腰から長剣を抜いた。無駄のない構え。逃げる気は毛ほどもねえ。
「やめろ! 死ぬ気か!?」
俺は瑚依の靴に噛みつき、必死に引き留める。だが力が足りねえ。俺は今、ただの邪魔な荷物だ。
「不運にもサルベージの聖地に送られた汝らの魂に、ミドガル様の慈悲あらんことを。汝らはこのノーバス・テンプルムの大地の塩となれば、我らの愛する……」
グレシラが祈るように言葉を紡ぐ。剣先は、迷いなく鬼浅羽へ向けられている。
「ダメだ! お願い、オッサン! 浅羽さん! もう十分だ! 誰も殺すな!」
俺の制止を振りほどき、瑚依が戦場の中心へ駆け込んだ。
「誰でもいい! 助けて! こんな理不尽から助けてくれぇぇぇぇぇぇっ――!」
その瞬間、瑚依の背から青白い光が爆ぜた。
洪水みてえな奔流が一気に周囲を呑み込み、油に濡れた鉄屑まで白く照らす。廃車の窓ガラスが反射し、視界が焼き切れそうになる。
――そして。
二つの月の間を裂くように、巨大な影が滑り込んできた。
深淵から這い出した怪物が、星の海を泳いでいるかのような錯覚。
「眩しすぎて……!」
俺も、墓守どもも、目を開けていられねえ。構えた武器が空中で止まり、時間ごと縫い止められたみたいに動きが鈍る。
混沌を引き裂く羽ばたきの轟音が、スクラップの山を震わせた。
「止まれ!」
グレシラが叫ぶ。
「射手! あの光る女を仕留めろ!」
だが命令が飛んだ瞬間、再び巨大な翼音が頭上を薙ぐ。怒れる神の怨嗟みてえな響きだ。
鬼浅羽も、グレシラも、俺たちも、思わず空を見上げた。
夜空を横切る、巨大な影。
「この光、この力は、まさか……!?」
グレシラが呟き、月明かりに照らされた空に釘付けになる。
影は一直線に落下してきた。
高度を下げるごとに、誰もが息を呑む。何が降ってくるのか、理解が追いつかねえまま、影が地面へ叩きつけられた。
凄まじい地響き。
廃棄物の山が崩れ、鉄骨が軋み、砂塵と煤が霧のように立ち上る。衝撃波が頬を打ち、耳鳴りが走る。
やがて霧が晴れ――
そこに立っていたのは、月光を浴びて銀白に輝く鱗を纏った流線型の巨躯。
筋肉質で力強く、それでいて異様なほど優雅。大きく広げられた翼は、空を断つ大剣のようだ。一振りすれば、スクラップ置き場ごと吹き飛ばしかねねえ。
想像を超えた存在感に、誰もが言葉を失う。
深海みてえに静かで、だが鋭い双眸が、そこにいる全員を見渡した。
視線だけで、戦場を支配する。
それは――
銀白色の、巨大な飛竜だった。
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