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第四章 刀の卷 氷面下の駆け引き
4-00 銀の鍵
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耳を澄ませば、かすかな足音が、雪と木の板を踏む音に混じって届いてきた。
四人。……いや、五人だ。一つだけ、重さの違う足取りがある。動かずに立ち止まり続けているあの足音は、見張り役。体格も大きいと見た。
他の四つは、歩幅も呼吸も雑だ。どこか、聞き覚えがあるような足音。
音を立てず、カウンターの裏から匍匐で大扉の影へと移動する。松尾もすぐに続いた。
鍵穴に、異様な金属音が走った。
……通常のピッキングじゃない。耳を押さえたくなるような、軋むような奇妙な振動。熱でも風でもない、「通り抜ける」ような感覚。ぞわりと皮膚が粟立つ。
直感が警鐘を鳴らす。これは、普通じゃない。
まもなく扉が静かに軋み、開く。先頭に入ってきたのは、麦色の髪をした体格のひょろ長い男だった。警戒心も緊張感もない。開けた扉を足で閉じ、口笛を吹きながら入ってくるその姿は、まるでここが自宅か何かだと錯覚しているようだった。
手には、鈍く銀に似た光を放つ古びた奇妙な鍵を握っていた。五インチほどの長さで、軸には文字とも模様ともつかぬ微細な凹凸が浮かんでいる。じっと見ていると、なぜか焦点が定まらず、視界が歪んで感じられる。刃の部分には通常の鍵のような刻みがなく、代わりに雫のような滑らかな曲線が幾重にも重なり合っていた。
そんな不可解な鍵を、男はまるでコンビニで買った使い捨ての工具のように、何の躊躇もなくズボンのポケットへと突っ込んだ。
……なるほど。
あのどこかのアーティファクトめいた鍵、どうやって手に入れたかは知らないが、特別な価値があることすら知らずに、ただの道具として使っている。素人だ。部屋に入ってきた態度からも、それは明白だった。
続いて三人の男が扉をくぐる。闇の中に顔は沈んでいて判別はつかないが、体格、立ち位置のバランス、歩き方の癖――どれもどこかで見覚えがある気がした。
(……まさか)
俺は呼吸を浅くしたまま、身を引いた。
見張りはさておき、この四匹の雑魚相手なら、ぶっ倒すのは簡単だ。だが今は、目的を知るほうが先だ。単に金が目当てか? それとも、何度もこの店を狙う理由が、店の裏にある“別の何か”なのか――何より、トルヴァルドが泣くほど大切にしていた「変形式の冠」、あの遺物を盗み出したのがこいつらなら、行方を聞き出す必要がある。まだ来ているということは、目的がそれだけじゃない可能性もある。
妙な「鍵」のことも、正直気になる。
刀は抜かず、腰の鞘をわずかに調整する。邪魔にならぬよう位置を整え、重心を分散させる。
無音、無臭、無影。
いかにして“外”へ引きずり出すか。暴れられれば、店が無事では済まない。
俺は顎をわずかに動かし、先頭の間抜けな侵入者を指し示す。
松尾が目を合わせ、静かに頷いた。
あいつは逃げ足が速そうだ。戦闘になれば、真っ先に外へ逃げようとする。タイミングを狙って、松尾が噛みついて引きずり出す。俺はその動きを合図に、あえて奇襲は仕掛けず、姿を現して「騒ぐ」。
相手の注意力と攻撃の方向を、俺に向けさせる。
そのうえで、全員を外に誘導する。
……段取りは整った。
俺は深く息を吸い、わずかに姿勢を低くした。
(行け――)
俺のわずかな手の合図で、松尾が飛び出した。
床を蹴って駆けたその姿は、まるで砲弾。獲物を目がけて一直線に突っ込む。先頭で棚の商品を物色していた麦色の髪の若い男――鼻歌でも歌い出しそうなその顔には、気配すら察した様子がなかった。
ドン――ッ!
松尾の顎が跳ね上がり、巨大な門歯が男の脛に食い込んだ。ゴリッと鈍い音がして、男の叫びが店内に響き渡る。
「ぎゃあああああああッ!!?」
男は体をひねる暇もなく、片足を噛まれたまま床に崩れ落ちた。そのまま、松尾が全力で引っ張る。歯の根元から微かに血が滲んでいた。カピバラと侮るなかれ――あの歯は、草を食うだけじゃない。
まるで人形のように引きずられ、男の体はあっという間に店の外へ。雪の地面を抉りながら、ずるずると連れ去られていく。
四人。……いや、五人だ。一つだけ、重さの違う足取りがある。動かずに立ち止まり続けているあの足音は、見張り役。体格も大きいと見た。
他の四つは、歩幅も呼吸も雑だ。どこか、聞き覚えがあるような足音。
音を立てず、カウンターの裏から匍匐で大扉の影へと移動する。松尾もすぐに続いた。
鍵穴に、異様な金属音が走った。
……通常のピッキングじゃない。耳を押さえたくなるような、軋むような奇妙な振動。熱でも風でもない、「通り抜ける」ような感覚。ぞわりと皮膚が粟立つ。
直感が警鐘を鳴らす。これは、普通じゃない。
まもなく扉が静かに軋み、開く。先頭に入ってきたのは、麦色の髪をした体格のひょろ長い男だった。警戒心も緊張感もない。開けた扉を足で閉じ、口笛を吹きながら入ってくるその姿は、まるでここが自宅か何かだと錯覚しているようだった。
手には、鈍く銀に似た光を放つ古びた奇妙な鍵を握っていた。五インチほどの長さで、軸には文字とも模様ともつかぬ微細な凹凸が浮かんでいる。じっと見ていると、なぜか焦点が定まらず、視界が歪んで感じられる。刃の部分には通常の鍵のような刻みがなく、代わりに雫のような滑らかな曲線が幾重にも重なり合っていた。
そんな不可解な鍵を、男はまるでコンビニで買った使い捨ての工具のように、何の躊躇もなくズボンのポケットへと突っ込んだ。
……なるほど。
あのどこかのアーティファクトめいた鍵、どうやって手に入れたかは知らないが、特別な価値があることすら知らずに、ただの道具として使っている。素人だ。部屋に入ってきた態度からも、それは明白だった。
続いて三人の男が扉をくぐる。闇の中に顔は沈んでいて判別はつかないが、体格、立ち位置のバランス、歩き方の癖――どれもどこかで見覚えがある気がした。
(……まさか)
俺は呼吸を浅くしたまま、身を引いた。
見張りはさておき、この四匹の雑魚相手なら、ぶっ倒すのは簡単だ。だが今は、目的を知るほうが先だ。単に金が目当てか? それとも、何度もこの店を狙う理由が、店の裏にある“別の何か”なのか――何より、トルヴァルドが泣くほど大切にしていた「変形式の冠」、あの遺物を盗み出したのがこいつらなら、行方を聞き出す必要がある。まだ来ているということは、目的がそれだけじゃない可能性もある。
妙な「鍵」のことも、正直気になる。
刀は抜かず、腰の鞘をわずかに調整する。邪魔にならぬよう位置を整え、重心を分散させる。
無音、無臭、無影。
いかにして“外”へ引きずり出すか。暴れられれば、店が無事では済まない。
俺は顎をわずかに動かし、先頭の間抜けな侵入者を指し示す。
松尾が目を合わせ、静かに頷いた。
あいつは逃げ足が速そうだ。戦闘になれば、真っ先に外へ逃げようとする。タイミングを狙って、松尾が噛みついて引きずり出す。俺はその動きを合図に、あえて奇襲は仕掛けず、姿を現して「騒ぐ」。
相手の注意力と攻撃の方向を、俺に向けさせる。
そのうえで、全員を外に誘導する。
……段取りは整った。
俺は深く息を吸い、わずかに姿勢を低くした。
(行け――)
俺のわずかな手の合図で、松尾が飛び出した。
床を蹴って駆けたその姿は、まるで砲弾。獲物を目がけて一直線に突っ込む。先頭で棚の商品を物色していた麦色の髪の若い男――鼻歌でも歌い出しそうなその顔には、気配すら察した様子がなかった。
ドン――ッ!
松尾の顎が跳ね上がり、巨大な門歯が男の脛に食い込んだ。ゴリッと鈍い音がして、男の叫びが店内に響き渡る。
「ぎゃあああああああッ!!?」
男は体をひねる暇もなく、片足を噛まれたまま床に崩れ落ちた。そのまま、松尾が全力で引っ張る。歯の根元から微かに血が滲んでいた。カピバラと侮るなかれ――あの歯は、草を食うだけじゃない。
まるで人形のように引きずられ、男の体はあっという間に店の外へ。雪の地面を抉りながら、ずるずると連れ去られていく。
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