魔力要員として召喚されましたが暇なので王子様を癒します

すずね

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第1章 魔力要員として召喚されましたが暇なので王子様を癒します

30 帰還

 今日は朝から、王城内がやけに騒がしい。
 魔石充填を終えた玲史が、ゲンドルと共に魔術省を訪れると、魔術師達がどこか浮かれたようにざわついていた。
 そのうちの一人、若手魔術師が二人の近くに歩み寄る。討伐訓練で治癒魔術師として同行した若者だ。
「トステ様、第一騎士団の帰還は正午とのことです。魔術省も出迎えのお声を掛けていただきました。支度が出来次第、大広間に集合だそうです。黒真珠……ナヴィ卿はご準備は良いのですか?」
「準備?」
 どこからも声がかかってこないから、何の準備をするかも分からない。
 玲史がゲンドルを見ると、ゲンドルは首を傾げた。
「俺もレイジも今聞いたところだ。ありがとう」
「いえ、ナヴィ卿の正装を楽しみにしています」
 玲史が魔術師に笑顔で頷くと、彼は頬を赤らめて、二人が立ち去るのを見送った。
 おや、とゲンドルが片眉を上げる。
「なんだ、また引っかけてきたのか?」
「ん? 何が?」
 アンチであった者達からも、続々と黒真珠信者が増えつつある。
「正装についてだが、魔術師はローブが制服だから面倒はないが、レイジはパーティーに着たような衣装に着替える必要がある」
「レヴィの部屋に置いてあるから、そこから選ぶよ」
 セティに対抗して、レヴィも何着か作ってくれたものを衣裳部屋に保管してある。
 いつも身に着けて欲しいと言われた装飾具も、高価そうな宝石が散りばめられているので、気後れして使えずに保管している。
 魔術省を出た二人は、ゲンドルの秘密の魔法陣を使ったショートカットで、王族の居住エリア近くに下り立つ。
 護衛騎士に要件を伝えて、ゲンドルも一緒に通してもらい、レヴィの私室にある玲史の衣裳部屋に入った。
「あれ?」
 衣装が一着も見当たらない。一緒に保管してある宝飾類も、チェストごと消えていた。
 護衛騎士に聞けば、昨夜、王族客室の侍女が、出迎えと謁見の為に手入れをして届けるということで、全て持って行ったとの答えが返って来た。だが、そんな連絡は来ていない。
「レイジの使いかどうかの確認はしたのか?」
「案内したのはレヴィ殿下の専属侍女でしたので、確認しましょうか」
 玲史は愕然として言葉も出ない。
 二人の王子から送られた衣装と装飾具には、金額以上の価値があるだろう。無事に戻らなかったらと考えたら胃が痛くなってくる。
 反対に考えたら、そんなものを持ち去ったら、セティの部下が密かに記録しているはずだ。嫌がらせの犯人を探し出し、襲撃犯の尻尾を捕まえることができるかもしれない。
 だが、今はそんなことを考えている場合ではない。こうしている間にもレヴィは王城に向かって来ているのだ。
「このままじゃダメかな?」
 今日は、シンプルな白シャツに、紺色に染めた毛糸のロングカーディガン、グレーのズボンをはいている。
「お偉方が並ぶ中でこれは、お前さんの評判に関わるからだめだ。俺の服を貸してやる。持ち去った者の確認は君達に任せる。こちらは何も聞かされていないし、衣装は届いていない。調査をして、王太子殿下と俺に報告を回すように」
 護衛騎士に命じると、城を出て魔法陣を使い、最短距離でゲンドルの部屋に戻る。
 暖めたリビングで服を脱ぎ、襟と袖にたっぷりのフリルが付いたシャツを着る。
 ズボンは自前の無難な黒に変えた。
 上着は、ダークグリーンのタイトなデザインのジャケットを用意してくれた。
「前に、流行に乗って作ったのはいいが、窮屈で一度も着ていないんだ。捨てなくて良かったよ」
 上着のサイズは何とかなりそうだが、シャツがかなり大きい。フリルで手がすっかり隠れてしまうし、丈もワンピースのように長い。腕のところでアームバンドのようにリボンで結んでもらったが、それでもかなりのオーバーサイズだ。
「彼シャツってやつじゃない? これ。ぶかぶかだけど、大丈夫かな」
「彼シャツ? 恋人のシャツを着てるってことか?」
 鼻が付きそうなほど近くで顔を覗き込まれて、慌てて一歩下がった。元々、パーソナルスペースが狭い人だったが、一緒に過ごしているうちに、更に距離感がおかしくなってきた。
「やっとその気になってくれたか」
「なってない! それより、もう来ちゃったんじゃない?」
 門の辺りが、さっきよりも騒がしくなってきた。
「待てよ、リボンを結んでやるから。首回りの緩みがマシになるだろ」
 ゲンドルは、艶のある、緑色で幅広のリボンを出して、玲史の首に垂らして結ぶ。
「今から下りても出迎えには間に合わんよ。それより、可愛いく仕上げて謁見の間で顔を見せてやった方が、お前さんの王子様も喜ぶだろ」
 意地悪な笑みで揶揄う。口説いたり、レヴィとの仲を揶揄ったり、本気なのかふざけているのか分からなくなる。
 ゲンドルが本気で恋愛感情を持っているとしたら、好意を傘に着て甘えるような真似はもうできない。世話の焼ける教え子として目をかけているだけなら気が楽だから、揶揄われているだけなのだと思いたい。
「みんな可愛いって、すぐに言うけどね、俺はへ……」
「ほら来た。あのキラキラしいのはレヴィ殿下じゃないか?」
 ゲンドルに言われて、慌てて外を見る。米粒位でも分かる、騎士団の先頭に立つ、輝く長い髪とスラリとした体躯。
「ああ……遠くから見ても輝いてるね」
 窓枠に手を付いて身を乗り出すと、ゲンドルが肩を掴む。
「おい、興奮して窓から落ちるなよ」
「落ちないから!」
 ゲンドルの横顔に向かってかみつくと、優しい声で肩を撫でた。
「無事戻ってきてよかったな」
「本当に、よかった」
 頷き、今度は笑顔を向ける。
 謁見の間に行けば、近くでその姿を見ることができるだろう。
 王城の瘴気が増えている今、きっとレヴィの瘴気障害も強く出ているはずだ。
 すぐにでも癒しに行ってあげたい気持ちを抑え、ゲンドルの部屋で身支度を整えた。

 謁見の間の前には、王城勤めの者や貴族が集まっている。人垣の間から背伸びをして見ていると、徐々に喧騒が近付いてきた。
 扉が開けられると、団長とレヴィが先頭に立ち、代表数名の騎士がこちらに向かってくる。
 ゲンドルと共に人垣の間を抜けて、何とか前のほうに進み出る。
 きっとまた、「そんなところで、何をやっている」と、困ったような笑みを見せてくれるだろう。
 一人小さく笑いながら身を乗り出すと、レヴィは冷たい眼差しを一瞬だけ向けて、そのまま先へ進んでしまった。
 そこに、真っ赤なドレスの女がスッと寄り添い、レヴィを支えて謁見の間へ入っていく。
 レヴィの背に添えた手には、金の腕輪と指輪がつながった、癒しの魔道具を身に着けている。
 その手でレヴィの背を撫でているのは、ヴァナディスだった。
 魔道具からは、玲史の癒しを模した魔力が、柔らかな光となって流れている。
 玲史に向けて、ヴァナディスが薄く笑う。
「フロスティ公爵令嬢ではないか」
「お似合いですわね。しかも、なんて素晴らしい癒し術でしょう」
 周囲の貴族から賛美の声が聞こえてきた。
(そうか、誰でも癒せるようになったら、俺はお払い箱なんだ)
 レヴィがヴァナディスに付き添われて入室した後、数名の関係者が入ったところで謁見の間の扉が閉じられる。
 一部のギャラリーは去り、第一騎士団の親族や関係者だけが残った。
 不意に、涙が溢れ出す。
 ゲンドルは、その場に立ち尽くす玲史を柱の陰に連れて行き、ローブの中に隠す。
 嫉妬なのか、落胆なのか、後悔なのか、混乱していて、なぜ泣いているのか玲史にも分からない。
 やがて涙が止まり、ゲンドルの胸から離れた。
「出てくるのを待つか?」
 首を横に振る。ゲンドルのハンカチで頬と鼻を拭かれ、肩を抱かれてその場を後にする。
 どこをどう進んだか覚えていないが、気が付けばゲンドルの部屋にいた。
「部屋で休むね」
 今は誰にも会いたくない。話したくない。
 仔馬のケースを抱えてベッドに寝転ぶ。
 今まで玲史にべったりだったから考えもしなかったが、婚約者なのだから、二人が並んで歩くのは当たり前のことだった。セティとブリーは公式の場ではいつも二人揃っている。
 でも、だからと言って、こんな一方的な掌返しを受け入れることはできない。
 始めこそ態度の悪いレヴィだったが、面倒そうにしながらも玲史を優先していた。
 彼の好意を感じるようになってからは、どんなに短い時間でも共に過ごそうと寄り添ってくれていたではないか。
 泣いている場合ではない。癒し術の劣化版でレヴィが満足できないことは、玲史が一番分かっていることだ。
 ふて寝をやめて、むくりと起き出す。
「そうだ、癒しに行こう!」
 新作の薬草抽出オイルと、遠征中に研究した試作品をバスケットに入れる。
 準備の為にリビングを行ったり来たりしていると、ゲンドルが「今夜はやめとけ」と窘める。
「今夜行かなきゃ、明日はもっと行き辛くなるでしょう? ここで大人しく引き下がって泣いてるのは、性に合わないって気付いたんだ」
 侍女に訪問する旨の伝言を頼み、癒しグッズの確認をする。
「追い出されて、すぐに戻ってきたら、慰めの言葉でもかけてよ」
 護衛騎士を捕まえて、王族の居住エリアへと向かった。
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