ワンダリング・ワンダラーズ!!

ツキセ

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一章

塩と小皿を作ろう

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 衣食住の改善という、当面の製造目標。
 「衣」に関しては、カノンの普段着一式に加え、防寒着として俺とカノンのコートを作ることができた。
 ひとまずは、ひと段落といったところだろう。

「次は、なにつくる?」
「衣食住のうち、食に手を出してみるか。塩作ってみようぜ、塩」

 セドナ南の岩壁地帯、セドナ川の果てからやや西進した場所で採取した玄武岩を加工してみよう。
 ただし、この玄武岩はただの玄武岩ではない。
 その組成に、雪華のようなきらきらした結晶が混じって見られるこの玄武岩。
 分析装置先生によれば、なんと岩塩交じりだという。
 ……かなり少ないけどな!
 俺たちが採ってきた5kgの岩塊から、ほんの3gちょっとしか採れないようだ。
 だが、たかが3g、されど3g。
 小さじいっぱいの塩といえば、一度の料理を賄えるほどの量だ。
 成人の、一日当たりの塩分の推奨摂取量は……具体的な数値を覚えていないが、たしか一桁グラム程度だったはず。
 それを考えれば、3gというのは決して馬鹿にできる量ではない。
 経口補水液なんかも作れるし、少量でも作れることに意味がある。
 岩の柱から採取した手前、まだまだ手に入るアテはあるしな。

「では、製造装置の分類から……あれ、食塩って、分類はなにになるんだ」
「簡易食料?」
「……では、ないようだな。薬品……でもない、か」
「あっ。調味料の分類、あるみたい」
「おー、たぶんそこだな」

 そこだった。

「生成物の名前は……『食塩』、か。
 流石に『塩化ナトリウム』ばーんっ! ……ではないんだな」
「ばーん?」

 直球のネーミングでは来ないということだ。
 確かに調味料のなかに「塩化ナトリウム」とか混じってたらなんか嫌だしな……。

 では……さっそく作ってみよう。
 塩化ナトリウムの抽出過程で、あの玄武岩の他の組成部分は不純物としてロストすることになるようだが仕方ない。
 まさか岩塊の形状はそのままで、岩塩だけ抽出するわけにもいかんだろうしな。

「……ん、あれ。よく見たら、塩化ナトリウム100%以外でも作れるのか」

 生成結果の予想の項を見ていると、どうやら割合を弄ることができるらしい。
 塩化カリウムを好きな割合で混ぜることができるようだ。
 それって、あれだよな。市販の食塩がやってるやつ。

「塩化カリウムって、あれだよな。あの……謎の葉っぱの抽出成分」
「わたしたちが、食べたの、だよね?」

 見た目食えそうだとかいう適当な理由でもしゃったやつだ。
 不明な成分を含んでいるが、一応可食の分類をしているもの。
 あの葉っぱから塩化カリウムを抽出して混ぜることができるということだろう。

「どうするカノン、混ぜる?」
「でも、あの葉っぱの、他の成分は、無駄になっちゃう、よね?」
「たぶんそうなるな」

 それに、わざわざ塩化カリウムを混ぜる必要は果たしてあるのか。
 市販の食塩って、なんで塩化カリウムが混ぜられているんだ?
 教えて夏休みこども相談室。

「まあ、今回は純粋な塩を生成してみようか。味も気になるし」
「んっ。それでいい、と思う」

 よっしゃ、じゃあ塩化ナトリウム100%で食塩作ってやるぜ!

 ではポチっと。

  ウィーン――――
  ガガッ ガッ――――

 ……。

「削ってるのかな」
「削ってる、のかも」
「ごりごり?」
「ごりごり」
「そのあとは……分離してるのかな」
「どうやって?」
「こう……重さ別とかで」

 製造装置先生の中は小宇宙だな。


 *────


 今回の生成物は、最近出番が多い側面の大きな取り出し口ではなく、いつか飲料水を生成したときに使った手前の取り出し口から取り出すようだ。
 たぶん、不純物が入らないほうが良い化学薬品とか、口に入る調味料とかは、手前の、地面から高いところにある取り出し口から取り出せるようにしてあるんだと思う。
 側面の取り出し口は口が広いぶん、脱出ポッドの床面に近いからな。
 埃とか入っちゃいそうだ。

 で、肝心の塩だが。

「おお、シャーレ?」
「なんか、実験室みたい、だね」

 飲料水が生成された時のビーカーと同じ材質だと思われる、ガラス質のシャーレに載って登場したのは、ほんのひとつまみほどのまっしろな結晶。
 その結晶はかなり細かく、粗いフレーク状で不揃いだ。
 岩石からそのまま取り出したのだから当然か。
 いや、当然というわけではない、か。
 仮に製造装置先生が、なんらかの技術で岩石を一度溶かして、そこから液体となった塩化ナトリウムだけを分離させ、それを再び結晶化させたのならば、恐らくは小さく綺麗な立方体になる。
 そうなっていない以上、この塩化ナトリウムの結晶は、あの玄武岩から直接取り出されたと見ていいだろう。

「さて、推定塩、塩化ナトリウム100%の化学物質ですが。
 カノンさん、いかが致しますか」
「えっ、と。どういう?」
「そのまま舐めてみる。……いいね。味を見るにはいちばん確実だ。
 水に混ぜてみる。……ちょっと味が付いた水が飲めるぞ。
 例のユキノシタモドキの葉っぱに振りかけてみる。……簡易サラダ。
 シルクロードで運んで高値で売りさばく。……大金持ちになれるかもしれない。
 さて、カノンはどれがいい?」
「さいしょ、だし。そのまま舐めてみるのが、いいかも」
「俺もそう思う」

 じゃあ最初から聞くなと。
 一応選択肢としては挙げておこうと思って。

「じゃあ、ちょっと舐めてみるか」

 小指の指先を舌で湿して、ほんの少しだけ塩をつける。
 たぶん0.5gも取ってないはずだ。

「ほい、カノンも」
「……、……あっ、うんっ!
 じゃあ、ちょっとお行儀悪いけど……失礼、します」

 カノンも俺と同じように、舌で指先を湿してそっと塩の山に触れ、指先に塩をつける。
 カノンのその仕草には、なにやら妙な艶を感じた、が……それより……。
 たしかに、行儀が、悪かった、です、かね……。
 ストレートに指摘されるより、なにかカノンに付き合わせてしまった形になってへこむ。

 少々へこんだまま、指先の塩を舐める。

 ――おおう。

「しおからいな」
「しおからいね」

 塩にはさまざまな味があるというが、これはからい方だと思う。
 なんというか、溶けるのが早い。舌にからさがすぐに来る。
 すぐに溶けるのは、結晶の表面積が広いためだろう。

「苦味とかもないな」
「お店で売ってる食塩とは、ちょっと味が違う、かも」
「もうちょっと複雑な味だよな、市販の塩って」

 たぶん、塩化カリウムの味が混じっているぶん複雑になるのだ。
 こっちが純度100%塩化ナトリウムの塩の味なのだろう。
 でも、まあ、なんというか。

「しおからいよな」
「しおからいよね」

 それ以外に感想がない。
 それ以外に言い方があるなら、「しおからい」なんて形容詞は生まれてこなかっただろう。
 まさにこの感覚経験を言い当てる言葉が「しおからい」に他ならない。

「……で、残り2gくらいあるけど、この塩、どうする?」
「たべちゃう?」
「それでもいい、いいが――」

 無事に塩が生成できることはわかった。
 あとはこの岩塊を本腰入れて採取すれば、けっこう簡単に食塩一瓶分くらいは生成できるだろう。
 だが塩には潮解性という厄介な特性がある。
 今回生成した塩の荒さによっては、瓶の中で溶けて固まってしまうかもしれない。
 どういう条件で溶けるのかまでは、さすがに覚えていないが……実験室でも普通に観察できる程度の容易な条件だったと思う。
 セドナがそれにあてはまるかはわからないが、安定して保存できるかは謎だ。
 そのような話をカノンにも伝える。

「――というわけで、今のセドナで放っておいてもこの状態で安定するか確認するのに使ってもいい?」

 要はその辺に放置しておく、ということだ。
 それで潮解するようなら、作り置きというのはしない方がいいことになる。
 塩として抽出する前の、塩入り玄武岩の形でストレージに貯め込んでおけばいいだろう。

「んっ、いいよ。でも、どこに置いておく?」
「そういやたしかに、食塩を置いておける場所がないな……」

 というか、この手の繊細な物質を安置・保管できるものがない。
 密閉容器どころかただの容器すらない。
 いま塩を載せてるシャーレは製造装置先生にお返しするからなしだ。
 前も言った通り、これはプレイヤーが自由にできるものではない。

「よし、食に関しては正直もうやれることないし、このまま家具作りに移行しよう。
 ……で、まずは皿を作ろう。食塩を載せておくための皿。
 だけど、素材は木と石があるから、せっかくだしいろいろな皿を作ってみよう。
 椅子とかテーブルとか手強そうなものと違って、お皿ならたぶん簡単だろうからな。
 製造装置が切り出しまでやってくれるだろうし」
「んっ。わかった。次はお皿、だね?」

 しかし作れる段階になってあらためて気づくけど、日用品本当になんもないな。
 コップない。皿ない。お椀ない。箸ない。ナイフもフォークもない。
 フライパンない。鍋ない。野外料理しようにも飯盒も竈もない。
 文化レベルの高い食を満喫するために、必要なものは多い。

 だが、大量の木材が手に入った今ならだいたいなんとかなる。
 足りないものはどんどん作っていけばいい。
 作りたいものは幾らでもある。
 クラフト系ゲームでは、一番楽しい時間の一つかもしれない。


 *────


 まずは試作も兼ねて、塩を載せて置けるような皿を作ろう。
 イメージとしては、ずばり小皿。
 お寿司を食べるときに醤油を垂らすあれだ。
 苔玉を載せるあれでもいい。

「素材、なににする?」
「選択肢としては、カオリマツの原木、玄武岩、花崗岩か」

 なにこの豪華な選択肢。
 どれ使ってもいいものができる予感しかない。

「よし、白い塩を載せるなら黒い皿の方が映えるだろう。玄武岩にしよう」
「ずっと塩、載せっぱなしにする?」
「いや、検証したら他に転用する。
 玄武岩で皿を作るための、ただのそれっぽい動機付けだ」

 最終的には全種類作るつもりだからな。
 まずは玄武岩を素材にするとしよう。

 ということで三度みたび製造装置先生をアクティベイト。
 今日は大活躍だな。

「分類は……生活用品から、食器類か。わかりやすくて助かる」
「いろいろ、あるね?」
「某均一ショップの食器コーナーを覗いている気分になるな」
「あれ、楽しいよね」

 カノンが理解を示してくれてよかった。
 カノンに「均一ショップの商品なんて使ってるの?」なんて言われたら心が折れてしまう。
 均一ショップは大量生産大量消費という人類の功罪の結晶展覧会だと思う。

「で、お目当てのものは……『小皿』、これだな」
「なんていうか、小皿だね」

 参考図として表示されているのは、イメージ通りの小皿。
 胴、要は深さだな、胴は浅く、1cmほど。
 高台、器の底の台は少し盛り上がっているだけ。
 紋様などは特に入っておらず、3Ⅾモデリング機能で自分でデザインすることもできるようだ。

 今回は玄武岩を素材にして、参考図そのままに作ってみようかと思っていたが――

「ん?」

 ――――――――――――――――――――――――
 【追加資源】玄武岩(釉薬) 【※現在使用不可】
 【追加資源】花崗岩(釉薬) 【※現在使用不可】
 ――――――――――――――――――――――――

釉薬ゆうやくに、取ってきた石が、使えるみたい?」
「……でも、現在不可ってなってるな。なんだこれ」

『現在の製造装置の設備ではこの製法を行うことができません。
 拡張設備として『焼成炉』が必要です。』

「こ、これがかつて生産勢を苦しめたという専用炉……」
「焼成炉って、焼き窯のこと?」
「要は陶磁器とか煉瓦とかを焼くための窯だな」

 なるほど。石から小皿を切り出すだけなら製造装置でもできるけど、陶磁器を作ろうとしたり釉薬で色味をつけたりしようと思うと炉が必要なのか。
 アルミナからアルミニウムを取り出すためには超高温に耐える専用炉が必要だったらしいが……
 そこまで行かなくとも、こういう部分でも拡張設備は必要になるわけだ。

 ……焼き窯って普通煉瓦で作らないか?
 で、その煉瓦を作るためには焼き窯が必要? あれ……?
 いや、別に煉瓦製以外の焼き窯もあるか。石でも良いわけだ。
 じゃあ、今の段階でも石材が大量にあれば焼成炉は作れるのかな。

「……うん、いまは釉薬は良いかな?」
「ちょっと、難しそう、だしね」
「陶芸ガチ勢がセドナに墜ちてくるのを待とう」

 流石に陶芸ガチ勢の知り合いはいない。芸術ガチ勢はいるけど。

「んじゃ、釉薬なしで参考図通りに作ってもらうぞ。」

 ではポチっと。

  ウィーン――――
  ジッ ジジッ――――

 ……。

「削ってるのかな」
「削ってる、のかも」
「なんかレーザーっぽい音しない?」
「切り出してる?」
「石を?」
「うん」

 陶器を焼くことはできないけど、高出力レーザーは出せるのか……。


 *────


「完成品がこちらになります」
「わっ、黒くて……つるつるしてる」
「今回も研磨までして貰ったからな」

 出来上がった小皿は、玄武岩の黒い素地をそのまま残した黒い小皿。
 直径は8cmくらい。重さは……100gくらいかな。
 焼き物ではないので質感は石そのもの。釉薬によるガラス質の光沢もない。
 ただし研磨は成されているので、天然の玄武岩のようにざらざらはしていない。
 少し指先でこすってみても、石の粉末が付着したりはしない。

「うん、良い感じじゃないか」
「そのままお店で売ってそう、かも」
「料亭とかで向付むこうづけが載ってそう」
「なます、とか」
「そうそう」

 ほうれん草のお浸しとか乗っけたらいいんじゃないか。
 鰹節を振って醤油をひとたらし――

「いかんいかん、今回は塩を盛るのだ」
「盛り塩?」
「この世界に悪霊っているかなぁ。いい? カノン」
「んっ。フーガくんの、好きにしていい、よ」

 カノンの同意を得たので、出しっぱなしにしていたシャーレから、作ったばかりの玄武岩の小皿に食塩を移す。
 ……うん、盛り塩というにはさすがに量が少ないか。
 脱出ポッドの北東の角に置いておくか。それともハッチの横がいいかな。
 シャーレは製造装置に再び戻しておこう。

「おっけー。小皿も無事に作れたな。
 ……ところで、今回の小皿を作るのに、玄武岩をどのくらい使ったんだろうな」
「もともとの塊は、5kgくらい、だったよね?」
「うん。ちょっと確認してみるか」

 一旦製造装置の稼働をストップさせ、圧縮ストレージを開く。
 在庫を確認すれば、岩塩入りの玄武岩は完全になくなっている。
 一方で、通常の玄武岩は……ほとんど残っているな。
 もともとは縦15cm、横20cm、厚み5cmほどの岩塊だったのが、横幅1cmほど減っている。
 つまり製造装置は、まずはこの岩塊の端から250gほどを大雑把に切り出して、その直方体から先ほどの100gほどの小皿を切り出したということだ。
 石斧を作るのに使った花崗岩についても、未使用の一個まるまると、半分の2.5kgほどが残っている。

 どうやら製造装置は、資源の消費を最大限節約してくれるらしい。これは嬉しい仕様だ。
 もしも一つの岩塊から小皿一枚を切り出すのに、素材指定した岩塊すべてを使ってしまうという仕様なら、プレイヤーは資源の無駄な浪費を避けるために、岩塊を事前に手作業でばらばらにしておかなくてはならないだろう。
 余計な手間を掛けなくていいのは、ストレスフリーで大変助かる。
 貧乏性的には最大効率で使っていきたいのでな。

「ってなわけでカノン。小さなものに関してはじゃんじゃん作っていいぞ」
「んっ。じゃあ、次は、なにつくる?」
「次は――っと、そろそろ夜ご飯の時間じゃないか」
「えっ。……あっ、ほんとだ。もうこんな時間」

 リアル時刻を確認してみれば、既に午後7時を回っている。
 分析して石斧を作ってカオリマツを伐採して二人分のコートを作ってといろいろやっていたから、すっかり時間を溶かしてしまった。
 夜時間をかなり有効活用できている。

「カノン、この後は?」
「フーガくんが、だいじょうぶなら、……まだ、やりたい」
「俺は大丈夫。……じゃあ、また2時間後くらいに再開しよう」
「ありがと、フーガくんっ。じゃあ、また、あとでね」
「おう。またあとで」



 日本語って深いよな。

 
 そんな一言に、いろんな言葉を隠してしまえるんだから。
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