称号は『最後の切り札』

四条元

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最初の村、ファスター

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「乾杯~!!」
俺とカイルはエールのジョッキを打ち合わせた。
此処はカイルの案内してくれた宿の食堂。
そこに併設されている酒場である。
魔物を換金した後、俺達は酒場で遅い夕食を食べていた。
夕食って名目の酒盛りなのは内緒だぞ。
「‥クッハ~!仕事の後のエールは格別だな!しかし、奢りだなんて本当に良いのか?」
イッキ飲みでジョッキを空にしたカイルが尋ねてくる。
良い呑みっプリだなコイツ。
「‥プハッ!気にすんな、店と宿に案内してくれた礼代わりだ。」
俺もイッキでジョッキを開ける。
少し温いがコレはコレで美味い…気がする。
俺はグルメなんぞじゃ無いからな。
酒は呑んで美味いと思えりゃそれで良い。
「それに魔物が思ったより高値で換金出来たからな。お裾分けだ、お裾分け。」
「そりゃプラチナフォックスを二匹も出したからだろうが!ここら辺じゃ滅多に出くわさない獲物だぞ!」
プラチナフォックスはジョバールの森で仕留めた魔物だ。
気性は荒く攻撃力も高い。
その反面警戒心も強く、中々人前に現れない。
毛皮が貴族に人気で高値で売買されてるそうだ。
二匹も狩れたのは幸運ラッキーだったな。
「偶々だよ、偶々。」
「その偶々が羨ましいぜ。」
「だからお裾分けしてんだろ。」
「そりゃ有り難い♪」
肉野菜炒めをツマミに、二人で馬鹿笑いしながらエールを煽った。

「ところでカイル、ちっと良いか?」
「ん?なんだよ?」
三杯目のエールを開けた後、俺はカイルに尋ねた。
「さっき門の前で会った時、妙にピリピリした感じだったが何かあったか?」
「そんなにピリピリしてたか…?」
「してた!」
「あ~…。実はな…。」
頭を掻きながらカイルは答える。
「一昨日、王都から通達があってな…。」
カイルの話によると、30人ほどの盗賊団がこの辺りに潜伏してるらしい。
「それを警戒してたのか…。」
「まあな。メンバーの何人かは手配書が出回ってる。」
賞金首おたずねものの集団か。厄介だな…。」
「まったくもって迷惑な話さ…。」
 


同時刻、ファスターから3㎞の山の中。
三十人余りの集団が居た。
服は垢で汚れ、武器も防具もバラバラである。
頭目おかしら、見張り役が戻って来ました。」
「おう!それでどんな塩梅だ?」
頭目と呼ばれる男が部下らしき男に声をかける。
「見た感じは上々でさぁ。ヤツラ警戒しちゃいるが、まだ俺らに感づいちゃいねぇです。」
見張り役の言葉に頭目、血塗れちまみれのドンゴスはニタリと笑う。
「そうか、なら今夜は稼がせて貰おうか!」

血塗れのドンゴス…残忍なやり方で名を轟かせた盗賊団のボス。
襲われた被害者は全て殺されている。
通常、女は犯された後は非合法な人身売買にかけられるが、ドンゴスは犯した後は例外なく殺した。
顔バレを恐れてでは無い。
人を殺し血が見たい‥それだけが理由である。

「それと妙な男が村に入りました。」
「妙な男だと?どんな奴だ?」
部下の言葉にドンゴスがピクリと眉を動かす。
警戒すべき男なのか判断したいのだ。
自分に不利になる事は最大限回避したい。
「遠目で見ましたが奇妙な格好いでたちでして‥。体つきは強そうには見えませんでした。」
「そうか‥他には?」
「見た事の無い魔道具に乗ってました。」
「魔道具だぁ?」
ドンゴスの問いに部下は「へぃ。」と答える。
「輪が二つ付いた魔道具で、中々の早さでした。馬と同じかそれより早いかも…。」
「そいつぁ高く売れそうだな。ヨシ、ソイツも頂くとしよう。」
ドンゴスは頭の中で皮算用する。
奪った魔道具は高値で売るか、自分”だけ“の逃走用に確保しよう。
そう考えていた。


(…ん?)
ピリッとした感覚が全身に走る。
(‥今のは何だ?身体強化とは違うよな?だが似てる感じがする。危険の察知じゃなくて警戒か…?)
「…どうしたんだハヤテ?何かあったか?」
不意に黙り込んだ俺にカイルが尋ねて来た。
「…へ?あぁ、いや何でもない。」
何でもないとは言ったが妙な胸騒ぎがする。
盗賊ロクデナシ連中が辺りに潜んでるんだ、警戒は出来るだけしてもし過ぎじゃ無いだろう。
「なぁカイル…ちっと真面目に聴いてくれ。」
「ん?何だよ?」
ジョッキを片手にカイルが尋ねてくる。
「妙な胸騒ぎがする。今夜あたり盗賊バカ共が
押し込んでくるかも知れん…。」

「オイ!!それは本当マジか!?」
バンッとテーブルを叩きカイルは立ち上がる。
同時に何人かいる周りの客が此方を注視した。
「まあ落ち着けよ、まだ確実って訳じゃない。」
「落ち着いてる場合かよ!?村人を避難させないと!!」
村人を優先して考えるのか。
やっぱりカイルこいつは真面目で良いヤツだ。
「だから落ち着けって。あくまで胸騒ぎだけだ。」
カイルはゆっくりと座り直す。
「でも本当か?本当に今夜、盗賊が来るのか?」
カイルの質問に答えるか。
カイルの行動で周りの耳目を集めちまったしな。
この質問も他の者を代表してだろう。
「ああ。まだ“あくまでも”胸騒ぎ‥直感だがな。十中八九、今夜来るだろう。」
「…直感をアテにするのか?」
「直感ってのは、実は中々バカに出来ないモンさ。」
「勘で行動を決めるのは馬鹿のする事だろ?」
「一応言っておく‥。」
俺は話を続けた。

「勘はあくまでも勘‥閃きだ、直感とは違う。」
「よく解らんな‥何が違うんだ?」
「見た事や聞いた事や感じた事。ほんの少しだけの情報でも、無意識に記憶や経験則に当てはめ酷似してる状況を探し判断する。それが直感だ。」
「…そのお前の直感が‥?」
俺は頷く。
「今夜襲われる可能性が高い‥と感じた。」
「なら、やっぱり村人を避難させないと…。」
「ソイツは手遅れだ、もう遅い…。」
「…どういう意味だ?」
カイルの疑問は当然だ。
だから俺は答える。
「カイルなら襲う目標を決めたらどうする?」
「お‥俺!?」
予想していなかった質問にカイルの言葉が詰まった。
「いや俺、盗賊なんか経験無いからな。さっぱり見当が……。」
まあ、当然だ。
元盗賊が門番などはしてないだろう。
「俺なら見張りに監視させる。」
「…監視。」
「ヤツラも死にたくは無いだろ?目標が防御を固めたり、応援を呼んだ時はサッサと逃げる為にな。」
「つまり、この村は既に…。」
俺は頷く。
「様子の変化の有無を監視されてると思った方が良い。慌てて逃げ出せば、ここぞとばかりに殺され食われる。」

カイル達、全員が押し黙る。
彼等から見れば八方塞がりに近いから当然だ。
この状況を破るには予想外の要因ファクターが必要だ。
そしてその要因になるのは…。
「‥って事で今回の村の防衛戦、微力だが俺も参加させて貰おう。」
「‥ええっ!?」
ほぼ間違いなく俺だろう。
ならば参加しなくちゃ‥だな。
「オイ、待てよハヤテ!お前も戦うのか!?」
「当然だろ?あ、もしかして信用出来ね~か?」
そういやこの村に来たばかりだったな、俺…。
信用ねぇのも当然か。
「いやそうじゃ無くて!!来たばかりのお前が何で!?」
もしかして信用してるのか?
お人好し過ぎるぞ、カイル…。
「気にすんな、一宿一飯の恩義ってヤツだ。まあ、まだ一宿してはいないがな。」
戦い終われば泊まるんだから、恩義を先払いしておくだけだ。
「さてと、部屋で戦闘準備しておくか!」
異世界の初日から長い一日になるなぁ‥。








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