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第四章 刀の卷 氷面下の駆け引き
4-01 処刑人
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店内の三人が同時に叫び声を上げた。
「お、おい!?なんだ今の!?」「あいつ、あの動物に……ッ!」「ふざけんな、何が起きて――」
混乱。絶好の隙。
俺は影から踏み出し、背後に回り込んだ瞬間、両手を左右の男の肩に静かに置いた。
途端に、ふたりの体がビクリと硬直する。誰かが背後に立っている。それは人間か、それとも――
「……雪の深夜に散歩とは、随分と元気なこったな」
声は低く、皮肉だけを添えて。
左側の男が、条件反射のように怒鳴りながら拳を振り上げた。その拳が俺の顔に迫る――寸前。
俺は軽く首を回す。拳を避けるというより、その勢いを横へ流すように、力を「通して」やる。
ズドンッ――。
右隣の男の顔面に、左の男の拳が突き刺さった。歯が二本、飛んで宙を舞った。鼻血がじわりと噴き出す。
だが俺は、右の男が崩れるのを許さない。その肩を掴んだまま、体勢を保たせる。力を抜かせず、立たせたまま――
次の瞬間、右の男が怒りに任せて腕を振り上げ、俺へ向かって殴り返してきた。
俺は素早く腰を沈め、頭をわずかに傾けて回避。同時に、左の男の肩を強く引き寄せた。
ゴシャッ。
今度は、右の拳が左の男の頬を捉えた。くの字に折れた鼻が、折れた音と共に曲がり、血が霧のように舞う。
俺はすかさず、ふたりの頭を掴む。
そして。
バンッ!
頭と頭を、互いにぶつけ合わせた。中身が揺れるような鈍い音が響き、ふたりの呻き声が重なる。
その時、残りの一人――店の奥にいた男が、抜き身の長剣を持って突進してきた。
「てめぇぇぇぇ!!」
斬りかかってくる。
俺は素早く身をひねる。剣の刃がかすめる寸前、踏み出した足を一歩引き、ふたりの前に割って入る男の進路をわざと開けてやる。
ドンッ!!
血まみれの仲間ふたりに、突進してきた男がそのまま突っ込んだ。三人が絡まってもつれ合い、足を取られる。
俺はその脇腹に足を差し入れ、わずかにひっかける。
バランスが崩れた。三人まとめて、店の外へ――
ズザザザザ――ッ!
雪の路面を滑りながら、三つの人影が数メートル先まで吹っ飛んでいった。
雪煙が上がる。
誰一人として、すぐには立ち上がれそうにない。
俺は静かに鞘の位置を直し、目線を夜の闇へと向けた。
雪の上で痙攣している三人に、月光が斜め上から薄く差し込む。血で濡れた頬や、砕けた歯が赤く濁った雪に散っている。よく見れば、その顔立ち――
……なるほどな。
こいつら、ラクーナ湖畔町に着いてすぐ、俺たちをカモにしようと絡んできた地元の小悪党どもだ。覚えてるぜ。瓶片手に笑ってたあの間抜け面。あの時、確かに言ったはずだ――「次はねぇ」ってな。
だが、どうやら本当に“次”が来ちまったようだ。しかも、自分たちから望んで。
「おい、浅羽!」
外から聞こえた松尾の声は、いつになく苛立ちを帯びていた。続けて――
「この野郎、ビビって小便ちびって気絶しやがった……ちっ、なんで俺がこんな汚ねぇ役回りなんだよ!」
どうやら麦色髪の男の方はもう戦力外のようだ。松尾の足元で、尻を濡らして気絶してる情けない姿が目に浮かぶ。
――よし。あとは……
ギシ、ギシ……と重々しい足音が、屋外の木板を軋ませながら近づいてきた。
そして、目の前に現れた。
影の中からせり上がるように、その男は現れた。
……デカい。
目測で、身長は二メートルに届くか、それを超えているかという巨躯。肩幅は並の成人二人分、厚みのある胸板と腕は、裸眼でも筋肉の起伏がわかるほど盛り上がっていた。
だが、単なる「でかい奴」ではない。
身に纏っているのは、中世期の旅装を模したような革の軽装甲。肩口と胸元には金属鋲が打ち込まれ、所々に獣の骨や小さな髑髏が飾られている。ベルトには錆びたナイフが複数、無造作に差し込まれ、まるで狩りの戦利品のようにぶら下がっていた。どこか、文明の輪から半歩はみ出た匂いがする――そう、まるで「マッドマックス」の荒野を生き延びた無法者そのものだ。
顔つきは硬く、無表情。だが、その眼光だけが異様に濁っている。正気とも狂気ともつかない視線で、俺を品定めするようにじっと見下ろしている。髪は金に近い灰色、刈り込まれた側頭部に黒い入れ墨が刻まれているのがわかる。顎には獣の牙のようなアクセサリーがぶら下がり、左の耳は半分欠けていた。
こいつは――ただの見張り役なんかじゃない。
“処刑人”タイプだ。
後処理と始末を専門とする、頭の悪い取り巻きをまとめるためだけに存在する暴力の象徴。
その右手に握られていたのは、鉄の塊のような棍棒。握り部分は革紐でぐるぐる巻きにされ、血痕のこびりついた突起が不規則に打ち込まれている。素手で殴るには惜しい相手にだけ使う道具――そういう風に見える。
そいつは無言のまま、俺の正面に立ちふさがった。
――さて。今夜の“散歩”は、まだ終わっちゃいないようだな。
「お、おい!?なんだ今の!?」「あいつ、あの動物に……ッ!」「ふざけんな、何が起きて――」
混乱。絶好の隙。
俺は影から踏み出し、背後に回り込んだ瞬間、両手を左右の男の肩に静かに置いた。
途端に、ふたりの体がビクリと硬直する。誰かが背後に立っている。それは人間か、それとも――
「……雪の深夜に散歩とは、随分と元気なこったな」
声は低く、皮肉だけを添えて。
左側の男が、条件反射のように怒鳴りながら拳を振り上げた。その拳が俺の顔に迫る――寸前。
俺は軽く首を回す。拳を避けるというより、その勢いを横へ流すように、力を「通して」やる。
ズドンッ――。
右隣の男の顔面に、左の男の拳が突き刺さった。歯が二本、飛んで宙を舞った。鼻血がじわりと噴き出す。
だが俺は、右の男が崩れるのを許さない。その肩を掴んだまま、体勢を保たせる。力を抜かせず、立たせたまま――
次の瞬間、右の男が怒りに任せて腕を振り上げ、俺へ向かって殴り返してきた。
俺は素早く腰を沈め、頭をわずかに傾けて回避。同時に、左の男の肩を強く引き寄せた。
ゴシャッ。
今度は、右の拳が左の男の頬を捉えた。くの字に折れた鼻が、折れた音と共に曲がり、血が霧のように舞う。
俺はすかさず、ふたりの頭を掴む。
そして。
バンッ!
頭と頭を、互いにぶつけ合わせた。中身が揺れるような鈍い音が響き、ふたりの呻き声が重なる。
その時、残りの一人――店の奥にいた男が、抜き身の長剣を持って突進してきた。
「てめぇぇぇぇ!!」
斬りかかってくる。
俺は素早く身をひねる。剣の刃がかすめる寸前、踏み出した足を一歩引き、ふたりの前に割って入る男の進路をわざと開けてやる。
ドンッ!!
血まみれの仲間ふたりに、突進してきた男がそのまま突っ込んだ。三人が絡まってもつれ合い、足を取られる。
俺はその脇腹に足を差し入れ、わずかにひっかける。
バランスが崩れた。三人まとめて、店の外へ――
ズザザザザ――ッ!
雪の路面を滑りながら、三つの人影が数メートル先まで吹っ飛んでいった。
雪煙が上がる。
誰一人として、すぐには立ち上がれそうにない。
俺は静かに鞘の位置を直し、目線を夜の闇へと向けた。
雪の上で痙攣している三人に、月光が斜め上から薄く差し込む。血で濡れた頬や、砕けた歯が赤く濁った雪に散っている。よく見れば、その顔立ち――
……なるほどな。
こいつら、ラクーナ湖畔町に着いてすぐ、俺たちをカモにしようと絡んできた地元の小悪党どもだ。覚えてるぜ。瓶片手に笑ってたあの間抜け面。あの時、確かに言ったはずだ――「次はねぇ」ってな。
だが、どうやら本当に“次”が来ちまったようだ。しかも、自分たちから望んで。
「おい、浅羽!」
外から聞こえた松尾の声は、いつになく苛立ちを帯びていた。続けて――
「この野郎、ビビって小便ちびって気絶しやがった……ちっ、なんで俺がこんな汚ねぇ役回りなんだよ!」
どうやら麦色髪の男の方はもう戦力外のようだ。松尾の足元で、尻を濡らして気絶してる情けない姿が目に浮かぶ。
――よし。あとは……
ギシ、ギシ……と重々しい足音が、屋外の木板を軋ませながら近づいてきた。
そして、目の前に現れた。
影の中からせり上がるように、その男は現れた。
……デカい。
目測で、身長は二メートルに届くか、それを超えているかという巨躯。肩幅は並の成人二人分、厚みのある胸板と腕は、裸眼でも筋肉の起伏がわかるほど盛り上がっていた。
だが、単なる「でかい奴」ではない。
身に纏っているのは、中世期の旅装を模したような革の軽装甲。肩口と胸元には金属鋲が打ち込まれ、所々に獣の骨や小さな髑髏が飾られている。ベルトには錆びたナイフが複数、無造作に差し込まれ、まるで狩りの戦利品のようにぶら下がっていた。どこか、文明の輪から半歩はみ出た匂いがする――そう、まるで「マッドマックス」の荒野を生き延びた無法者そのものだ。
顔つきは硬く、無表情。だが、その眼光だけが異様に濁っている。正気とも狂気ともつかない視線で、俺を品定めするようにじっと見下ろしている。髪は金に近い灰色、刈り込まれた側頭部に黒い入れ墨が刻まれているのがわかる。顎には獣の牙のようなアクセサリーがぶら下がり、左の耳は半分欠けていた。
こいつは――ただの見張り役なんかじゃない。
“処刑人”タイプだ。
後処理と始末を専門とする、頭の悪い取り巻きをまとめるためだけに存在する暴力の象徴。
その右手に握られていたのは、鉄の塊のような棍棒。握り部分は革紐でぐるぐる巻きにされ、血痕のこびりついた突起が不規則に打ち込まれている。素手で殴るには惜しい相手にだけ使う道具――そういう風に見える。
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