「刀には竜、花は咲かず」~孤独なおっさん武術家と毒舌アイドルの異世界タッグ~

アサバハヤト

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第二章 竜の卷 脱出

2-15 興ざめ

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 宮田が槍を振り上げ、目を吊り上げる。

 「邪魔するんじゃねぇ! 大谷! 僕を信じてくれないのか!」

 彼の叫びは、まるでカラオケボックスの絶叫のように戦場の静けさをぶち壊し、鎧の隙間から汗が滴る。

 大谷が地面に膝をつき、汗で光る顔を上げる。

 「ああ、信じてますよ! 信じて勝てるなら、いくらでも!」 彼の目は、まるで上長の暴走を必死に止めようとする中間管理職の焦りが溢れる。両腕で宮田を押さえる手が白くなる。

 「手を放せ!」宮田が吠える。

 「その前に、周りをよく見ろ!」大谷が叫び返す。

 白ローブの女が杖を突き、唇を噛んで血の匂いに顔をしかめる。こわばった指が杖を握り、汗で濡れた額が月光に光る。

 村松が手を擦り、視線を逸らして革袋を握り潰す。額の汗が埃に滲み、まるで締め切りに追われた会社員のように顔色が青ざめる。

 「こ、これだから若造は……私まだ戦える!」 小太りの老人が杖を握り、喘ぐ息遣いで不満を吐く。肩を落とし、まるで電池切れの玩具のように動きが鈍い。

 長身の男が額を拭い、書物を乱暴に閉じる。まるでプレゼン直前の課長のように、焦りが目をぎらつかせる。

 戦場の冷たさが彼らの疲弊を映し、まるで深夜残業の静けさに息を詰まらせるようだ。

 「MP枯渇してる今じゃ、まともに戦っても負けるかもしれん相手に連戦を挑む気か?」 大谷が声を張る。

 「だからなんだ!? 引いて死ぬのかよ、カス!」 宮田が歯を剥く。

 「1人で突っ込んで死ぬじゃねぇ! 『裁きの炎』に君がいないとだめだ!」 大谷が叫び返す。汗が埃を巻き上げ、まるでボクシング試合のリングにタオルを投入したセコンドの目で彼を見つめる。

 宮田が拳を握り、槍を振り上げるが、一瞬動きが止まる。「……ちっ! わかったよ!」 渋々唸り、まるで負けを認めた格闘家のように、槍を岩に叩きつける。

 アルディアが月光を浴び、まるで電車内の昼ドラCMを見た通勤中のOLが退屈を隠すように、セミマットの鮮唇を誘惑的に歪める。

 「茶番も興ざめね。今日ぐらいは生かしてやるわ。私の天敵が姿を変えて嗅ぎまわってるし。」 彼女の瞳が戦場を冷笑で刺し、指を唇に当てて腰を揺らす。俺にウインクし、投げキッスを放つ。

 ムスクの香水が脳を侵し、セミマットの鮮唇が囁くように微笑む。絹のような肌が月光に濡れ、腰の曲線が深夜のバーの誘惑のように揺れる。彼女を押し倒し、髪に指を絡め、肌に爪を立てたい衝動が、まるで過激なアダルトビデオのワンシーンが胸を突き刺すように暴れる。

 俺は拳を握り、山岡先生の稽古を呼び起こす。夜の道場で竹刀が背中に叩きつけられた打撲の痛み、防具の重さに耐えた汗の塩味、畳の擦れる感触。師匠の「集中しろ!」という叱咤が耳に響き、血と汗にまみれたあの瞬間が俺の理性を引き締める。目を細め、彼女の誘惑に歯を食いしばる。

 「お前……!」右手を腰にやり、姿勢を正す。

 「アハハ!お兄ちゃん、ほんと面白い! 」アルディアの笑い声が、まるでヒガンバナのよう、美しくて危険に響く。

 「地球人にしてはまともすぎて笑えるわ。でも、覚えておきな。このノーバス・テンプルムの大地は、野蛮と理不尽が溢れる世界よ。そのまともさ、いつまで持ちこたえるか?見ものだわ。 次会う前に、せいぜい抗って、私を楽しませなさい。」

  アルディアが指を鳴らし、手を振る。彼女の姿が、まるでステージの魔術師がカーテンの裏に溶けるように、ゆっくりと薄れていく。月光が彼女の輪郭を揺らし、まるで古いテレビのノイズが像を飲み込むように、非日常的な光の揺らぎが戦場を包む。

 しばらくしたら、ようやく強敵が去ったことを疑いから確信に変えた。戦場の全員が、まるで火事のビルから逃げ出した生存者のように、一斉に体を緩め、息が漏れる。

 「やった……生き残った!」大谷が膝に手を置き、息を整える。

 だが、俺は「生き残った人間」なんて思わない。誇れるほど強くないし、立派でもない。ただ「死なずにいる」だけだ。

 私刑屋として、「閻魔」として、死の淵を何年も歩いてきた。戦場の静寂で耳鳴りが響き、胃の痛みが拳を握らせる。過労で倒れた夜、深夜のコンビニでコーヒーを飲みながら震えた手。睡眠薬を握り潰した不眠の朝、汗とストレスで乱れた脈拍。そんな崖っぷちを根性で乗り越えてきたが、その代償はいつも後で気づく。

 心身を削る無茶が、俺をどれだけ蝕んだか。

 今もこうやって異世界の理不尽に放り込まれても、生きてるのは「勝った」からじゃない。

 「まだ倒れていない」だけだ。

 そう考えている瞬間、少し離れている岩場の奥から静かな足音が忍び寄り、影が揺れる。背が低い女性の姿が岩陰から現れ、カピバラとショートヘアの女が続く。

 「浅羽さん!」瑚依の声が静寂を突き刺す。
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