冷遇王子を匿ったらまさかのアレがついてきた

すずね

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第3話 5

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 グラナートの屋敷に到着し、応接室に招かれると、夫妻と娘二人に出迎えられた。
 次女のラウラはアルベルトと同い年、姉のユリアは一歳年上と聞いている。
 父親とラウラは赤髪に赤みのある茶色の瞳で、顔立ちがよく似ている。
 背が高くて体格も良く、武人らしい堂々とした雰囲気には威圧感があった。
 ラウラはアルベルトよりも身長も体格も良いのではないだろうか。
 母親とユリアは金髪に緑の瞳が高貴な印象を与え、王族の血を濃く受け継いでいることが分かる。
 皆、それぞれに美しい容姿と佇まいで、アルベルトなどよりもよほど高貴な血が流れているのだと思い知らされた。
 それでも自分は王族だと、胸を張って優雅に微笑む。

 彼らにとって、アルベルトは招かれざる客だった。
 それでも望みは捨てず、持参した絹細工のブーケを母親に、姉妹には同じ細工の髪飾りを渡す。
 島国の一部でしか作られていない希少価値がある飾りで、渡島の際に持ち帰ってきた多くの工芸品の中から選んできた。
 喜んではくれたようだが、姉妹は困ったような表情で顔を見合わせる。
「殿下、申し出は大変に光栄なのですが、二人とも縁談がまとまりそうなのですよ」
 姉の婚約は縁者の伯爵家と、妹も小隊の部下と将来を誓い合っていると言われ、次の言葉を考えられずに奥歯を噛み締めた。
 王族からの申し出だから押し切ることは可能だが、無理を言って波風を立てるのは得策ではない。
(だがもう後がないぞ。どうしたらいい? いっそ本当のことを話して、偽装婚約でもいいからここに使用人としておいてほしいと頼むか)
 ここまで来たら、恥も外聞もない。
 剥がれそうな笑みを貼り付けているが、背中には嫌な汗がだらだらと流れている。
 泣きつくしかないと心を決めた時、ノックもなしにドアが勢いよく開き、銀のトレイを持った子供が顔を出した。
 妖精のようなその子供は、長男のエリアスだった。
 十歳になった彼は、頬のふくよかさがなくなり少年らしい精悍な顔立ちになったが、変わらず可愛らしくて美しい。

「醤油王子」
 エリアスのつぶやきが耳に入った瞬間、アルベルトは深い谷底に突き落とされた。
 好感を持っていた少年に、侮蔑の言葉を投げつけられたのだ。
 それでも笑う。
 これまでも、どんなに蔑まれても狼狽えることなく、耳を通り過ぎる風のようにふるまってきた。
 だが、言葉の矢はアルベルトの胸を突き刺し、そのどす黒い痛みが全身に回る。
 咄嗟に婚姻を申し出てしまった。
 酷い言葉でアルベルトを傷つけた、少年への意趣返しだった。

 帰りの馬車ではもう後悔していた。
 高位貴族の嫡男に王族の男が婿入りしたら、愛する女性が現れても正式な妻にすることはできない。
 側室を持てるのは王族だけだ。
 王に派遣された従者が控える中、公式訪問で口にした言葉は公文書に値する。
 言ってしまった以上、父王に報告し、正式な文書を作成することになるだろう。
 大公夫妻も娘達も、驚きと怒りの眼差しでアルベルトを見ていた。
 だが、好ましいと思っていたあの少年に馬鹿にされたのは、本当に悔しくて我慢ができなかったのだ。
 アルベルトが勝手に美化していただけで、島国を差別しているごく普通の貴族令息であった。

 婚約は、婚約候補者にとどまった。
 グラナート家から転送魔術で「婚約候補」の依頼書が送られていたそうだ。
 婚約候補者であっても、公爵家に逃げ込めば命だけは守ることができるだろう。
 三年後、アルベルトが十八歳になり、成人して力を持てるようになった時、彼が望むなら婚約を解消してもいい。
 エリアスとは五歳の差があるので、解消後も伴侶を探す猶予は十分にあるだろう。
 だがそれは、本人にも大公夫妻にも伝える気はない。
 アルベルトが誰かを心から信頼することは、これからもないと分かっているからだ。

 そうやって、かなり強引にグラナート家に潜り込んだアルベルトは、母親と姉妹には冷たい目で見られているが、父親とエリアスには温かく受け入れられている。
 使用人もよく教育されており、王城のように「島国の卑しい血」と蔑む者はおらず、嫌悪の目を向けられることもない。

 晩餐会の後、エリアスに手を引かれて庭園の花を見に行ったはずだったが、植えられているのはほぼ薬草で、その先は畑になっていた。
 貴族の屋敷に訪れる機会などほとんどないアルベルトだが、薬草や農作物ばかり植えている庭園などは聞いたことがない。
 ハナの離宮でさえ、庭園は庭園として草花で整え、薬草園は別に作っていた。
 話せば話すほど、興味深く面白い少年である。
 醤油王子と侮蔑の言葉を放ったエリアスだが、その後、アルベルトを見下す様子はなかった。
 むしろ、「アル兄様」と呼び、気を引こうと話しかけたり、小動物のようにクルクルとアルベルトについて回っている。
(しっかりしていても所詮は子供。意味も考えずに悪い言葉を使ってしまう年頃なのかもしれない)
 時間が経てば経つほど、自分のエゴで婚約を決め、エリアスの将来を狭めてしまったことに申し訳なさを感じる。

 薬草のことから野菜へ、話題は尽きず、そして料理の話になった。
 十歳とは思えない豊富な知識と見解。
 どのような英才教育を受けたらこのような子供になるのだろう。
 そして、ほぼ毎年渡島して特派員と共に行動しているアルベルトでも知らないような食の知識と、その食材への並々ならぬ執着。

(醤油を好んでいるって? 醤油王子は侮蔑の言葉ではない?)
 王城から遠い北の地での暮らしは、そんな驚きから始まった。

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