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第2話 2
翌日、サムエルに呼ばれたエリアスは、衛生問題の重要性と改善案をまとめて説明した。
その際、屋敷では常識となってきた健康のための食習慣についても、領内に浸透させることを提案した。
パンや麺などの炭水化物・肉や魚や乳製品などのタンパク質・脂質を中心に、野菜類をバランスよく食べてほしいが、自給自足の世帯も多い今の庶民の生活では、様々な食材を買うこと自体が難しいだろう。
本当なら「まごわやさしい」食品、豆(大豆製品)・ごま・ワカメ(海藻)・野菜・魚・シイタケ(キノコ類)・イモ類を推奨したいが、現状では大半が手に入らない。
それでも、出来る範囲でいいから必要な栄養素を取り、疫病に負けない体を作ってほしいのだ。
食について語っているうちに、無性に出汁と醤油のあの組み合わせが恋しくなった。
醤油・小豆・ごま・抹茶などは東の島国から取り寄せているが、王国では需要がないため出荷される数も少ない。
一方、サンゴ・真珠・水晶などの宝飾品や、木や竹や植物紙を使用した工芸品については希少価値があり、一部の富裕層にニーズがあることから取引が続けられている。
グラナート家お抱えの商会は東の島国と強いパイプがあり、買い付けの際に食品も探してくれている。
エリアスは、やや粘りがある小麦を挽いてもらい中力粉を作り、塩と水を準備して、厨房の一角でうどん作りを始めた。
身体強化の魔術が使える料理人が生地をこねて、コシのある中太麺を作って茹でる。
そこに、魚の骨と乾燥キノコで出汁を取り、醤油で味を調えた汁をかける。
麺つゆに似たような物にはなったが、やはりあの味は出すことができない。
「鰹節と昆布が欲しいー!」
夏の夕暮れ、厨房にエリアスの叫びが響き渡った。
醤油は定期購入が可能になったが、出汁となる食品の鰹節・昆布・どんこ・煮干し、それと味噌はまだ見つからない。
醤油は黒くて塩辛いことから商品としての価値が低いそうだ。
味噌や出汁の食材も、見た目やそのものの味で取り上げてもらえないのだろう。
また、米は少量だけ入ってきたが高額で、しかも、現地の住民が食べる分を横取りすることになるから勘弁してほしいと懇願され、泣く泣く諦めた。
これには、東の島国が現在置かれている状況が影響している。
深海と呼ばれる広い海洋を挟んで、エリアスが暮らす東の大陸アルゼーゲン王国と、西の大陸エイヴィシュタ連合国は建国当初より睨み合いを続けていた。
その中間よりも東の大陸寄りにある日本のような列島を東の島国と呼び、細々とではあるが王国と宝飾品や工芸品の取引を行っていた。
十五年ほど前、西の連合国から東の島国に対して攻撃があり、侵略を回避するために王国に助けを求めて属国となった。
今では王国の一部であるから関税もなく、以前よりも有利に仕入れることが可能になった。
その反面、王国に納める税として徴収するために麦やイモなど王国の農作物を作らせたり、王国にとって無益と判断した作物は栽培を禁じるなど、島国古来の文化が迫害されている。
島国の民は黒目黒髪で小柄なようで、何となく前世の日本を彷彿とさせることから、エリアスは親近感を持っていた。
それだけに、我ら王国民が島国文化や国民を蔑ろにしているという現状に、何とも言えないやるせなさを感じる。
サムエルとの商談のために訪問していた商会長を厨房に呼び、最近我が家でブームのうどんと野菜のかき揚げを作り、天ぷらうどんにして試食してもらう。
「おお、なんでしょうか、このモチモチとしたパスタは。また、スープが今までにないあっさりとした塩気と甘さと、何とも言えない旨味が癖になりますな。上に乗っているトッピングがスープを吸って満足感がある」
父と同世代の、品の良い雰囲気の中に狡猾さを隠したような男が、フォークとスプーンでうどんを食べている。
箸も多少は使えるようだが、コシの強いうどんは難しかったようで、早く食べたい気持ちに負けて、早々に断念した。
汁まで全て飲み干し、器を調理台に置いた。
「これは売れますぞ。今はまだ暑いですが、涼しくなってきたら人気が出るでしょう。販売するならいくつか候補がございます。それとも、新たにエリアス様のお名前で出店なさいますか?」
「あー、うん。でもね、まだ、これでは完成ではないんだ」
出汁に使う食材について説明するが、取引が行われている中央の島では見かけたことが無いと言う。
「次の買い付けでは、奥様方に宝飾品と特別な染色を施した絹糸を申し付かりました。今回のお取引で軍資金もしっかり稼がせていただきましたので、しばらく滞在も出来ましょう。内陸か離島に足を延ばして探してまいります」
出来るか出来ないかをはっきりと言い、出来なくても代替案を出してくるので、エリアスとしても変な腹の探り合いがなくて楽に相談ができる。
儲けをしっかりと出さなくては新たなチャレンジは出来ないだろう。
ならば狡猾なくらいがちょうど良い。
そんなやり取りからひと月と少し経ったころ、商会長が煮干しと干し椎茸を持ってグラナート家にやってきた。
だが、待ち望んでいた鰹節と昆布は今回も収穫なしである。
「δ∩Λиπ€!(何でやねんっ!)」
秋の夕暮れ、思わず日本語で叫んでしまうエリアスであった。
その際、屋敷では常識となってきた健康のための食習慣についても、領内に浸透させることを提案した。
パンや麺などの炭水化物・肉や魚や乳製品などのタンパク質・脂質を中心に、野菜類をバランスよく食べてほしいが、自給自足の世帯も多い今の庶民の生活では、様々な食材を買うこと自体が難しいだろう。
本当なら「まごわやさしい」食品、豆(大豆製品)・ごま・ワカメ(海藻)・野菜・魚・シイタケ(キノコ類)・イモ類を推奨したいが、現状では大半が手に入らない。
それでも、出来る範囲でいいから必要な栄養素を取り、疫病に負けない体を作ってほしいのだ。
食について語っているうちに、無性に出汁と醤油のあの組み合わせが恋しくなった。
醤油・小豆・ごま・抹茶などは東の島国から取り寄せているが、王国では需要がないため出荷される数も少ない。
一方、サンゴ・真珠・水晶などの宝飾品や、木や竹や植物紙を使用した工芸品については希少価値があり、一部の富裕層にニーズがあることから取引が続けられている。
グラナート家お抱えの商会は東の島国と強いパイプがあり、買い付けの際に食品も探してくれている。
エリアスは、やや粘りがある小麦を挽いてもらい中力粉を作り、塩と水を準備して、厨房の一角でうどん作りを始めた。
身体強化の魔術が使える料理人が生地をこねて、コシのある中太麺を作って茹でる。
そこに、魚の骨と乾燥キノコで出汁を取り、醤油で味を調えた汁をかける。
麺つゆに似たような物にはなったが、やはりあの味は出すことができない。
「鰹節と昆布が欲しいー!」
夏の夕暮れ、厨房にエリアスの叫びが響き渡った。
醤油は定期購入が可能になったが、出汁となる食品の鰹節・昆布・どんこ・煮干し、それと味噌はまだ見つからない。
醤油は黒くて塩辛いことから商品としての価値が低いそうだ。
味噌や出汁の食材も、見た目やそのものの味で取り上げてもらえないのだろう。
また、米は少量だけ入ってきたが高額で、しかも、現地の住民が食べる分を横取りすることになるから勘弁してほしいと懇願され、泣く泣く諦めた。
これには、東の島国が現在置かれている状況が影響している。
深海と呼ばれる広い海洋を挟んで、エリアスが暮らす東の大陸アルゼーゲン王国と、西の大陸エイヴィシュタ連合国は建国当初より睨み合いを続けていた。
その中間よりも東の大陸寄りにある日本のような列島を東の島国と呼び、細々とではあるが王国と宝飾品や工芸品の取引を行っていた。
十五年ほど前、西の連合国から東の島国に対して攻撃があり、侵略を回避するために王国に助けを求めて属国となった。
今では王国の一部であるから関税もなく、以前よりも有利に仕入れることが可能になった。
その反面、王国に納める税として徴収するために麦やイモなど王国の農作物を作らせたり、王国にとって無益と判断した作物は栽培を禁じるなど、島国古来の文化が迫害されている。
島国の民は黒目黒髪で小柄なようで、何となく前世の日本を彷彿とさせることから、エリアスは親近感を持っていた。
それだけに、我ら王国民が島国文化や国民を蔑ろにしているという現状に、何とも言えないやるせなさを感じる。
サムエルとの商談のために訪問していた商会長を厨房に呼び、最近我が家でブームのうどんと野菜のかき揚げを作り、天ぷらうどんにして試食してもらう。
「おお、なんでしょうか、このモチモチとしたパスタは。また、スープが今までにないあっさりとした塩気と甘さと、何とも言えない旨味が癖になりますな。上に乗っているトッピングがスープを吸って満足感がある」
父と同世代の、品の良い雰囲気の中に狡猾さを隠したような男が、フォークとスプーンでうどんを食べている。
箸も多少は使えるようだが、コシの強いうどんは難しかったようで、早く食べたい気持ちに負けて、早々に断念した。
汁まで全て飲み干し、器を調理台に置いた。
「これは売れますぞ。今はまだ暑いですが、涼しくなってきたら人気が出るでしょう。販売するならいくつか候補がございます。それとも、新たにエリアス様のお名前で出店なさいますか?」
「あー、うん。でもね、まだ、これでは完成ではないんだ」
出汁に使う食材について説明するが、取引が行われている中央の島では見かけたことが無いと言う。
「次の買い付けでは、奥様方に宝飾品と特別な染色を施した絹糸を申し付かりました。今回のお取引で軍資金もしっかり稼がせていただきましたので、しばらく滞在も出来ましょう。内陸か離島に足を延ばして探してまいります」
出来るか出来ないかをはっきりと言い、出来なくても代替案を出してくるので、エリアスとしても変な腹の探り合いがなくて楽に相談ができる。
儲けをしっかりと出さなくては新たなチャレンジは出来ないだろう。
ならば狡猾なくらいがちょうど良い。
そんなやり取りからひと月と少し経ったころ、商会長が煮干しと干し椎茸を持ってグラナート家にやってきた。
だが、待ち望んでいた鰹節と昆布は今回も収穫なしである。
「δ∩Λиπ€!(何でやねんっ!)」
秋の夕暮れ、思わず日本語で叫んでしまうエリアスであった。
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