冷遇王子を匿ったらまさかのアレがついてきた

すずね

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第4話 1

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 アルベルトがグラナートの屋敷に来て十日ほど経った頃、懇意にしている商会──ヴィズナー商会のモーリッツ商会長が島国巡りの戦利品を荷馬車に積んでやって来た。
 夫妻への面会ではあるが、前回、エリアスも個人的に様々な食材を依頼していたので、アルベルトを伴って参加することになった。

 今回の目玉は、色鮮やかな藍染めで仕上げた様々な織物であった。
 重厚な濃紺の毛織物や、淡い水色から紺色に着色された総絞りの絹反物は、初めて王国に持ち込まれたそうで、日本での記憶があるエリアスは真っ先に和服のイメージが浮かんだ。
 完成した衣装に似合いそうな、金細工に水晶や真珠をはめ込んだ飾りも、所狭しとローテーブルに並べられた。

 商談中にも、商会の従業員が次々と商品を運び込み、床に敷いた敷物の上に並べていく。
 その中に、黄金に輝く小さな粒、玄米がぎっちりと詰まった二リットルほど入りそうなガラス瓶を発見した。
「お、おこめー!」
 思わず膝をついて、四つん這いで進み出たら、サムエルに首根っこを掴まれた。
「こら! 粗忽者め、客人の前で無様に這いつくばる者がおるか」
「へぎゃっ」
 いつもより強めに尻を叩かれ、変な声が出てしまった。
 宙に浮いたままアルベルトに渡され、細くても力強い腕に抱き留められた。
「ぶふっ」
 笑ったように聞こえたが、見上げた顔は穏やかな笑みに戻っている。
 王族の嗜みなのか、母やユリアのようにアルカイックスマイルを崩さない。
「失礼した。次はこ奴の依頼したものを頼む」
「此度は、エリアス様ご所望の米を多めに手に入れることができまして、ご確認いただけましたら荷馬車から食糧庫にお運びいたします」
 ガラス瓶を幾つか手元に寄せて、米とそのほかの食材を説明する。
 米は二種類あり、片方は粘り気の多い米ということだから、もち米だろう。
 そして、以前から取り寄せて菓子に使ってる小豆も並んでいた。
「高額で買い取ってもらえると聞いて、今年は作付面積を増やした者が多かったのです」
 ありがたい事だが、税として納める麦が疎かにならない程度でお願いしたい。
 グラナート家の圧力で、島国の農家が納税できなくなったなどという噂が出ては困る。
 次々と島国食材の見本が運び込まれたが、今回も希望の出汁食材は手に入らなかった。
 アルベルトは、前抱っこしていたエリアスを床に下ろした。
「視察の際に、様々な食材を使った料理を試食しました。味噌は北部の山間部で、米や豆を用いて作った調味料だと聞いています。昆布は北の沿岸部、鰹節は南の沿岸部で食されていたはずです」
 アルベルトが、島の名前や食材の特徴を説明する傍らで、エリアスが自慢そうに頷きながら聞いている。
 また、エリアスはすっかり忘れていたが、納豆や海苔などの食材、初めて聞いた米飴という甘味料の存在など、多くの情報がアルベルトから語られた。
 応接室に持ち込んだ大量の旅日記から、詳細が記載してあるページを見て地図と照らし合わせる。
 それらを次回の依頼として、購入品の商談は終了した。

 購入した食材の一部を従者に運ぶよう申しつけ、エリアスとアルベルトは厨房へ向かうことにする。
「米を炊くけど、商会長も来る?」
「もちろんでございます!」
 嬉々としてモーリッツもついてきた。

 厨房では、今日の軽食用にカツサンドを作っている所だった。
 ポテトサラダとツナマヨもあるから、何種類かのサンドイッチを作るようだ。

 エリアスの実験専用のコーナーに食材を運び、先ずは米を精米する。
 筒形の鉄製容器の中心に幅広の羽が入っており、ハンドルを回すと撹拌しながら玄米の表面の糠が削られる仕組みになっている。
「エリアス坊ちゃま、こちらは終わりましたので、お手伝いをいたします」
 料理人の一人が来て、精米機を操作する。
 うるち米はご飯に、もち米は五目おこわにするための炊き方を説明し、調理は料理人に任せた。

「ご飯は時間がかかるから、まずは、サンドイッチの試食だね」
 エリアスの声で、三種のサンドイッチと紅茶が運ばれてきた。
 トンカツを揚げる匂いにすっかり食欲を刺激されていた三人は、小さめにカットされていたこともあり、一瞬で一巡めを食べ終えた。
 カツサンドは、モーリッツの勧めで領都で販売するようになり、パンにしては高額だが売り上げは上々である。
 しばらく前に、生卵殺菌のために雇われている魔術師が、大量に卵を殺菌できる魔道具を発明し、マヨネーズを量産することができるようになった。
 それにより、マヨレシピを色々と試している。
「商会長、ツナマヨサンドとポテトサラダサンドも売れるかな? マヨネーズが入ってるから長持ちはしないけど、味は間違いないでしょ?」
「確かに、これば絶品でございます。その場で食べることができるよう、エリアス様が前におっしゃっていたカフェを併設してはいかがでしょうか」
 パン屋の軒先で食べている者も多いと聞いたので、丸太をベンチ代わり置くように手配した。
 その際に、店の前にイスとテーブルを出して、紅茶やジュースも飲める「カフェ」のイメージを提案したのだが、従業員が不足していることや天候に左右されることから保留になっていた。
「カフェをやるなら食事になるパンやティータイムの焼き菓子を置きたいし、飲み物も充実させたいな。天気が悪い時も、室内で飲食できるスペースがあればいいんだよね。いっそのこと、新しく作る?」
「エリアス、カフェというのは、今のようにサンドイッチを食べてお茶を飲みながら、気軽におしゃべりをしたり、もっと食べたかったら買って来て食べる店ということかい?」
 アルベルトが、サンドイッチを食べ終えて、お代わりを自ら運んできた。
「そうだよ。本当は、その場で飲食するだけでなく、飲み物も買って帰れるといいんだけど、使い捨ての紙コップとかないからね」
「王都で、自宅からカップや小鍋を持ち込む、量り売りのスープ屋を見たことがあるよ」
(マイカップ……季節ごとに何種類も出て、集めてる人がいたな)
 エリアスは、某カフェのお洒落なタンブラーを思い出した。
「それと、パンの軽食だったら、プリンパンのとろとろチーズと半熟卵乗せは絶対に置いたほうがいい。本当にあれは美味しかった」
「むむ、前にいただいたプリンパンにチーズと半熟卵ですと。そんなもの美味しいに決まっておりますな。その場で食べるなら、エリアス様が考案なさったホイップクリームを使った菓子も捨てがたい」
 そうこうしているうちに、ご飯が炊きあがった。
 まずは、ずっと食べたかった卵かけご飯である。
 アツアツご飯に卵と醬油。
 黄身だけ派も多いが、エリアスは全卵派だ。
 サンドイッチをお代わりしたアルベルトも、サムエルと同世代であろうモーリッツも、容赦なく一人前を完食する。
 そこに運ばれてきた五目おこわだが、こちらも三人とも美味しくいただいた。
 ご飯をお腹いっぱい食べることができる幸せ、本当に素晴らしいことだ。

「早速、優良な物件を探させなくては!」
 モーリッツは、ほくほく顔で帰って行った。





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