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一章
とある森にて(3)
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陽光さえも遮り鎖す、鬱蒼した森の中。
耳朶に突き刺さる、痛いほどの静寂。
鼻腔に入り込んでくる、淀んだ土の匂い。
手のひらを覆う薄手のレザーグローブの、渇いた内布。
薄っぺらい皮革製の靴底が伝えてくる、森の腐葉土のやわらかな感触。
五感がある。
五感が伝える感覚情報がある。
ここには、紛れもないリアルがある。
前作『犬』では、視覚と聴覚しか同調していなかった。
ゆえに鼻の嗅覚や舌の味覚、皮膚の触覚が伝える感覚情報は手に入らなかった。
感覚ごとの比重を無視して言えば、同じ時間あたりに手に入る情報が2倍以上になったわけだ。
うまく感覚情報を捌いて適切な状況判断ができるようになるまでに、前作とは違う慣れが必要かもしれない。
俺の手を覆うレザーグローブを見る。
この初期装備の役割も、前作とは違う。
視覚と聴覚のみの同調であった前作では、その装備は、単に俺のアバターの手部位を保護するだけのものであった。
それが全感覚同調している今作では、俺の手のひらが得る触覚的な感覚情報を制限し、その代わりに俺の脆くやわらかい部位を外的衝撃から保護してくれている。
この世界に降り立った直後、移民船の居住生活から命からがら脱出したばかりという設定の俺は、この時点ですでにいくつかの装備を身に着けている。
うすっぺらい革の靴。レザーグローブ。
幾つかポケットのついた茶色の革ベスト。
身体の輪郭を浮きたたせるような、やや張った黒い革ズボン。
これらが俺の「初期装備」だ。
だが、それらの装備のすぐ下に俺の素肌があるわけではない。
それらの装備の下には、まるでダイバースーツのような、ぴったりと肌に張り付く、不思議な質感のインナースーツがある。
薄暮の闇のような薄黒色の生地には、身体の部位に沿って走る銀の線が装飾としてあしらわれている。
それは、足のくるぶし上あたりから首の半ばまで、腕先に関しては橈骨――手首の手前にあるでっぱりのあたり――までを、全身くまなく覆っている。
前作でもプレイヤーの「装備無し」状態のスタイルだったこのインナースーツは、どうも移民船の居住空間で生活していた際の部屋着という設定であるらしい。
快適な居住空間だったらしく、このスーツには耐寒性や耐暑性はほとんどない。
つまり、ただの肌着だ。
このインナースーツは脱ぐことができない。
このゲームでは全裸になることはできない。
所詮、成人以下を含む年齢制限だ。
一部のヌーディストは公式に抗議してくれ。
で、だ。
この黒いインナースーツのみで、他には何も身に着けないのが、前作の俺の基本スタイルだった。
いや、変態不審者さんを標榜していたとかではなく。
ひとえにその理由は、俺がテレポバグ常習者のワンダラーだったからだ。
どうせテレポバグで全ロストするんだから、まともな装備を毎回揃えるなんてやってられない。
それに技能という行動補助機能のおかげで、生身のアバターのみ、他に装備を身に着けなくとも、ある程度汎用性の高い技能を技能スロットにセットしてさえいれば、ある程度の高さの崖を登るとか、ある程度の流れのはやさ・深さの川を泳ぎ渡るとか、そういうことはできたんだ。
装備無しでも、工夫と経験次第で、どうにでもなった。
だから、基本的には今作でもそのスタイルで行くつもりでいた。
だが――
(……。)
俺の足裏から伝わる、うすっぺらい革靴の感触。
この革靴は、俺が身に着けている装備の一つだ。
軽く手を掛けてみれば、脱ぐこともできる。
足首まで覆うインナースーツ。
その先にあるのは当然素足。
この靴を失ったのなら、俺は当然裸足になる。
前作ではそれでもよかった。
足装備というのは、アバターの機動力や足部の各種耐性に影響するもので、それがない場合、それらの恩恵が得られないという、ただそれだけのことだった。
場所によっては、切れたり焼けたり溶けたり腐ったりして、悲惨なことにもなったけど。
コントローラーのスティックを倒せば、俺はどんな場所でも――そこに足を絡め捕るものがなく、また足部位が致命的に破損していなければ――駆けることができた。
それが足という部位を致命的に傷つける行為で、やがて死の遠因になることになっても、走ることはできた。
だがいまの俺は、全感覚を同調させて、この世界に降り立っている。
果たして、裸足で森の中を走れるのか?
切り立った岩場を飛び歩けるのか?
山道を駆け下ることができるのか?
無理だ。
この世界での俺の足は、やわらかすぎる。
脆すぎる。敏感すぎる。破れやすすぎる。
俺はこの足が壊れるまでは、きっと走り続けられない。
かといって、先ほどオプションで見た、触覚設定スライダーを引き下げるのもなしだ。
痛覚とは、身体の悲鳴。
それに鈍くするなんてとんでもない。
痛くないからと言って、それは俺の身体が傷ついていないわけではない。
やたら足が滑ると思ったら、足裏がぐちゃぐちゃの血だらけになっていたとか嫌すぎる。
ゆえに今作では「装備無し」の状態は、おそらく致命的。
首から上と、手首足首から先が露出しているという事実に基づく物理的脆弱性とか。
フルダイブゲームで他のプレイヤーに不審者ルックを見せつけることになるとか。
そもそもそういう問題ですらなくて。
今の俺は、もろもろの装備なしでは満足に運動できないだろう。
ゆえに今作では、前作のような「装備無し」スタイルを基本にすることはできない。
ちゃんと装備で身を固めていかないと、最低限の運動すらままならない。
ゆえにフルダイブとなったこの世界では、前作よりさらに死亡によるアイテムロストがプレイヤーに重くのしかかるだろう。
前作よりもいっそう、プレイヤーに死を倦厭させるだろう。
……なるほど、面白い。
死にたくない。
死んでたまるか。
そんな気持ちを失くしてしまったサバイバルなんて興醒めだ。
俺はこの世界でも、十全に生きてやるぞ。
*────
さて、そんな頼りなくも心強い、皮革製一式の初期装備に身を包んだ俺は、現在、薄暗い森の中をあてどもなく歩き続けている。
まるで朽ち果てたように生気のない、暗褐色の樹。
それらの樹々を点々とまだらに覆う、暗緑色の細やかな苔。
いつからそうしてあるのかもわからない、朽ち倒れた倒木。
やわらかに地表を覆い隠す、降り積もる腐葉土。
まるで鬱蒼とした樹海の奥地だ。
頭上に掛かる枝葉は厚く、その向こう側に垣間見える光からは、
ここが朝なのか昼なのか、夕暮れ前なのかもわからない。
広葉樹なのか針葉樹なのか、その種類すら判然としない朽ちた倒木に足を載せ、すこし体重を掛けてみれば、くしゃりと軽い感触と共に沈み込んでいく。
踏みしめれば、倒木の表面を覆っていた、湿気を含んだ苔が足裏を滑らせる。
(……この革靴、あまり頼り過ぎない方がよさそうだな)
足の裏を保護するという最低限の性能は有しているが、
激しい運動をすればたちまち俺の期待を裏切るだろうという予感がある。
期待する方がわるい。
これは初期装備なのだ。
素足で投げ出されなかっただけでも有情だろう。
しかし――
このフルダイブ世界、まるで現実とは別にもう一つの世界があるかのように感じられる、この森は。
(……?)
現実の樹海のなかを歩くのとはなにかがちがう。
そんな気がする。
――なぜ?
なぜ、俺はそう思うんだ?
こういう深い樹海は、昔アウトドアハイキングしたときにも歩いたことがあるだろう。
樹々の種類が見慣れないものであることとか。
視界に映る色彩がやけに単調なものであることとか。
そうしたことは、特に引っ掛かりを覚えるものでもないだろう。
では、なんだ?
俺の五感は、いったいなにを以てなにかがちがうという予感を導き出したんだ?
勘とか、違和感とか、第六感とか。
俺はそうした理解の仕方を、あまり好んでいない。
それらはすべて、俺がこれまでに得た感覚情報と、今目の前にある世界の感覚情報から無意識下の俺が導き出した、いまだ表象されていないだけの、なにか根拠のある観念だろう。
だから俺はその「なにかがちがう」の正体を、既に見極められるはずだ。
おまえはなにがおかしいと思ったんだ?
視覚。茶色、緑色、褐色。単調な色合い。光を閉ざす鬱蒼とした森。
嗅覚。樹々の成分、朽ちた匂い、微かな菌類の匂い。
味覚。湿った空気。唾液腺から分泌された体液の味。
触覚。微かな反発を返す森の土壌。ふかふかと返す、足元の――
(――あ、れ?)
足を踏み込む。
既に十分朽ち切っていたのか、足元にあった枝が、パキリ、という軽い音を立てることすらなく、革靴に踏み砕かれる。
聴覚。そこには、なにも異音は聞こえてこない。
なにも聞こえてこない。
――頭上、梢の擦れ合う音さえも。
(――なん、だ?)
足元の腐った腐葉土を、爪先でかき回す。
さしたる抵抗もなく、かき回されるその足元からは、
なにかにつっかえるような、そんな感覚すら返って来ず。
そこはまるで、やわらかな砂浜のよう。
(――なんで、だ?)
近くにある、俺の胴よりも一回り大きな樹に、グローブ越しに触れる。
見た目通りに硬そうな樹皮の抵抗が、返って――
――――……
――来ない。
くしゃりと、俺の手に容易く押し潰されるように、
その大木は、内側に向かって、朽ち込んでいく。
その中身は、まるでスポンジのように、ぼろぼろだ。
(――音、だ)
俺は、なにがおかしいと思った?
そうだ、音がないんだ。
森の中を行けば、当然聞こえてくるはずの、
足元で響くはずの、小枝を踏み折る音とか、
風が枝葉を揺らす音とか、
樹上に住まう鳥たちの鳴き声とか、
虫たちが小さな口を咬み鳴らす音とか。
そうした環境音が、一切ない。
この森は――死んでいる。
(……なんだ、ここ――)
怖気が。
得体のしれない世界に対する怖気が、身を震わせる。
なんの変哲もない森だと思った。
初テレポ先にしては、あまりにも普通で、
おいおい今回は随分とやさしい幕開けだな、と、
これなら仮想端末の機能をゆっくり確認できるな、などと。
少々気を抜いてすらいた。
俺はとんだ馬鹿野郎だ。
(この、森は――)
なんだ。
なぜ、この森は死んでいる。
この森に、なにが起こった。
この森で、なにが起こっている。
この森を殺したのは、なんだ。
(――はは、やべぇぞ、これ)
この森という、一つの生態系を内包した小世界。
その世界をこのような形で殺しきったなにかが、かつてここに存在した。
あるいは、いまなお、それはここに存在する。
樹々を腐す病原菌?
樹々の中身だけを食い荒らす蟲?
だが死してなお、森としての形だけは残っている。
それなのに、生き物の気配だけはどこにもない。
腐葉土を踏みしめながら森の中を歩く俺だけが、この形骸化した世界の形を変える。
なにが起きれば、こんな状態が出来上がる?
どうすれば、こんな状態を作り出せる?
ここは概ね現実準拠にシミュレートされた世界のはずだ。
物理演算された、物理法則に基づく一つの仮想世界なんだ。
ならばこの状態は、現実的な事象の結果として生じたはず。
それはなんだ。
なにが起きれば、こんなことになる。
(…………。……やっべぇ、わからねぇぞ、これ……)
これは――やばい。
なぜなら、いま俺はわからない。
俺はいま、大丈夫なのか?
俺はいま、なにを目の当たりにしている?
俺の身に、これからなにが起こる?
どうすれば、それを避けられる?
いつのまにか、俺は。
未開域において、
もっとも死ぬ確率が高い状況に、既に陥っていた。
理解不能こそが、もっとも避けにくい死因なのだ。
このまま、わからないまま生き延びられることもある。
だが、それはあまりにも甘い見通しだ。
こんなおかしなことが起こっていて、
そんな世界に突然飛び込んで、
なにも起こらないはずがないのだ。
(――ッッッ!!?)
森に、視られた。
*────
ちがう。
さっきも言っただろ。
俺の感覚情報を、俺が誤認するな。
森は、目なんて持っていない。
森は、俺を見たりなんかしない。
俺の五つの知覚のうちいくつかが、なにかを捉えて、
それが「森に視られた」という言語化をまとって、俺の意識に浮上してきたんだ。
焦るな。落ち着け。
おまえが視られたと思ったのはなぜだ。
おまえが感じたものはなんだ。
それは感覚に生じた、なにかの変化。
無意識化で俺が「そうである」と思っていたものが「そうでなかった」ことによるズレ。
その気配の変化を、おまえが「視られた」という言葉に勝手にすり替えたんだ。
だから、この周囲には。
俺がそれに気づけば、異常だと思えるはずの、なにか妙なものがあるはずだ。
それはなんだ、どこにある。
俺は、なにに気づいた。
息を殺し、
動作を殺し、
生物としての気配を、
可能な限り殺したまま、
俺は周囲を確認する。
五感すべてを開き、それを探る。
果たして。
俺の右手側。
死んだ幾本もの樹々の向こう。
暗い森の中にある、
いっとう暗い闇の中。
そこに、それはあった。
うごめく、暗緑。
(えっ――なんっ、えっ、なんだ、あれ?)
視界を遮る樹々の向こう、ここから10mほど先の森の中で、なにかが蠢いている。
明らかに、なにかが、うぞうぞと動いている。
(えっ、あれっ、なんか――あれ、妙に高くないか?)
俺はいま、立っている。
そんな俺が、樹々の向こうに、それを見ている。
俺と同じくらいの目線の高さに。
つまりそれは、
たとえばなにかが樹々の表面でうごいているとか、
そこになにか大きなものが倒れていて、そのてっぺんでうごいているとか、
そういうことだ。
そうでなければ、あの高さにそれが見えることはない。
(――えっ……えっ?)
わからない。
それがなんであるか、かけらも推測が付かない。
未知だ。
推測材料がまったく足りない、完全なる未知が、
ここからわずか10mほど離れた、向こう側にある。
うぞうぞと、
未知が、うごめく。
(――ぃ、ぎ――ッ!!)
思わず口をついて出そうになった叫びを噛み殺す。
先ほど、勘とか第六感とか、そんなものは好まないと俺は言った。
途方もなく嫌な予感に襲われている今であっても、俺はその解体を試みる。
試みて、しまう。
この状況。
なにかおかしなことが起こっていて、
なにも動くものがない、死んだ森の中で。
動くもの。異常なもの。
この異常な世界において、ことさら異常な物体。
つまりそれは、現段階における推測として。
この森をそうした存在であるという可能性がもっとも高くて。
またあのおぞましいうごめきは、おそらくは人間には対処不可能な状況を作り出す力があるということで。
ここから導き出される結論は。
あれは俺の死因になりうる。
あれは俺を殺しうるという、もっとも確からしい原初の衝動。
死。
俺が感じた「嫌な予感」の正体はそれだ。
あれは俺を殺せるなにかだと、ただの一瞬で悟ってしまった。
(――……っ)
後ずさりをはじめる、俺の右足。
はやく逃げろ。
あれは駄目だ。
あれはたぶん死ぬ。
(――へっ、へへ――)
そこそこ確からしい推測として、
進めば、なにかが、起こるだろう。
その最終的な帰結として、
俺は、おそらく、死ぬだろう。
ただ、この世界において、
俺の死は、資源として使うことができる。
俺はそれを対価として支払うことができる。
なぜなら、ここはゲームの世界だから。
俺は、死んでも死なないから。
死の恐怖。
人間の根源的衝動。
それをしたら、
存在が終わるという生命の絶叫。
そんなものは、この世界において、
俺の足を止める理由に、聊か足りない。
後ずさりをはじめた足を、無理やり地面に縫い付ける。
そこから先は、下がらない。
下がれない。
下がりたくない。
ああ、認めよう。
この、此度の俺の命を失ってでも、
俺はあれがなんなのか見たい。
俺の知らない未知を見たい。
知りたい。感じたい。見極めたい。
なんなのあれ。
なんだよあれ。
マジかよ、全ッ然、理解できねぇ。
死んだ森。
うごめく闇。
すべての答えにつながるかもしれない端緒が、そこにある。
それなのに、尻尾を巻いて、逃げるのか?
ただ――死ぬかもしれないという理由で?
脈打つ鼓動。
背中を伝う脂汗。
舌の上に吐き出された唾液の味。
緊張で感じられなくなった嗅覚。
ここは『犬』ではない。
それらはもはや幻覚ではない。
俺は確かに、ここにいる。
なにが完全なる未知だ。
俺は、そこに行けるぞ。
確かに、この足は震えているが、
この世界でも、依然変わらず、
俺はその一歩を踏み出せるぞ。
さぁ、見せてみろ、
俺の命を摘み取りうるであろう、
(――ッお前の、正体、って奴をさァ――)
そうして、
そのうごめきに向かって、
1歩、2歩、踏み出して、
そして俺は、
それを見た。
耳朶に突き刺さる、痛いほどの静寂。
鼻腔に入り込んでくる、淀んだ土の匂い。
手のひらを覆う薄手のレザーグローブの、渇いた内布。
薄っぺらい皮革製の靴底が伝えてくる、森の腐葉土のやわらかな感触。
五感がある。
五感が伝える感覚情報がある。
ここには、紛れもないリアルがある。
前作『犬』では、視覚と聴覚しか同調していなかった。
ゆえに鼻の嗅覚や舌の味覚、皮膚の触覚が伝える感覚情報は手に入らなかった。
感覚ごとの比重を無視して言えば、同じ時間あたりに手に入る情報が2倍以上になったわけだ。
うまく感覚情報を捌いて適切な状況判断ができるようになるまでに、前作とは違う慣れが必要かもしれない。
俺の手を覆うレザーグローブを見る。
この初期装備の役割も、前作とは違う。
視覚と聴覚のみの同調であった前作では、その装備は、単に俺のアバターの手部位を保護するだけのものであった。
それが全感覚同調している今作では、俺の手のひらが得る触覚的な感覚情報を制限し、その代わりに俺の脆くやわらかい部位を外的衝撃から保護してくれている。
この世界に降り立った直後、移民船の居住生活から命からがら脱出したばかりという設定の俺は、この時点ですでにいくつかの装備を身に着けている。
うすっぺらい革の靴。レザーグローブ。
幾つかポケットのついた茶色の革ベスト。
身体の輪郭を浮きたたせるような、やや張った黒い革ズボン。
これらが俺の「初期装備」だ。
だが、それらの装備のすぐ下に俺の素肌があるわけではない。
それらの装備の下には、まるでダイバースーツのような、ぴったりと肌に張り付く、不思議な質感のインナースーツがある。
薄暮の闇のような薄黒色の生地には、身体の部位に沿って走る銀の線が装飾としてあしらわれている。
それは、足のくるぶし上あたりから首の半ばまで、腕先に関しては橈骨――手首の手前にあるでっぱりのあたり――までを、全身くまなく覆っている。
前作でもプレイヤーの「装備無し」状態のスタイルだったこのインナースーツは、どうも移民船の居住空間で生活していた際の部屋着という設定であるらしい。
快適な居住空間だったらしく、このスーツには耐寒性や耐暑性はほとんどない。
つまり、ただの肌着だ。
このインナースーツは脱ぐことができない。
このゲームでは全裸になることはできない。
所詮、成人以下を含む年齢制限だ。
一部のヌーディストは公式に抗議してくれ。
で、だ。
この黒いインナースーツのみで、他には何も身に着けないのが、前作の俺の基本スタイルだった。
いや、変態不審者さんを標榜していたとかではなく。
ひとえにその理由は、俺がテレポバグ常習者のワンダラーだったからだ。
どうせテレポバグで全ロストするんだから、まともな装備を毎回揃えるなんてやってられない。
それに技能という行動補助機能のおかげで、生身のアバターのみ、他に装備を身に着けなくとも、ある程度汎用性の高い技能を技能スロットにセットしてさえいれば、ある程度の高さの崖を登るとか、ある程度の流れのはやさ・深さの川を泳ぎ渡るとか、そういうことはできたんだ。
装備無しでも、工夫と経験次第で、どうにでもなった。
だから、基本的には今作でもそのスタイルで行くつもりでいた。
だが――
(……。)
俺の足裏から伝わる、うすっぺらい革靴の感触。
この革靴は、俺が身に着けている装備の一つだ。
軽く手を掛けてみれば、脱ぐこともできる。
足首まで覆うインナースーツ。
その先にあるのは当然素足。
この靴を失ったのなら、俺は当然裸足になる。
前作ではそれでもよかった。
足装備というのは、アバターの機動力や足部の各種耐性に影響するもので、それがない場合、それらの恩恵が得られないという、ただそれだけのことだった。
場所によっては、切れたり焼けたり溶けたり腐ったりして、悲惨なことにもなったけど。
コントローラーのスティックを倒せば、俺はどんな場所でも――そこに足を絡め捕るものがなく、また足部位が致命的に破損していなければ――駆けることができた。
それが足という部位を致命的に傷つける行為で、やがて死の遠因になることになっても、走ることはできた。
だがいまの俺は、全感覚を同調させて、この世界に降り立っている。
果たして、裸足で森の中を走れるのか?
切り立った岩場を飛び歩けるのか?
山道を駆け下ることができるのか?
無理だ。
この世界での俺の足は、やわらかすぎる。
脆すぎる。敏感すぎる。破れやすすぎる。
俺はこの足が壊れるまでは、きっと走り続けられない。
かといって、先ほどオプションで見た、触覚設定スライダーを引き下げるのもなしだ。
痛覚とは、身体の悲鳴。
それに鈍くするなんてとんでもない。
痛くないからと言って、それは俺の身体が傷ついていないわけではない。
やたら足が滑ると思ったら、足裏がぐちゃぐちゃの血だらけになっていたとか嫌すぎる。
ゆえに今作では「装備無し」の状態は、おそらく致命的。
首から上と、手首足首から先が露出しているという事実に基づく物理的脆弱性とか。
フルダイブゲームで他のプレイヤーに不審者ルックを見せつけることになるとか。
そもそもそういう問題ですらなくて。
今の俺は、もろもろの装備なしでは満足に運動できないだろう。
ゆえに今作では、前作のような「装備無し」スタイルを基本にすることはできない。
ちゃんと装備で身を固めていかないと、最低限の運動すらままならない。
ゆえにフルダイブとなったこの世界では、前作よりさらに死亡によるアイテムロストがプレイヤーに重くのしかかるだろう。
前作よりもいっそう、プレイヤーに死を倦厭させるだろう。
……なるほど、面白い。
死にたくない。
死んでたまるか。
そんな気持ちを失くしてしまったサバイバルなんて興醒めだ。
俺はこの世界でも、十全に生きてやるぞ。
*────
さて、そんな頼りなくも心強い、皮革製一式の初期装備に身を包んだ俺は、現在、薄暗い森の中をあてどもなく歩き続けている。
まるで朽ち果てたように生気のない、暗褐色の樹。
それらの樹々を点々とまだらに覆う、暗緑色の細やかな苔。
いつからそうしてあるのかもわからない、朽ち倒れた倒木。
やわらかに地表を覆い隠す、降り積もる腐葉土。
まるで鬱蒼とした樹海の奥地だ。
頭上に掛かる枝葉は厚く、その向こう側に垣間見える光からは、
ここが朝なのか昼なのか、夕暮れ前なのかもわからない。
広葉樹なのか針葉樹なのか、その種類すら判然としない朽ちた倒木に足を載せ、すこし体重を掛けてみれば、くしゃりと軽い感触と共に沈み込んでいく。
踏みしめれば、倒木の表面を覆っていた、湿気を含んだ苔が足裏を滑らせる。
(……この革靴、あまり頼り過ぎない方がよさそうだな)
足の裏を保護するという最低限の性能は有しているが、
激しい運動をすればたちまち俺の期待を裏切るだろうという予感がある。
期待する方がわるい。
これは初期装備なのだ。
素足で投げ出されなかっただけでも有情だろう。
しかし――
このフルダイブ世界、まるで現実とは別にもう一つの世界があるかのように感じられる、この森は。
(……?)
現実の樹海のなかを歩くのとはなにかがちがう。
そんな気がする。
――なぜ?
なぜ、俺はそう思うんだ?
こういう深い樹海は、昔アウトドアハイキングしたときにも歩いたことがあるだろう。
樹々の種類が見慣れないものであることとか。
視界に映る色彩がやけに単調なものであることとか。
そうしたことは、特に引っ掛かりを覚えるものでもないだろう。
では、なんだ?
俺の五感は、いったいなにを以てなにかがちがうという予感を導き出したんだ?
勘とか、違和感とか、第六感とか。
俺はそうした理解の仕方を、あまり好んでいない。
それらはすべて、俺がこれまでに得た感覚情報と、今目の前にある世界の感覚情報から無意識下の俺が導き出した、いまだ表象されていないだけの、なにか根拠のある観念だろう。
だから俺はその「なにかがちがう」の正体を、既に見極められるはずだ。
おまえはなにがおかしいと思ったんだ?
視覚。茶色、緑色、褐色。単調な色合い。光を閉ざす鬱蒼とした森。
嗅覚。樹々の成分、朽ちた匂い、微かな菌類の匂い。
味覚。湿った空気。唾液腺から分泌された体液の味。
触覚。微かな反発を返す森の土壌。ふかふかと返す、足元の――
(――あ、れ?)
足を踏み込む。
既に十分朽ち切っていたのか、足元にあった枝が、パキリ、という軽い音を立てることすらなく、革靴に踏み砕かれる。
聴覚。そこには、なにも異音は聞こえてこない。
なにも聞こえてこない。
――頭上、梢の擦れ合う音さえも。
(――なん、だ?)
足元の腐った腐葉土を、爪先でかき回す。
さしたる抵抗もなく、かき回されるその足元からは、
なにかにつっかえるような、そんな感覚すら返って来ず。
そこはまるで、やわらかな砂浜のよう。
(――なんで、だ?)
近くにある、俺の胴よりも一回り大きな樹に、グローブ越しに触れる。
見た目通りに硬そうな樹皮の抵抗が、返って――
――――……
――来ない。
くしゃりと、俺の手に容易く押し潰されるように、
その大木は、内側に向かって、朽ち込んでいく。
その中身は、まるでスポンジのように、ぼろぼろだ。
(――音、だ)
俺は、なにがおかしいと思った?
そうだ、音がないんだ。
森の中を行けば、当然聞こえてくるはずの、
足元で響くはずの、小枝を踏み折る音とか、
風が枝葉を揺らす音とか、
樹上に住まう鳥たちの鳴き声とか、
虫たちが小さな口を咬み鳴らす音とか。
そうした環境音が、一切ない。
この森は――死んでいる。
(……なんだ、ここ――)
怖気が。
得体のしれない世界に対する怖気が、身を震わせる。
なんの変哲もない森だと思った。
初テレポ先にしては、あまりにも普通で、
おいおい今回は随分とやさしい幕開けだな、と、
これなら仮想端末の機能をゆっくり確認できるな、などと。
少々気を抜いてすらいた。
俺はとんだ馬鹿野郎だ。
(この、森は――)
なんだ。
なぜ、この森は死んでいる。
この森に、なにが起こった。
この森で、なにが起こっている。
この森を殺したのは、なんだ。
(――はは、やべぇぞ、これ)
この森という、一つの生態系を内包した小世界。
その世界をこのような形で殺しきったなにかが、かつてここに存在した。
あるいは、いまなお、それはここに存在する。
樹々を腐す病原菌?
樹々の中身だけを食い荒らす蟲?
だが死してなお、森としての形だけは残っている。
それなのに、生き物の気配だけはどこにもない。
腐葉土を踏みしめながら森の中を歩く俺だけが、この形骸化した世界の形を変える。
なにが起きれば、こんな状態が出来上がる?
どうすれば、こんな状態を作り出せる?
ここは概ね現実準拠にシミュレートされた世界のはずだ。
物理演算された、物理法則に基づく一つの仮想世界なんだ。
ならばこの状態は、現実的な事象の結果として生じたはず。
それはなんだ。
なにが起きれば、こんなことになる。
(…………。……やっべぇ、わからねぇぞ、これ……)
これは――やばい。
なぜなら、いま俺はわからない。
俺はいま、大丈夫なのか?
俺はいま、なにを目の当たりにしている?
俺の身に、これからなにが起こる?
どうすれば、それを避けられる?
いつのまにか、俺は。
未開域において、
もっとも死ぬ確率が高い状況に、既に陥っていた。
理解不能こそが、もっとも避けにくい死因なのだ。
このまま、わからないまま生き延びられることもある。
だが、それはあまりにも甘い見通しだ。
こんなおかしなことが起こっていて、
そんな世界に突然飛び込んで、
なにも起こらないはずがないのだ。
(――ッッッ!!?)
森に、視られた。
*────
ちがう。
さっきも言っただろ。
俺の感覚情報を、俺が誤認するな。
森は、目なんて持っていない。
森は、俺を見たりなんかしない。
俺の五つの知覚のうちいくつかが、なにかを捉えて、
それが「森に視られた」という言語化をまとって、俺の意識に浮上してきたんだ。
焦るな。落ち着け。
おまえが視られたと思ったのはなぜだ。
おまえが感じたものはなんだ。
それは感覚に生じた、なにかの変化。
無意識化で俺が「そうである」と思っていたものが「そうでなかった」ことによるズレ。
その気配の変化を、おまえが「視られた」という言葉に勝手にすり替えたんだ。
だから、この周囲には。
俺がそれに気づけば、異常だと思えるはずの、なにか妙なものがあるはずだ。
それはなんだ、どこにある。
俺は、なにに気づいた。
息を殺し、
動作を殺し、
生物としての気配を、
可能な限り殺したまま、
俺は周囲を確認する。
五感すべてを開き、それを探る。
果たして。
俺の右手側。
死んだ幾本もの樹々の向こう。
暗い森の中にある、
いっとう暗い闇の中。
そこに、それはあった。
うごめく、暗緑。
(えっ――なんっ、えっ、なんだ、あれ?)
視界を遮る樹々の向こう、ここから10mほど先の森の中で、なにかが蠢いている。
明らかに、なにかが、うぞうぞと動いている。
(えっ、あれっ、なんか――あれ、妙に高くないか?)
俺はいま、立っている。
そんな俺が、樹々の向こうに、それを見ている。
俺と同じくらいの目線の高さに。
つまりそれは、
たとえばなにかが樹々の表面でうごいているとか、
そこになにか大きなものが倒れていて、そのてっぺんでうごいているとか、
そういうことだ。
そうでなければ、あの高さにそれが見えることはない。
(――えっ……えっ?)
わからない。
それがなんであるか、かけらも推測が付かない。
未知だ。
推測材料がまったく足りない、完全なる未知が、
ここからわずか10mほど離れた、向こう側にある。
うぞうぞと、
未知が、うごめく。
(――ぃ、ぎ――ッ!!)
思わず口をついて出そうになった叫びを噛み殺す。
先ほど、勘とか第六感とか、そんなものは好まないと俺は言った。
途方もなく嫌な予感に襲われている今であっても、俺はその解体を試みる。
試みて、しまう。
この状況。
なにかおかしなことが起こっていて、
なにも動くものがない、死んだ森の中で。
動くもの。異常なもの。
この異常な世界において、ことさら異常な物体。
つまりそれは、現段階における推測として。
この森をそうした存在であるという可能性がもっとも高くて。
またあのおぞましいうごめきは、おそらくは人間には対処不可能な状況を作り出す力があるということで。
ここから導き出される結論は。
あれは俺の死因になりうる。
あれは俺を殺しうるという、もっとも確からしい原初の衝動。
死。
俺が感じた「嫌な予感」の正体はそれだ。
あれは俺を殺せるなにかだと、ただの一瞬で悟ってしまった。
(――……っ)
後ずさりをはじめる、俺の右足。
はやく逃げろ。
あれは駄目だ。
あれはたぶん死ぬ。
(――へっ、へへ――)
そこそこ確からしい推測として、
進めば、なにかが、起こるだろう。
その最終的な帰結として、
俺は、おそらく、死ぬだろう。
ただ、この世界において、
俺の死は、資源として使うことができる。
俺はそれを対価として支払うことができる。
なぜなら、ここはゲームの世界だから。
俺は、死んでも死なないから。
死の恐怖。
人間の根源的衝動。
それをしたら、
存在が終わるという生命の絶叫。
そんなものは、この世界において、
俺の足を止める理由に、聊か足りない。
後ずさりをはじめた足を、無理やり地面に縫い付ける。
そこから先は、下がらない。
下がれない。
下がりたくない。
ああ、認めよう。
この、此度の俺の命を失ってでも、
俺はあれがなんなのか見たい。
俺の知らない未知を見たい。
知りたい。感じたい。見極めたい。
なんなのあれ。
なんだよあれ。
マジかよ、全ッ然、理解できねぇ。
死んだ森。
うごめく闇。
すべての答えにつながるかもしれない端緒が、そこにある。
それなのに、尻尾を巻いて、逃げるのか?
ただ――死ぬかもしれないという理由で?
脈打つ鼓動。
背中を伝う脂汗。
舌の上に吐き出された唾液の味。
緊張で感じられなくなった嗅覚。
ここは『犬』ではない。
それらはもはや幻覚ではない。
俺は確かに、ここにいる。
なにが完全なる未知だ。
俺は、そこに行けるぞ。
確かに、この足は震えているが、
この世界でも、依然変わらず、
俺はその一歩を踏み出せるぞ。
さぁ、見せてみろ、
俺の命を摘み取りうるであろう、
(――ッお前の、正体、って奴をさァ――)
そうして、
そのうごめきに向かって、
1歩、2歩、踏み出して、
そして俺は、
それを見た。
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