称号は『最後の切り札』

四条元

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それは、ある日突然起きた事

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白・白・白‥。
前も後ろも左も右も上も下もどこまでも白。
気がつけばそんな所に、俺は一人で立っていた。
「…何だよコレ?何処だよココ?」
何で俺はこんな所に突っ立ってるんだ…?
キョロキョロと辺りを見回しても、ただ延々と白だけが続いている。
…空間?
そうか、ココは白一色の空間なんだ!!
この白一色の空間に俺だけが居るんだ!!
「どうして俺はこんな所に…?」
訳がわからない。
俺は今、病室で死にかけている筈なのに…。
…いや、もしかしたら。
「俺、死んだのかな…?」
そうだ、そうに違いない!
きっとココは死後の世界ってヤツだ!
それなら突然こんな理解不能な場所にいても納得ってモンだ!
「そうか、コレが死後の世界かぁ。…おかしいな?三途の川は何処だ?」


俺の名前は高槻疾風たかつきはやて
どうやら死んだらしいから、享年五十歳のおっさんだ。
高校を中退しやめて自衛隊に入隊し、今現在は現場作業員として生活している。
いや、死んだらしいから “いた“ だな。
そんな俺が二ヶ月前、身体の調子が悪くなって病院で診察した結果…。
発見されちゃったよ胃ガンが…。
しかも末期で身体中に転移メタしまくり。
余命はもって三ヶ月の宣告付き。
はあ…もっと色々な事に挑戦チャレンジしたかったのになぁ…。
後悔先に立たずってのは本当だなぁ…。
まあ、そんな理由で入院してたんだが、数日前から病状が急速に悪化。
酸素マスクや生体信号バイタル計測かんちする機械を付けられ、時折目覚めるがほぼ意識不明のまま今に至るって訳だ。
あまり幸福しあわせとは言えない人生だったが、それなりに楽しく生きたので後悔は無い。
結婚や家庭と無縁だったのは残念だけどね。

さて、そろそろお迎えが来る頃かな?
さっさと三途の川を渡って閻魔様の審判を受けなきゃだ。
幸いにも刑務所ムショに入る様な悪事はやらかさずにんだが、過去むかしの罪の精算に地獄落ちは確定だろうけど…。

それからどの位の時間が過ぎたか解らない。
俺は足を伸ばして座り込み、お迎えが来るのを待っていた。
遅い…。
お迎えが遅い…。
幾らなんでも遅すぎないか?
それともコレが普通なのか?
正直な話、同じ場所でジッとしてるのは性に合わないんだよ!
タバコが無いから、なお辛い!
手持ち無沙汰、此処に極まれりだよ!
頼むから早く来てくれ、お迎えさん!

「コレ。コレお主。」
暇潰しに(ラジオ体操か筋トレでもするか…?)等と考えていた時、背後から声をかけられた。
(やっと来た!)
ココには俺しか居ない。
つまり俺に声をかけたのは間違いない。
「いやどーもお疲れ様で…え?」
俺は立ち上がりつつ振り向いて…そのまま固まった…。

目の前には一人の爺さんが、後ろ手に笑いながら立っていた。
身長は俺の三分の二位。
髪は総白髪のオールバック。
顎髭も真っ白で胸元辺り迄伸びていた。
服装は…何故かはっきり認識出来ない…。
どうしてなのかは解らないが、服装はボヤけてしまっている。
なんとなくトーガの様な、和服の様な、仙人の様な。
いや、服だけじゃ無い。
顔だ。
髪と髭ははっきり認識できるし表情も分かる。
だが目鼻や口、輪郭がボヤけてはっきり見えない。
どうした俺?
目がおかしくなったのか…?
状況が分からずパニックになりつつある俺の前に、爺さんは顎髭を撫でながら逆さに宙に浮いて立っていた。


「コレお主。どうしたのかの?」
「…へ?」
爺さんに声をかけられ、マヌケな声を出して我に返った。
ヤベェ、頭が回らず完全に固まってフリーズしてた。
「あ、スンマセン!突然だったんで驚いちまって…。」
正直に話しておこう。
人間は正直が一番の美徳の筈だ、うん。
死んでるから人間と言えるかは知らんがな。
「おや?驚かせてしもぅたか?そりゃ済まんかったのう。」
「いやいやいやいや、頭ぁ下げられたらコッチが申し訳無いっすから!」
頭を下げようとする爺さんを、俺は慌てて止めた。
「コッチゃ、お迎えに来てもらった立場っすから。お手間をかけさせ申し訳ありませんわ。」
言っておくが本音だからね?
俺はお迎えさせた自覚有るからね?
迷惑かけてるの理解してるからね?
「お迎え?…いや、お迎えと言えばお迎えかのう…?」
…アレ?
何、今の間…?
何か変だぞ…?
いや、気にするのは止めよう。
「あの、早速で申し訳無いんすが三途の川迄の案内、お願い出来ないっすか?閻魔様をあまり待たせちゃ失礼っすから。」
俺は取り敢えず要望を伝えた。
地獄落ちを先延ばししても、何の得にもならんだろうしな。
「…三途の川?…閻魔様?」
…アレ?
話通じて無い?
てか、何か反応おかしくない?
「…あの?お迎えのお爺さん?」
「お主、何か勘違いしとらんか?」
「…へ?勘違い?」
「此処には閻魔なぞ居らんし三途の川なんぞありゃせんぞ。」
「…え?」
今なんつった?
閻魔が居ない?
三途の川が無い?
「えええええええっ…!?」
んじゃ何か!?
此処は死後の世界じゃねぇって事か!?
なら俺はまだ生きてるって事か!?
え!?
んじゃ此処は一体何処でなんなんだよ!?
訳わかんねーよチクショー!!


この後、俺の思考は暫く停止したフリーズした…。


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