冷遇王子を匿ったらまさかのアレがついてきた

すずね

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第4話 5

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「この辺りで売っているのは乳製品だね。僕、チーズ大好き!」
 新しくて立派な建物が多く、どの店も羽振りがよさそうだ。
 冷凍冷蔵庫は高価なものだが、収納サイズを小さくして、魔石に魔力を充填できるようにしたことで安価に使用できるようになり、傷みやすい乳製品の流通範囲が広がった。
 同時に、エリアスが発信したチーズやバターを使った様々な料理が領内に広まり、需要が増えたことで、今まで以上に牧畜業が盛んになった。
 乳製品を使用した料理店が、ここ一年で何倍にも増えている。

 その先には、店先で飲食できるような軽食店が並ぶ。
 目立っているのはスープ店だ。
 領民の栄養対策で具沢山のスープを推奨したのは誕生祭のすぐ後のことだった。
 野菜と肉と麦が入ったものや牛乳で煮込んだもの、乾燥したパンを浸して食べるものなど、家庭だけでなく飲食店にも広まっている。
 マイカップや鍋を持ち込む客が増えたのは、アルベルトの提案からだ。

「お嬢様、お久しぶりです。シモンは今日は一丁前の騎士様みたいな恰好で、仕事なのかい」
 声をかけてきたのは、軒先で季節の野菜と芋のスープを量り売りしていた店主だ。
「おう、おっちゃん、久しぶり! 今日は護衛の仕事さ」
「今日も繁盛してるわね。私達は弟の護衛よ」
 ラウラの紹介で挨拶をしたエリアスだが、つないでいたアルベルトの手に緊張を感じた。
 表面上は微笑みを浮かべていても、初対面の相手にはいつも身構えている。
 島国特有の容姿を蔑まれることを警戒しているのだろうが、辺境軍や農耕地帯、運送に建築現場と、常に多くの働き手を求めている北の領地では、王都に比べて人種に対する壁は少なく、島国人も歓迎されている。
 エリアスの趣味から島国文化が浸透し、多くの利益を生んでいることから、感謝している者も多い。
 変わりない様子の店主に安心したのか、アルベルトの緊張した手が緩んだ。

 昨年から準備を進めていたカフェは、オープン後しばらくたった今も毎日盛況なようで、店の外まで客が並んでいる。
 マグカップ型の鉄製容器に店のロゴを刻印したり絵付けをして、持ち帰り用に販売したところ、売れすぎて生産が間に合わず予約待ちになっている。
 ステンレスボトルのような水筒も作りたいのだが、保温効果は魔術頼みになるだろうから、販売価格もそれなりに高額になってしまうだろう。
(販売するとしたら数量限定だよな。それを婚約式の記念品として配ったらどうかな。貴族は水筒なんて持たないかな。いや、使用人に持たせてカップに注げばいいのか……)
 エリアスは、カツサンドやフレンチトーストを美味しそうに食べている客をしばらく眺めながら、婚約式で提供する飲食物や記念品について考えを巡らせた。

「シモン義兄上、この辺は飲食店が並んでいますが、独特の異臭が全くありませんね。王都では貴族街の高級料理店であっても多少はするものですが」
「ああ、それね! 二年くらい前まではここも酷かったけど、領都を中心に上下水道の整備が進んで、今では領内の小さな町まで広がってるよ。これもエリアスの功績なんだってな?」
 衛生問題についてサムエルに提言したことはあるが、その後は特に触れていなかった。
「僕は何もしてないよ? 父上が色々考えてくれたんじゃないかな」
「何言ってんの。屋敷の大浴場を作るためのシステムを使って上下水道を整備したって聞いてるよ。屋敷中の水回りを作り直すのに、領内外の魔術師と建築家を呼びつけたって話は有名だぞ」
 エリアスの風呂に対する異常な情熱から、魔術師と建築家に様々な無謀な要求をしたことを暴露されたが、アルベルトは驚く様子もなく納得している。
「私の婚約者は素晴らしいね。一緒にうぃ~と言うのも、心の澱が解放される心地でとてもいいものだしね」
 頭をなでられ、エリアスは頭をその手にすり寄せた。
「えへへ、アル兄様に褒められた!」
 ラウラとシモンは顔を見合わせ、呆れたように肩を竦めた。

 その後は、商店街の喧騒から少し離れたところにある教会に寄って、子供達が作ったアップルタルトと乾燥ベリーのクッキーを買って馬車に戻った。

「北の領地の民は、活気があって気さくで、他の民族にも寛容なのだね」
「うん。僕も、驚くくらい領主一族への壁が無くて、アル兄様の瞳の色も王族ってことも全然気にしないのビックリした。父上もお爺様も実力主義の人だから、その考えが領地全体に広まってるのだとしたら嬉しいな。アル兄様は嫌な思いをすることなかった?」
「ああ。楽しくて有意義な時間だったよ」
「良かった! また来ようね!」
 頷いたアルベルトだが、何か言いたいことがあるようだ。
 動き出した馬車の中、アルベルトはエリアスを抱き上げて自分の膝に乗せた。
「エリアス、聞いてくれるかい? 私は以前、信頼していた護衛騎士に罠にはめられたことがあってね」
 勇気を振り絞るように、膝に乗ったエリアスをギュッと抱きしめる。
「彼からの、私に対する隠しきれない蔑みは感じていた。だけど、優しい言葉や私を大切にしてくれる素振りを信じたくて、不審な行動を見抜けなかった」
 賊と結託した護衛騎士に、視察先の城下町で襲われ、大怪我をしたことを聞いた。
「だけど、大変だったのはその後だった。護衛騎士を信頼して私を託したのは母だったから、後悔から私の身を案じて、部屋から出してもらえない日が何か月も続いたんだ。泣いて騒ぐだけで何もしない、何も出来ないあの人は、私にも何もしないことを望んだ。無能を装い部屋に籠ることを強要されたけど、それでは何も変わらない」
 アルベルトは王城で孤立していたと聞いている。
 母親の存在は大きかっただろうに、唯一の理解者がそれではどれほど不安だったろうか。
 今朝は前世の母の事を思い出して恨めしさが蘇ったが、命の危険を感じる環境にいたアルベルトに比べたら何倍もましだ。
「私はあの城から逃げ出してきたんだ。今更だけど、巻き添えにしてしまって本当にすまなかったね」
「もう謝らないで! 結果的に、優しくてカッコ良くて、島国の事をたくさん知っているお兄様ができたから嬉しいもん」
 ふと、アルベルトは身を守るためにこの地に来たが、婚姻を後悔していないだろうかと考えた。
「アル兄様は僕と結婚するの嬉しくない?」
「嬉しいに決まってるよ。君が望んでくれるなら、ずっと側にいるからね」
 エリアスは頷き、いつもアルベルトがしてくれるように、腹に回された腕をトントンと叩き、優しく撫でた。
 

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