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第二章 竜の卷 脱出
2-21 現地語
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ラクーナ湖畔町の石畳は、雪を踏む足音と宿屋のランプの光に照らされていた。外壁はなく、入口ゲートの簡素な柵が町の平和を物語る。戦いの傷跡は遠く、まるで夢のようだった。凍てつく夜空に星々が鋭く輝く中、町は暖かな活気に満ちていた。
屋外の暖炉がオレンジ色の炎を揺らし、シェフが鉄板で焼く肉の香りが漂う。毛布にくるまった旅人たちが笑い声を上げ、腹が小さく鳴った。湖畔の雪原では犬ぞりが疾走し、犬の息遣いと操者の掛け声が空気を切り裂く。宿屋の軒下では、老人がロッキングチェアに揺られ、パイプの煙を星空に溶かす。小道の奥、鍛冶屋の金槌がカンと響き、魔法と地球の技術が混ざった街灯が雪の上で揺れる。
俺はコートの襟を立て、冷たい風に身を縮めた。この暗い世界で、なぜ人はこんなに生き生きしてるんだ?
「怪物だ! 空に怪物を見たんだよ!」なんて考えていたら、突如響き渡る叫び声が、俺たちの注意力を引き寄せた。
木造の家のポーチに立つ老女の声が、冷たい空気を切り裂いた。彼女の白髪は風に乱れ、しわ深い顔には見たこともない恐怖と興奮が宿っている。粗い麻のチュニックを握りしめ、彼女はポーチの手すりに身を乗り出した。
「山みたいにでっかくて、昼みたいに真っ白だった!」彼女の声は震え、まるで村全体に響き渡るようだった。「燃やした空の船が墜落した後、サルベージの聖地から、ピラ・アグリコラの真上を、ゴオッて翼で飛んでいったんだ!」
俺、瑚依、松尾は顔を見合わせた。飛行機の墜落、銀白のドラゴン――俺たちの遭遇そのものだ。
「え、母さん、急にどうしたのさ? また変な話?」
家の戸口に立っていた若い男性がが、リュートを肩に担いだまま振り返る。彼の足取りは軽やかで、背が高く、肩幅の広い体格を誇るが、その動きには戦士というより詩人のような柔らかさがある。金色の髪は月光を浴びてきらめき、青い瞳には母への困惑と呆れが浮かんでいた。藍色のチュニックに袖を通した彼は、泥だらけのブーツで一歩踏み出し、首を振る。
「怪物って、ほんとに? 今そんな話してたら、町のみんなに笑われるよ。空人の船が墜ちるのは、今更珍しくもないから……」金髪の男性の声は軽やかだが、どこか苛立ちが混じる。「俺だって、酒場で歌う準備とか、やるべきことが山ほどあるんだからさ。母さんの空想に付き合ってる暇はないって!」
老女の青灰色の瞳がカッと見開く。彼女は手すりを叩き、まるで息子の言葉を跳ね返すように叫んだ。「空想なんかじゃない! 本物の怪物だったんだよ! あんな恐ろしいもの、私の目が間違えるはずない! あれは……あれは私たちをみんな焼き尽くすんだ! お前だってそのうち信じるさ、遅すぎる前に!」
「殺されたら信じようがないだろ。」息子は肩をすくめ、ため息をついた。「この台地に太陽が昇らないのに、『真昼のように白い』って、どうやって分かるんだ?」
老女は俺たちに気づき、「誰も信じてくれないけど、言っておくけど、ドラゴンを見たんだ!」と叫ぶと、踵を返して家に入り、ドアをバタンと閉めた。
和歌子がハッと振り返り、申し訳なさそうに言った。「ごめん、現地語わからないよね。えっと、彼女が言ってたのは――」
「えーと、和歌子……さん?……わかるよ。」瑚依が手を上げ、おどおどしながら割った。「話の内容、全部。日本語として聞こえる。」
「うん?」和歌子が目を丸くした。
「そういうことだ。前からおかしいと思っていた。墓守の言葉も、兄弟団の連中の言葉も、全部日本語にしか聞こえねえ。」松尾がずんぐりした体を少し揺らしつつ、首を45度傾げ、補充する。
「あなたたち、現地語がしゃべれるの!?」
「じゃなくて、耳に入ると、勝手に頭で翻訳されるみたいだ。」俺は頷いた。兄弟団の若頭ロキールとの会話、まだ鮮明に覚えている。
「うそ……現地語を勉強してきたのに、そんな能力!?」和歌子の口が開いたまま、驚きと羨ましさが顔に混じる。「ずるいよ、初めてだよ、そんな人!」
俺たちは視線を交わした。同じ「空人」のはずなのに、俺たちの力――俺の化け物への変身、瑚依の背中の光、松尾のカピバラ化――何か違う。ソウルストーンの記憶を読めた「選ばれし者」と、この翻訳能力。偶然じゃない気がする。
「にしては、喋るカピバラに驚かなかったな。」松尾が首を振って和歌子を睨んだ。
「あ、それはね、実は――」和歌子が口を開きかけた瞬間、街灯の影から騒がしい声が響いた。
「ヘイ、迷い込んだ子猫たち! こんな時間にどこ行くんだよ?」
暗がりから現れたのは、毛皮のマントを翻す三人組だった。雪に映える装飾ベルトのチュニック、腰に下げた剣の柄に手をやり、挑発的な笑みを浮かべる。現地の荒々しい気風を纏った男たちは、月光の下で俺たちを取り囲んだ。
屋外の暖炉がオレンジ色の炎を揺らし、シェフが鉄板で焼く肉の香りが漂う。毛布にくるまった旅人たちが笑い声を上げ、腹が小さく鳴った。湖畔の雪原では犬ぞりが疾走し、犬の息遣いと操者の掛け声が空気を切り裂く。宿屋の軒下では、老人がロッキングチェアに揺られ、パイプの煙を星空に溶かす。小道の奥、鍛冶屋の金槌がカンと響き、魔法と地球の技術が混ざった街灯が雪の上で揺れる。
俺はコートの襟を立て、冷たい風に身を縮めた。この暗い世界で、なぜ人はこんなに生き生きしてるんだ?
「怪物だ! 空に怪物を見たんだよ!」なんて考えていたら、突如響き渡る叫び声が、俺たちの注意力を引き寄せた。
木造の家のポーチに立つ老女の声が、冷たい空気を切り裂いた。彼女の白髪は風に乱れ、しわ深い顔には見たこともない恐怖と興奮が宿っている。粗い麻のチュニックを握りしめ、彼女はポーチの手すりに身を乗り出した。
「山みたいにでっかくて、昼みたいに真っ白だった!」彼女の声は震え、まるで村全体に響き渡るようだった。「燃やした空の船が墜落した後、サルベージの聖地から、ピラ・アグリコラの真上を、ゴオッて翼で飛んでいったんだ!」
俺、瑚依、松尾は顔を見合わせた。飛行機の墜落、銀白のドラゴン――俺たちの遭遇そのものだ。
「え、母さん、急にどうしたのさ? また変な話?」
家の戸口に立っていた若い男性がが、リュートを肩に担いだまま振り返る。彼の足取りは軽やかで、背が高く、肩幅の広い体格を誇るが、その動きには戦士というより詩人のような柔らかさがある。金色の髪は月光を浴びてきらめき、青い瞳には母への困惑と呆れが浮かんでいた。藍色のチュニックに袖を通した彼は、泥だらけのブーツで一歩踏み出し、首を振る。
「怪物って、ほんとに? 今そんな話してたら、町のみんなに笑われるよ。空人の船が墜ちるのは、今更珍しくもないから……」金髪の男性の声は軽やかだが、どこか苛立ちが混じる。「俺だって、酒場で歌う準備とか、やるべきことが山ほどあるんだからさ。母さんの空想に付き合ってる暇はないって!」
老女の青灰色の瞳がカッと見開く。彼女は手すりを叩き、まるで息子の言葉を跳ね返すように叫んだ。「空想なんかじゃない! 本物の怪物だったんだよ! あんな恐ろしいもの、私の目が間違えるはずない! あれは……あれは私たちをみんな焼き尽くすんだ! お前だってそのうち信じるさ、遅すぎる前に!」
「殺されたら信じようがないだろ。」息子は肩をすくめ、ため息をついた。「この台地に太陽が昇らないのに、『真昼のように白い』って、どうやって分かるんだ?」
老女は俺たちに気づき、「誰も信じてくれないけど、言っておくけど、ドラゴンを見たんだ!」と叫ぶと、踵を返して家に入り、ドアをバタンと閉めた。
和歌子がハッと振り返り、申し訳なさそうに言った。「ごめん、現地語わからないよね。えっと、彼女が言ってたのは――」
「えーと、和歌子……さん?……わかるよ。」瑚依が手を上げ、おどおどしながら割った。「話の内容、全部。日本語として聞こえる。」
「うん?」和歌子が目を丸くした。
「そういうことだ。前からおかしいと思っていた。墓守の言葉も、兄弟団の連中の言葉も、全部日本語にしか聞こえねえ。」松尾がずんぐりした体を少し揺らしつつ、首を45度傾げ、補充する。
「あなたたち、現地語がしゃべれるの!?」
「じゃなくて、耳に入ると、勝手に頭で翻訳されるみたいだ。」俺は頷いた。兄弟団の若頭ロキールとの会話、まだ鮮明に覚えている。
「うそ……現地語を勉強してきたのに、そんな能力!?」和歌子の口が開いたまま、驚きと羨ましさが顔に混じる。「ずるいよ、初めてだよ、そんな人!」
俺たちは視線を交わした。同じ「空人」のはずなのに、俺たちの力――俺の化け物への変身、瑚依の背中の光、松尾のカピバラ化――何か違う。ソウルストーンの記憶を読めた「選ばれし者」と、この翻訳能力。偶然じゃない気がする。
「にしては、喋るカピバラに驚かなかったな。」松尾が首を振って和歌子を睨んだ。
「あ、それはね、実は――」和歌子が口を開きかけた瞬間、街灯の影から騒がしい声が響いた。
「ヘイ、迷い込んだ子猫たち! こんな時間にどこ行くんだよ?」
暗がりから現れたのは、毛皮のマントを翻す三人組だった。雪に映える装飾ベルトのチュニック、腰に下げた剣の柄に手をやり、挑発的な笑みを浮かべる。現地の荒々しい気風を纏った男たちは、月光の下で俺たちを取り囲んだ。
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