ワンダリング・ワンダラーズ!!

ツキセ

文字の大きさ
31 / 148
一章

日時計、一日目の終わり

しおりを挟む
 お隣さんであるマキノさんへのご挨拶を終えて、カノンの拠点に戻ってきた俺たちの、目の前にあるもの。
 カノンの視線の先にある、地面に突き刺さったなんの変哲もない棒。
 はじめてカノンの拠点に案内してもらった時に立てておいたそれは、即席の日時計だ。

「……日が照っててくれて助かったな。曇るとわかんなくなっちゃうし」
「データ、取れそう? あれから……4時間くらい、経ってる、よね」

 空を行く恒星に合わせて傾けてあるわけではないため、この日時計からでは正確なデータはわからないだろう。
 だが、おおまかな予測は立てることができる。

 地球上でこのような日時計を作った場合、その影は一時間に概ね15度動くはずだ。
 俺がこの日時計の影をなぞったのはちょうど20時頃だったから、あれから4時間。
 この惑星カレドの自転速度が地球と同じなら、影は空の恒星の動きと反対方向に60度ほど動いているはず。
 それならば、この惑星と地球の1日は同じ長さということになる。

 さて、この惑星カレドのセドナにおいてはというと――

「……やっぱり、な」
「あんまり、動いて、ない、ね?」
「ああ、たぶん……30度くらいしか、動いてない」

 明らかに、日が長い。
 それも緯度が高いとか白夜とかそういう話ではなくて、1日の巡りが地球のそれより遅い。
 地球の時間基準で言えば、この惑星カレドの1日は48時間程度あることになる。
 地球で2日経つ間に、こちらでは1日しか進んでいない。

 これが意味するのは、この惑星の自転の速度が地球のちょうど半分くらいだということ。
 一言で言えば、この世界では昼も夜も2倍のだ。
 たとえば日の出から日の入りまでの日中が26時間あり、
 日の入りから日の出までの夜が22時間続く、といったように。

 そしてこれは、『犬』でも同じ仕様であった。
 俺がこの日時計を設置する際に「念のため確認」と言っていたのはそういうことだ。
『犬2』でもそんな日の巡り方をするのかを、確認しておきたかったのだ。


 *────


 なぜ惑星カレドの1日は「長い」のか。
 これはもちろんこの惑星をそのような環境に整えた開発部にしかわからないことだ。
 だからこれから話すのは、単なる俺の推測、妄想の類。

 4つほど、いろいろな方面から考察してみた「それらしい理由」があるんだが……それはややこしいのですべて飛ばそう。
 それらの考察はすべて、この世界が一つの惑星をシミュレートしている現実準拠のサバイバルゲームであるということに起因するんだが――まあ、ざっくり省略する。
 ゆえに結論だけ言おう。

 この世界の一日が長い理由。
 それはし、からだと思う。
 このゲームの理念コンセプトを活かすためには、そうするのがもっとも良いのだろう。
 またこの仕様は、各プレイヤーごとの活動時刻を少なくとも2か所以上にずらすことにもつながっている。
 毎日同じ時間にこのゲームをプレイするプレイヤーであっても、この星のちがう時間を味わうことができる。

 まとめすぎてわけがわからんって?
 うん、まあ……推測の部分をすっ飛ばしてるから……。
 それぞれについては、おいおい話すこともあるだろう。

 とにかく、この惑星カレドの1日は現実よりも2倍長い。
 ゆえに現実で1日後の同じ時間にダイブインすると、ゲーム内では昼夜をそっくり逆転させた時刻になっている。
 それだけわかっていればいい。

 ……あ、そうそう。
 大事なことを言い忘れていた。

「夜なんか長くされたって、まともに遊べる時間が減るだけだ!」という声にお応えしてのことかどうかは知らないが、このゲームには【夜目】と呼ばれる技能が存在している。
【夜目】は、ほぼすべてのプレイヤーが身に着けることになるであろう必須技能の一つだ。
 それさえあれば夜の暗闇でも結構見えるようになる。
 夜の野外探索中は技能スロットが1個潰れるもんだと思っておけばいい。

 夜は単に引きこもる時間ではない。
 それどころか、昼とは違った美しい景色が見られることもある。
 新しい資源の発見、新しい生命との出逢いもあるだろう。
 昼のものとは違う、惑星カレドのもう一つの姿。そんな感じだな。

 だから怖がらずに外に出ようねぇ……。
 大丈夫だって、ちょっと夜行性の先住種とかが動き出すだけだからさぁ……。
 暗闇の中で崖から滑り落ちるのは怖いぞぉ……。


 *────


「えーと、俺たちの時間感覚に合わせて、こっちの一日を48時間とするか。
 それとも逆のほうが良いか? こっちの時計の進みを半分にする。
 日時計に倣うなら後者がいいかな? 直感的に理解しやすいし」
「よくわかんない、けど。『犬』と同じで、いいんじゃない、かな?」
「……ん、じゃあ後者だな。
 こっちでは、現実と比べて時計の進みが半分だということにしよう。
 基準は……JSTでいいよな? ほかのを選ぶ理由もないし。
 んで、棒の長さと影の長さ、角度……は考えるまでもないか。
 この惑星カレドのセドナの現在時刻は、現在おおよそ12時だ。
 つまり、セドナはいま正午だな。
 空に見えるあの恒星は、今一番高い位置にあるってことだ。
 そして俺たちが今から現実で8時間眠って、次にこっちに来ると、こっちの時刻は16時頃ってことになる」

 厳密に言えばこの言い方は誤りだ。
 この世界の時の流れが遅いわけではないのだから。
 現実で8時間過ごせば、こちらでも8時間経過している。
 ただし、こちらでも1日24時間というタイムスケールで理解しようとするとそうなるという話だ。

「なんか、ぴったり?
 いま、そと、ちょうど0時ごろ、だよね?」
「そこはたぶん単なる偶然だがな。十数分の誤差があっても気づけないし。
 それに経度がちがう別の着陸座標では朝だったり夕方だったりするはずだ」

 仮に俺たちの着陸座標が同じ大陸に集中しているとかだったら、全体としての時差はプラスマイナス数時間で収まるかもしれないけれど。
 しかし……この現在時刻は納得だな。
 セドナの時刻が「キリがいい」のも、完全な偶然というわけではないのかもしれない。

 この仮想世界が活性化アクティベートされたのが、このゲームのサービス稼働開始日である現実時刻8月30日12時だと仮定して、その時点でのこの惑星カレドのそれぞれの着陸地点の時刻を平均6時前後になるようにしておけば、初日開始のプレイヤーたちは、惑星カレドに概ね午前中に着陸することになるだろう。
 各地点での時差がだいたい6時間に収まるならば、大方のプレイヤーは少なくとも昼日中に着陸できることになる。
 着陸したらいきなり夜とか、最初からクライマックスだろうしなぁ。
 672の着陸座標のうち、端っこの方の座標の人はすごそうだな。
 逆にセドナはまんなかの方、「現実との時差」を計算しやすい時刻を引き当てているのかもしれない。

(……。)

「……セドナ。ねぇ」
「フーガ、くん?」
「うん? あっ、と。ごめんカノン。また思考がソラに」
「フーガくんって、話してるとき、たまに、焦点が合わなくなる、よね?」
「ごっ、ごめん……。なんかいろいろ、いらんこと考えちゃって」
「ううん、いい、よ? なにか考えてるの、わかるし。
 わたしは、あんまり、そういうの、あたま、回らないから」

 人と話してるときに要らんこと考え始めるのは俺の明らかな悪癖だ。
 現実だとそんなことは早々ないと思うんだが……。
 この世界は、あまりにも俺の興味を引きすぎる。
 元検証勢の血が騒ぐというか、考察したいことだらけで困る。

「さてさて、野暮用も無事に終わったし、あらためて。
 今日はこの辺りでひと段落つけようか」

 そうして俺はカノンに向き直る。

 はじめてのフルダイブ。
 フーガとの再会。
 はじめてのテレポバグ。
 はじめてのデス
 カノンとの再会。
 マキノさんとの出逢い。

 わずか数時間でいろいろありすぎた。密度が濃すぎる。
 俺の老朽化しつつある脳もそろそろ休めてやりたい。

「ん、そう、だねっ……。……、あの、その」

 カノンがなにかを言い淀む。
 これはこちらから言うべきことかな。

「……ん、そうだな。
 明日も一緒にやる? せっかく合流できたしな」
「……ぅ、んっ。……でもっ、えと、そうじゃ、なくて……」

 おや、違ったか。
 タイミングからして、そういう類の言い淀みだと思ったのだけど。
 カノンの胸中がわからないので、素直にカノンの言葉を待つ。

 そうして待っていると、意を決したようにカノンが言う。

「あ、の、……フーガくん。……。
 ――ありがとう、ね。 今日―― あって、くれて」
「――っ」

 それは、きっと彼女が、俺と出逢うまでずっと懸念していたこと。

 俺が彼女のメッセージを読み解けないかもしれない。
 俺が此処セドナに来ないかもしれない。
 俺が彼女のことを忘れているかもしれない。
 そうした無数の懸念を、きっと俺に逢うまでの彼女は抱いていた。
 だから、きっとそれらに対する「ありがとう」なのだろうと。
 そう思い俺も、彼女に言葉を返す。

「……こちらこそ。俺を誘ってくれてありがと、カノン。
 久々に逢えたのも、こうしてゲームできたのも、ほんと嬉しい。
 その、よければ、……また明日からも、その……よろし、く?」

 なぜそこで疑問形にした。
 へたれかよ。

 でも彼女は、そこに介在する俺の想いが、疑問ではなく提案だと受け取ってくれたようで。
 春の花開くような笑みで、こう返してくれた。

「うんっ。 ……あのっ、明日も、フーガくん。
 待ってるので、あの。 ……いつ、でも」

 そうか。

 ……そう、か。

「……いやいや、カノンにばっかり待たせるわけにはいかないって。
 じゃあお昼、正午あたりからでどう? こっちだと次は夕方ごろかな」
「んっ、だいじょうぶっ。じゃ、じゃあ――」
「ああ、また明日! おやすみ、カノン」
「っ―― はいっ! おやすみなさい、フーガ、くんっ」



 *────



 こうして、激動の俺の一日が終わった。

 たった数時間のそれは、しかし、
 まるでこの惑星の一日のように、随分と長く感じられた。
 それはこの4年で俺が過ごした歳月のうちで、
 紛れもなく、もっとも密度の濃い時間であったに違いない。

 そしてその密度は、きっとこれから、もっと高くなるだろうと、
 そんな予感がする。

 確かな予感とともに、部屋の明かりを―― 消す。

 ああ、明日からも―― 楽しみ、だな――





 *────





 光の消えた窓。

   は、それを、じっと見ていた。

 いつものように。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

ギャルといちゃこらしていたらダンジョン探索がはかどった件。うちのお菊がもふもふで可愛すぎる♡

マネキネコ
ファンタジー
日本国内に3つのダンジョンが出現して早10年。日本国政府は各方面と協議を重ねた結果、ダンジョンを国民に開放すると宣言した。つまり現在では探索者ライセンスさえあれば誰でも気軽にダンジョン探索ができる時代になっているのだ。高校生になった僕は夏休みに入るとすぐに探索者講習を受けライセンスを取得した。そして残りの夏休みすべてをダンジョン探索へと費やし、通常は半年以上は掛かると言われていた最初のレベルアップを、僕はわずか3週間あまりで達成した。これはとんでもない快挙といってもいいだろう。しかも他の人に比べると、身体能力がはるかに劣っているチビデブの僕がである。こんな結果をもたらした背景には、なんといっても僕のパートナーであるお菊の存在が大きいだろう。そしてもうひとつ、なぜだかわからないが、ステータスの中に『聖獣の加護』が表示されているのだ。おそらく、この効果が表れているのではないだろうか。そうして2学期が始まり僕が教室に顔を出すと、最近やたらと絡んでくるギャル友から「あんたなんか変わった!? なんていうか雰囲気とか? 背もだいぶ伸びてるみたいだし」と、なんでどうしての質問攻め。今まで異性には見向きもされなかった僕だけど、これってもしかして、『モテ期』というやつが来てるの?

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件

こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。

処理中です...